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44. 交換日記①
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西田に気持ちを打ち明けて、橘先生にも認めてもらって、だけど、学校で俺と二人きりでないときの西田は相変わらずそっけない。教室で目があってもすぐに逸らしてしまう。言葉を交わすことはもちろんない。それがひどく寂しい。だから、放課後のほんのひと時、屋上へ続く階段の踊り場での会話が、今の俺には何にも増して大切に思える。
今はまだ二限目だけれど、もう放課後が待ち遠しい。授業の合間、ふとした瞬間に君を盗み見る。こんなときは、これが恋のときめきだろうかと思う。恋のときめき……そうだ!俺は西田とやってみたいことがある(それはとても恋人らしいことだと俺は思う)。今日の放課後に話してみようか。そんなことを考えていたときだった。
「おい佐藤、何ぼっとしてるんだ。早く前に出て解答を書きなさい。」
数学の先生に指摘され、ハッとした。当てられたのに気付かなかったようだ。隣の席の伊藤が小声で「最近、ぼおっとして変だぞ。大丈夫か?」と言ってきた。他人からも分かるほどなのか。自分の浮かれっぷりに呆れながら、慌てて黒板に解法を書いていくのだった。
二限目の後も気持ちはそわそわと放課後に向かった。集中して板書をしているようでも、まめに時計をチェックしてしまう。そんな自分に気付いては受験生なのだからしっかりしろと気を引き締め直した。
とうとう待ち焦がれた放課後がやってきた。日直の用事を片付けると、急いでいつもの場所に向かった。
窓に目をやると、校庭で下級生たちが部活動に励んでいる。去年の今頃は俺もあの中にいて、無邪気に体を動かしていた。性に興味はあったけれど、倒錯的な世界を想像することすらなかった。あのころの自分が別人みたいに感じる。
階段を登っていくと、壁にもたれかかった西田が見えた。
「待たせたね。」
「いや、僕も少し前に来たばかりだから。」
こうして西田と親しく話すようになることも、想像だにしなかった。半年ほど前に覗き見た橘先生と西田の関係が不思議な因縁となり、大きく変わってしまった。それは客観的には良くないことかもしれない。しかし俺の心は豊かになって、ずっと人間らしくなったと思う。
「西田、実は君としたいことがあって……恋人っぽいことなんだけど……。」
いざ言うとなると恥ずかしい。こんな気持ちも前は知らなかった。
「ふふ、友達ごっこの次は恋人ごっこ?なんだろう……らぶらぶ恋人エッチとか!?この前は僕のせいで結局らぶらぶじゃなかったもんね。」
「君はすぐそういう方向に持ってくんだから……違うよ、交換日記!交換日記しようよ。」
「はあ、何それ、小学生の女子じゃあるまいし、アハハ。」
「悪いかよ……昔、クラスの女子がやってて憧れてたんだよ。妹もやってたし。」
西田に笑われ反論するが、交換日記なんて子供じみていると思えてきて声が小さくなった。
「いや、いいよ。交換日記。やろ。」
「えっいいの?」
思いがけない返事に、嬉しくて声が上擦った。
「佐藤君は見かけによらず僕よりずっと乙女だよね。橘先生にも言われてたじゃん、恋愛観が少女小説だって。ふふ。」
「今でこそ筋トレでこんなだけど、小さいころは細かったしなよなよして女の子っぽかったんだぜ。」
「そうなの?意外!」
「親父が男らしくないって俺のことぶったよ。それで頑張ったのが今の俺ってわけ。」
「ごめん、嫌なこと思い出させたね。」
「いいんだよ、今となっちゃ筋トレは習慣だしね。小さいころは妹の絵本が好きだったし、中学くらいまではこっそり妹の少女マンガも読んでたよ。」
「へえ、じゃあ交換日記は本来の君のセンスなんだね。かわいい。」
「よせよ、照れくさいな。」
「いいじゃん、かわいいものはかわいいんだから。僕も文通してたくらいだし書くのは嫌いじゃない。僕たちらしいかも。」
僕たちらしい……西田の言葉に胸が熱くなった。この雰囲気ならいけるかもしれないと、もう一つ頼み事をする勇気が出てきた。日記帳を一緒に選びたい。
「それでさ、一緒に日記帳選びに行かないか?これから。」
「えっ……そんなことして僕と一緒にいるの知り合いに見られたら佐藤君、嫌じゃない?」
君はまだそんなことを言うのか。いつか君がこんな些細なことを気に病まないようになってほしいと思った。
「そんなことないよ。俺が一緒に行きたいんだよ、頼む!」
「そんなに言うなら、いいかな……。」
小さく不安げな声だったが、同意してくれた。どんな日記帳を選ぼうか。わくわくと胸が弾んだ。
今はまだ二限目だけれど、もう放課後が待ち遠しい。授業の合間、ふとした瞬間に君を盗み見る。こんなときは、これが恋のときめきだろうかと思う。恋のときめき……そうだ!俺は西田とやってみたいことがある(それはとても恋人らしいことだと俺は思う)。今日の放課後に話してみようか。そんなことを考えていたときだった。
「おい佐藤、何ぼっとしてるんだ。早く前に出て解答を書きなさい。」
数学の先生に指摘され、ハッとした。当てられたのに気付かなかったようだ。隣の席の伊藤が小声で「最近、ぼおっとして変だぞ。大丈夫か?」と言ってきた。他人からも分かるほどなのか。自分の浮かれっぷりに呆れながら、慌てて黒板に解法を書いていくのだった。
二限目の後も気持ちはそわそわと放課後に向かった。集中して板書をしているようでも、まめに時計をチェックしてしまう。そんな自分に気付いては受験生なのだからしっかりしろと気を引き締め直した。
とうとう待ち焦がれた放課後がやってきた。日直の用事を片付けると、急いでいつもの場所に向かった。
窓に目をやると、校庭で下級生たちが部活動に励んでいる。去年の今頃は俺もあの中にいて、無邪気に体を動かしていた。性に興味はあったけれど、倒錯的な世界を想像することすらなかった。あのころの自分が別人みたいに感じる。
階段を登っていくと、壁にもたれかかった西田が見えた。
「待たせたね。」
「いや、僕も少し前に来たばかりだから。」
こうして西田と親しく話すようになることも、想像だにしなかった。半年ほど前に覗き見た橘先生と西田の関係が不思議な因縁となり、大きく変わってしまった。それは客観的には良くないことかもしれない。しかし俺の心は豊かになって、ずっと人間らしくなったと思う。
「西田、実は君としたいことがあって……恋人っぽいことなんだけど……。」
いざ言うとなると恥ずかしい。こんな気持ちも前は知らなかった。
「ふふ、友達ごっこの次は恋人ごっこ?なんだろう……らぶらぶ恋人エッチとか!?この前は僕のせいで結局らぶらぶじゃなかったもんね。」
「君はすぐそういう方向に持ってくんだから……違うよ、交換日記!交換日記しようよ。」
「はあ、何それ、小学生の女子じゃあるまいし、アハハ。」
「悪いかよ……昔、クラスの女子がやってて憧れてたんだよ。妹もやってたし。」
西田に笑われ反論するが、交換日記なんて子供じみていると思えてきて声が小さくなった。
「いや、いいよ。交換日記。やろ。」
「えっいいの?」
思いがけない返事に、嬉しくて声が上擦った。
「佐藤君は見かけによらず僕よりずっと乙女だよね。橘先生にも言われてたじゃん、恋愛観が少女小説だって。ふふ。」
「今でこそ筋トレでこんなだけど、小さいころは細かったしなよなよして女の子っぽかったんだぜ。」
「そうなの?意外!」
「親父が男らしくないって俺のことぶったよ。それで頑張ったのが今の俺ってわけ。」
「ごめん、嫌なこと思い出させたね。」
「いいんだよ、今となっちゃ筋トレは習慣だしね。小さいころは妹の絵本が好きだったし、中学くらいまではこっそり妹の少女マンガも読んでたよ。」
「へえ、じゃあ交換日記は本来の君のセンスなんだね。かわいい。」
「よせよ、照れくさいな。」
「いいじゃん、かわいいものはかわいいんだから。僕も文通してたくらいだし書くのは嫌いじゃない。僕たちらしいかも。」
僕たちらしい……西田の言葉に胸が熱くなった。この雰囲気ならいけるかもしれないと、もう一つ頼み事をする勇気が出てきた。日記帳を一緒に選びたい。
「それでさ、一緒に日記帳選びに行かないか?これから。」
「えっ……そんなことして僕と一緒にいるの知り合いに見られたら佐藤君、嫌じゃない?」
君はまだそんなことを言うのか。いつか君がこんな些細なことを気に病まないようになってほしいと思った。
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