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第三王子編
青い時代の終
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「………失敗したか……。」
王太子は争った後の残る部屋を見た。
送った戦闘員の殆どが、拘束されて部屋に残されている。
そして都合の悪いことに誰も死んでいない。
刀で切られてすらいない。
一番重症な者でさえ打ち身と骨折だ。
つまり、時間がたてば治ってしまう上、外から見ても分かりにくい。
これでは難癖をつける証拠には弱い。
魔力を使った痕跡すら殆どない。
魔術によって部屋や建物が被害を受けている訳でもない。
「これでは何の言い掛かりもつけようがないな……。」
わかっててやったのか?
それともわからずに?
そもそも、中央王国に体術で事態に対応できるほどの技術があるのか?
だが、あるのだろう。
そしてそれをまんまとやってのけられてしまった。
ふと、廊下に脱ぎ捨てられたローブを見つけた。
真っ白い、豪華な刺繍の施されたロイヤルシールドの制服だ。
それを拾い上げて匂いを、いや残存した魔力を微かに嗅ぎとる。
「……間違いない……あれと同じ、もしくは同等のものの匂いだ……。こいつの血は……竜の血と同等のモノだ……。」
どういう事だろう?
人の中に、竜の血もしくは精霊の血が流れているのか?
竜や精霊はごく稀に、人との間に子供を残すことがある。
それができるのは実体化でき、さらに人と交わえる姿になれる程、強く純度の高い力がなければ不可能だ。
よって生まれた子は、人の姿をしているのに限りなく竜や精霊に近い血を持つ事になる。
それだけ力のある血なら、とっくに探しだして捕らえていたはずだ。
なのに成人し、自分の意思でその力を使っている。
調べたが、アズマ・サークは孤児だ。
どこかの森で拾われ、東の聖域の中で育てられた。
今まで見つけられなかったのはそのせいだ。
自分で制御できない間は、聖域の中にいたのだ。
東の国と言うのがまた皮肉だ。
偶然なのか、成るべくして成された事なのか?
「……まあいい。見つけたのだから。」
所在がわかれば追うのは簡単だ。
手に入れる方法は後々考えればいい。
問題はリオだ。
あれは自分のものだ。
これまでは中央王国の王子だからとそれを尊重して行動していたが、それをはね除けるなら手段は選ばない。
中央王国になど帰すものか。
あれは元々、この国のものなのだ。
奪われたものを奪い返す。
何の問題もない。
強行したとしても、あの事を知っている者達は強く反発は出来ないだろう。
「王太子!」
「……軍の配置は?」
「整っています!」
「ならいい。」
皇太子はローブを手にしたまま、その場を後にした。
撤退作業は終了し俺たちは移動を開始した。
南の国の重役たちが説得に見えたが無視する。
俺はギルと並んで列の先頭にいた。
ギルは責任者として立ちふさがる重役と話す為に。
俺は抵抗してくる兵士たちを怪我をしないよう、魔術でどかす為に。
王子には本家のふたりがついている。
不思議な事に王太子はこの場に現れなかった。
お陰で無理を通せば道理は引っ込むような感じで、たいした抵抗もなく城外に出れてしまった。
「……スムーズ過ぎて気味が悪いな?」
「ああ。恐らくここで襲えば問題になるからだろう。」
「道中、待ち伏せか……。」
「だろうな。規模はわからんが。」
ギルが深々とため息をつく。
ここで襲えば、南の国が襲ったという事が明白だ。
だが道中なら賊に教われて保護したとでも言い換えられる。
王太子は結構、面倒な相手のようだ。
「ガスパーの地図が役に立ちそうだな。」
「お前があいつを引き込んでおいたのが幸いだ。」
「……嫌な言い方するな。あいつは元々才能があった。遅かれ早かれその才を発揮してたさ。」
それがたまたま、副隊長代理をする不馴れな俺の補佐という形から始まっただけだ。
無事に王子を王国に帰せば、その功績からどこかに引き抜かれるかもしれない。
俺の件でよほどの馬鹿をやっていなければ、だけれども。
「あいつ……馬鹿やってないといいけど。」
「そこまでヘマをする玉じゃないが、お前が関わっているからな、絶対とは言いきれん……。」
「俺にそこまでする価値はないだろ。」
「お前がどう思おうが、あいつにとってのお前の価値はあいつが決める事だ。例えガラクタでも、あいつが価値があると思えばそれが答えだ。」
「……ガラクタは酷くないか?」
「お前が自分をそう思っているようだったから、そう言ったまでだ。俺は別にお前をガラクタだとは思っていない。」
なら何だと思っているんだ?と、喉まで出かかって、やめた。
聞いたところで、受け止められるかわからなかった。
俺はギルをちらりと見た。
おかしな関係はこいつとが一番長い。
その間、一度も答えを出した事がない。
答えを出さない。
それがお互いの暗黙の了解みたいなところがあった。
あれだけ躊躇した王子にも、気付かない振りをしていたガスパーにも、今回、ひとつの答え合わせをした。
王子も長々続いた王太子との関係に区切りを着けた。
ギルがちらりと俺を見る。
「……何を考えてる?」
「別に。」
「それは今、考える必要があるか?」
「ないだろうな。」
「なら置いておけ。そのまま。」
ずっとそのまま置いてあるものなんだけどな。
これでまたしばらく置いたままだ。
別に何かあった訳じゃない。
お互い恋人がいて、お互い相手にプロポーズまでしているのだ。
あまり深く考えなくてもいいのかもしれない。
俺は大きく息を吐き出して、考えていたことを外に吐き捨てた。
どうやら本当にどうでもいいことを考えている暇は無さそうだ。
「……ギル。」
「何だ?」
「数㎞先がヤバい。」
「どの程度だ?」
「ん?間違いなく一部隊いるな。完全に。」
俺は魔力探査で感じたままを伝えた。
ギルは顔色を変えず深くため息をつく。
「たかだかこの人数に武装した一部隊を出したのか……。」
「そのようだ。どうする?」
俺は笑って聞いた。
やりあうか、降伏するか。
まあ、聞くまでもなく俺はギルの答えを知っていた。
王太子は争った後の残る部屋を見た。
送った戦闘員の殆どが、拘束されて部屋に残されている。
そして都合の悪いことに誰も死んでいない。
刀で切られてすらいない。
一番重症な者でさえ打ち身と骨折だ。
つまり、時間がたてば治ってしまう上、外から見ても分かりにくい。
これでは難癖をつける証拠には弱い。
魔力を使った痕跡すら殆どない。
魔術によって部屋や建物が被害を受けている訳でもない。
「これでは何の言い掛かりもつけようがないな……。」
わかっててやったのか?
それともわからずに?
そもそも、中央王国に体術で事態に対応できるほどの技術があるのか?
だが、あるのだろう。
そしてそれをまんまとやってのけられてしまった。
ふと、廊下に脱ぎ捨てられたローブを見つけた。
真っ白い、豪華な刺繍の施されたロイヤルシールドの制服だ。
それを拾い上げて匂いを、いや残存した魔力を微かに嗅ぎとる。
「……間違いない……あれと同じ、もしくは同等のものの匂いだ……。こいつの血は……竜の血と同等のモノだ……。」
どういう事だろう?
人の中に、竜の血もしくは精霊の血が流れているのか?
竜や精霊はごく稀に、人との間に子供を残すことがある。
それができるのは実体化でき、さらに人と交わえる姿になれる程、強く純度の高い力がなければ不可能だ。
よって生まれた子は、人の姿をしているのに限りなく竜や精霊に近い血を持つ事になる。
それだけ力のある血なら、とっくに探しだして捕らえていたはずだ。
なのに成人し、自分の意思でその力を使っている。
調べたが、アズマ・サークは孤児だ。
どこかの森で拾われ、東の聖域の中で育てられた。
今まで見つけられなかったのはそのせいだ。
自分で制御できない間は、聖域の中にいたのだ。
東の国と言うのがまた皮肉だ。
偶然なのか、成るべくして成された事なのか?
