欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

その日

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その日は突然訪れた。
俺は自分の甘さを恨んだ。






王宮で何が起きているか教えてもらえぬまま、数日が過ぎた。
どこをどうつついても、ボロを出す奴がいなくて、俺は困り果てた。
そんな訳で、卑怯だとは思ったが血の魔術を使って、出かけるイヴァンに鼠を数匹つけてやった。

「またそんなブー垂れた顔をして。そんなに気に入らないんですか?」

「当たり前だろ。皆でよってたかって除け者にしやがって。俺の事だろ!?知る権利があるっての!!」

イヴァンはあの晩以外は、今まで通りの口調と態度だった。
別にそこは気にする程でもないので、完全にスルーしている。
むしろ問題は何で教えてくれないかだ。

「サークさんだって、いつもこっちに何も教えてくれないじゃないですか?」

「それとこれとは少し違うだろっ!?俺は本人に関わる事はちゃんと話すぞ!!……多分。」

「とにかく待ってください。話せると判断したら話しますから。僕らを信じて下さいよ。」

「……二の句が継げない言い訳しやがって。」

「サークさんが大事だから皆、色々考えてるんです。この話はもうおしまいです。今日は向こうに帰りますか?」

「多分な。」

「なら、またそのうち。」

「おう、いってらっしゃい。」

俺はイヴァンを見送りながら、苦い顔をしていた。
そこまで言えないって何なんだ??
そりゃ、多分、皆の判断的に俺が知ると状況がややこしくなるんだろうけどさ。
だったら何もするなって言って教えてくれてもいいだろうに。
俺の事なんだろ??全く。
そんな事を考えながら、俺は自分の支度を始めた。







俺がギルとシルクの武術指導の事を議論しながら歩いていると、別宮の玄関ホールを物凄い勢いでガスパーが走ってきた。
何だよ、あいつ?走るなんてらしくないな??
あれ?でも今日、ガスパーって王宮に行ってたんじゃなかったっけ??
2階廊下を歩いている俺とギルを下から見つけると、ガスパーは本当に全くらしくないことをした。
なりふり構わず大声で叫んだのだ。

「隊長っ!!机の5番目の引き出しの書類は読んでもらえましたかっ!?」

必死の形相でそう叫んだ。
しかし、その内容は何ともちぐはぐだ。
は??書類を読んだかって、そんなに大事なのか??
俺はぽかんとガスパーを見た。
ガスパーは一瞬だけ俺を見て、そして踵を返して別宮の入り口警護をしている隊員に扉を閉めろと強い口調で叫んでいる。
何なんだ??いったい……??
いきなりの事に何だかわからない。

「……うわっ!?」

呆けていた俺は、いきなりギルに首根っこを掴まれる。
今度は何事かと顔を向けたが、ギルはいつも通り無表情だ。
無表情だが、気迫が全く違った。
有無を言わさず階段を降り、俺を1階の廊下まで引きずっていく。

「おい!?何だよ!!何すんだ!!」

「サーク、すぐにシルクのところに行け!シルクに例の鳥の件で急いで対応しろと伝えろ。」

「は??鳥って何だ!?」

「いいからっ!!早く行けっ!!」

ドンッと背中を押され、俺はしぶしぶ鍛練場に向かう。
歩いていたら、後ろから「走れっ!!」と怒鳴られた。
何なんだ??いったい??
とにかく普通でないのはわかる。
わかるがそれが何なのかはわからない。
書類だの鳥だの、俺にわからないように先に暗号が決めてあったかのようだ。
怒鳴られて振り向いた時、別宮の入り口でガスパーが何か揉めていた。
良くわからんが、本当に何かヤバイらしい。
理由もわからぬまま俺は走った。

