欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第三王子編

嗅覚

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「……だから言ったじゃん!人たらしもいい加減にしろって!!」

警護部隊詰め所。
俺はふきんを持ったシルクに抱きつかれながら、あちこちを拭かれていた。
シルクはぷんすか怒りながら、ごしごし擦ってくる。

「痛い!痛いから!シルク!!」

「だってムカつく!!あのエロ王太子が触ったんでしょ!?俺の主なのにっ!!」

ふきんを置いたので終わったかと思ったら、今度は消毒薬を出してきてあちこちに振りかけ始めた。
うん、もう、好きにしてください……。
止めても無駄だ。
シルクの気のすむようにさせよう……。

椅子に座る俺の膝に向き合うように座り込み、シルクはあちこち消毒する。
ギルは黙ったまま、戸口に立っていた。
いつも通り無表情だが、あれは相当、怒っている。

「シルク、お前の旦那がお怒りだから、そろそろやめなさい。」

「ギルは主に怒ってるんじゃないよ。あの馬鹿王太子に怒ってるの!戸口に立ってるのは、あいつが来ないように見張ってるの!そんな事も主はわかんないの!?」

「え!?そうなの!?」

「そうだ。馬鹿サーク。」

「は!?何で俺が馬鹿呼ばわりされないといけないんだよ!?」

「主があんなヤツに簡単に触らせたからでしょ!?何で防がなかったんだよ!!魔術だって武術だってあるのにっ!!」

「え~?だってまさかああなるとは思わずびっくりしたし、王太子相手に魔術も武術も下手に使ったら、問題になるだろ?」

「いいんだよ!問題になったって!!すでに問題になってるんだから!!」

と言うか何でお前らは会話もせずに、相手の考えてる事がわかるんだよ!?
阿吽の呼吸にも程があるだろ!?

シルクは散々俺を消毒して満足したのか、やっと手を止めた。
止めたがぎゅっと抱きついて離れなくなった。

「お~い旦那さん。お前の奥さんが抱きついてくるんだけど、離してくれないか?」

「……シルク、今後はずっとサークにくっついてろ。絶対に離すな。」

「わかった~。」

「何で!?」

もうこのふたり、めちゃくちゃ気が合ってるんだけど価値観がよくわかんないよ……。
俺は諦めてそのままにすることにした。

「と言うか、何なんだ!?いったい!?」

俺は訳がわからず叫んだ。

王太子がいきなり俺を、王子を諦める代わりに寄越せと言ってきた。
多分あの時まで、王太子の中の俺のイメージは最悪だったはずだ。
それが何でああなったんだ!?

「……サーク君、王太子に匂いを嗅がれたって言ったわよね?」

チタニアさんが冷静にそう言った。
今、王子はダウンして寝込んでいる。

今回の件を話し合う為、少しの間イヴァンとチタニアさんが代わって話し合いに参加している。
魔術師ふたりが離れるのは良くないが、チタニアさんがどうしてもと言ってファレルさんではなくチタニアさんが参加する事になった。

「あ、はい。いきなり匂いを嗅がれて、そうしたらそうなったと言うか……。」

何なんだ?俺って匂う??
シルクがくんかくんか嗅いできた。

「……消毒臭い。」

「いや、それはお前が……。」

「主って、つがいができるタイプ?」

「は??いや?違うんじゃないか??」

「王太子に何か匂いを感じた?」

「いや?雄フェロモン凄いなとは見てて思うけど、別に何か匂いを感じたりはしないな??」

「ん~?なら違うのか……。」

「とりあえず、あの王太子に何一つ魅力を感じてないぞ?俺は?」

シルクが言うのも無理はない。
シルクとギルは当初、匂いで惹かれ合ったのだから。
だから匂いと言われてシルクはすぐ、つがいの事を思い出したのだろう。

「サーク君て……血の魔術が使えるのよね?」

しばらく考えていたチタニアさんが言った。
俺はきょとんとして答えた。

「はい。使えますね。」

「もしかしたら、それじゃないかしら……?」

「どういう事です?」

「うん……。魔力を探知できる人っているでしょ?魔術師じゃなくても?」

「はい、いますね?」

「そう言う人って、魔力を五感で感じるのよ。視覚だったり、聴覚だったり……。」

「皇太子は嗅覚でそれがわかるって事ですか?」

「はっきりとは言えないけど……。あくまで噂なんだけど、皇太子が殿下をどうしても欲しがるのは、その内に秘めた魔力に引かれてるからだって噂があるのよ……。」

「殿下に魔力があるんですか?」

「ぱっと見はわからないらしいし、魔術とか魔法が使える訳ではないけど、殿下には魔力があるわ。それも多分、強い魔力が…。」

全く気づかなかったが、身近にそう言うタイプの人がいるので、そう言うこともあるのだとわかる。
ウィルだって一緒にいる時間が長くなって、やっとその魔力に気づいたし、夜の宝石だから魔法も魔術も使えない。
王子もそう言った類いのタイプなのだろうか?

「……だからアイツ……子供の頃、リオの匂いをやたら嗅ぎたがったのか……。」

ギルが急にぼそりと言った。
俺とチタニアさんがその声に目を向ける。

「子供の頃?」

「ああ……俺とリオが幼馴染みなのは知っているな?俺がリオに引き合わされたのは、そもそもグレッグの事があったからだ。」

「どういう事だ?」

「幼い頃、グレッグがリオを見染めて付きまとい始めた。危惧した陛下は、俺を友人兼警護としてリオにつけた。それが始まりだ。」

「……なら、もしかして王太子ともお前、幼馴染みって事か??」

「まぁ、そうなるな……。」

平然と言うギルに俺は驚いた。
ギルが王子のストーカーだと思っていたが、始まりは王太子のストーキングから王子を守る為だったと言うのだ。

ミイラ取りがミイラになったって訳か。
世の中何が起こるかわからないな。

「でも……そうだとして、何で王太子は強い魔力のある人間を欲しがるんだ??王子も俺も、子供が産める訳じゃないんだし……。」

王太子が魔力を嗅覚で察知できるとして、俺や王子を欲しがる理由はわからない。
女性で子供が残せるなら、自分の子に魔力をつけたいんだと思うがそれでは無さそうだ。
いったい何なんだ??

「ギル……お前は何か知ってんだろ?話せよ。」

「俺の口からは言えない。それからアイツが何故、お前を身代わりに欲しがったのかはわからない。お前こそ何か心当たりはないのか?」

心当たりね……??
何だろう??

ふと、王の種の事が頭に浮かんだ。
それが何故かはわからない。

王の種??

もしもそれが関係あったとしたならば、この求婚騒動は思ったより根が深いものになるだろう。
そう思った時、俺の中にただならぬ不安が押し寄せてきたのだった。
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