欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第三王子編

幻は本当にはなりにくい

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俺たちがヴィオールで戻った時、それはもうお祭り騒ぎだった。
そりゃな、何しろ竜だし。

一応、外壁の外に目立たないように降りようとしたのだが、ずっと外壁上から帰ってくるのを見張ってたヤツがいたんだろう。
ある程度近づいたら、わらわらと隊員たちが外壁の外に出てきて手を振ってきた。
俺は苦笑いを浮かべる。

「……あ~。姿隠し使っとくんだった……。」

「いいよ、もう。どうせ南の国の兵士には見られてる。街とかだと問題あるけど国境だから、ほぼうちの部隊と兵しかいないだろ?口止めしても漏れるだろうけど、たくさんの一般人に漏れるよりはいい。」

「ごめん……。」

「いいって。だってヴィオールは精霊だ。竜じゃない。そうだろ?」

ヴィオールの秘密をどう守ろうか悩む俺に、ウィルは意味ありげに笑った。
なるほど。
そう言う事だよな?

これは竜じゃない。
精霊だ。

うん、間違いない。

「いいがら早ぐおろじで~っ!!」

俺とウィルが呑気にそんな話をして納得していると、ヴィオールの首にしがみついているシルクが半泣きで叫んだ。

余程恐ろしいらしい。

少し唖然としてしまう。
いや、俺も初めて飛んだ時すごく怖かったけど、ここまでではなかった気がする。

こいつ、本当に飛ぶものが怖いんだな。

何か意外だ。
シルクに怖いものなんてないと思ってた。

俺はだいぶ飛ぶのには慣れた。
とはいえ、さすがに飛行が安定しても頑張ったところで何かに捕まって数分の膝立ちが限界だ。

が、ウィルに至っては何も捕まらずに動き回ったりする。
落ちたら怖いだろうと言うと、ヴィオールが拾ってくれるから平気だと言う。

この辺は長年の竜との信頼関係があってこそだろう。
ヴィオールは好きだし疑ってはいないが、俺には無理だ。

軽く旋回してだだっ広い草地に、時間をかけてゆっくり下降した。
急速に下りる事も出来たが、シルクを気遣ってウィルがそうしたのだ。

俺たちが降り立つと、わらわら皆が走ってくる。
明らかに足止めからの生還に歓喜していると言うより、好奇心でいっぱいと言った顔だ。

おいおい、少しは労う気持ちを持ってくれ、結構、ヤバかったんだぞ!?
めっちゃミーハーなやつらだ。

だが、皆が自分の足で走って来るそこを、馬で走り抜けて来やがる馬鹿がいた。

あ~、あれだけ毛色が違うわ。
顔がマジだもん。

俺とウィルは顔を見合わせた。

「……シルクっ!!」

必死な形相で叫ぶ。
ある程度まで来ると、馬が怖がるので飛び降りて走ってこちらに来た。

その一番乗りは狡くないか?
皆、一生懸命走ってるのに、牛蒡抜きだよ。
それだけ思いの丈が強いんだろうけど。

「ギル~っ!!助げで~っ!!怖かったよ~っ!!」

シルクは相手の姿を見るなり、甘えた声で助けを求めた。
腰が抜けているのか、ヴィオールから降りる事も出来ない。
ガチガチ歯を鳴らして、走ってきたギルに震えながら手を伸ばす。

ヴィオールは降りやすいように足を畳んで、首を伸ばしている。
ギルは伸ばされたシルクの手を強く握ってやった。
それでもシルクは動けない。

こんなシルクは初めて見るので少し面白い。
俺は悪戯心が芽生え、思わずからかった。

「良かったな、シルク。王子さまが迎えに来たぞ?」

「何でもいいよ!早く助けてっ!!ギルっ!!」

「サーク!!何でシルクをいじめるんだ!!……ほら、シルク、俺に捕まって?」

「うう~ウィル~、怖かった~!!」

「うんうん、頑張ったな。偉かったよ。」

ウィルはゴーグルを首に落としながら近づくと、シルクをハグして頭を撫でる。
そしてシルクは、ほぼウィルに引っ張り上げられて、下にいたギルに手渡された。

言ったら怒られるから言わないが、何か大きな人形みたいだ。
ギルに触れると涙目ですがり付いている。

シルクの意外な一面を知った。
ちょっと可愛い。

「ギル~っ!!怖かったよ~っ!!」

「シルク……っ。」

恐怖でパニクッているシルクとは裏腹に、ギルは感慨深くシルクを抱き締めた。
何も言わないが、言葉は要らなかったのだろう。

俺とは一度だけ目が合った。
話さなければならない事などもあるが、すぐでなくてもいいだろう。

俺は苦笑いして、さっさと行けと手で示す。
ギルは小さく頷いた。

そのままシルクをお姫様抱っこして、馬に乗せて走っていった。
それを俺とウィルはヴィオールの上から見送る。

「……本当に王子さまが迎えに来たみたいだったな。」

「当のシルクはパニック起こしてたけどな。」

「そう言うことばっかり言って、サークは嫌なヤツだな。」

俺の皮肉にウィルが顔をしかめた。
ちょっと怒らせたっぽかったので、するりと腰に手を回して引き寄せた。
頬に軽くキスをする。
次の瞬間、くるっとウィルが顔の向きを変えた。

