欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

もう一つの顔

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「主~、何してんの~?」

「ん~?ちょっとな~。」

日が暮れ、深夜になるのを待って、俺とシルクは外壁にある通用門の側に立った。
リグが俺とシルクに用意してくれた服は、なんとなく若いと言うか派手と言うかで落ち着かない。
まぁ、風よけのローブを上から着てしまえば気にならないのだが。
警護部隊の制服は脱いで鞄に入れた。
残して行くと外壁警備の皆に迷惑がかかるかもしれないし、何より、後で着る必要もあるかもしれない。

あの時破壊された門は、今はすっかり綺麗に直っている。
ここから色々始まったんだと思い出す。

見送りはない。
リグが最後までべたべたしていたが、班長にげんこつを食らって、泣く泣くテントにのこってくれた。
ふと、俺の足元に鼠が一匹、現れる。
それを手に乗せた。
1日じゃそう多くの情報はないだろうが、今はそれだけで満足するしかない。
後の2匹は、そのまま残して行く。
必要に応じて呼び戻せばいい。

「んじゃ、行くか。」

俺達が近づくと、門の前の警備はまるで何も見ていないと言うように、少し離れた所で用を足し始めた。
こちらも何も言わずに門を潜る。
エルマさん、お子さんは元気かな?と心の中で思った。
外壁警備の皆にも本当、感謝しかない。
誰も何も言わず静かに、「城外に出る」と言う大きなイベントが終わったので、シルクが不思議そうな顔をしていたのがちょっと面白かった。
目の前に広がるのは、真っ暗な夜の森だ。

「うわ~、ただの森だね?道っぽい道もないし。凄いね、砂漠には森とかないから、やっぱり変な感じ~。」

「一応、ここからは姿隠しを使うから、あんまり俺から離れるなよ?」

「わかった。で、どこに行くの?」

「ひとまず東だな。その後はわからん。」

「東?南じゃなくて??」

「何事も準備が必要だって事だよ。いいから行くぞ。」

俺はそう促して、道のない森の中を進んで行った。












「…………また違う美人を連れてきたね、サーク。前の奥さんはどうしたのさ?」

久しぶりにあったマダムは、呆れたように言った。
まぁ、そう言われても仕方がない。
一緒に旅ができて嬉しいのか、控えめなウィルと正反対に、シルクは上機嫌に俺の腕に絡み付いていた。

「前の奥さんじゃないです。今でも俺の奥さんはウィル一人です。」

「え?まだ結婚してないよね?」

「いずれするからいいのっ!!」

「で?何だい?その愛人は??」

「愛人でもないです。マダム。これは俺の従者です。そう言う関係は一切ありません。」

「え~、いつでも愛人になるのに~!!」

「ならんでいいっ!!」

余計な事を言うな!話がややこしくなるだろうが!
ぎゃんぎゃんと言い合う俺とシルクを、マダムは面倒そうに見ていた。

「で?愛人が何だって?」

「だから愛人じゃなくて従者です。こいつの冒険者登録をしたくて。」

「ふ~ん?まあいい、ちょっと来な、お妾さん。」

「だから!愛人じゃないですっ!!」

マダムはどうやっても愛人で通すようだ。
お妾さん呼ばわりされたのに、シルクは嬉しそうにマダムの前に立つ。
なんか言えよ、お前も。
本気で勘違いされたらどうしてくれるんだ!

とは言え、どうやらウィルからギルドの話を聞いていたようで、登録作業自体はすんなり受け入れている。
マダムにじっと観察されても何も言わない。

「……また変なの連れてきたね……何だい??踊り子……いや…うん、……えぇ!?」

マダムが急に驚いたように声を上げた。
何だろう?マダムが驚くなんて、逆にびっくりしたんだけど?
俺はシルクと顔を見合わせた。
マダムは例の如く引き出しを開けると、たくさんの眼鏡の中から1つを取り出してかけた。
そしてまた、じっとシルクを見る。

「……ちょっと後ろも見せな。」

そう言われ、シルクはくるりと向きを変える。
何だろう?何を見ているんだろう?
俺にもわからなくて首をかしげる。
じぃっとシルクを観察した後、マダムは眼鏡を外して大袈裟にため息をついた。

「サーク……あんたは面白い男だとは思ってたけど……何者だい??お前さん??」

「え??ごく普通の元魔術兵ですが??」

「ごく普通の元魔術兵が、何で演舞の……。」

「あ~!!あ~!!あ~!!本日は晴天なりっ!!」

「主!うるさいっ!!」

いきなり大声を出したので、周囲の人が耳をふさいだ。
忘れてた。
マダムは何でもお見通しなのだ。
そしてシルクに秘密がある事も失念していた。
慌てた俺の馬鹿みたいな反応に、マダムはキセルで頭を叩いてきた。

