欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

独自国家権限発動中

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それで……何でこうなってるんだ??

俺のテーブルにはシルクの他に、何故かマダムとトムさんが座っている。
俺はあの後、場を騒がせたからと言う理由で、皆に酒を一杯奢る事になった。

ちなみに飲めない人にはコーヒー等のお茶を奢った。

「……で?詳しい事を聞こうじゃないか?」

トムさんが酒を一口飲んでが俺にそう言った。

ちらりとマダムを見るが、涼しい顔で紅茶にブランデーを入れて飲んでいる。
マダムがそうするって事は、多分、これは避けられない流れなのだろう。

俺は苦々しい顔でコーヒーを飲んだ。
結構深い味で、アイスクリームの後にはちょうど良い。

「詳しく……と言うと??」

とりあえず一度、すっとぼけてみた。
ちなみにシルクは俺に椅子をぴったりひっつけて、ニマニマ酒を舐めている。
誤魔化そうとした俺を、トムさんは気にするでもなく言った。

「お前さんがエラい事に巻き込まれてるのは薄々わかってる。お前は離れていたから知らないだろうが、ここにだって何度か王宮の兵士が来た。まぁ、俺達冒険者には関係のない事だけとな。」

トムさんは何でもない事の様に教えてくれた。
ここでゆっくり休ませてもらっていたが、ここが安全なのは、皆が俺の味方をしてくれているからなのだ。

俺は暫く無言になって考えた。
恩義には礼儀で応えるべきだろう。

「……正直、色々な事が起きていて……それらが複雑に関わっていて、何をどう話せば良いのかわかりません。俺の中でも口外していいものとすべきではないものが複雑に混ざっているので、頭の整理がついていない今、うまく話せる自信がありません。」

ありのままをも伝えると、トムさんは、ん~?と考えた後、勢い良く酒を煽った。
あまりに勢いが良かったので、俺もシルクもびっくりしてしまった。
ぷは~っと息を吐き出して、トムさんは満面の笑みを浮かべる。

「馬鹿だな!サーク!!俺達冒険者はあんま難しい事を言われてもわからないから、だいたいの経緯と、俺達にできる事を教えてくれれば良いんだよ!!」

そう言ってゲラゲラ笑っている。
トムさんはそうやって卑下する事で気を使い、俺が話しやすいようにしてくれた。

こんな言い方をしているが、冒険者を続ける事ができる人は、決して馬鹿じゃない。
情報を得る為には馬鹿のフリもできるだけだ。

それらをわかった上で、俺も大きくため息をついた。
ちらりと伺ったマダムの顔は、相変わらず変わりなかった。

「……わかりました。なら簡単に話します。俺が王国から追われてるのは、色々あって南の国が俺を欲しがっているからです。戦犯として捕縛状が出てますが、あれは南の国の息がかかった一部の政府がやっている事です。面倒な事に正式手続きをしてくれたんで、捕まると再審裁判で無罪が確定するまで俺は捕縛されます。だから一度でも捕まってしまったら、再審裁判の準備が整う前に南の国に引き渡されるでしょう。理由なんて捕縛理由と同じで、後からどうにでも作れるんですから。それが俺が逃げ回っている理由です。」

そこまで話すと、トムさんだけでなく酒場の皆が、俺の方を向いていた。
真剣な表情で黙って話を聞いている。
俺は続けた。

「ですが闇雲に逃げ回っている訳ではないです。俺はどの道、再審裁判で無罪を勝ち取らなければなりません。俺と俺の仲間は再審裁判の準備を進めています。裁判に協力してくれる人物を集め、裁判をひっくり返し、俺と俺の仲間を貶めた連中に鉄槌を下す為の証拠などを探して集めています。」

「……それで、状況が悪いのか?」

「いえ。再審裁判の無罪については、はじめから言いがかりみたいなものなんで問題はないです。ですが今回、向こうも危険を侵して大きな手に出ました。逆に言えば、ずっと隠れていた腐った根がよく見える状態なのです。もしそんな状況なら、トムさんならどうしますか?」

俺の問いに、ニッと大きくトムさんは笑った。
それは周りで聞いている皆も同じだった。

「そりゃ~、この機会に根こそぎ治療すべきだろう?少しでも残せば、そこからまた腐ってくるからな。」

「俺も同じ考えです。ここでやっておかなければ、後々さらにまずい状況になります。不幸中の幸いというか、最悪な状況だからこそ見つかった悪腫瘍なのですから、スッキリ切り取ってしまいませんとね。」

