Love Potion

煉彩

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魔法のカクテル 8

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「っ……!」

「服、脱いで?」
 
 命令……だから。従わなきゃ。
 私は自分の洋服を脱いだ。
 彼も上衣を脱ぐ。

「キスマーク、付けないでよ!」

 私がそう伝えると彼は笑った。

「あぁ。気をつける」

「気をつけるって。あっ……」

 彼の唇が首筋、鎖骨に触れるたびにビクっと身体が反応する。
 そして、昨夜のように下着を外され、感度が増す部分を責められて……。

「……!」
 
 手のひらをギュッと握り、耐える。
 命令、逃げられない状況なのに。
 どうして怖くないんだろう。
 イヤだと思わないの?

「痛くない?」

「えっ?」

 痛くない?って聞いてくれた。
 夫にはこんな言葉、かけてもらったことない。

「うん」
 私の返事を聞いて、彼が「良かった」小さな声で呟いた。

 加賀宮さんがどういう人なのか、全然理解できない。
 昨日、BARで話を聞いてくれた時は優しい人だと思った。
 その後、あんなことになって……。
 私を騙すために、良い人ぶっているだけだったって思っていたけど。

「おい。今、余計なこと考えてるだろ?今だけは、何も考えるな。俺に集中しろよ」

 そう言うと彼はキスをしてきた。
 舌が絡んで、離れてはまた求められて……。
 酸素不足、思考が働かなくなる。

「んっ……」

 吐息とリップ音が部屋に響く。
 あぁ。こうしていると、家庭のこと、嫌なこと、これからのこと。
 本当に何も考えられない。
 考えなくて良いって楽かも。

「はっ……。だめ……!」

「……。何がダメなんだよ?ここ、すげー濡れてるけど?」

 彼がショーツの中に手を入れ、指先を動かす。

「もっ……。イっ……」

 私が身体を捩らせると
「ここ?」
 気持ち良いと感じてしまう部分をさらに責められる。

「またっ!イっちゃ……」
 感じてしまう自分が恥ずかしくて、悔しくて。涙が零れた。

「そんな顔されたら、煽られる」
 彼は止めるどころか手を速めた。

「あっ……。待っ……!」
 快楽に襲われ、悶えてしまう。
 思わず彼の背中に手を回し、ギュッと掴んでしまった。

「イって?」
 彼に耳元で囁かれ、私は絶頂してしまった。


「はぁ……。はぁ……」
 
 私は特に何も動いてない。
 なのに息が上がっている。
 彼も少し肩で呼吸をしているように見えた。

「待ってて。今、飲み物持ってくる」

 彼は立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。
 天井をぼんやり見ていると
「ほらっ?」
 彼がペットボトルの水を持って来てくれた。
 
 上半身を起こされ、ボトルのキャップまで開けてくれる。
 
 本当に何なの?
 この人、優しいのか優しくないのかわからない。

 とりあえず水を数口飲む。
 喉が乾いていたからか、とても美味しく感じた。

「あ……りがと」
 ボトルを彼に渡すと
「ん……」
 彼も同じボトルで水を飲んだ。

 まさか。
 もう一回とか、昨日みたいなこと言わないよね。

 隣に居る彼を見る。
 目が合った。ヤバい。
 話題、何か話さないと彼のペースになってしまう。

「加賀宮さん。私に……、恨みでもあるの?」

「……はぁ?ないよ」

 ない、ないんだ。

「じゃあ、九条家とか遠坂家?」

 私の旧姓は、遠坂。
 父は玩具メーカーの社長。五年以上前、父はある玩具を開発した。
 その玩具は爆発的に世間にヒットし、一世を風靡した。
 需要が供給を大いに上回り、取り扱い店では売り切れが続出。
 小さな会社だったが、その商品のおかげで軌道に乗り、ごく普通の家庭だった私も、生活が一変した。
 やがて父は功績を称えられ、社長に就任。
 父も母もお金の使い方が変わっていった。
 
 しかしそんな優雅な生活も長くは続かなかった。
 父が開発した商品を模倣した物が世間に出回るようになり、大量生産を受注していた商品は、人々には求められなくなり、負債という名の在庫を抱えてしまった。
 会社も一気にマイナスの収支結果になり、あわや倒産というところで、当時の九条グループに吸収される形になった。

 だから、私の父は孝介のお義父さんに頭が上がらない。
 今も九条グループのブランド力で玩具を開発し、爆発的なヒットまではいかないが、テレビCMで放映されるような商品を作ることができている。
 
 そんな私の裏側まで、加賀宮さんには、私の旧姓や家柄まですでに知られているような気がした。

「旦那の家も、お前の家にも恨みはない」

 やっぱり、遠坂って私の家だってこと知ってるじゃん。何者なんだろ。まだ教えてくれないんだろうな。

「またお前を呼び出すから。ここの住所、控えとけよ。毎回毎回、亜蘭を迎えに行かせることは難しいから」

「……。美月だから」

「えっ?」

「お前お前って。ちゃんと名前があるんだから。知ってるでしょ?」

 私の言葉に彼はフッと笑った。

「わかった」
 ただ一言返事をしてくれた。

 加賀宮さんはタクシーを呼んでくれ、自宅までタクシーに乗って帰った。
「本当は送りたいけど。用事がある」
 そう伝えられただけで、重要なことは教えてはくれない。
 結局今日も彼のこと、詳しくはわからなかった。


 それから――。
 孝介が出張から帰ってくるまでの間、何回彼に呼ばれたことだろう。

 短時間だけどアパートに呼ばれて、彼とする行為はいつも同じだ。
 キスをして、触れられて……。
 その度に抗おうとする。

 今日も――。
「身体は素直だな。美月?」
 私を上から見下し、そう言って彼に笑われる。
 彼は私のことを「お前」ではなく、名前で呼ぶようになった。

「そんなことない!」
 言い返したけど、今日も彼に触れられる度に、身体が反応してしまった。

 行為が終わって
「気持ち良かった?」
 彼に問われる。

 うん、なんて言いたくない。
 私はその質問には答えず
「ねぇ。加賀宮さんは、気持ち良くなりたいって思わないの?」
 疑問に思っていたことを逆に聞いてみた。

 彼に呼び出され、何度かこういうことをしているのに、彼は私との行為において、自分の快楽を求めたことがない。
 だから変な話、私は彼の下半身を見たことがない。
 ただ彼にイかされて終わり。
 だから余計に加賀宮さんが何をしたいかわからない。

 無理やり襲われて……って言う方が理解できる。

「なに?急に」
 彼は予想外の質問に驚いていた。

 それか、私に性的魅力を感じなくて身体が反応しないっていうことも考えられるか。
 加賀宮さんなら「美月を見ても興奮しない」とかって平気で言いそうだけど。

「いや、思うけど」

 思うんだ。

「だったらどうして最後までやらないの?」

「……。最後までシて欲しくなった?」

「違うっ!!」

 私の反応を見て、彼はハハっと笑った。

「わかってるよ。言いたいこと……」
 ふぅと彼は溜め息をついた。

「美月を本当は傷つけたくはない」

 私を傷つけたくはない?
 私にはそう聞こえたが、小声すぎて彼が本当にそう言ったのか自信がなかった。

「もう一回言って?」
 頼んでみるも
「言わない」
 そう言って彼はベッドから立ち上がった。
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