「シルク!良くわからんが、ギルから例の鳥の件で急いで対応しろって!!」

鍛練場に入るなり、俺はそういった。
それが何なのかはわからないが、シルクの顔色がさっと変わる。
いきなり窓に走っていき「本日は晴天なり!本日は晴天なり!」と大声を出した。
何なんだよ、それは??今日は曇りだぞ??
何をふざけているのかと言いたいが、ただならぬ雰囲気がそれを言わせない。
そしてシルクは自分の鞄をひっ掴むと、ギルと同じく俺の首根っこを掴んで引っ張った。

「おいっ!!」

「黙ってついてきてっ!!お願いっ!!」

さすがに訳がわからなくて声を荒げた俺に、シルクは泣きそうな顔でそう懇願した。
抵抗しようにもシルクの方が体術が上手いので、あっさりバランスを崩され、腕を引っ張られるまま連れていかれる。
どういう事だ!?
シルクは裏門を目指しているようだ。
皆の謎な行動と気迫に俺も黙って従うしかない。
ここまで皆が必死なのだ。
相当ヤバいのだろう。

「シルク!何が起きてるんだっ!!」

「後で説明する!今は早くっ!!」

シルクについて走っていると、向こうから王宮の役人と兵士と思われる数名がこちらに向かってくる。
何で役人と兵が別宮に来るんだ!?
こいつらって拘束官だよな!?

「居たぞっ!!」

彼らは確かに俺を見てそう言った。
もしかしなくても俺が追われているようだ。
シルクの顔を見ると黙って頷いた。

「主!絶対、魔術を使わないで!皆の努力が無駄になる!」

「どういう事だよ!?」

「今はとにかく早くっ!!」

そうこうしているうちに、違う方角からも兵士達が現れた。
方向を迷った事で少しのタイムラグが生まれる。
その為、距離の差が縮まった。
追ってくる兵士たちが差し迫ると、間にさっとライルが割って入った。

「ここをどこだと思っているっ!!第三王子の別宮だぞっ!!何の権利があって無礼を働くっ!!」

「しかし!アズマ准男爵を捕らえよとの命がっ!!」

「誰の命で王子のお住まいを踏み荒らしている!言ってみろっ!!事と次第によってはただでは済まさんぞっ!!」

ライルの聞いたこともない、凛とした声が響く中、俺はシルクに引かれて走っていく。

建物を出てもシルクは止まらず、走り続ける。
やはり裏門を目指しているようだ。
建物の中とは違い、外を走れば隠れるものもなく、当然目立つ。
ずいぶん多くの兵が出されたようで、外にいた兵士たちが、次から次へと追ってくる。
その中を、誰かが馬で走り抜けて来た。

「ウィルっ!!」

俺は叫んだ。
ウィルは俺と目が合うと、にこりと笑った。
この顔がとても悲しげだった。

「ウィル!!来い!!」

「……ごめん、主。ウィルは来ない。」

「何で!?ウィル!!嘘だろ!?」

ウィルはもう振り向かなかった。
馬を降り端にいくように指示を出すと、兵士達と俺たちの間にヴィオールを呼び出した。
大きなヴィオールは物理的にも精神的にも、大きな壁となる。
後ろには決して行かせないと言うウィルの強い意志が見えた。

「ウィルっ!!」

「お願いっ!!主っ!!俺たちの気持ちを無駄にしないでっ!!」

ウィルの方に行こうとする俺を、シルクが引っ張る。
嘘だろ!?何なんだよ!いったい!?

「ウィルっ!!」

叫んでもウィルは振り向かない。
どうしてだ!?
頼むよ!ウィルっ!!
何なんだよ!!皆してっ!!
俺が追われてるのなら!
こんな事をしてただで済むわけないだろ!!

「……主っ!ごめんっ!!」

混乱して動こうとしない俺にシルクが一撃入れた。
ああ、忘れてた。
シルクは演舞の踊り手だ。
俺を気絶させるなんて、朝飯前だろうな。
遠退く意識の中で、シルクに担がれたのがわかった。
掠れる視界に、振り向かないウィルが映って消えた。
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