「痛っ!!」

「大声を出すんじゃないよ!この馬鹿っ!!」

「すみません……。」

それは秘密なんです!と目で訴える。
マダムがどこまで、どんな事を見たのかはわからないが、言われたら困るところまで見えているのは明白だ。

「……わかったよ。言わない方がいいなら、言わない。だがそうだとしたら……、出身はアタシが思っている村でいいのかい?」

「多分、マダムが思ってる村です。」

「なるほどね~。そりゃ、あんま明かせないね?……って、サーク、あんた、この子の主なのかい!?」

「ええ、まぁ……成り行きで……。」

「成り行きじゃないよ。俺、ちゃんと選んだもん。」

「有無を言わさなかったけどな?」

「そこは大目に見て?」

きゅるるんとシルクが可愛い子ぶった。
可愛ければ何でも許されると思ったら大間違いだ。

マダムは大体の俺とシルクの関係を理解してくれたようだ。
何故か俺がヤバい奴という目で見られたが、何故なんだ??
そしてこれ以上は突っ込まないと言った風に、ため息をついた。

「まぁいいさ。久しぶりに面白いもんが見れたし。」

「面白いものですか?」

「ああ。その入れ墨が完全な形で入った人間を見たのは、人生で2度目だ。懐かしいもんを見たよ、全く……。」

シルクが物凄い顔で俺を見た。

まぁ、初見は驚くよな?何者だよって。
俺はお手上げのポーズをして見せる。

マダムには敵わない。
何でもお見通しだから諦めろ。

「で?名前は?」

「シルク・イシュケです!!」

名前を聞かれたシルクは、急に嬉しそうに名乗った。
さっきまでの凄い顔はどうした?
本当、自分の名前好きだな……。

「イシュケねぇ……。」

「はい!イシュケです!!」

「もらったのかい、サークから。」

「はいっ!!」

もう、にっこにこだ。
頼むから名乗る度に、嬉しそうにするのやめてくれ。
顔から火が出そうだ。

「職業は?」

「今は武術指導とかしてるよ?」

「あ、そこ、躍り手でお願いします。戦闘スタイルは武術士で。」

「なるほど。そう言い換えて確かに間違いないね?よく思い付いたじゃないか。サーク?」

「どういう事??」

「何、死神の舞を踊る人間を、上手く言い換えたって事さ。」

不思議そうな顔をするシルクに、俺はここで言う職業がモンクとか魔術師とかの戦闘タイプを指すのだと教えた。
マダムは眼鏡を変えると、シルクの書類を作り始める。

「マダム、トムさんたちってこの辺にいますか?」

「ああ、一昨日、スネーク狩りに行ったから、今夜には戻って来るんじゃないか?どうしてだい?」

「シルクを預かってもらえないかと思って。」

「え!?やだよ!何で俺を他の人に預けるの!?一緒に行くよっ!!」

俺の言葉にシルクが抗議の声を上げた。
まあ、何の話かわからなければそうなるよな?
俺はどうどうとシルクを宥める。
マダムは当然、何の事かわかっているので、そのまま書類を作っていた。

「落ち着け、シルク。この場合の預けるって言うのは、冒険者としての資格を短時間で取る為の方法の事だ。お前を置いていくって意味じゃない。」

「……本当?置いてかない?」

「置いてかないと言うか、お前にさっさと中級資格を取ってもらわないと、話が進まないんだよ。」

「中級資格??」

しまった。
先にシルクに色々説明しておくべきだった。
色々あったせいで脳内が混乱して、計画だけが一応、決まった状態だった。
シルクにはギルドに行って冒険者登録をするとしか話していなかったのだ。
あまり時間もないし、ここは一度に済まそう。

「あ~、ごめん。トムさんたちが来るまでに、冒険者の説明と初心者コース終わらせよう。いいな?」

「うん??」

初心者コースが何かもわからないシルクは、不思議そうにするばかりだ。
とは言え、シルクが初心者コースで手間取るとは思わないけれど……。
逆に惨殺の嵐にならないか心配だ。
刀は……ひとまず持たせないでおこう。
怖すぎるから。

「とりあえずシルク、これにサインしな。初心者コースは今、見繕ってやる。」

「ありがとうございます。マダム。」

マダムに声をかけられ、シルクは書類を受け取った。
書類にサインが終わると、マダムが初心者コース用のクエストを渡してくれる。
とりあえず第一段階として、シルクの登録は終わった。
計画の為には、次は中級資格を取って貰わないと。
ひよっこ冒険者になったシルクに、俺は冒険者の説明をしながら、初心者コースのクエストに向かった。
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