Love Potion

煉彩

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魔法のカクテル 9

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「明日、旦那が帰ってくるんだろ?」
 乱れている着衣を直しながら、彼は呟いた。

「うん、そう。だから今みたいに頻繁には来れないから」

「わかってる」

 彼の返事を聞き、私も帰る準備をする。

 明日から孝介が帰ってくる。
 正直、嬉しくない。

「旦那が帰って来るの、嬉しい?」
 加賀宮さんにそう問われ
「全然嬉しくない」
 思わず即答してしまった。

「即答だな」
 加賀宮さんはフッと笑った。

「加賀宮さんの前では、なんか……。言葉遣いだって気にしなくて良いし。唯一、今の私にとって素が出せる人なのかもってわかった。あっ、でもこの関係を続けたいわけじゃっ!」
 続けたいわけじゃないからねと伝えようとした時、加賀宮さんにギュッと抱きしめられた。

「……。嬉しい」
 えっ?今、嬉しいって言った?
 
 彼は一言囁いた後
「この関係は止めない。覚悟しとけよ?旦那が居ようと、連絡するし呼び出すから」
 そう言った。
 
 こんなに頻繁に呼び出しをされていたら、さすがに孝介だって怪しむ。
 これからの生活、どうなるんだろう。


 次の日――。
 夫は夜遅く、日付が変わる頃に帰宅をした。

「お疲れ様でした」
 帰ってきた孝介を玄関まで出迎え、出発前にはなかったキャリーバッグを彼の代わりに持つ。

「ただいま。疲れたから、シャワーを浴びて寝るよ。荷物、開けなくていいから」

 それだけ私に伝え、スタスタと浴室へ向かった。

「えっ。洗濯物とかは?ないの?」
 こんなに長く出張をしていたのだから、洗濯の一つや二つあるだろう。

「だから、荷物は開けなくていいって言ってんだろ!?疲れてるのに、同じこと二回も言わせるなよ。明日、美和みわさんにやってもらうからいいよ」

 美和さんとは、私と付き合う前から孝介が雇っている家政婦さんのことだ。
 飯田美和いいだみわさん、私より二つ年上の三十歳。とても綺麗な人。
 家政婦さんともあって、お料理も上手だし、掃除も細かいところまで気付いてくれ、とても有難い。
 気遣いもできて、私とも普通に話してくれる。
 たまに愚痴とかも聞いてくれて。
 私との仲も悪くないと思っているけど、孝介からは絶対的な信頼があって……。
 美和さんと孝介が話している時、この家には自分の居場所などないように感じてしまう時がある。

「わかりました。ごめんなさい」

 孝介も疲れているだろうし、これ以上彼の機嫌を損ねて、面倒なことになりたくない。

 それに――。
 私も夫に話せないができてしまったから、なんだか後ろめたい。
 
 孝介に言われた通り、キャリーバッグは開けなかった。

 孝介のバッグをリビングへ置き、彼の着替えを用意する。
 シャワーを浴びている彼に
「着替え、ここに置いておくね」
 声をかけたけど、返事はなかった。
 絶対聞こえているのに。

 昔は「ありがとう」と言ってくれた時もあった。
 今ではこれが当たり前だ。

 彼がシャワーを終え、出てきた。

「何か飲みますか?」
 私はキッチンで待機をしている。

「水」

「はい」

 グラスに水を注ぎ、リビングでスマホを見ている孝介の前に置く。

「じゃあ、私もシャワー浴びてくるね」
 私の入浴は、いつも孝介が終わった後だ。
 返事がないということは、特に私に求めているものはないということ。

 私もシャワーを浴びる。
 彼が定位置に置かなかった、シャンプーやボディソープ、洗顔料などを元に戻す。彼は自分が使っておきながらいつもの位置に物がないと機嫌が悪くなる。本当にお坊ちゃん育ちだ。義父もそうらしい。

