5 / 8
空
しおりを挟む
茶色がかった、肩までで切りそろえられた黒髪。吸い込まれるような大きく黒い目。
ワイシャツの上に茶色のセーターと首元にはリボン。下は、本来は膝下まで長いはずのスカートが、腰の部分で折られて短くされている。その所為か、転んで尻餅をついた彼女の下着は遮るものもなく俺の視界にバッチリ入っていた。
成る程、白い。しかしまぁ、今更他人の下着程度に欲情もなにもないから、全く心は動かないが。
「……何だよ、人の事ジロジロ見やがって」
その女子生徒は、どうやらまだその事実に気づいてないらしかった。
流石に居た堪れなかったので、俺は溜息を一つ吐いて、
「あー……見えてるが、いいのか?」
なるべく無関心に聞こえるように、聞いた。
「は?」
素っ頓狂な声を上げた後、女子生徒はまるでスローモーションで再生してるかのようなゆっくりとした動きで視界を下にやり──
「…………テメエこの変態ッ!!」
俺の顎に正確に蹴りを入れた。
ガクンと揺れる脳、倒れる視界、暗転する意識。崩れ落ちる身体。
──り、ふじ……ん……
最後にそれだけを心の中で吐き捨て、俺は意識を手放した。
◇◆◇◆◇◆
「──は、クシュッ!!」
背中が嫌に冷たく、身体を撫ぜる風が体温を奪う。
豪快なくしゃみと共に、俺は跳ね起きた。
うおっ、男らしいと悲鳴をあげる、聞き覚えのある高い声。
「な、何だ……起きねぇから死んだかと思ったが、生きてたか」
ホッと胸を撫で下ろす女子生徒。勝手に殺すな。
再び風が吹き髪をさらったので、辺りを見渡すと、そこは──
「…………屋上?」
昨今は危険だからと封鎖されている事の多い高校の屋上。枯澄高校も例外ではなく、立ち入り禁止の筈だったが……いまいる場所は間違いなく、上を見上げれば空が広がる、屋上だ。
「あぁ。悪ぃな、保健室は遠いんで、女手で運ぶのはちと無理だ。なによりそっちに構ってると見逃しちまう」
なんて勝手な言い分だ。人を呼ぶなりしろよ。
そう言ってやりたかったが、言うと変に話が拗れそうだったので黙っておく。面倒ごとはごめんだ。
そんな事より──見逃す?
「見逃すって……何を?」
「あ? ……お前知らねぇのかよ、勿体ねぇ! いいぜ、いい機会だ。此処で見てけよ!」
謎な張り切りを見せ、女子生徒は俺の手を取り立ち上がらせると、グイグイと背中を押した。
「んっと……確かこっちだったな」
曖昧な根拠を頼りに屋上を横断し、縁のところまでくると、俺の手を下に引きながら腰を下ろした。当然俺も、流されるままそれに続く。
「……で、そろそろ説明とか、ないのか?」
「ん、あー……もう来るからちっと待て待て。ほら、言うだろ? 百聞は一見になんたらって」
如かずだ如かず。
それで納得した訳ではないが、どうやら話す気もなく足を空に放り出してぶらぶらと揺らすばかりだったので、追求はよしておいた。名前くらい、聞いておきたいんだが。
「来たぞ!!」
唐突に叫び、勢いよく立ち上がる女子生徒。その視線の先にあるモノ、それは。
「……流れ星──」
それも、一つや二つではきかない。
大量の流れ星が、手持ち花火の火花のように暗い夜空を横切り、白に彩っている。
そういえば、ニュースであと○日です! なんて言葉を、よく聞き流していた気がする。そう言う事だったのか──
「すっげぇ……! な、な! すげぇだろ!?」
彼女はというと、目を星のように輝かせ、屋上の端で子供のように器用に跳ねている。感動を共感して欲しいのか、俺の肩をバンバンと叩きながら、だ。
そんな様子を見ていて、俺は。
少しだけ、笑った。
あの日から、そんな顔は忘れたものだと思ってたのに──
結局俺は、流れ星が降り注ぐ空を、再び漆黒に染まるまで見ていた。名前も知らない、その女子と一緒に。
ワイシャツの上に茶色のセーターと首元にはリボン。下は、本来は膝下まで長いはずのスカートが、腰の部分で折られて短くされている。その所為か、転んで尻餅をついた彼女の下着は遮るものもなく俺の視界にバッチリ入っていた。
成る程、白い。しかしまぁ、今更他人の下着程度に欲情もなにもないから、全く心は動かないが。
「……何だよ、人の事ジロジロ見やがって」
