「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第四章「独身寮編」

八重歯

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「オーナー!ちんこ揉ませて~!!」

……………。

どいつだ?
シルクにしこたま飲ませやがったのは!?

ぶちのめす…!!

上機嫌なシルクとは真逆で、どす黒いオーラを放ちまくる俺にごろにゃんとばかりにシルクが絡んでくる。

夜、独身寮と武術指導者の歓迎会が食堂を貸してもらって開かれた。
隊長が手配してくれたらしい。
それはとてもありがたいのだが、シルクとお近づきになりたいヤツがこぞって飲ませたせいで、今、俺は地獄を見ている。

「ちんこ~ちんこ揉ませて~!!」

「うるせぇぞっ!!馬鹿シルクっ!!ちんこが勃つからって!えばんじゃねぇっ!!」

「え~。」

「後、お前!呼び方がオーナーに戻ってんぞ!俺は誰だっ!!」

シルクはじ~と俺の顔を見つめた。
そしてパァ~とばかりに目を輝かせる。

「主だ~!!」

「あ~、はいはい。」

ゲラゲラ笑うシルク。
もう、勘弁してくれ……。
無視する俺を気にするでもなく、スリスリと抱きついて懐いている様は本当に猫のようだ。
そして突然、ぷうっと頬を膨らませる。

「主がちんこ揉ませてくれない~。」

「俺はお前にちんこ揉ませた事は一度もねぇっ!!」

意識のない時に揉まれたかもしれないが、それはノーカンだ。
質の悪い酔っぱらいはなおも俺に絡む。

「だから今~今揉みたい~!!」

「他所へ行けっ!!他所へっ!!」

「わ~ん!主にフラれた~!!誰かちんこ揉ませて~!!」

誰でもいいのかよ、おい。

しかしシルクの言葉に、周囲が盛大に吹いた。
中には股間を押さえる者もいた。

もう知らん。
馬鹿シルクめっ!!
どうなっても俺は知らん!!

「……シルク、何か癖が凄いね?」

さすがのライルさんも苦笑いだ。
俺は大きなため息をついて頭を抱える。
全く!シルクのヤツ!!
森の街の皆が礼儀作法を教えてくれて、せっかくここまでそれらしくなってたってのに!

「クソ……いい感じだったのに、酒で本性出しやがって……っ!」

「ふ~ん?あれが本性?」

「ええ、元野良猫なんで。」

「でも俺、嫌いじゃないな~。素のシルク。」

「ライルさん……。」

本当、この人は……。
いい人過ぎて泣けてくる。
ライルさんには絶対、幸せになってもらおう。
俺はそう、心に誓う。
だが問題のシルクはと言うと……。

「え?!揉んでもいいの!?わ~い!!」

嬉しそうなそんな声が聞こえ、俺は飲もうとした酒を吹きかけた。
やべぇ……あんな野獣、野放しにできん!!
早速シルクは問題を起こしだした。
ある隊員の前にひざまづいて、もにょもにょしている。
どことは言えない。
俺は慌てて立ち上がった。

「わ~♪ちょっと固くなってる~!可哀想~窮屈だね~大丈夫だよ~怖くないからね~今、出してあげるからね~♪」

楽しそうに揉み込んで、シルクは相手のベルトに手をかけてる。
揉まれた本人も周りも、まさかの事態に真っ赤になってシルクを見つめている。

「はい!そこまでっ!!」

間一髪、俺はシルクの首根っこを掴んで持ち上げた。
周囲からは、ほうっと安堵なのか残念がっているのかため息が漏れる。
シルクはと言えば、俺に釣り上げられながらジタバタしている。

「主!邪魔しないでよ~!おちんちんが可哀想でしょ~!!」

「可哀想なのはてめえの頭だ!ボケっ!!」

一体なんでコイツはこうなんだ……。
向こうのお国柄なのか単なるシルクの性格なのか、性に対して自由奔放というかオープンというか。
とにかくこっちで、向こうと同じ感覚でいられたら敵わない。
今後を思うとただただ頭が痛かった。

「おい……。シルクが面倒かけて、済まなかったな……。」

ここは少し、周りを牽制しておかざる負えない。
俺は地の底を這うような声で詫びを入れる。
我ながら謝ってるトーンの声ではない。
さっきからのどす黒いオーラとも相まって、今の俺は隊長並みに黒魔術師っぽいと思う。

「い、いや、大丈夫だ……。」

そのかいあって牽制は効きが良かった。
そいつは冷や汗を流しながらそう言った。
周りも下手にシルクに手出しすると不味そうだと感じ取っているようだった。
しかし酔っ払いの野良猫はそうも行かない。

「やだやだやだやだっ!!ちんこ~!!」

ちんこじゃねぇ!!
このバカ猫が!!

人が必死に問題を怒らないように手を回してるってのに!!
俺は流石にカチンときた。

「てめえは黙ってろっ!!」

俺は怒りに任せて魔術でシルクを眠らせた。
そのまま無言で引きずって行き、隅の空いているテーブルの上に投げ捨てる。

「……よし!!」

あまりよくもないが、よしだ。
後でたっぷり言い聞かせる必要があるが、ひとまず事態は終息させた。
ふんっとばかりに一瞥し、俺がシルクを捨ててライルさんのところに戻ると、何故かライルさんの隣にガスパーがいた。