 シャワーを浴び終えると、孝介はリビングに居なかった。
 寝室をチラッと見ると、彼は寝ていた。
 明日は休みなのかな。聞くの忘れちゃった。
 私も身支度を整え、彼が寝ているキングサイズのベッドへと横になる。
 
 今日はさすがに加賀宮さんから連絡がなかったな。
 一応、配慮してくれてるってこと?よくわからない。
 考えることをやめ、そのまま目を閉じた。


 次の日――。
 
 孝介が出勤でも休みでもどちらでも対応できるよう朝食の準備をしたが、仕事なら起きて来る時間に彼はまだ寝ていた。
 起きないってことは、今日は休みか。憂鬱な気分だ。
 とりあえず、そのまま寝かしておこう。
 物音を立てないよう過ごしていた。

 十一時を過ぎた時<ピンポーン>というインターホンが鳴った。
 誰だろう、インターホンのカメラを確認する。
 
 あ、家政婦さん美和さんだ。

「こんにちは」

<こんにちは。よろしくお願いいたします>

 解錠ボタンを慌てて押した。
 しばらくすると、玄関のインターホンが鳴り
「お邪魔します」
 彼女がドアを開け、慣れた様子で家の中に入ってきた。

「はい。お願いします」

 すると――。

「ごめんね。急に予定が変わったりして。今日はよろしくお願いします」
 孝介が起きたらしく、私の隣をスッと通りすぎ、家政婦さん美和さんに話しかけた。

「いえ。大丈夫です。出張お疲れ様でした」

「えっと。今日、美和さんにお願いしたいことは……」

 私と居る時と態度が違う。
 爽やかで、優しい雰囲気の孝介。あんな顔、見たことない。
 あっ、付き合った当初はあんな感じだったっけ。

 二人は私の存在など気にせず、楽しそうに会話をしていた。
 
 ここは私の家なのに。一人だけ蚊帳の外みたい。

 美和さんは仕事は早いし、作ってくれるお料理も美味しい。それに美人。孝介が気に入るだけある。

「わかりました。ありがとうございます。今日はゆっくり休んでくださいね?他に何かありましたら、おっしゃってください」

 美和さんは孝介にそう伝え、キッチンへ向かおうとした。

「ありがとう。ゆっくりさせてもらうよ。出張中は毎日外食だったから、美和さんの料理を久し振りに食べることができて嬉しい。妻は相変わらず料理が下手で、未だに料理教室に通ってるんだ」

 孝介の言葉にイラっとした。
 何それ。
 あなたが私に料理を作らせてくれないだけじゃない。

 言い返しても後で倍になって返ってくるだけだ。
 私は手のひらをギュッと握り締める。
 我慢、我慢。いつものこと。
 自分に言い聞かせた。

「孝介さん、大袈裟ですよ。でも、すごく嬉しい。今日は特別に張り切ってお料理を作りますね」

 そんな美和さんを、孝介は微笑みながら見つめていた。

 美和さんのこと――。
 あれは家政婦さんとして見ている目ではない。
 昔から感じていたことだけど、今日で確信した。
 として見ている眼だ。

 私の中でたぶんそうじゃないかと思っていたことが確信に変わった。
 だけど、不思議と辛くも悲しくもない。
 それは私が、孝介に女性として見てもらいたいとか、もう何も求めていないから?

「美月さん!」
 私がリビングのソファに座っていると、美和さんに話しかけられた。

 孝介は今シャワーを浴びている。

「はい」
 私は立ち上がり返事をした。

「ごめんなさい。さっき……。あんな出しゃばった感じになってしまって」
 美和さんはペコっと頭を下げた。
 さっきって、孝介が私の料理を下手って言った時かな。

「美和さんは何も悪くないです!全く気にしていませんし、そんなに頭を下げないでください」

 あれは孝介が言ったことだ。
 美和さんの返事だって別に不快には感じなかった。

「そうですか。良かった。私、美月さんに嫌われたらどうしようって思って」
 彼女は顔を上げた。
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