欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

かつての職場

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微かに何かいい匂いがして目が覚めた。
見上げたそこは、見慣れたテントの中だった。
あれ?俺、昼寝でもしてたんだっけ??
今日の仕事って何だったっけ?
班長にどやされるな~。
なんて事を思った。

「………いや待て?俺はもう外壁警備じゃない。」

それに気づいて、ガバッと起き上がった。
見間違うはずがない。
これは外壁警備隊に支給されているテントの中だ。
どういう事だ!?
過去と現在の区別がつかなくて混乱する。
何があったのかをゆっくり思い出す。

「サークさんっ!!気づいたんですねっ!!」

そんな感じで起き上がった俺に、誰かが飛び付いた。
この感じはよく知っている。

「リグ!?何で!?」

「良かった!あのメス猫が先輩を担いで来た時は、どうしようかと思いましたっ!!」

メス猫って……エライ言いようだな?
多分シルクの事なんだろうけど、何だってお前らそんなに仲悪いの??
似た者同士の癖に。

「……主っ!!」

俺の声を聞き付けたのか、シルクがテントに走り込んできた。
ドンッとリグを突き飛ばす。

「主~っ!!ごめんね~っ!!」

「おいコラ!メス猫っ!何すんだよっ!!」

「は?うるさいよ、駄犬が!」

俺の腕に両方から抱きついて睨み合っている。
何なんだよ?それどころじゃないだろうが……。
ふたりが揉めている間に、だいたいの事を思い出した俺は頭を抱えた。

「お~。何かモテモテだなぁ~。」

くたっとした感じの声でそう言いながら、班長が入ってくる。
あ~何かその班長のくったり加減が安心する。
班長の手には、俺がいい匂いだと思っていたスープがあった。

「ほら、二人とも。とりあえず離れて、サークに飯を食わしてやれって。」

こういう状況でも飄々としているのが班長だ。
怒るわけでもなくそう言われると、なんとなく分が悪いと感じるのか、ふたりは俺から腕を離した。
粗雑な木のトレーに乗ったスープとパンを受けとる。

「……何が起きてるんです?班長?」

「とりあえず食え。話はそこからだ。」

子供に言い聞かせるように言われ、俺は渋々、食事をした。
リグは班長に何かを言われ、外に出ていく。
シルクは何故か床のマットの上に座って、膝を抱えていた。
さすがに少々言いたいこともあった。
だが、その顔を見たら何だか可哀想で、怒るに怒れなくなる。
シルクもそうするしかなかったんだろう。
何があったかはわからないけれども。

俺が食べ終えると、ちょうどリグが帰ってきて、班長に耳打ちする。

「悪い、ちょっと出てくる。すぐ戻る。」

班長はリグと一緒にテントを出ていった。
残された俺はシルクを見る。

「……何が起きた?」

「うん。ちゃんと話すよ。」

「ならこっちに来い。」

「でも……。」

「いつまでも床に座ってるんじゃない。」

手招きすると、シルクは戸惑いながらも側に来た。
俺は寝かされていた簡易ベッドの横にシルクを座らせた。

「良くわからんが、とりあえずお疲れさん。」

俺はそう言ってシルクにハグをした。
シルクはびっくりしたようだが、ぼろぼろと泣き出した。
こいつも色々思い詰めていたんだろう。
俺と皆との板挟みになって辛かったよな。

「ごめんね、主。皆、どうにかしようとしたんだけど、間に合わなくて、あの時はああするしかなかったんだ……。」

「うん。わかってる。緊急事態だったんだな。」

「やめさせようとしたんだよ、皆で。なのに、強行されちゃって……。」

「うん。始めから話してくれるか?」

「わかった……。」

そう言って体を離す。
シルクは少し不安そうな顔で話始めた。

話はこうだ。
問題はやはり南の国の件から派生していた。
王宮でも、俺を南に渡して決着をつけたいという人間と、そもそも、南の国のやったことは無礼千万なのだから毅然とした対応をとるべきだと言う人間と、少数だがもう戦争をしようと言う過激派がいたらしい。

問題なのが親南派だ。
そして親南派の代表格がなんと第二王子なのだそうだ。
それまで特に政治に絡んでは来ていなかったのだが、ここに来て突然やる気を出したらしい。
理由というのがこれまた厄介で、第二王子は西の国の王女と見合いをして恋仲になったらしい。
そこから言動が過激になって、今日に至る。

第二王子はそれまで第一王子が王太子であることに異論を唱えてはいなかった。
第二王子はリグの押しで、揉め事が嫌いで教会や貧困層の集まる場所に慈善活動に行くのが好きな、やんわりとした物腰の人物だった。
顔も綺麗で、慈悲の天使と国民から慕われている人だったはずだ。

だが、体が弱く何らかの裏事情を抱えていた第三王子とは違い、次期国王を巡る対抗馬として以前から名前は上がっていた。
揉め事を嫌う性格の為、本人にその気がなかった事から槍玉に上がったりはしなかったが、西の王女と付き合いはじめて欲が出たのか、突如、政治的な発言が増えた。
そして面倒な古参貴族達に担ぎ上げられ、今では親南派の代表格にまでなっていた。

