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23話
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(辺境伯エリック視点)
ほどなくして、ランカスターが本宅へ戻ってきた。
彼の報告で、私が伝えた内容は概ね話せたらしいが、肝心の『彼女がどう思っているのか』については、結局何一つ聞き出せていないという。
少し時間が欲しい、と言われたらしいが、実際のところ彼女はどう考えているのだろう。
仮にも貴族の令嬢が、辺境伯爵家へ嫁いできたというのに、生活費に困って働かざるを得ない状況なのだ。怒っていないはずがない。
まして、この状況で王宮の生誕祭への夫婦同伴の出席をお願いするなど、火に油を注ぐようなものだ。
それに彼女は『顔も見たくない』と遠回しに言っているようだし……
あと三ヶ月で生誕祭か……気持ちが重くなる。憂鬱、という言葉では足りないくらいだ。
ふと視線を落とすと、ランカスターが持ち帰った焼き菓子が皿に沢山積まれている。
彼女が自ら焼いたものだと聞いたが、一つ口に運んでみて驚いた。ほろりと崩れる食感に、優しい甘さ。
「……美味しい」
思わず感心してしまう。貴族令嬢でありながら、こんなことまで器用にこなしてしまうのか。
それがまた、胸の奥を少しだけ締めつけた。
ほどなくして、ランカスターが本宅へ戻ってきた。
彼の報告で、私が伝えた内容は概ね話せたらしいが、肝心の『彼女がどう思っているのか』については、結局何一つ聞き出せていないという。
少し時間が欲しい、と言われたらしいが、実際のところ彼女はどう考えているのだろう。
仮にも貴族の令嬢が、辺境伯爵家へ嫁いできたというのに、生活費に困って働かざるを得ない状況なのだ。怒っていないはずがない。
まして、この状況で王宮の生誕祭への夫婦同伴の出席をお願いするなど、火に油を注ぐようなものだ。
それに彼女は『顔も見たくない』と遠回しに言っているようだし……
あと三ヶ月で生誕祭か……気持ちが重くなる。憂鬱、という言葉では足りないくらいだ。
ふと視線を落とすと、ランカスターが持ち帰った焼き菓子が皿に沢山積まれている。
彼女が自ら焼いたものだと聞いたが、一つ口に運んでみて驚いた。ほろりと崩れる食感に、優しい甘さ。
「……美味しい」
思わず感心してしまう。貴族令嬢でありながら、こんなことまで器用にこなしてしまうのか。
それがまた、胸の奥を少しだけ締めつけた。
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