「久しぶり~。別に仲良くはないけど。」

俺はそう冷めた挨拶をした。
でも初めて来た時も絡まれたし、何だかんだでこいつとも縁があるのかもな、なんて思う。

「………よう。」

俺の気のない挨拶に、ガスパーもツンっと答える。
飲みすぎているのかコイツも顔が赤い。
俺は水を汲んで渡してやった。

「お前、飲みすぎてんのか?顔が赤いぞ。」

「飲みすぎてねぇ……。」

そう言いつつ水を受け取って飲む。
素直じゃないのは相変わらずだなぁと思う。
それをライルさんが生暖かい目で見ていた。

「ガスパー?サークに聞きたいことがあるんだろ?」

「そうなの?なんだよ?」

どうやらこの珍しい珍客は、俺に聞きたい事があるらしい。
また爵位がどうのみたいな話かな?
俺が興味なさそうに尋ねると、赤い顔をもごもごさせて口篭る。

「いや、その……。」

「ハッキリしろよ?なんだよ?面倒臭い奴だな?」

「だから……。」

「だから?」

俺が少し苛ついて語尾を強めると、観念したように叫んだ。

「……だから……!……お前っ!!シルクさん付き合ってるのかっ!?」

やたらでかい声でガスパーが叫んだものだから、食堂がしん、と静まり返った。
その言葉に俺はフリーズする。


「……は?はあぁっ!?」


そして同じく叫ぶ。
ただでさえシルクが問題起こしかけて苛ついてんのに、またその話かよ!?
思わず立ち上がり、ガスパーに詰め寄った。

「てめえか!!そんなデマ流してんのはっ!!」

「俺じゃない!!皆がそう言ってっから!!」

「皆って誰だよ!?出てこい!!」

「お?!おい!?落ち着けよ!?」

「これが落ち着いていられるか!!見ただろ!?アイツのとんでもない本性!?あんな無節操なのと俺が付き合うと!?だいたい俺!ちんこ勃たねぇんだぞ!?それでどうシルクと付き合うんだよ?!変なデマ流すんじゃねぇ!!」

「だから!俺が流してんじゃないって言ってるだろっ!!八つ当たりすんなっ!!」

じたばたとガスパーともみ合う。
どっちも何だか引っ込みがつかなくて、喧嘩という訳ではないがわちゃわちゃする。
それをライルさんがおかしそうに笑った。

「はいはい!ふたりともおとなしくして!!」

そうライルさんが宥めて俺達をいったん座らせる。
周りにも注目されていた事に気づき、俺もガスパーも我に返った。

「すみません……。」

「悪りぃ……。」

そんな俺達をライルさんは軽く笑い飛ばしてくれる。
こちらを見ていた周りも興味を失ったのか、それぞれのテーブルにつき、飲み始める。

はぁ……何だか今日は疲れた……。
俺は近場にあったオレンジジュースを一気飲みした。

それもこれも、全部、シルクが悪い。
問題は起こすなって言ったのに、なんで端からこうなんだよ……。
ぐったりする俺の肩を、ライルさんが慰めるようにポンポン叩いた。

「でもさ?付き合ってないなら、どういう流れでサークの従者になったんだ?」

「ああ~、あいつ、行き倒れてて~。」

まあ、確かに気になるよな。
西の国で恋仲になって連れてきたなら何となく納得できるかもしれないが、そうでもないのにわざわざ連れてきた上、従者として常に側に置こうとしてるんだ。
周りから見れば、どういう事なのだろうと思うよな……。

俺はシルクとの出会いを問題ない感じで伝えた。
シルクが向こうの豪族に目を付けられて逃げることになった話や、身寄りがない事、魔術をかけられて体調に異変が出ていた為に経過を観察しなければならない事などを話した。

ライルさんとガスパーはそれを聞いて何となく納得してくれた。
それは聞き耳を立てていた周りも同じだった。

それにしても……。

俺は飲みながら、何かこの3人で飲むって変な感じだな、と少し思った。






「……たいちょーさん。」

サークの魔術から目を覚ましたシルクは、隅で一人で飲んでいたギルに声をかけた。
えへへ、と笑って隣に座る。

「……何か用か?」

「ん~別に?」

シルクの指が妙になめらかな動きで、酒瓶に触れる。
ギルはそれを取り上げ、さっと水を渡した。
それをシルクがくすくす笑う。

「本当は平気なんだけどな~。」

「サークが心配するぞ。」

「そだね。」

シルクは一口水を飲むとぼんやりと遠くを眺める。
特に話すでもなく、しばらくそうしていた。

食堂は酔った皆のざわざわとした声が響いていたが、ここだけは静かだった。
シルクは言った。

「……たいちょーさんてさ?主と何かあった?」

「…………。どうしてそう思う?」

「ん~?勘?」

「……なら、外れだ。」

「そうかな?」

ギルはちらりとシルクを横目で見た。
眠いのかアンニュイな雰囲気で肘を付き、指先でコップの縁をなぞっている。
その目はどこを見ているのかわからない。

「……目がさ、違うんだよね。」

「そうか?」

「俺さ、主に何かあったら、平気で人殺すよ?」

「………。物騒だな。」

「そだね。」

シルクは手を伸ばして、ギルの摘まんでいたナッツを1つ盗んだ。
ギルがムッと顔を向けると、ニッと笑って、シルクはナッツを口に放り込んで見せた。
それをガリッと奥歯で噛み砕く。


「……たいちょーさんでも、俺、殺すよ?」


シルクはすっとギルに顔を近づけ、そう囁く。

囁いた時、酒か何かの匂いを感じた。
ちらりとギルに目をやり、その無表情に無邪気に笑って見せ、立ち上がる。

「……主~?!なに話してるの~!!俺も混ぜて~!!」

そしてもう用は済んだとばかりにサークの元に駆けていく。
ギルはそれを見送り、ため息をついた。

どう答えるべきだったのだろう?

いなくなったシルクの残り香に罪悪感を覚えた。
ニヤッとした時に見えた八重歯が、妙に印象に残った。
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