拝啓、いつかの僕達へ ~枯澄高校天文学部活動記録~

一☆一

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 高校への復学手続きは昨日のうちに済ませていたので、俺は何ヶ月かぶりに普通に登校し、いくらか刺さる以前とは明確に違った視線を黙殺して六時間にも及ぶ授業過程を済ませた。内容は、引きこもっている間にやっていたことは勉強以外になかったので容易に付いていけた。簡単すぎると思ったくらいだ。
 放課後になってもクラスメイトは話しかけてくる勇気もロクに無いのか遠巻きに見つめてばかりだったが、不登校の奴がいきなり帰ってきたら俺も同じ様な事しか出来ないと思われたので──何よりそんなことに関心が持てなかったので俺は気にせず、アテもなく校舎を徘徊し始めた。

 特に理由があったかといえば、まぁ無かった。久しぶりだったから迷わない様に構造を把握しておきたいとか、彼女との想い出を噛み締めておきたいとか、後になればでっち上げることは出来なくないが、動機はといえば本当に無かった。身体が勝手に動いた、に近い感覚だ。
 運動部が叫ぶグラウンド。軽やかなJpopを演奏する軽音部は音楽室に、廊下ではダンス部が踊りながら道を遮っている。体育館ではバレー部がひっきりなしに飛び、一般教室の大半は演劇部と吹奏楽部が占拠している。 そういえば、この高校──私立枯澄かれす高校は、吹奏楽が強かったっけ。
 折角なので、と今までに行ったことの無いような生活圏外にも足を運んでみる。学校の一番端の四階、数理系のクラブが軒を連ねる通称サイエンス棟などは、生粋の文系たる俺からすれば未知の領域だった。
 わいわいと盛り上がる教室。今日もクラブ活動は盛況なようだ。幾つか教室を覗いてみる。其処には険しい顔だったり、爽やかな笑顔だったりがあった。覗いているのに気づかれると、その教室を後にした。絡まれるのは面倒だったし、覗かれている方もいい気はしないだろうから。
 全く存在を知らないような部活が幾つかある事を面白く思いつつ、一番端にあった教室に足を運ぶ。
 そこは他と違う、異様な趣の教室だった。
 余った部屋なのか教室の入り口に、その用途を示す名札は白い。ボロボロと言うほどではないが、手入れも特にされていないのか所々に目立つくすみがある。何より異端なのは、窓という窓がカーテンとは明らかに違う黒い布で覆われていることだ。これでは日光の一つも入らないだろう。当然だが覗くことなど出来ようもない。
 怪しいにも程がある、というのが俺の抱いた印象で、多分それは大多数の人間が同じ状況に陥ったときに抱くソレと同義であろうと思えた。仮にもここは高校なので、実際に危ない事をしている訳では無いのだろうけれど。
 ともあれ校舎は歩き廻り、此処を最後にもう行ってない場所はない。最後が此れでは拍子抜けといった感じだが、まぁ後でクラスメイトにでも聞けばいい。なんならそれをきっかけにしてまた話せるようにでもなるかもしれない。別に、クラスメイトを無下にしたい訳ではないのだ。大きなお世話だ、というだけで、それは彼らなりの親切だと気付いていない訳では無いのだから。
 踵を返し、赤めいていた夕焼け空を横目にここまで歩いてきた廊下を戻る。
 否。戻ろうとした。──その時だった。

 ガラガラ!
 真っ黒な教室の横開きのドアが勢いよく開いた。バン、と衝撃緩和の為にドアに付けられたゴムが壁にぶつかりバウンドする。殆ど同じ勢いで戻るドアを脚で妨げ、よっ、と間抜けな声をあげて廊下に飛び出すそいつは、両手に大荷物を持っていた。開放的なダンボールに半ば刺されるように突っ込まれる機材や様々な本。体積がデカすぎて顔が伺えない程だ。しかし低い身長や高い声から、女だと思われた。

 ──何だこいつ。

 俺は思わず呆気にとられ、脚を止めていた。それが運のツキだった。
 俺の存在など全く気付いていないその女は勢いよく一歩を踏み出し──その先にいた俺とぶつかって、荷物をばら撒きながら廊下に転がった。俺も無様にバランスを崩し、転んだ先でその女と目があった。

「うおぁっ!? ってて……誰だ、お前?」

 ──歯車が噛み合い、また動き出す。
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