4 / 15
4話
しおりを挟む
公爵邸に戻った私はすぐに荷造りを始めた。
『明日の朝、起きたらここともお別れね』
と呟きながら。
実家の侯爵邸には先ほど、先触れで簡単な内容は伝えておいたけれど、きっと両親は驚いているわよね。お父様は間違いなく怒るでしょうね。
でもこれって私だけの責任かしら? と、ふと思う。まあ、どちらにしても結果は変わらないから考えても仕方ないわね。
暫くすると侍女のランナが
「奥様、もうお帰りになったのですか?」
そう聞かれたので、私は先ほどまでのことを全て伝えてから
「今まで色々とありがとう、ランナにはお世話になったわ」
「そんな、本当に出て行かれるのですか?」
「ええ、それはもう決めたことだから変わらないわ」
と言うと、ランナは下を向いて涙を流してくれた。
そんなランナに私は
「ランナには良くしてもらい、感謝しているわ、これは私からのささやかなお礼よ」
と言って、普段使いのネックレスを手渡した。すると
「こんな大切な物、頂けません。これはいつも奥様が身につけている物ではありませんか」
「いいのよ、それほど高い物ではないわ。でも大切にしていた物だからランナに身につけて欲しいの」
と言うと、涙を流しながら受け取ってくれた。
「ここでの生活はランナがいてくれたから、旦那様が居なくても少しも寂しくなかったわ」
そう告げた。
そして次の日の朝、私はランナや使用人の皆に見送られてこの公爵邸を後にした。
『決して長い期間ではなかったけれど、こちらの方たちには良くしてもらったわ。ありがとう、さよなら』
と呟いた。
そして実家である侯爵邸に着くと、いつもは居ないはずのお父様や異母兄、そしてお母様が出迎えてくれた。その後ろには、私が子供の頃から仕えてくれている使用人たちも見えた。
私は心の中で怒られるのを覚悟した。それなのにお父様がまず
「お帰り、辛い思いをさせてしまったな」
と言ってくださり、次に異母兄が
「ロザリー、お帰り」
最後にお母様が
「ロザリー、お帰りなさい、暫くは何も考えずにゆっくり休みなさい」
と言ってくれた。そして屋敷の使用人たちも
「お嬢様、お帰りなさい」
と皆で出迎えてくれた。私は思わず、涙が溢れて言葉を発することが出来なかった。
こんな思いもしなかった温かい出迎えに心が癒されるのを感じた。
暫くしてからお父様が
「ロザリー、少し話してもいいか」
と仰って、私を居間に呼んだ。
そして居間に行くとお母様と異母兄もソファーに座って待っていた。私は
「ごめんなさい。迷惑を掛けてしまいました」
と謝るとお父様は
「最初からこの婚姻は断るべきだったな。ロザリーには辛い思いをさせてすまなかった」
と頭を下げられた。
それから、お父様の話が語られた。
何でもこの婚姻は、ウェル様のお父様から持ちかけられたそうで、その理由は、うちの領地にある鉱山から金が発見されたのがきっかけだったという。
ただ、父が言うにはその金がどの程度存在するのか、それに採掘するにはかなりの資金を投入しなければならないが、必ずしもそれに見合うだけの金が存在するのか、こればかりは採掘してみなければ分からないという。
そこでその資金をウェル様のお父様が用立てて、その見返りとして採掘された金の半分の権利を主張なさったという。
そして、その約束を強固にするための保証として、うちとの縁戚を望まれたということだった。
お父様は
「別に金鉱山の存在が無くても、うちの領地はそれなりに成り立っているし、本気で探せば投資してくれる人は他にもいるからロザリーは何も心配しなくてもよいのだよ」
と仰ってくださった。
それを隣で聞いていた異母兄は
「そんな男、こちらから願い下げだ。ロザリーに皆の前で恥をかかせたんだから許せない」
とかなり怒ってくれている。
何でも異母兄は舞踏会での婚姻無効騒動を友人から聞かされたという。思わず私は
『こんなに早く、嫌な噂が広まっているのね』と溜息が出た。
お母様も
「だいたい結婚式の三日前に他の令嬢と舞踏会の場でいかがわしいことをしていたくらいですもの、そんな恥知らずな男はこちらからお断りよ」
と、かなり怒っていた。
私はこの光景を不思議な気持ちで見ていた。
あれほど冷え切っていた家族が今回の私の一件で一つになっているこの様子を。
そして、お父様と異母兄の気持ちはとても嬉しく思ったが、自分たちがしてきたことは棚に上げていることが少し笑えてしまった。
だけど『今は口に出すことはやめておきましょう』と心の中で苦笑していた。
『明日の朝、起きたらここともお別れね』
と呟きながら。
実家の侯爵邸には先ほど、先触れで簡単な内容は伝えておいたけれど、きっと両親は驚いているわよね。お父様は間違いなく怒るでしょうね。
でもこれって私だけの責任かしら? と、ふと思う。まあ、どちらにしても結果は変わらないから考えても仕方ないわね。
暫くすると侍女のランナが
「奥様、もうお帰りになったのですか?」
そう聞かれたので、私は先ほどまでのことを全て伝えてから
「今まで色々とありがとう、ランナにはお世話になったわ」
