欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第三王子編

危険な生還

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可愛い姿に見とれていたが、ウィルにばかりやらせてはいられない。
俺は立ち上がって埃を払った。

「シルク、もう少し頑張れるか?」

「余裕でしょ?ウィルばっかり働かせられないし。」

俺に習って立ち上がったシルクは、ぐいぐいとストレッチをしている。
柔らかい体を伸ばす様は本当、猫みたいだ。

「おそらくウィルから合図が来る。それに従え。」

そういった瞬間、何故かシルクが固まった。
物凄い青い顔で俺を振り返る。

「……ねぇ……まさかと思うけど……あれに乗るの……??」

「多分。」

「やだよ!俺!鳥とか飛ぶもの嫌い!!」

「じゃあ頑張って歩いて帰れ。」

「主の意地悪っ!!」

シルクが駄々をこねたが放っておいた。
まぁ、ワガママが出るくらい気持ちに余裕が出来たのだろう。

ウィルの乗るヴィオールは何度も空に飛び上がり、下降する動きを繰り返していたが、段々とその動きが悪くなっていた。

当然だ。
風がないまま、あの巨体を何度も羽ばたきで持ち上げているのだ。
その羽ばたきも敵陣にとったら、驚異なのだけれども。

俺は上昇するヴィオールに合わせて風を送った。
風を受けたヴィオールはそれを利用して素早く空に舞い上がる。
背に乗るウィルが俺を見て笑った気がした。

「う~ん。久しぶり過ぎて、何もかもが可愛い……。」

俺は向かってきた兵士の首を締め上げた。
気持ちが高まっていたせいで、危うく殺しかけてしまった。
気を付けないと。

ウィルは風の抵抗から目と呼吸を守るために、ゴーグルとマスクをしていた。
見慣れないその姿もまたカッコ良くて、非常に可愛い。
いつの間に作ったのか、ヴィオールには馬具のようなものがつけてある。

さすがは竜の谷の民だ。
自在にヴィオールを操り、竜と槍で敵を翻弄する様は、物語に出てくる竜騎士そのものだった。

ウィルが強いのはわかっていたが、その強さは竜に乗ってこそ本領を発揮するようだ。

「どうしよう……。死ぬほど可愛いんだけど……。」

目がハートになると言うが、きっと今の俺はそんな感じだ。
横で敵を斬り捌いていたシルクが呆れたようにため息をついた。

「……あれを可愛いって思う主の感覚がわかんない……。俺は怖いくらいカッコいいと思うけど……。」

「そこが!そこが痺れるくらい可愛いんじゃないか!!」

「……ウィルに関しては、主がおかしいって事がよくわかった……。」

シルクは諦めたようにそれ以上何も言わなかった。

何でだよ!?
あんなに可愛いのに!!

俺はタイミングを見ながらヴィオールに風を送り、戦闘を続けた。

突然の竜の出現と攻撃に、敵陣は烏合の集のようになっていた。
そこにまた俺とシルクが加わったものだから、それこそ大惨事だ。
ほとんどの者は戦意を喪失して、蟻のようにバラバラと逃げていく。

まぁ絵本でしか知らない竜が出てきたら、そうなるよな?
あの雄叫びは俺でもビビったし。

その時、俺の耳に高い音が聞こえた。
ハッとして顔をあげると、ウィルが指笛を吹いている。
そして大きく旋回し、低空飛行で俺たちの方に向かってきた。


「ぎ……っ!ぎゃああぁぁ~っ!!」


これは敵の悲鳴じゃない。
シルクの悲鳴だ。
そして刀をしまうと、尻尾を巻いて一目散に逃げ始めた。

「おいシルク!?何やってんだ!?」

「やだやだやだやだっ!!飛んでるヤツ怖いっ!!」

俺は炎蛇にその場を任すと、慌ててシルクを追っかけた。
迫り来るヴィオールにシルクは悲鳴をあげる。

「ぎゃああぁぁ~っ!!」

「落ち着けっ!!」

俺は仕方なくシルクを取っ捕まえた。
その時ちょうどウィルとヴィオールが後ろにつけたので、そのまま力任せにシルクをぶん投げた。

「ぎゃああぁぁっ!!」

うるさいことこの上ない。
ウィルはシルクをキャッチすると、一度上昇し始めた。
もう一度降りて俺を拾うつもりだろうが、シルクのあの取り乱しようでは、暴れて上手く下降出来ないだろう。

そう判断した俺は、ウィルを真似て指笛を吹いた。
ちらりとウィルが俺を見る。

ここはお互いの考えが同じことを祈るしかない。
ヴィオールは上昇し始め、そして俺はその片足にしがみついた。
ヴィオールも反対の足を添えて俺を押さえる。
爪が肩に軽く食い込んで少し痛かったが、攻撃するつもりで掴んでいる訳ではないので我慢する。
そしてそのまま空高く舞い上がった。

「……ぎっぎゃああぁぁっ!!」

ちなみにこれは俺の悲鳴だ。

ヴィオールで空は何度か飛んだが、それは背中の上だ。
こんな足に捕まって宙ぶらりんで飛んだ事はない。

めちゃくちゃ怖い!!

「サークっ!!」

気流に乗って安定したところで、ウィルがマスクを外し、逆さまになって俺を覗き込んだ。

え?何それ??
どうやってるの?ウィル??

半泣きの俺を見て、ゴーグルのウィルが苦笑いする。
いや、死ぬほど怖いのよ?これ??
ウィルは本当にどうやっているのか、器用にヴィオールの体を伝って俺に近づいた。
だが手を伸ばしても届かない距離。

涙目の俺。
考え込むウィル。

「ウィル~!タ~ス~ケ~テ~ッ!」

「……ごめん、サーク。俺を信じて?」

そしてウィルが申し訳無さそうに言った。

何だろう?
嫌な予感しかしない……。

ウィルが上に戻り姿が見えなくなった瞬間、ヴィオールの爪が俺の肩を離した。
半ばパニックの俺が、腕だけで捕まっていられる訳がない。
真っ逆さまに空に放り出される。

「ぎゃああぁぁっ!!ウィルの馬鹿~っ!!」

わかってる。
多分、そうするしかないのだ。

ないのだけれども、怖すぎるだろ!?
殺す気なのか!?

とりあえず、空気抵抗を高めるために、俺は体を広げた。
よくその判断ができたと自分を褒めてやりたい。
旋回してきたヴィオールが下に近づいてくる。

「……サークっ!!」

ウィルが手綱を握らない片手を広げて叫んだ。
ドスンと俺はウィルの腕の中に落っこちる。

「痛たたた……。サーク!?大丈夫か!?」

一緒に倒れ込んだウィルがそう言った。
ウィルの片腕はちゃんと俺の服をしっかり掴んでいてくれた。

「……大丈夫じゃないっ!!死ぬかと思ったっ!!」

ありがとうよりも先に恨み言が出てしまう。
そしてガバッとウィルに抱きついた。

「死ぬほど怖かった~!!」

「だったら足に捕まるなんて無謀な選択しないでくれ。あれは谷の人間でもあまりやらないぞ?」

「だって、それしかなかったから~!!」

「うん。よく頑張ったな。」

ぎゅっと抱き締められ、凄く安心した。
ああ、ウィルだ。
俺の格好いいお姫様だ。

「……来てくれてありがとう。ウィル。」

「いいよ。間に合って良かった。サークとシルクが足止めに残ったって早馬の知らせを聞いた時は、生きた心地がしなかったから……。」

「ごめん……。」

そうやって抱き締めてもらって、俺はある程度落ち着きを取り戻した。
そしてふと気がついた。

「そう言えば、シルクは??」

俺の言葉にウィルはまた苦笑いした。
そしてヴィオールの首の方を見る。

つられてそちらに目を向けると、シルクが必死にヴィオールの首にしがみついていた。
あんまりにも必死にしがみついていたいるから、なんかちょっとヴィオールが苦しそうな気がしてしまう。

「……何か、人には見せられない姿だな。」

「そんな事言って。サークだって初めて乗った時、あんな感じだったよ?」

「え!?マジ??」

「うん、マジ。」

ウィルにそう言われ、俺は恥ずかしくなってしまった。
そんな俺をウィルがくすくすと笑う。

ウィルはヴィオールの背骨の脇の窪みに置いていた槍を取った。
手綱を握る自分の前に槍を置き、俺に両脇から槍を掴むように指示した。
なるほど、これで俺はウィルにくっついていれば良いのね?

体が安定して回りを見る余裕が出来た。
風を掴んで空を飛ぶと、本当に早い。

もう、国境の外壁が近づいていた。
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