欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

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第五章「さすらい編」

君を呼ぶ歌

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サークは魔力を使いすぎると気を失うと言っていた。
特に血の魔術を使うとセーブが効かず、魔力と血と生命力を奪われ、数日間は目覚めない事があるとも。
竜の召喚に血の魔術は使っていなかったが、血の呪いと向き合った時は使っていたはずだ。

「サーク……。」

ウィルはひとまず状態を確認した。
呼吸はある、脈もおかしくない、体温も異常と言えるほどの変化はない。
血の魔術で倒れると死んだようになると聞いていたので、そこまで重症ではないようだ。

少し眠れば目覚めるだろうか?
サークの頭を自分の膝に乗せ、髪を撫でた。
顔がだいぶ疲れている。
目の下の隈も気になる。

「ごめんな、サーク……勝手にいなくなって……。」

きっと大変な思いをして谷に来たのだろう。
サークの鞄をあさって、中から上着として使っていたらしいローブとブランケットを取り出す。
袖無しの服を着ていたのでウィルはローブを借り、ブランケットをサークにかけた。

サークの胸の辺りに手を置いて髪を撫でる。
他に何もできなくて、気づいたら小さな声で歌っていた。
手を置いた胸の辺りが温かくなった気がした。


「……それ、竜を呼んでるの……?」


しばらく歌っていると、サークが薄く目を開き聞いてきた。
何故か泣けてきて、ウィルは歌を止めて顔を覗き込んだ。


「俺が呼んでるのはお前だけだよ、サーク。」

「お帰り、ウィル。」

「……ただいま。」


胸に乗せられた手をサークは握った。
凄く気持ちが安らかで、安心していた。


「ウィルがいないと寂しい。不安になる。」

「うん。」

「眠れなくなるんだ。」

「うん、ごめんな。」

「少し寝てもいい?」

「いいよ。ゆっくり休んで。」

「いなくなるなよ?」

「もう、どこにも行かない。約束する。」

「うん。」


サークはそう言って目を閉じた。
ほんの少しの間だったが、ウィルがいなくなって以来、一番深く眠った。








しばらくすると、サークがぱちっと目を開いた。

「どれくらい寝てた!?」

「30分くらいだよ。もう平気なのか?」

「うん、それより………。」

サークがそう言った次の瞬間、キュルクルと腹の虫が鳴く。
ウィルは思わず吹いてしまった。

「安心したらスゲー腹へった……。」

「歩けるか?町が近いといいんだけど……。」

「ここ、どこだ??」

「海が見えたから、王国都市より南の方だと思う。」

「う~ん。」

「大丈夫か?」

「そろそろ来ると思うんだけどな~?」

「誰が?」

ウィルがそう言った時、アマツバメが1羽、どこからともなく飛んできた。
サークが体を起こし手を差し伸べると、それはふわりと消えた。

「ちょうどよかった。来たみたい。」

「????」

ニヤッと笑うサークをウィルは不思議そうに見つめる。
と、遠くから馬の走る音が聞こえた。
顔を向けると、見知ったふたりが馬で向かって来ていた。

「サークっ!!」

「主~っ!!見つけた~っ!!」

サークは片手をあげてそれに答える。
そして苦笑いを浮かべる。

何だあいつら、連れ立って来たのか?
というか、ギルは隊長としての仕事はどうした!?

おとぎの国に旅立ったのはいつだったか。
何とか現実に帰ってみれば、またも厄介な事ばかり頭に浮かぶ。

あ~面倒くせ~。
そう思いながら、その面倒臭さが懐かしかった。









「何で俺が主とじゃないの!?」

「文句を言うな、シルク。」

自分の前に乗ったシルクがぶちぶちと文句を言う。
ギルは気のきいた言葉を知らず、ため息をついた。

「あれは騎馬隊のエースだ。お前より馬の扱いに長けている。」

それを聞いて、ウィルと馬に乗っていたサークは思わず声をあげた。

「え!?ウィルって騎馬隊所属なの!?」

「そうだ……って言いたいけど、元、だろうね。多分、今回の件で除隊扱いになってるよ。」

「あの馬小屋は!?」

「……それは何の事だ?サーク?」

「え?ええ!?」

「……サーク。恐らくそれは王国のトップシークレットに入ることだ。軽々しく口にするな。そうだな?ウィリアム?」

「警護隊長は私をご存じなんですね?」

「まあな。」

「ええ~!?どう言うこと!?」

何だか俺の知らないウィルのことをギルが知っていてショックだった。
項垂れる俺を、後ろから手綱を持つウィルが宥める。

「ちゃんと全部話すよ、サーク。」

「本当に?もう隠し事はしない?」

「しない。必要なくなったから。」

「じゃあ、恋人って事も秘密にしなくていいんだな?」

「……それは……。」

後ろにいるウィルがいい淀んだ。
手綱を握る手まで赤くなっている。

この反応は……どっちだ??

コツンとウィルの頭が俺の背中に当たった。
どこか甘えるような仕草。
俺は手綱を持つ手を俺は上から握った。
多分、ウィルは嫌ではないのだと思った。

ムスッとシルクがへそを曲げた。
さんざん待たされた挙句、迎えに来てみればこれである。

「……ギル、走って。」

「は?ふたりも乗せてるんだ、馬に無理をさせる必要はないだろう?」

「いいから!走って!!見てらんないっ!!」

シルクはそう言うと足で馬に合図した。
馬は少し早足になって先を進む。

ウィルはますます赤くなってしまった。
恥ずかしさといたたまれなさで言葉も出ない。
そんなウィルにサークは静かに声をかける。

「ウィルはどうしたいの?」

「秘密はもう嫌だけど……。」

「恥ずかしい?」

「うん……。」

「でも俺はちゃんとウィルの事、皆に紹介したいよ。今回、旅に出るのに皆、何も言わずに送り出してくれたんだ。だからちゃんと紹介したい。」

「うん……わかった……。」

「大丈夫だよ、別に言いふらす訳じゃない。信用している人に言うだけだよ。」

「……受け入れてもらえるかな?俺?」

「大丈夫だよ。俺の大切な人を、大切な仲間に紹介するんだ。だから大丈夫。」

不安を取り除ければと思い俺はそう言ったが、ウィルは少し考えているようだった。
少しう~んと考えてから独り言のように呟く。

「サークはわかってないからな~。」

「何を!?」

「ん~?知らないところで、いろんな人を泣かせてること。」

「えええぇ~!?泣かせてないよ!!」

「そういうところが心配なんだよな~。」

ちょっと待ってくれ?!
何でそうなる?!
俺はどうしてだか、ウィルにも酷い男として認識されているらしい。
大慌てでそれを否定する。

「俺は酷い男でも狡い男でもないよ!?」

「無自覚なのがな~。」

「待って!?皆に色々言われすぎて!たまにそうなのかなと思っちゃうけど?!……俺ってそんなに酷いの!?」

「……酷いね。」

「えええぇ~!?」

ウィルはそう言ってくすくす笑った。
ウィルにまで酷い男認定をされてしまい、俺はショックで言葉が出なかった。
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