「……まあいい。見つけたのだから。」
所在がわかれば追うのは簡単だ。
手に入れる方法は後々考えればいい。
問題はリオだ。
あれは自分のものだ。
これまでは中央王国の王子だからとそれを尊重して行動していたが、それをはね除けるなら手段は選ばない。
中央王国になど帰すものか。
あれは元々、この国のものなのだ。
奪われたものを奪い返す。
何の問題もない。
強行したとしても、あの事を知っている者達は強く反発は出来ないだろう。
「王太子!」
「……軍の配置は?」
「整っています!」
「ならいい。」
皇太子はローブを手にしたまま、その場を後にした。
撤退作業は終了し俺たちは移動を開始した。
南の国の重役たちが説得に見えたが無視する。
俺はギルと並んで列の先頭にいた。
ギルは責任者として立ちふさがる重役と話す為に。
俺は抵抗してくる兵士たちを怪我をしないよう、魔術でどかす為に。
王子には本家のふたりがついている。
不思議な事に王太子はこの場に現れなかった。
お陰で無理を通せば道理は引っ込むような感じで、たいした抵抗もなく城外に出れてしまった。
「……スムーズ過ぎて気味が悪いな?」
「ああ。恐らくここで襲えば問題になるからだろう。」
「道中、待ち伏せか……。」
「だろうな。規模はわからんが。」
ギルが深々とため息をつく。
ここで襲えば、南の国が襲ったという事が明白だ。
だが道中なら賊に教われて保護したとでも言い換えられる。
王太子は結構、面倒な相手のようだ。
「ガスパーの地図が役に立ちそうだな。」
「お前があいつを引き込んでおいたのが幸いだ。」
「……嫌な言い方するな。あいつは元々才能があった。遅かれ早かれその才を発揮してたさ。」
それがたまたま、副隊長代理をする不馴れな俺の補佐という形から始まっただけだ。
無事に王子を王国に帰せば、その功績からどこかに引き抜かれるかもしれない。
俺の件でよほどの馬鹿をやっていなければ、だけれども。
「あいつ……馬鹿やってないといいけど。」
「そこまでヘマをする玉じゃないが、お前が関わっているからな、絶対とは言いきれん……。」
「俺にそこまでする価値はないだろ。」
「お前がどう思おうが、あいつにとってのお前の価値はあいつが決める事だ。例えガラクタでも、あいつが価値があると思えばそれが答えだ。」
「……ガラクタは酷くないか?」
「お前が自分をそう思っているようだったから、そう言ったまでだ。俺は別にお前をガラクタだとは思っていない。」
なら何だと思っているんだ?と、喉まで出かかって、やめた。
聞いたところで、受け止められるかわからなかった。
俺はギルをちらりと見た。
おかしな関係はこいつとが一番長い。
その間、一度も答えを出した事がない。
答えを出さない。
それがお互いの暗黙の了解みたいなところがあった。
あれだけ躊躇した王子にも、気付かない振りをしていたガスパーにも、今回、ひとつの答え合わせをした。
王子も長々続いた王太子との関係に区切りを着けた。
ギルがちらりと俺を見る。
「……何を考えてる?」
「別に。」
「それは今、考える必要があるか?」
「ないだろうな。」
「なら置いておけ。そのまま。」
ずっとそのまま置いてあるものなんだけどな。
これでまたしばらく置いたままだ。
別に何かあった訳じゃない。
お互い恋人がいて、お互い相手にプロポーズまでしているのだ。
あまり深く考えなくてもいいのかもしれない。
俺は大きく息を吐き出して、考えていたことを外に吐き捨てた。
どうやら本当にどうでもいいことを考えている暇は無さそうだ。
「……ギル。」
「何だ?」
「数㎞先がヤバい。」
「どの程度だ?」
「ん?間違いなく一部隊いるな。完全に。」
俺は魔力探査で感じたままを伝えた。
ギルは顔色を変えず深くため息をつく。
「たかだかこの人数に武装した一部隊を出したのか……。」
「そのようだ。どうする?」
俺は笑って聞いた。
やりあうか、降伏するか。
まあ、聞くまでもなく俺はギルの答えを知っていた。
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