そして、王国としては南の国には毅然とした態度をとるべきだと考えているのに、第二王子率いる親南派は経済の発展を盾に、丸く納めるべきだと主張する。
こことやりあっていると、戦争をしたい過激派達が騒動を起こし、それに対応しなければならなくなり、泥沼と化したらしい。

そうは言っても、ここは王国だ。
王の意志が一番強い。
その王の意見を持っている第一王子率いる王権派が睨みを効かせていたのだが、そこに与していた第三王子が疲労で倒れてしまった。
元々体は強くなく、南の国訪問で体力的にも精神的にも弱っていたのに無理をしたので、それが限界を迎えたのだ。

話は変わるが、第一王子派が南の国に毅然とした対応を考えていたからと言って、皆が俺を南に渡さないと言う考えかと言ったらまた少し話が違う。
当然第一王子派の中にも、毅然とした態度を示しながらも最終的な和解の為には俺を渡すのもありだと言う意見もあった。
移民で平民上がりの俺を快く思っていない貴族は少なくない。
それは第一王子派の中でも言えることだ。
つまり、第一王子派と俺を渡さないと言う考えはイコールではないのだ。
その中で、俺を渡さない方向での解決に動いていた中心人物が第三王子。
魔術本部や他の様々な圧力もあったが、やはり現場で動いている第三王子の活動が一番大きかった。

その王子が倒れたのだ。
親南派はその隙をついて、第一王子派の中の俺を渡すのに賛成な者たちと接触をはかった。
成り上がり的に存在感を大きくしていく俺を危惧している連中はたくさんいる。
どうにかして俺を追い出したかった所にこの話が出れば、派閥は違ってもその部分では意見は同じだ。
とにかく俺に姿を眩ませられたら終わりだ。
俺を逃がさないようにひとまず捕まえておこうと親南派が持ちかけ、渋りながらも結局は協力した。
そして、第一王子派の目をくぐって親南派が「南の国を攻撃した戦犯」として俺を捕らえて牢獄する決議が強行されたのだ。

それならひとまず捕まるのも手だと思うのだが、親南派は手始めに俺を戦犯とする裁判を可決させ、その上で正式な形で俺を牢獄する手続きをした。
だから投獄された場合、第一王子派が捕まった俺を牢から出すには、再審裁判を起こし無罪を可決させなければならず、その間、俺は収監されていなければならない。
再審の可決を待たずに俺を檻から出せば、違法となってしまうのだ。

当然、向こうもそんな事はわかっている。
だがその期間、俺を第一王子派の手の届かない自分達の手中に置くことが出来る。
だったら再審裁判の間に、難癖つけて南の国に俺を渡してしまうのなど簡単な話だ。

なるほど良くできた話だ。
そしてこれは、ほんの一週間程度の中で起きた事だ。
王子が倒れたのがあの飲み会の前日。
そして今日、兵士が俺を捕まえに来たと言うわけだ。

「…………。話はわかった。何でさっさと俺に話さなかったのかな~。」

「ギルが言ってた。話したら主は間違いなく王宮に乗り込んでくるって。」

「……あ、うん。やっただろうな。」

「俺もそう思った。皆もそう思った。主の性格は、皆、わかってるもん。逃げも隠れもせず、ド真正面から向かってくって。」

「あ~はい、すみません……。」

「でもね?主も言ってたじゃん?あそこは蛇の巣だって。主が真正面からから来たら、あいつらそのまま丸飲みにするよ。政治の事ギルが色々話してくれたけど、俺にわかったのは主が正面から来るだろうからって罠があるって事。主が王宮で魔術なんか使ったら、それを揚げ足とるし、体術使っても同じ。あいつらは、主を王宮に誘い出して、難癖つけて問題を起こさせようとしてたんだよ。そしてそれを理由に話を大きくしていくんだ。だから、絶対に主を王宮に近づけたら駄目だったんだ。」

「……わかるけどさ……。」

「だからね、主。気に入らないと思うけど、今は逃げて?逃げながら解決策を探すんだ。捕まったら何もできないまま、南に渡されちゃうよ?裁判の事は皆が動いてくれてる。すぐには出来なくても、ちゃんと解決できる。でも主が捕まっちゃったら、全部無駄になっちゃうんだよ。」

正直、納得は行かない。
納得はいかないが、これが最善なのだろうとも思う。
捕まったら何も出来ない。
難癖をつけられ、南に引渡されてお仕舞いだ。
また誰かに囲われる形になれば、その人物に迷惑がかかる。
なら、俺が勝手に逃げ回ってるという方がいい。
逃げ回ってるならある程度、自由に動くことが出来る。
自由に動けるなら、俺自身も何らかの解決策を探せるはずだ。

「……大体の話は済んだみたいだな?」

ふと、そんな声がかかる。
いつの間に帰っていたのか、班長がにっこり笑っていた。
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