「そんな、本当に出て行かれるのですか?」
「ええ、それはもう決めたことだから変わらないわ」
と言うと、ランナは下を向いて涙を流してくれた。
そんなランナに私は
「ランナには良くしてもらい、感謝しているわ、これは私からのささやかなお礼よ」
と言って、普段使いのネックレスを手渡した。すると
「こんな大切な物、頂けません。これはいつも奥様が身につけている物ではありませんか」
「いいのよ、それほど高い物ではないわ。でも大切にしていた物だからランナに身につけて欲しいの」
と言うと、涙を流しながら受け取ってくれた。
「ここでの生活はランナがいてくれたから、旦那様が居なくても少しも寂しくなかったわ」
そう告げた。
そして次の日の朝、私はランナや使用人の皆に見送られてこの公爵邸を後にした。
『決して長い期間ではなかったけれど、こちらの方たちには良くしてもらったわ。ありがとう、さよなら』
と呟いた。
そして実家である侯爵邸に着くと、いつもは居ないはずのお父様や異母兄、そしてお母様が出迎えてくれた。その後ろには、私が子供の頃から仕えてくれている使用人たちも見えた。
私は心の中で怒られるのを覚悟した。それなのにお父様がまず
「お帰り、辛い思いをさせてしまったな」
と言ってくださり、次に異母兄が
「ロザリー、お帰り」
最後にお母様が
「ロザリー、お帰りなさい、暫くは何も考えずにゆっくり休みなさい」
と言ってくれた。そして屋敷の使用人たちも
「お嬢様、お帰りなさい」
と皆で出迎えてくれた。私は思わず、涙が溢れて言葉を発することが出来なかった。
こんな思いもしなかった温かい出迎えに心が癒されるのを感じた。
暫くしてからお父様が
「ロザリー、少し話してもいいか」
と仰って、私を居間に呼んだ。
そして居間に行くとお母様と異母兄もソファーに座って待っていた。私は
「ごめんなさい。迷惑を掛けてしまいました」
と謝るとお父様は
「最初からこの婚姻は断るべきだったな。ロザリーには辛い思いをさせてすまなかった」
と頭を下げられた。
それから、お父様の話が語られた。
何でもこの婚姻は、ウェル様のお父様から持ちかけられたそうで、その理由は、うちの領地にある鉱山から金が発見されたのがきっかけだったという。
ただ、父が言うにはその金がどの程度存在するのか、それに採掘するにはかなりの資金を投入しなければならないが、必ずしもそれに見合うだけの金が存在するのか、こればかりは採掘してみなければ分からないという。
そこでその資金をウェル様のお父様が用立てて、その見返りとして採掘された金の半分の権利を主張なさったという。
そして、その約束を強固にするための保証として、うちとの縁戚を望まれたということだった。
お父様は
「別に金鉱山の存在が無くても、うちの領地はそれなりに成り立っているし、本気で探せば投資してくれる人は他にもいるからロザリーは何も心配しなくてもよいのだよ」
と仰ってくださった。
それを隣で聞いていた異母兄は
「そんな男、こちらから願い下げだ。ロザリーに皆の前で恥をかかせたんだから許せない」
とかなり怒ってくれている。
何でも異母兄は舞踏会での婚姻無効騒動を友人から聞かされたという。思わず私は
『こんなに早く、嫌な噂が広まっているのね』と溜息が出た。
お母様も
「だいたい結婚式の三日前に他の令嬢と舞踏会の場でいかがわしいことをしていたくらいですもの、そんな恥知らずな男はこちらからお断りよ」
と、かなり怒っていた。
私はこの光景を不思議な気持ちで見ていた。
あれほど冷え切っていた家族が今回の私の一件で一つになっているこの様子を。
そして、お父様と異母兄の気持ちはとても嬉しく思ったが、自分たちがしてきたことは棚に上げていることが少し笑えてしまった。
だけど『今は口に出すことはやめておきましょう』と心の中で苦笑していた。
548
あなたにおすすめの小説
『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」
その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。
有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、
王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。
冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、
利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。
しかし――
役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、
いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。
一方、
