欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第三王子編

時間 ☆

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ギルに抱き抱えられて、シルクは気が緩んで、ぐずぐず泣き出した。
本当に怖かったのだ。
別にヴィオールが嫌いな訳じゃない。
心の準備も出来ないうちに空に拐われたのが怖かったのだ。

半分死にかけて、ハゲ鷹に切り刻まれて連れていかれる夢を、昔は何度も見た。
もう、あんな風に明日も生きているか気にかけるような事はないけれど、それでも思い出すのだ。

ギルは抱き抱えているシルクを、黙ってシャワー室に連れていった。
使用中の札を下げ、服のまま中に入るとそのまま蛇口をひねり、お湯を出した。

「うわっ!?ギル!?ちょっと何やってるの!?」

さすがのシルクもこれには驚いて声を上げた。
シャワーのお湯は無機質にふたりに降りかかる。
抱き締められた状態で、シルクはタイルに足をつけた。

「ギル……??」

お互いシャワーでびしょ濡れになりながら、抱き合う。
濡れた服が重く肌に張り付いた。

「ギル?どうしたの?変だよ?」

ギルは何も言わないままシャワーにうたれ、シルクを抱き締めてその肩に顔を埋めた。
黒い髪から雫が止めどなく落ちていく。
シルクはその背中にそっと腕を回した。

「ギル……泣かないで……帰ってきたよ、俺……。」

そう呟いて抱き締める。

何も言わないその人が、泣いているのだとシルクは気づいた。
はじめは発情を抑える為にシャワーを浴びているのかと思った。

でも違う。
これは涙を隠すためだと気づいた。

シルクも何も言わず、宥めるように背中をさする。
シャワーの音だけが何の変調も起こさず淡々と響いていた。

「……今日かと思った。」

その言葉の意味をシルクは悟った。
ああ、辛い選択をさせた。
心が同調して、心臓のキシキシする音も重なって、シルクの目にも涙が流れた。

「……まだだよ。大丈夫。」

こんなに強い人が、今はこんなにも小さく見える。
お互い覚悟して、いつかそうなると知っているのに、言葉で理解するのと現実で理解するのはこんなにも違う。

「大丈夫だよ、ギル……。まだ、どこにも行かない……。」

それでも……。
それでもその時が来たら、間違いなくその選択をする。
今日、選択したのと同じように。

シルクにはそれがわかっていた。
だからそれ以上、何も言えなかった。

ギルは思った。
帰ってくるとわかっていた今日でさえ、こんなにも恐ろしかった。

帰って来ないその時が来たら、自分は耐えられるだろうか?

自分もついて行くつもりだが、そこで与えられた役割を果たす時、今日のように道が別れる事など当然あるだろう。
そしてそれはきっと、今日のように突然訪れ、そしてそれがその時になるのだろう。

行かないでくれとは言えない。
自分が逆の立場なら、当然、それを選ぶだろうから。

「残される方がこんなに辛いなど、知らなかった……。」

「うん……ごめんね……。」

「いい……残す側でしか生きて来なかった俺には、知らなければならない事だ……。」

「うん……。」

「お陰で覚悟が出来た……。」

「え……?」

「共に在れる時間は1秒も無駄にはしない……。ある時間の間、ずっとお前を愛している……。」

「ギル……。」

ギルが顔を上げ、シルクの顔を覗き込んだ。
お互いずぶ濡れで、髪が顔にべったりと張り付いている。
シャワーの雨が降り注ぐ中、ふたりは口付けを交わした。

誰にも、何にも見られていない、ふたりだけの誓いのキス。

誰かに、神にさえ、見守られる必要はなかった。
お互いが知っていれば、それで十分だった。

言葉すら必要なく、口から溶け合ってひとつになる。
全てを分かち合って共有する。

シルクの腕が強くギルにしがみつく。
ギルはシルクの頭を乱暴なほど大きな手で押さえ込んだ。
深く繋がり、求め合う。
服を着たまま、シルクは求めるようにギルに足を絡めた。
体が押され、壁に押し付けられる。
セックスをするように体を絡め、揺らした。

「あ……ギル………っ。これ…好き……。」

「感じるか……?」

「うん……好き……。」

執拗に舌を絡め合い、全てを求め合う。
以前なら、こんなまどろっこしい事などしてないで、さっさと性交してしまいたいと思ったのに、今はこのもどかしいセックス紛いの戯れが心地よくて仕方がない。
いつまでもこうしていたいと思う。
だが、体の方はそうもいかない。
楽しめば楽しむだけ熱が籠る。
体の奥に籠った熱は、やがて突き上げるように滾ってくる。
どちらからともなく濡れた服を脱がそうとするが、張り付いた服はそう簡単にはいかない。

「………ぷっ。何してんの?俺たち?」

まどろっこしさに、シルクはとうとう吹き出した。
ギルもつられて小さく笑ってしまった。
長々、出しっぱなしだったシャワーの蛇口を締める。

「そうだな?何をしてるんだろうな?」

ギルはそう言って、服の上からバスタオルをシルクに被せた。
自身もタオルを引っかけ、仕方がないのでお互いの水気を拭った。

「バスタオルがびしょびしょ~。」

「まぁ、こういう使い方は普通、しないからな。」

そしてそれは軽く口付ける。
バスタオルを何度か絞って、滴り落ちない程度にまですると、体が冷えてきたので、抱き締め合った。

「……早くベッドに行こう?ギル?」

「そうだな。風邪を引くのも嫌だしな。」

濡れた服でふたりは笑い合う。
まだ外は明るいが気にしなかった。

昼間だとか仕事だとか、そんなものはもうどうでも良いことだと思っていた。
ただ、まだその時ではない時間を大切にしたかった。
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