欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

一寸先は何もない

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今、わかった……。
何故、マダムがあんなにも多くの人に恐れられているのか……。

サークはソファーの後ろにガックリとしゃがみこんで項垂れた。
この気持ちを何と表現したら良いのだろう?
一言で言うなら、最悪だ。

「何だい?大丈夫かい?サーク?」

「……大丈夫な訳がないでしょう…。いきなり全裸に剥かれて、公開レイプされた気分です……。」

「あんたにそんな経験はなかったはずだけどね?」

「例えに決まってるでしょう!例えにっ!!」

「まぁ、そっち方面は複雑そうだったけどね。」

「も~嫌だ~~っ!!」

サークは半泣きになり、ダンダンと床を叩いた。
いっそのこと消えて無くなりたい。

「とりあえず座んな。別にあんたのあれこれを言いふらしたりしやしないよ。」

「マダムが知っているってだけで、十分死にそうです……。」

絶望の淵を歩くように、サークはよろよろと歩いてマダムの向かいに座り直した。
虚無的な目でマダムを見つめる。

「全部って……つまり、俺が長年色々もがいてた事や、最近のあれこれもですか……?」

「あんま気にしなさんな。」

「気にします!一番デリケートな部分でしょうがっ!!人としての尊厳じゃないですか~っ!!」

うわあぁぁ、と叫んで頭を抱えるサークに、マダムは面倒そうにため息をつく。
そんなに気にしなくても、誰だって一皮剥けば似たようなものなのに、何をそこまで気にするんだか。

「落ち着きな。人間なんて皆、似たり寄ったりさ。人に迷惑も危害も加えてないんだから、あんたはごく普通だよ。」

「……マダムって……そんなヤバイものまで見てるんですか?」

「見たくなくったって見えちまう時もある。あんたの性歴なんて屁とも思わないよ。まぁ、事情は特殊だけどね。」 

そう言われ、サークは少し落ち着きを取り戻した。
恥ずかしい事には変わりないが、こうなった以上、気にしていても仕方がない。

「こうなったならいっそのこと聞いてしまいますけど、俺のちんこは勃つようになりますかね?」

「わからん。そこまでは見えてない。」

「え!?全部見えるんでしょ!?」

「………いきなりそこからかい。順を追って話すつもりだったけど、まぁいい。サーク、あんたの未来は途中でいきなり見えなくなる。だからわからない。」

「え??どういう事です??」

「わからないよ。いきなり何も見えなくなるんだ。」

「……それは、死ぬって事ですか?」

「いや?死ぬなら死ぬのが見える。あんたのはいきなり何も見えなくなる。今まで経験のないことだから、あたしにもわからないよ。」

そう言われ、サークはスッと自分の中心が冷えていくのを感じた。
全てを見通す目が見たそれは、一体どういう事だろうか?
サークの顔が冷静になったのを見て、マダムは続けた。

「本当に急に見えなくなる。強い力なら光っててよくわからないだけで、見えない訳じゃない。でもあんたのはいきなり真っ暗になる。何もなくなる。どういう事かあたしにはわからない。」

「最後に見えるのは?」

「あんたは何かを見た。その瞬間、真っ暗になるんだ。本当に一瞬。見たことで何かを感じたとか言う感覚も感じられない程にね。でも死んだんじゃない。急に見えなくなるのさ。いきなり全てがなくなる。見えていた全てが無になるのさ。何を意味しているのか、全くわからない。」

サークは黙って考えた。
いきなり全てが見えなくなるとはどういう事だろう?
死ぬのとは違うのだろうか?

「確認ですが、それは死ではないんですね?」

「ああ、死ぬのはわかるよ。それに死はあんな一瞬じゃない。即死であっても、その瞬間に見えるものはとても多いんだ。だからあれは死じゃない。」

だったら何なのだろう?
だが、世界の目で見てもわからないものを、少し考えた程度で自分が解るわけがない。

「マダムは何だと思いますか?」

「初めて見るものだからね、何とも言えないよ。ただ、もしこの目が世界の目ならば、あんたは世界の目の外にいっちまうって事なのかもね。」

「どういう意味ですか?」

「う~ん、そうだねぇ……。例えるなら、迷い人みたいにこの世界でないところに行っちまうとか??」

「ええええぇっ!?」

「後は……消滅する??初めからなかったようにさ。消えてなくなるんだよ。」

「そんな事ってありますか……?」

「あたしにだってわからないよ。ただ、あんたの未来は途中で見えなくなる。はっきり言えるのはそれだけだ。それもそんな遠い未来の話じゃない。」

「ええええぇっ!?」

「だからあたしが見たのはほとんど過去と現在だよ。あんたの未来はほとんどわからない。……もしかすると、あんたの未来は定まっていないのかもしれないね?」

「定まっていない??」

「あたしもこんな事は初めてでわからないよ。基本的には千里眼で見えた流れは変える事はできない。だがその結果を生み出す方法や流れは、多少融通がきく事がある。だから絶対的に変えられない流れ以外は、先の事になると見えにくくなる事があるんだよ。ぶれてるのさ、いくつかの選択によって微妙に変わるから。そういうものは二重、三重に見える。普通は徐々にぶれていっていくんだけど、あんたのはいきなりある点から全く見えなくなる。でもおそらく死じゃない。と言う事は、その先がまだ決まっていないと言う意味なのかもしれないね。」

「なるほど……。」

もしそうなら、そこまで気落ちする必要もないかもしれない。
ただ、何で俺だけそんな極端に未来が定まってないかは不明だけれども。

「……やっぱり、完全な人間ではないからですかね??」

「なるほど、そうかもね。言われて見りゃ、あたしゃあんたみたいな人間の様で人間でないものを見通したのは初めてだ。だから見え方が違うのかもね。」

「あ~、何だかな~。」

こんなところでまで、自分が人間の夫婦から産まれてない事が証明されて複雑な気分になる。
サークは小さく唸って頭を掻いた。

「そう言えば、母親、いや父親かもしれませんけど、人間の片親はどんな人だったんです?」

精霊等との間に産まれたと言っても、片親は人間だろう。
せめてそれは知りたいとサークはマダムに訪ねたが、マダムは複雑な顔をした。

「わからない。相手が何かもわからなかったけど、あんたの人間の片親が男なのか女のかもわからない。」

「ええっ!?」

「あたしにあんたが見えたのは、あんたが人手に渡ってからさ。傭兵たちに拾われた所からだよ。その前は光ってるだけで何だかわからない。」

「それもなのか~っ。」

サークはどっかりとソファーの背もたれに寄りかかった。
知られたくない事まで暴かれて知られてしまったのに、知りたいことはほとんどわからないようだ。
おまけに未来が見えないとか、かえって不安だ。
それもこれも全て、自分が人間以外ののものである事を示していてぐったりしてしまう。

傷心で脱力しているサークをよそに、マダムはたいして気にしていない。
人生なんて何でもありなゲームみたいなもので、気に病んだって病まなくったって、大差が無いことを知っていたからだ。
それにしても、この子は本当に興味深いと思う。

「……この目で見て、こんなにわからないことが多い奴なんて初めてだよ。世の中何でもわかってるつもりでいたけど、まだまだ知らないものが意外と身近にあるもんだねぇ~。」

マダムは感慨深げにそう言って、水晶を箱に戻し、机の下にしまい込んだ。
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