欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

マングースとアナコンダ

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納得できたようなできないような複雑な思いのまま、俺が自分の気持ちを整理しようとしていたその時、バーンッと乱暴に入り口のドアが開いた。

何事かと皆が目を向けるよりも早く、その怒声は響いた。


「ババアァァ~っ!!てめぇ!何やってんだっ!?所在地政府離脱とか!正気かぁっ?!」


あまりの声量と乱暴な口調、聞きなれないその声に、酒場はしんっと静まり返った。

だが俺はその声を知っていた。
もちろんマダムも知っていて、全く動じる事なく、面倒そうにその人物を冷視した。

マダムがそんな態度なので、怒鳴った相手は顔を真っ赤にしてズカズカ歩いてくる。
あまりの気迫に、列に並んでいた数人は思わず道を開けた。

「何とか言えっ!!ババアっ!!」

「うっさいね~。久しぶりにあった挨拶がそれかい?全く礼儀がなってない小人だね?」

「俺は小人じゃねぇっ!!」

ガツガツと重そうな足音で入ってきたその人は、テーブルの後ろで椅子に座るマダムの前に仁王立ちした。

仁王立ちしたのだが……。

「……ちっさ…。」

誰かが思わず小声で呟いた。
数人がプッと吹き出す。

「笑うんじゃねぇっ!!ひよっこどもっ!!」

ドスの効いた声でそう怒鳴るのだが、う~ん。

やっぱり可愛いな~と感じてしまうのは俺だけではないようだ。
収集がつかなそうだったので、俺は立ち上がって2人に近づく。

「こんばんわ、ボーンさん。いきなり大きな声を出さないでくださいよ。皆がびっくりしてます。」

そう、そこにいきなり現れて大声を出したのは、ドワーフのボーンさんだった。
俺がちょっと笑いながら声をかけると、少しだけバツの悪い顔をする。

もしかしてと思って入り口を見ると、あわあわしたサーニャさんともう一人、半獣人の子供が立っていた。
ドワーフと半獣人2人とは、ギルドであっても少し目立つ。

俺の顔を見たサーニャさんがホッと表情を緩めたので、手招きする。
子供の方は、警戒したようにサーニャさんに隠れたままだった。

「サークさん~!助かりました~!!」

「いえいえ。それよりどうしたんですか?!トート遺跡はどうしたんです?!」

トート遺跡と言う言葉と受付をやっているサーニャさんの顔を見て、多くの人がこの3人がどこから来た人物かわかったのだろう。
正体がわかった事から気にするのをやめ、また宴会を再開し始めた。

「オイ、ババア!俺の質問に答えやがれっ!!」

「そう言うあんたは、サークの質問に答えたらどうだい?!」

そして何故か、マダムとボーンさんは睨み合いを続けている。

ボーンさん、あんなにマダムを怖がってたのに、どうしちゃったんだろう??
絶対、勝ち目がない事ぐらい、わかってるだろうに……。

そう思ったがひとまず困ってるサーニャさんたちをとうにかしようと、俺は酒場の方に案内してシルクを呼んだ。
トムさん達がいる席に椅子を持ってきて2人を座らせ、何が食べるものと飲むものをシルクに頼んだ。

「あっ?!でも?!その……先生が……っ!!」

サーニャさんはあわあわしてるが、多分あれは誰かがいたってどうにもできるもんじゃない。
何となく冒険者の皆はそれがわかるらしく、署名待ちをしていた人も酒場の方に来て、とりあえず飲み始めてる。

「受付のお嬢ちゃん!あんま気にしなさんな!あれは多分、いつもの挨拶だ!!」

トムさんが豪快に笑った。
俺があの2人は旧知の仲だと伝えると納得したのかしないのかわからないが、とりあえず落ち着いてくれた。
シルクが食べ物と飲み物を持ってきて、2人の前に置いた。

「猫のお姉さん、お酒大丈夫??」

「え?!えぇっ?!あ、駄目です!先生に禁止されてます!」

急に声をかけられ、サーニャさんはまた慌てた。
さっきからあわあわしっぱなしだ。
その可愛い様子に皆はにこにこ微笑む。

……いや、1人ヤバイのがいた。


「にゃ……にゃんこちゃん……っ!!」


感極まった様に呟いたヒースさんを、全員が冷ややかな目で見た。

そうだ、この人。
動物好きなのか何なのか、すぐに人を動物に例えて夢中になる変な癖の持ち主だ。

例えるまでもなく動物っぽい半獣人の女の子が目の前にいるんだ、ヤバイ予感しかしない。
どうしようと思った瞬間、いきなりバタリとヒースが机に突っ伏した。

「ヒース?!」

突然の事に、隣にいたレダが慌てて肩を揺すったが、どうやらぐっすり眠っている。
皆が呆気に取られていると、サーニャさんが見た事のない怖い顔をして声をあげた。

「アレ~ック~っ!!」

そして隣に座っている半獣人の子を睨みつけた。
アレックと呼ばれたその子は涼しい顔をしてシルクの持ってきたミルクを、礼も言わずに飲み始めた。

何だか小生意気そうなガキだな。

それが俺のアレックに対する第一印象だった。
アレックは半分ほどミルクを飲むと、サーニャさんとは異なるキツそうな猫目でサーニャさんを見上げた。

「何だよ?!こいつが姉ちゃんに変な事しそうだったから眠らせただけじゃんかっ!!」

ツンツンそんな事を言う。
そう言えばサーニャさん、弟がいるって言ってたな??
随分、毛色の違う姉弟なんだな?ちょっと驚いた。

「何言ってるんですか~っ!!初対面の方に!失礼でしょうっ!!おまけに魔法なんてかけてっ!!」

「う~ん?どうかしら……?確かにヒースは変人だしね~。」

「そらみろ。姉ちゃんは平和ボケし過ぎなんだよ。先生がいつも守ってくれてるけど、いつか痛い目見るぞ。」

「レダさん……この状況でヒースさんをディスるのは良くないです。例え変人だったとしても……。」

「サーク、お前もな。」

何ともボケボケな会話が進む。
シルクは改めて持ってきたアイスティーをサーニャさんに渡した。
サーニャさんはお礼を言ってそれを飲む。

「サークさんをはじめ、皆さんご親切にありがとうございます。私はトート遺跡で受付を担当してます、アレキサンドラです。こっちの優秀ですが困った子が、弟のアレクセイです。どうぞ、サーニャとアレックとお呼び下さい。」

サーニャさんはそう言って頭を下げた。
その拍子に頭をゴツンとテーブルにぶつけ、皆、思わず吹き出した。
弟君は慣れているのか呆れ顔だ。
まぁ、何とかこっちは微笑ましく片がついた。

俺はそう思いながら後ろを振り向いた。
後ろでは相変わらず、アナコンダとマングースが睨み合っている。

だから勝てないって。

いくらマングースでも、アナコンダが相手だぞ?
締め上げられた上、丸呑みにされるっての。

もう一方も片をつけないとなと思って、俺は席をシルクに譲って立ち上がったのだった。
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