「!!!!」

素早かった。
ウィルが俺の唇をふさいで舌を絡める。

してやられてしまった……。

ヤバい格好いい。
そして可愛すぎる……。

意表を突かれたが、俺はすぐにウィルの顔に手を添えて口付けに応えた。

ああ、久しぶりのウィルだ。
その濡れた味わいが甘く心地いい。

ちょうど竜が珍しくて駆け寄ってきた皆が到着し始めた。
何人かが気づいて見ていたが、ちょっと止まらない。

ヴィオールが気を使ったのか、翼を軽く起こして俺たちを目立たなくしてくれた。
残念だったが、どちらともなく顔を離す。

「サーク……。」

「名残惜しいけど、続きはベッドでね。いいよね?ウィル?」

「当たり前だ。どれだけ待ったと思ってるんだ……。変な男に絡まれたらしいし……。」

「あ~、それは不可抗力で~。」

「サークには一度、自分が誰のものなのか教え込まないと駄目だな。」

「俺の意思じゃないのに~。」

そんな事を言いながらヴィオールから降りる。
皆がわいわいと遠巻きにヴィオールを取り囲んでいる。
そしてしげしげとヴィオールを見ていた。

そのうちの一人が俺に声をかけてくる。

「サーク?!これって本物なのか!?」

「本物の竜かって意味ならノーだな。ヴィオールは精霊だから。」

「精霊!?」

「ああ、ウィルについてる竜の守護精霊だ。だからもうすぐウィルがしまうから見てな。」

「待って!しまう前に触りたいっ!!」

「お!俺もっ!!」

しまうと言われて、何人かが興奮ぎみに手を上げた。
大人気だな、ヴィオール。

まぁ精霊とは言え竜なんて皆、はじめて見ただろうし。
そんな皆を見てウィルは嬉しそうに笑った。

「いいよ。でも変なところは触らない方がいい。後、馬と同じで後ろの方には回らないでくれ。尻尾を動かした時に叩かれるから。」

ウィルはそう言って皆を安全な場所に導いた。
優しい目がヴィオールを見つめる。

「おいで、ヴィオール。今日はよく頑張ったね?」

ウィルが呼び掛けると、ヴィオールは嬉しそうに頭を下げてウィルに甘えた。
それをウィルが抱き締め撫でてやる。
ちょっと神々しい光景だ。

「何か意外……可愛い……。」

ウィルに助けられながら、何人かがヴィオールに触った。
はじめは遠巻きに見ているだけだったヤツもわらわら集まってきて、ほとんどのヤツがヴィオールに触った。
皆、子供みたいにはしゃいでいる。
俺もお礼を言うために、ヴィオールの鼻面を掻いてやった。

「ありがとな、ヴィオール。」

ヴィオールは嬉しそうに俺に頭を擦り付け、そして口を開けて頭から甘噛みした。
それを見た隊員たちは、ヒッと悲鳴を上げ飛び退く。
今の今まで、可愛いと思っていたそれに恐怖を覚えたようだ。

「あ~、大丈夫、大丈夫。甘えてるだけだから。ほら、ヴィオール、やめなさい。」

ウィルが少し不思議そうにそれを見ている。
俺は口から脱出して、そんなウィルをきょとんと見つめた。

「え?これ、甘えてるんじゃないの??」

「いや……甘えてるんだけど……。」

「??」

「いや、後でね。……ヴィオール、戻って?」

ウィルはそう言いながら、ヴィオールに呼び掛けた。
急にヴィオールの体が光の粒に変わり、ふわりとウィルの胸の中に入っていく。
皆が、おお~っと歓声を上げた。

「な?竜じゃないだろ?精霊だ。」

「は~。でも竜の精霊なんだよな?」

「そうだな。竜の精霊だな。」

なんだか納得したのかしないのかはわからなかったが、皆、ヴィオールを間近で見れて触れて満足はしたようだ。

「一応、ヴィオールの事は秘密だから、よそでベラベラ話すなよ?」

「話さないけどさ、話したところで頭のイカれたヤツだと思われるよ。」

「だな。」

彼らは結構、現実的だった。

そう言われて見ればそうなのだ。
人に「実はこの間竜を見てさ~」と言った所で信じる訳がない。

幻の生物は、本当にいても、かえって信じてもらうのは難しい。

何だか思ったより大丈夫そうだ。
俺とウィルは苦笑して顔を見合わせた。
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