欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

優しさ

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「まさかライオネル王子の中に海の王がいるとは思わなかったわ。」

フレデリカさんはちょっと悔しそうに笑った。
どうやらその情報はフレデリカさんは掴んでいなかったようだ。

そこまで徹底して、長い年月隠されている事なのだと思い知らされる。
それと同時に、ロイさんはどうやってあの蛇のような宰相から聞き出したのだろうと思った。
ちらりとロイさんを見ると、俺の視線に気づいて静かに微笑んだ。

う~ん。
いままで気づかなかったけど、ロイさんてもしかして掴みどころのない人かもしれない。

「でも、サークを欲しがった理由については、まだ確定はできないけど恐らくこれだと思える情報を得たわ。」

その言葉に、円卓の面々がざわりと揺れた。
フレデリカさんは立ったままの姿勢で話し続ける。

「南の国が海の王を兵器化した話は、恐らく本当でしょうね……。」

さっきより少し小声になり、ため息混じりにそう呟く。
だが、そこからが凄かった。

「私は南の国がかつて海の王を捕まえ兵器化したと仮定して、その証拠と方法を探してみました。こちらをご覧ください。」

フレデリカさんは杖を手に取ると、円卓中央に映像を映し出した。
それは何かの書類のようだった。

「たまたま別件で私の剣が南の国にいたので、探らせて得た南の国の極秘書類です。」

パキパキとフレデリカさんは話を進めていく。
その気迫に俺はびっくりし過ぎてしまって、ぽかんとそれを見つめる。
後、魔女のネットワークの件も驚いたけど、剣って何なんだ??

「君が剣を使うなんて……。かなり本腰を入れたね?」

俺の気持ちを汲んでくれたように、ロイさんが言った。
他の皆は剣が何かわかっているようで、特に気に止める様子はなかった。

「だって、形振り構っていられないわ。スカーレットに出し抜かれたままなんて。」

ツンと口を尖らせ、フレデリカさんは答えた。
どうやらフレデリカさんがここまでやる気が漲っているのは、スカーレットと言う人のせいらしい。

何だか長年のライバルか何かの様だが、誰なんだろう?スカーレットさんて言うのは??やはり魔術師なのだろうか?
その名に特に聞き覚えがなく、俺の頭には疑問符が並ぶばかりだ。

「とにかく!この書類は見ての通り暗号化されています。まだ全ての解読は出来ていませんが、私達が全力を尽しています。」

私達と言うのは、魔女ネットワークのメンバーと言う事だろう。
あの少し厳しいがいつだって優雅で落ち着きのあるフレデリカさんしか知らない俺は、彼女の女帝としての顔を知り、本当に面食らってしまった。
そんな俺にちらりと視線を向けると、フレデリカさんがちょっと茶目っ気を出してウインクした。
あんまりにも俺が固まっているものだから、気を使ってくれたようだ。

「解読できた部分でかなり気になる上、恐らくここの所続いた一連の出来事を繋ぐものだと思われる部分がありました。」

フレデリカさんが杖を振ると、問題の部分らしいところに赤いラインが入る。
文章の何ヶ所かに引かれた短いマーカー。
暗号化されたそれは、単語なのか文なのかひと目ではわからない。

「この書類は、どうやら海の王を捉えた方法、もしくは兵器化した方法について書かれたもののようです。そしてこの一文は、90%の確率でこう書かれています。」

フレデリカさんはここで一呼吸置いた。
円卓の皆も、硬い面持ちで次の言葉を待つ。
フレデリカさんは言った。


「『聖なる竜の血を用いて』です。」


ざわりと背筋に冷たいものが走った。

忘れるものか。

俺とウィルが引き裂かれたきっかけを。
向かい合った竜の血の呪いの禍々しさを。
今は精霊となったヴィオールの悲しみを!!



「……サーク、落ち着きなさい。」



そう言ったロイさんが、俺の腕を掴んでいた。
その言葉で我にかえる。
俺は無意識に立ち上がっていた。

それだけじゃない。
俺が手をついていた円卓には、大きなヒビが入っていた。

「……あ…っ。」

「気にしなくて大丈夫。こんなものはすぐに直る。君は大丈夫かい?」

とても静かな声でロイさんに語りかけられ、俺はつきものが取れたようにストンと椅子に座った。
さっきとは別の冷たい汗が背中を流れた。

何だ?
俺は今、何をしたんだ??

もとい何をしようとしたんだ……?

カッと頭に血が登って、後は全く覚えていない。
俺は怖くなって、手で口元を覆った。

感覚的に魔力を使っていたのは確かだ。

大昔、一度だけ同じ様な事があった。
その時はずっと身に着けていた義父さんのお守りが守ってくれた。

もう子供じゃないのに何をやっているんだ……。
俺は自己嫌悪に陥って、ギュッと自分の手を握って俯いていた。

「向こうで休んできた方がいいんじゃないか?」

「いえ、大丈夫です。」

「サーク、無理しなくていいんじゃぞ?慣れない逃亡生活で、精神的にも参っておるじゃろう?」

オービーさんに続いて、ナーバル議長もそう言った。
俺の不安定さから来る危険性を見て判断したのだろう。
場の雰囲気から考えても、俺はこの場を離れた方が良いのだろう。

でも、と思った。
俺は区切りをつけるように唇を噛み締め、意思を固めて顔を上げた。

「暴発しかけた事は謝ります。ですが俺は話が聞きたいです。お願いします!」

皆は顔を見合わせ、そして次の瞬間、盛大に吹き出した。
円卓にいつもの笑い声が響く。

「え…っ?!えええぇっ?!」

「あははははっ!!よもや暴発とは懐かしいっ!!」

「も~ヤダ~!サークちゃんたら~!!若さ自慢~??」

「は?!へっ?!」

「ははははははっ!!学生の時はよく見たな~!!暴発っ!!皆まだ安定してないから!ボンッて!!」

「わしゃ、暴発して教室を吹き飛ばしてな~、親まで呼び出されて、大変じゃったわい。」

「確かに幼くともナーバル議長の暴発なら、魔力的に教室くらい簡単に吹き飛んだでしょうね?」

「そう言えばアン?あなた暴発して、髪にパーマがかかったわよね?」

「蒸し返さないでよフレデリカ。あなただって、校庭の池の水を全部蒸発させたじゃない!」

皆が口々に、自分や仲間が暴発した時の事を面白おかしく語って、ゲラゲラ笑っている。
笑いの絶えない、いつもの魔術本部の円卓。

でもそれが、俺が気に病まない様に気遣ってくれた、皆の優しさだとわかっていた。

明るい笑い声が響く中、俺は一緒に笑いながら少しだけ泣いた。
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