《完結》子供が出来ない日の初夜なんて無駄なだけです

ヴァンドール

文字の大きさ
5 / 15

5話

しおりを挟む
 全く、何なのだ。公爵邸に久しぶりに帰ると、使用人たちは皆、俺のことを遠巻きによそよそしく見ているし、呼びつけてもなぜか淡々としていて冷たく感じる。
 ロザリーが朝早く出て行ったと聞かされて、俺は清々しい気持ちで

「そうか、やっと出て行ったか」

 と満足げにしていると、使用人の分際でランナのやつが

「あんな素晴らしい奥様はもう二度とお目にかかれないでしょうね」

 と抜かしてくる始末だ。
 俺は腹立たしいのですぐにアンリ嬢を屋敷に呼び寄せた。
 屋敷に来たアンリ嬢は

「素晴らしいお屋敷ですね、さすがは公爵邸です」

 と言っているので、気を良くした俺は

「よかったらここに住んでもいいぞ」

 と言うと、アンリ嬢は喜んで

「ウェル様、本当ですか?   私、とても嬉しいです」

 と言って、抱きついてきた。そしてその日のうちに自分の荷物を運び入れて

「ドレスとか足りない物はウェル様にお願いしてもよろしいですか?」

「ああ、好きにするといい」

「それでは、私の侍女は?」
 
「ランナ、今日からアンリ嬢の侍女を頼む」
 
 そしてその日の夜からアンリ嬢は俺と夫婦の寝室で寝ることになった。ロザリーとは一度も使わなかった寝室で。

 次の日の朝、俺は昨夜のアンリ嬢との行為が朝までだったので疲れ果てて、目覚めたのは昼近かった。
 起きると、階下が賑わしいので下に降りると、そこにはアンリ嬢が商会の人間と色々な品物を並べて、あれもこれもと選んでいた。
 それを見てふと思った、ロザリーは一度もこの公爵邸に商会を呼んでいなかったはずだ、買い物をすれば請求がくるはずだが、一度も見たことはなかった。
 何だか不思議な気持ちになった。
 そして、ランナを側に置き、傲慢な態度で接しながら、買った荷物を次々に運ばせていたアンリ嬢を見て、それを不愉快に感じながら注意をしようとしたら、俺の存在に気づいた彼女が抱きついてきて

「ウェル様、ありがとうございます」

「昨夜は疲れましたね」

 と言われ、何も返せなくなった。
 そして『まあ、このくらい仕方がないな』と思ってしまった。
 しかし、この状況がずっと続くことになるとはこの時の俺は想像もしていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」 その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。 有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、 王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。 冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、 利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。 しかし―― 役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、 いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。 一方、 「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、 癒しだけを与えられた王太子妃候補は、 王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。 ざまぁは声高に叫ばれない。 復讐も、断罪もない。 あるのは、選ばなかった者が取り残され、 選び続けた者が自然と選ばれていく現実。 これは、 誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。 自分の居場所を自分で選び、 その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。 「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、 やがて―― “選ばれ続ける存在”になる。

婚約破棄をされ護衛騎士を脅して旅立った公爵令嬢は、まだ真実を知らない

大井町 鶴
恋愛
「婚約を破棄する」── その一言を聞いた日、ローラ公爵令嬢は護衛騎士を脅して旅に出た。 捨てられたままただ、黙って引き下がるつもりはなかった。 ただの衝動、ただの意地……そう思っていたはずだったのに。 彼女の選んだその道には、思いもよらぬ真実が待っていた。 それは、王子の本心や聖女の野心であり── 不器用な優しさの奥に隠れた、彼の本当の気持ちも。 逃げるように始まった旅が、運命だけでなく、心も塗り替えていく。 それをまだ、彼女は知らない。

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。 しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。 その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。 どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。 そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが…… 一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。 当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。

私と結婚したいなら、側室を迎えて下さい!

Kouei
恋愛
ルキシロン王国 アルディアス・エルサトーレ・ルキシロン王太子とメリンダ・シュプリーティス公爵令嬢との成婚式まで一か月足らずとなった。 そんな時、メリンダが原因不明の高熱で昏睡状態に陥る。 病状が落ち着き目を覚ましたメリンダは、婚約者であるアルディアスを全身で拒んだ。 そして結婚に関して、ある条件を出した。 『第一に私たちは白い結婚である事、第二に側室を迎える事』 愛し合っていたはずなのに、なぜそんな条件を言い出したのか分からないアルディアスは ただただ戸惑うばかり。 二人は無事、成婚式を迎える事ができるのだろうか…? ※性描写はありませんが、それを思わせる表現があります。  苦手な方はご注意下さい。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

君の声を、もう一度

たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。 だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。 五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。 忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。 静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。

悪役令嬢は高らかに笑う。

アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。 エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。 たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。 男爵令嬢に教えてもらった。 この世界は乙女ゲームの世界みたい。 なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。(話し方など)

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…

藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。 契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。 そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。 設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全9話で完結になります。

処理中です...