その女子生徒は、どうやらまだその事実に気づいてないらしかった。
流石に居た堪れなかったので、俺は溜息を一つ吐いて、
「あー……見えてるが、いいのか?」
なるべく無関心に聞こえるように、聞いた。
「は?」
素っ頓狂な声を上げた後、女子生徒はまるでスローモーションで再生してるかのようなゆっくりとした動きで視界を下にやり──
「…………テメエこの変態ッ!!」
俺の顎に正確に蹴りを入れた。
ガクンと揺れる脳、倒れる視界、暗転する意識。崩れ落ちる身体。
──り、ふじ……ん……
最後にそれだけを心の中で吐き捨て、俺は意識を手放した。
◇◆◇◆◇◆
「──は、クシュッ!!」
背中が嫌に冷たく、身体を撫ぜる風が体温を奪う。
豪快なくしゃみと共に、俺は跳ね起きた。
うおっ、男らしいと悲鳴をあげる、聞き覚えのある高い声。
「な、何だ……起きねぇから死んだかと思ったが、生きてたか」
ホッと胸を撫で下ろす女子生徒。勝手に殺すな。
再び風が吹き髪をさらったので、辺りを見渡すと、そこは──
「…………屋上?」
昨今は危険だからと封鎖されている事の多い高校の屋上。枯澄高校も例外ではなく、立ち入り禁止の筈だったが……いまいる場所は間違いなく、上を見上げれば空が広がる、屋上だ。
「あぁ。悪ぃな、保健室は遠いんで、女手で運ぶのはちと無理だ。なによりそっちに構ってると見逃しちまう」
なんて勝手な言い分だ。人を呼ぶなりしろよ。
そう言ってやりたかったが、言うと変に話が拗れそうだったので黙っておく。面倒ごとはごめんだ。
そんな事より──見逃す?
「見逃すって……何を?」
「あ? ……お前知らねぇのかよ、勿体ねぇ! いいぜ、いい機会だ。此処で見てけよ!」
謎な張り切りを見せ、女子生徒は俺の手を取り立ち上がらせると、グイグイと背中を押した。
「んっと……確かこっちだったな」
曖昧な根拠を頼りに屋上を横断し、縁のところまでくると、俺の手を下に引きながら腰を下ろした。当然俺も、流されるままそれに続く。
「……で、そろそろ説明とか、ないのか?」
「ん、あー……もう来るからちっと待て待て。ほら、言うだろ? 百聞は一見になんたらって」
如かずだ如かず。
それで納得した訳ではないが、どうやら話す気もなく足を空に放り出してぶらぶらと揺らすばかりだったので、追求はよしておいた。名前くらい、聞いておきたいんだが。
「来たぞ!!」
唐突に叫び、勢いよく立ち上がる女子生徒。その視線の先にあるモノ、それは。
「……流れ星──」
それも、一つや二つではきかない。
大量の流れ星が、手持ち花火の火花のように暗い夜空を横切り、白に彩っている。
そういえば、ニュースであと○日です! なんて言葉を、よく聞き流していた気がする。そう言う事だったのか──
「すっげぇ……! な、な! すげぇだろ!?」
彼女はというと、目を星のように輝かせ、屋上の端で子供のように器用に跳ねている。感動を共感して欲しいのか、俺の肩をバンバンと叩きながら、だ。
そんな様子を見ていて、俺は。
少しだけ、笑った。
あの日から、そんな顔は忘れたものだと思ってたのに──
結局俺は、流れ星が降り注ぐ空を、再び漆黒に染まるまで見ていた。名前も知らない、その女子と一緒に。
0
あなたにおすすめの小説
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった
みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。
この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。
けれど、運命になんて屈しない。
“選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。
……そう決めたのに。
彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」
涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる