《完結》子供が出来ない日の初夜なんて無駄なだけです

ヴァンドール

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4話

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 公爵邸に戻った私はすぐに荷造りを始めた。
『明日の朝、起きたらここともお別れね』
 そう呟きながら。

 実家の侯爵邸には先ほど、先触れで簡単な内容は伝えておいたけれど、きっと両親は驚いているわよね。お父様は間違いなく怒るでしょうね。
 でもこれって私だけの責任かしら?   と、ふと思う。まあ、どちらにしても結果は変わらないから考えても仕方ないわね。
 暫くすると侍女のランナが驚いた顔でやってきた。

「奥様、もうお帰りになったのですか?」

 そう聞かれたので、私は先ほどまでのことを全て伝えた。

「今まで色々とありがとう、ランナにはお世話になったわ」

「そんな、本当に出て行かれるのですか?」
 
「ええ、それはもう決めたことだから変わらないわ」
 するとランナは下を向いて涙を流してくれた。
 そんなランナに私は優しく微笑んだ。

「ランナには良くしてもらい、感謝しているわ、これは私からのささやかなお礼よ」

 そう言って、普段使いのネックレスを手渡した。

「こんな大切な物、頂けません。これはいつも奥様が身につけている物ではありませんか」
 
「いいのよ、それほど高い物ではないわ。でも大切にしていた物だからランナに身につけて欲しいの」

 そして彼女は涙を流しながら受け取ってくれた。

「ここでの生活はランナがいてくれたから、旦那様が居なくても少しも寂しくなかったわ」

 私はランナにお礼を言った。
 
 そして次の日の朝、私はランナや使用人の皆に見送られてこの公爵邸を後にした。

『決して長い期間ではなかったけれど、こちらの方たちには良くしてもらったわ。ありがとう、さよなら』心の中で呟いた。
 

 そして実家である侯爵邸に着くと、いつもは居ないはずのお父様や異母兄、そしてお母様が出迎えてくれた。
 その後ろには、私が子供の頃から仕えてくれている使用人たちの姿も目に入った。
 私は心の中で怒られるのを覚悟した。
 それなのにお父様は、優しく微笑んでくれた。

「お帰り、辛い思いをさせてしまったな」

 次に異母兄まで笑顔を向けてくれた。

「ロザリー、お帰り」

 最後はお母様も

「ロザリー、お帰りなさい、暫くは何も考えずにゆっくり休みなさい」

 皆が優しく言ってくれた。そして屋敷の使用人たちも、揃って笑顔だった。

「お嬢様、お帰りなさい」

 私は思わず、涙が溢れて言葉を発することが出来なかった。
 こんな思いもしなかった温かい出迎えに心が癒されるのを感じた。

 暫くしてからお父様が側に来られた。

「ロザリー、少し話してもいいか」

 そう言って、私を居間に呼んだ。
 そして居間に行くとお母様と異母兄もソファーに座って待っていた。私は三人に頭を下げた。

「ごめんなさい。迷惑を掛けてしまいました」

 するとお父様が逆に謝った。

「最初からこの婚姻は断るべきだったな。ロザリーには辛い思いをさせてすまなかった」 

 
 それから、お父様の話が語られた。

 何でもこの婚姻は、ウェル様のお父様から持ちかけられたそうで、その理由は、うちの領地にある鉱山から金が発見されたのがきっかけだったという。
 ただ、父が言うにはその金がどの程度存在するのか、それに採掘するにはかなりの資金を投入しなければならないが、必ずしもそれに見合うだけの金が存在するのか、こればかりは採掘してみなければ分からないという。
 そこでその資金をウェル様のお父様が用立てて、その見返りとして採掘された金の半分の権利を主張なさったという。
 そして、その約束を強固にするための保証として、うちとの縁戚を望まれたということだった。
 お父様は言う。

「別に金鉱山の存在が無くても、うちの領地はそれなりに成り立っているし、本気で探せば投資してくれる人は他にもいるからロザリーは何も心配しなくてもよいのだよ」

 それを隣で聞いていた異母兄は私の代わりに腹を立ててくれた。

「そんな男、こちらから願い下げだ。ロザリーに皆の前で恥をかかせたんだから許せない」 

 
 なんでも、異母兄は舞踏会での婚姻無効騒動を友人から聞かされたという。思わず私は
『こんなに早く、嫌な噂が広まっているのね』と溜息が出た。

 続けてお母様も腹を立てて言う。

「だいたい結婚式の三日前に他の令嬢と舞踏会の場で、いかがわしいことをしていたくらいですもの、そんな恥知らずな男はこちらからお断りよ」 

 私はこの光景を不思議な気持ちで見ていた。

 あれほど冷え切っていた家族が今回の私の一件で一つになっているこの様子を。
 そして、お父様と異母兄の気持ちはとても嬉しく思ったが、自分たちがしてきたことは棚に上げていることが少し笑えてしまった。

 だけど『今は口に出すことはやめておきましょう』と心の中で苦笑していた。
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