欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第三王子編

南国の太陽

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空気には匂いがある。
その嗅いだ事のない空気が、微かに混じった海の匂いからなのだと知った。
森や土や水の匂いとはまったく違うそれに、俺は純粋に衝撃を受けた。

南の国の城下町についたのは、次の日の昼頃だった。
日が昇ると同時に早馬を出したので、受け入れはスムーズだった。

「殿下、大丈夫ですか?」

俺はそう聞いたが、王子は俯いて黙ったままだった。
無理もないよな、とため息をつく。

昨晩話をしたが、王子は求婚を受け入れるつもりはないそうだ。
再三断っているのにこんな事になって不安だと言っていた。
王子と話した感じでは、王子自身は「裏事情」の方は知らないようだった。
いったい何なのだろう?
とにかく南の王太子はアグレッシブで、はんなりとした王子は苦手だと言っていた。
ギルは、王子は友人として付き合いたいと思っているとか言ってたが、思いっきり苦手って言ったぞ、おい。
まぁ、話を聞いただけで頭が痛くなるような破天荒な俺様だ。
俺だってそんな感じのヤツとは関わりたくない。
何事もなく無事に、とは行かないだろうと覚悟するしかない。

「……サーク。」

小さな声で王子が呼んだ。
顔を向けると、若干青ざめている。
そう言えば、朝食もあまり食べていなかったと聞いた。
大丈夫だろうか?

「何でしょう?殿下?」

「側にずっと居てくださいね?私の騎士……。」

「……承知しました。ご安心下さい。」

俺はひとまず安心させるために、笑ってそう言った。
いやもう、王子の顔色からも嫌な予感しかしないんだけど!?
もうここは腹をくくらないと乗り越えられそうにない。
俺は覚悟を決めた。

城の門を潜ると、兵士が整列し、出迎えを受けた。
王子の馬車と近辺警護のものだけが奥まで進む。
南の王太子ってどんな人だろうと思ったが、城の前でド派手なマントを羽織って、薔薇の花束を抱えている男がいたので、ああ、と思って目を反らせた。
胃液が逆流しそうだ。
聞きしに勝るとはこの事だと思う。

王子が馬車を降りると、さっと真っ赤なカーペットが敷かれ、その上を派手な男が歩いてくる。
がたいもデカイし、こんなのに熱烈アタックされたんじゃ、華奢な王子からしたら恐怖でしかないよな……。
男は王子の前に来ると、さっと膝をついた。

「愛しきリオ。よく来てくれた。」

そして花束を差し出す。
キラッキラだよ。
王子とは全く違う意味でキラッキラだよ。
むしろギラギラしてるって言った方がいいのかもしれない。

自信に満ち溢れた彫りの深い笑顔。
南の強い日差しのせいなのか、肌は少し浅黒い。
男臭い色気と強引さがムンムン匂ってくる。
王子以外目に入っていないその男に、殿下のすぐ側に控えた俺とイヴァンはすでにげっそりしていた。
王子は困ったように言った。

「どうかお立ちください。グレゴリウス王太子。」

「リオ、私の事はグレッグと呼んでくれないか?呼ぶまでは立たないぞ?」

キラーンと白い歯が光る。
やだ、もう、何なのこの人??
個性が強烈過ぎて頭が追い付かないよ。

歯の浮くようなセリフと態度を繰り出す王太子に、ぞぞぞそっと何かが背筋を走った。
ヤバいよ、俺、鳥肌が立った。
申し訳ないが気持ち悪くて吐きそうだ。

南の国、王太子、グレゴリウス・バフル・ゾル・ティーナン。

良くも悪くも南国の太陽のような男だ。
ヤバいよ、この人……。
俺は半ば白目を向いていた。
最近忘れていたが日陰属性の俺は、その強烈な熱量に当てられてすかすかに乾燥しきってしまった。













部屋に案内され、俺は直ぐに魔力探査をした。

………………。
はい。
異常ありです。

隠し通路が2つあったので、とりあえず魔術で開かなくしてやった。
部屋の様子を伺う魔術や、魔法道具等もあったので、その全部を馬屋の映像に変えてやった。
天井からも侵入が可能そうだったので、開かないようにして罠をいくつか仕掛けてやった。
最後にかなり強力な結界と威嚇の陣を張る。
俺がイライラして杖を振り回しているので、バルコニー等を確認して戻ってきたイヴァンが小声で聞いた。

「どうでした?」

「……問題ない。」

どす黒い顔でにんまり笑う。
凄味を聞かせてそう答えると、意味がわかったらしいイヴァンは、うわ~と小さく言った。
ちなみに杖だが、本物はラニに渡したっきりなので、これはただの何の変哲もない木の棒だ。
魔術自体は公式で使っているが、一応、体裁を整えるために持っている。

「サーク?どうしましたか?」

「いえ、問題ありません。殿下。ではお支度が終わるまで私とイヴァンは外で待機します。」

「ありがとう。私の騎士。」

俺とイヴァンは一礼して部屋を出た。
扉が閉まった瞬間、俺たちはピタッと肩を寄せた。
そして小声で話し出す。

「何があったんですか!?」 

「隠し通路やら盗聴やら色々だよ。」 

「うわ~手段を選ばずですかね~?」

「バルコニーはどうだった?」

「え?大した事はないですよ?怪しげなロープに切れ目を入れておきましたけど。」

爽やかな笑顔だ。
ロープを外したのではなく、切れ目を入れたというのがかなりキテる。
若干、鬼だな。
ロープを使おうとした人間がどうなるか解っててやってんだろうし。
こいつは本当、爽やかな笑顔でいい性格をしている。

「宣戦布告されたからには、黙ってられないですね?」

「とりあえず罠はいくつか仕込んだ。後でバルコニーにも手を加えておく。」

「いや~、久しぶりに楽しくなってきましたね?」

「そうか?俺はすでにげっそりしてる。」

「凹んだら負けですよ、サークさん。どうせやるなら楽しまないと損ですよ?」

「なるほどな。ロイヤルソードの心得その1ってとこか。」

「気持ちが負けてたら勝てませんから。」

にこにこと笑うイヴァンを見て、今回の相方がこいつで良かったと思った。
初っぱなからあちらさんも本気だ。
この後すぐの国王への挨拶からの昼食会でも、おそらく色々なトラップが仕掛けられているだろう。

「ま、売られた喧嘩は買わないとな?」

「そう言うことです。」

コツンと互いの拳を合わせる。
俺たちは顔を見合わせて、ニヤッと笑った。
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