欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

情報戦線

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たわいもない会話をしながら、イヴァンに飲ませる。
イヴァンは上機嫌にサクサク飲むが、一向に酔ってこない。
何だよ、こいつもザルか。
俺も飲むからと、あまり強い酒を選ばなかったのが裏目に出た。

「……お前、強いな?」

「そうですね。僕は北方の血を引いていますから。」

「そうなのか?つか、北方の血が入ってると酒に強いのか??」

「そう言われますね。本当か知りませんけど。」

「へぇ…。北ってさ、国がないって本当か?」

「ええ。国はないですよ。部族がいくつかあるんです。だから部族集団と言うのが一番近いかな?」

「へぇ~。なら共和国に近いのか……。なぁ、本当に氷原しかないのか?」

「ん~奥の方はそうですね。人がいる場所は、さすがに春夏は草が生えますよ?」

「詳しいな?」

「だって僕、イニス家の人間ですし。」

そう言われきょとんとした。
イニス家??俺は少し考える。
ガスパーのスパルタ教育で、俺は少しは領土と貴族名を覚えた。

「あ、北方担当か。」

「正解。ガスパー先生の厳しい指導が役にたちましたね?」

「うっせ。」

普段は名前で呼んでいるので、俺はどうも、皆の家名と本人が結び付かない。
イヴァンの家、イニス家は2つの顔がある。
1つはイニス家の人間は、大体がロイヤルソードになる事。
ロイヤルソードは家柄でなるものではなく、実力あってのものだが、それをずっと守り続けている。
多分、家の教育方針がそこを目指すように作られているのだろう。
そしてもうひとつ、北方担当大臣である。
元々、イニス家は独立した小さな国のようなものだった。
そこで北方部族達と交流、状態を把握し続けてきた。
そこに目をつけた王国と大昔に同盟関係になり、そして今の王国の貴族のひとつになった。
だから歴史的に見れば、北方担当の方が長いのだ。
俺の顔から、状況を把握した事をイヴァンは見て取ったようだ。

「それに僕の母は北方部族出身なんです。」

「お母さんが??」

それは珍しいな、と思う。
昔からそうであったとしても、北方担当をするような上部の貴族が他国の王女でもない女性を妻にしたと言うのは、かなりドラマチックな話だ。
だが、俺の考えとは違い、イヴァンは困ったような顔をしていた。
少し考えた後、まぁサークさんですし、と前置きをして言った。

「母は正妻ではありません。側室です。でも愛人ではないんですよ。父と母は愛し合っていて、結婚したかった。でも王国貴族と北方部族の娘です。様々な問題から母を正妻にすることは出来なくてね。そしてそんな複雑な事情の上に生まれたのが、僕って事です。」

イヴァンはいつも通り、爽やかに笑った。
俺は言葉が出なくて、目を真ん丸にしてイヴァンを見ていた。

「あはは!そんな顔しないで下さいよ!」

俺の顔が相当変だったらしく、イヴァンはゲラゲラ笑う。
そんな笑わなくてもいいだろうが……。

「……何か、酔ったのかな、俺。」

イヴァンがそう言ってグラスを傾けた。
ちょっと哀愁があって不思議な感じだった。

「……え?俺??」

「あはは。今日は無礼講でいいよな?」

「え?ええ!?」

「つか、サークは俺を酔わせて、何しようとしてるんだ?大体はわかってるけど。」

「ふぁ!?」

「どうせ、王宮の事を聞き出そうと思ったんだろ?見くびられてるな~俺も~。」

「あの~?イヴァンさん??」

「驚いたか??」

「そりゃな?誰だお前って感じ?」

「いい子にしてるのも大変なんだよ。たまにはくだけたってバチは当たらないと思わないか?」

「…………なるほどな。」

サクサク手酌で飲んでいくイヴァンを見て、サークはため息をついた。
誰にでも敬語で、人が良く、爽やかな印象を持たせるイヴァンは、複雑な事情の上に存在しているようだ。

「別にいつもの自分が嘘だとは思わないよ。でもたまに息切れする。」

「俺、今のお前、結構好きだわ。」

「それって、いつもの俺はそうでもないって言ってんの??」

「ちげぇよ、アホ。」

「ガスパー以外でこうして向き合うの、初めてだ。何か変な感じ。」

「酔ってんな?意外と。」

「顔には出ないからな。サークだから油断した。」

「誉め言葉と受け取っておく。」

「いいんじゃないか?それで。誰にでも心を開かせられるのは、一種の才能だろうし。」

「お前、明日、後悔の嵐に見舞われそうだな?」

「いや?さすがに人は選んだし。後悔はないよ。むしろ、明日からサークがどんな顔で俺と向き合うのか興味がある。」

「変わんねぇよ。この程度で。裏のある人間なんて腐るほど見てきたし。」

「だからだな。何か、この人ならいいやって思った。」

「お前が恋人出来ない理由がちょっとわかったわ。」

「複雑なんだよ、仕方ないだろ。別にいつもの自分が嘘な訳じゃないし。」

意外だったがイヴァンがこちらの顔を見せてくれたのは、何か嬉しかった。
ただ目的はどうやら見抜かれていたので、達成は難しそうだ。
なんなんだろうな?この鉄壁のガードは??
王宮で何が起きているんだろう??
謎が深まるにつれ、それを知る必要性をひしひしと感じた。

「なぁ、王宮で何が起きてるんだ??」

「教えると思うか?俺が?」

「取引するってのは?」

「魅惑的な誘いだけど、難しいかな?」

「お前なら取引に応じると思ったんだけどな~。」

「それで俺に目をつけたんだ?」

「ガスパーにつけ込むのはさすがに良心が痛むし、ギルと取引するのは危険すぎる。お前は結構、割り切りができるし、バランス感覚もある。どこまでがグレーにできるかわかるだろうし、取引に目が眩んだりもしないと思ったんだよ。」

「なるほど。見くびっていた訳じゃなくて、個人的評価から選んだわけだ。」

「応じないのか?取引?」

「何を提示されるかにもよるけど、今回ばかりは難しいかな?皆を裏切れないし。」

「何なんだよ~。俺の知らないところで団結しやがって~っ!!」

「サークはいつもひとりで突っ走るだろ?こっちもそれに対抗できるようにしないと。」

イヴァンはけらけら笑った。
くそうっ!!皆して俺が勝手だからって言いやがってっ!!
まぁ、好き勝手やって来たのは事実なんだけどさ~。

「でも、今日は気分がいいから、ひとつ教えてもいい。」

「何??」

「俺、この間、リグさんと食事に行ったよ。」

「は??」

「可愛い人だね。手は出さないけど。」

「え!?何で!?」

「隊長から5区外壁警備魔術班の班長さんへのおつかいがあって、それで話して。サークの事、凄い聞いてくるから、時間も時間だったから食事しながらならって流れでね。」

「へ、へぇ……。」

イヴァンはにこにこしている。
これは……どういう情報なんだ??

「いい人達だな?外壁警備の皆さん。」

「あ、うん。そうだな?そうなんだけど??」

イヴァンは意味ありげに笑うだけで、それ以上は何も言わなかった。
俺は狐に摘ままれたようになって、頭から疑問符をたくさん浮かべるしかなかった。
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