「なるほどな。サークの置かれている状況はだいたいわかった。で?お前の計画のどこの状況が悪すぎるんだ??」

ふむふむと納得したトムさんは、不思議そうにそう聞いた。
俺はその答えに詰まり、暫く考えた。

「……この問題は、単純なようで恐ろしく大きなものの末端だったんです。やっとだいたいの全体像が掴めてゾッとしました。それはあまりにも大きすぎて……そして想像よりずっと醜悪でした……。それを成す為に相手は手段を選ばない。何が犠牲になろうと気にも止めないでしょうね。状況としては最悪です。」

俺は言えない部分を隠して、曖昧な表現でそう話した。
シルクとも魔術本部から帰って話していないので、俺が向こうでどんな話をしてきたかは知らない。
顔をしかめた俺を見て、申し訳なさそうな顔をした。
抽象的な言い方しかできなかったが、トムさんも他の皆も、それ以上、聞こうとはしなかった。

「……俺達にできる事はあるか?」

「ここにいさせてもらってるだけで十分ですよ。」

「サーク、俺はお前に手を差し伸べてる。それはお前が俺にとって大事な仲間だからだ。確かに取るに足らない手かもしれない。だが、何かできる事があるなら俺は言って欲しい。お前は、俺の大切な仲間だ。」

トムさんの言葉が胸に刺さった。
かつて、ウィルがいなくなって取り乱した時も、静かに諭してくれたトムさん。

取るに足らないなんて事ない。
こんなにも力強い手はないだろう。

「……その手をとってもいいんですか?」

「当たり前だろう。何でお前はいつも躊躇するんだ??」

「迷惑をかけるかもしれない。取り返しのつかない事に巻き込むかもしれない。そう思ったら、簡単には掴めませんよ。大事な相手なら特にね。」

俺は少し俯いてそう言った。
自分の問題に周りを巻き込みたくないのは、信用してないからじゃない。

信用してるような相手を、取り返しのつかない目に合わせたらと思うと怖いのだ。
それによって失うのが怖いのだ。

そんな俺の胸の内を知ってか知らずか、トムさんの大きな手がガシガシと俺の頭を撫でてくれる。

「今更!冒険者ってのは危険あってのもんだ!自分がやろうと決めた事で、もしもの事があったって後悔なんかしない!むしろ、やろうとする事も許されない方が後悔するもんだよ!」

「そうそう!!」

俺が話し終えた事でとうとう周りからも声が入った。
何とも温かい雰囲気だ。
俺はここにも居場所が出来たのだと、その時わかった。

「サークってチャランポランに見えて、意外と真面目な堅物だったんだな?!気にし過ぎなんだよ!!そんなちっちぇこと!!」

「そうそう!使えるものは王でも神でも利用しろってのが冒険者の鉄則よ?!下手に躊躇してたら、死んでしまうもの!!」

「まぁ、お前さんが何を抱え込んだのか知らねぇが、俺らにできるような簡単な事なら、あんま気にせず頼ればいいさ。」

「ただし!終わったら何か奢れよっ!!」

ぶっきらぼうだけれども温かい言葉。
俺はここの皆を頼っていいんだと思えた。
ちょっと感極まった俺を、シルクが首を傾げて覗き込みニッと笑った。

その時だった。


「あんた達っ!!それはこのギルドにいるバカどもの総意と考えて良いんだね?!」


突然、それまで黙っていたマダムが立ち上がって大きな声を上げた。
全員がその小さなボスに注目する。

しん…と静まり返った中に、ボソリと「異議なし」と言う言葉が混ざった。
そこから異議なしコールが湧いた。

俺とシルクは何が起きたのかわからず、びっくりするばかりだ。
トムさんがそんな俺達を笑ってみている。

「良いのかい?!王国を敵に回すかもしれない!!下手したら全員!お尋ね者だよっ?!」

「構わん!構わんっ!!」

「良いのかいっ?!一度決まったら!誰一人抜けられないよ!?」

「構わん!構わん!」

マダムの雄叫びに周りが合いの手の様に叫ぶ。
マダムもそうだが、何か皆、楽しそうだ。

一体何なんだ??これ?!

「相わかったっ!!これよりギルドマスターの権限によりっ!フライハイトのギルドは全ての政府からの離脱を宣言!!独自の規則に乗っ取り!アズマ・サークに全面的な協力を行う事を宣言するっ!!野郎どもっ!!ドジるんじゃないよっ!!」

マダムの啖呵に、酒場は大盛り上がりだ。

歓声があがり、コックのゴッズさんが待ってましたとばかりにカウンターにガンガン酒を出していく。
それを誰とでもなく皆が手にして、酒場は異様な熱気に包まれお祭り騒ぎになった。

「え??ええっ?!何?!どういう事?!」

俺は訳がわからないまま、どうやらこのギルドの全面協力を得た様だった。
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