「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、
癒しだけを与えられた王太子妃候補は、
王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。
ざまぁは声高に叫ばれない。
復讐も、断罪もない。
あるのは、選ばなかった者が取り残され、
選び続けた者が自然と選ばれていく現実。
これは、
誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。
自分の居場所を自分で選び、
その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。
「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、
やがて――
“選ばれ続ける存在”になる。
婚約破棄をされ護衛騎士を脅して旅立った公爵令嬢は、まだ真実を知らない
大井町 鶴
恋愛
「婚約を破棄する」──
その一言を聞いた日、ローラ公爵令嬢は護衛騎士を脅して旅に出た。
捨てられたままただ、黙って引き下がるつもりはなかった。
ただの衝動、ただの意地……そう思っていたはずだったのに。
彼女の選んだその道には、思いもよらぬ真実が待っていた。
それは、王子の本心や聖女の野心であり──
不器用な優しさの奥に隠れた、彼の本当の気持ちも。
逃げるように始まった旅が、運命だけでなく、心も塗り替えていく。
それをまだ、彼女は知らない。
貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください
今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。
しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。
その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。
どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。
そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが……
一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。
当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。
私と結婚したいなら、側室を迎えて下さい!
Kouei
恋愛
ルキシロン王国 アルディアス・エルサトーレ・ルキシロン王太子とメリンダ・シュプリーティス公爵令嬢との成婚式まで一か月足らずとなった。
そんな時、メリンダが原因不明の高熱で昏睡状態に陥る。
病状が落ち着き目を覚ましたメリンダは、婚約者であるアルディアスを全身で拒んだ。
そして結婚に関して、ある条件を出した。
『第一に私たちは白い結婚である事、第二に側室を迎える事』
愛し合っていたはずなのに、なぜそんな条件を言い出したのか分からないアルディアスは
ただただ戸惑うばかり。
二人は無事、成婚式を迎える事ができるのだろうか…?
※性描写はありませんが、それを思わせる表現があります。
苦手な方はご注意下さい。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
君の声を、もう一度
たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。
だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。
五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。
忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。
静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。
悪役令嬢は高らかに笑う。
アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。
エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。
たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。
男爵令嬢に教えてもらった。
この世界は乙女ゲームの世界みたい。
なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。(話し方など)
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる