Love Potion

煉彩

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真実 2

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「加賀宮さん!?」

 電話、出なきゃ。

「もしもし?」

<……。久し振り>

 久し振り!?

「久し振りって、数日前まで会ってたけど?」

<俺にとっては久し振りなんだよ>

「なにそれ?」
 この人もかなり俺様だなって、今日もまた呼び出し?

<今から来て>

「はぁっ?今からって。もう夫は出張から帰ってきてるから。そんなに自由には……」

<お前の旦那、今日は帰らないよ?>
 
 どうしてわかるの?

「どうして……。わかった。行くけど」

 隠しカメラとか盗聴器とか私に仕掛けられてる?
 孝介が今日帰らないことを知っているから、きっと加賀宮さんは私を呼び出すんだ。

<今からタクシーを向かわせるから。十分くらいで着くと思う。俺のアパートに来て>

「ちょっと!急すぎっ!」

<じゃあ。待ってるから>

 私が反論しようとする前に電話が切れてしまった。
 今、何時だろう。十五時?こんな時間に何の用?またあんなことをするつもりなの。

 とりあえず身なりを整え、軽く化粧をする。
 どうしよう、引っ叩かれた頬が痛い。
 薄くファンデーションを塗ることしかできなかった。

 加賀宮さんの指示通り、タクシーに乗り、彼のアパートに向かう。
 いつも通り部屋をノックすると
「お疲れ様」
 加賀宮さんがドアを開けてくれた。

 あれ?
 今日は初めて会った時と同じようなスーツを着てる。さっきまで仕事だったのかな。

「お邪魔します」
 部屋に入る。

 しかし――。
 玄関で靴を脱ぎ、一歩踏み出したところですぐ加賀宮さんに腰を引き寄せられた。

「……!?なに?」

 彼はジッと私を見つめた。

「お前……。飯、食べてんの?」

「えっ?」

 ご飯?
 そういえば最近あまり食欲がない。
 というか、一週間千円生活で最近お粥とかしか食べてなかった気がする。

「俺と初めて会った時より痩せた。もともと細いなって思ってたけど」

 そんなに痩せたかな。まぁ、ご飯食べなきゃ痩せるよね。

「俺のせい?」
 彼は少し首を傾けた。
 
 加賀宮さんと契約を結んだことは確かに不安でしかないけれど。
 加賀宮さんのせいというよりは、明らかに家庭環境にあると思う。

「加賀宮さんのせいじゃ……ない。食欲がないだけ。私にだっていろいろあるのよ」

 孝介からお金をもらえず、食材が買えなかっただなんて言えない。
 別に加賀宮さんに媚を売るつもりもない。同情も要らない。
 これは私の問題だから。
 それに仮に話したからって問題が解決するわけじゃない。
 加賀宮さんだって私のそんな事情、興味ないよね。

「ふーん」
 彼は納得していない様子だった。
 膠着状態。至近距離から見つめられ、一度合った視線を逸らすことができない。

「早くどいて。今日は私に何の用事?またいつものように……」
 いつものように彼に身体を預ければいいの。

「シャワー浴びてくる。予想よりも帰るのが遅くなった。ベッドにいて?」
 彼は着ていたスーツを脱いだ。

「わかった」
 私はベッドへ行こうとしたが、加賀宮さんに手を引かれ止められた。

「なに?」

「シャワー、一緒に浴びる?」

 彼の言動に
「浴びるわけなっ!痛っ……」
 呑気な彼の言葉に思わず大きな声を出してしまった。
 
 口角が急に上がったため、叩かれた頬に痛みが走る。頬に手を当ててしまった。

「どうした?」
 様子がおかしい私に加賀宮さんが声をかけてくれたが
「なんでもない。シャワー、浴びてきて」
 孝介に殴られたとは言えない。

「どこか痛いの?」
 彼は顔を歪ませている私を心配してくれているみたいだ。
 そっか。どっちにしろ、こんな感じだったらキスだってできない。彼に身体だって預けられない。

「顔を……。ぶつけたの。だから痛いだけ。ごめんなさい。やっぱり今日は私、何もできない。許して下さい」

 彼はそんなことお構いなしに、契約違反だと責めるのだろうか。それとも――。

「顔をぶつけたって、どこにぶつけたんだよ。ちょっと見せて」
 隠している私の手を退けようとした。

「イヤ!」
 抵抗しようとしたが
「命令」
 彼の一言で身体の力が抜けた。

 加賀宮さんが私の頬を見る。
「触るよ」
 そしてそっと優しく彼の手のひらが触れた。

「熱感ある。化粧で隠れているけど、よく見ると腫れてる」
                                    
 彼はそう言い、私をベッドに座らせた。

「ちょっと待ってて」
 彼は冷蔵庫の中を見て、何かを探している。

「大丈夫だから」
 私の言葉には返事をしてくれない。
 
 彼はアイスノンをタオルで包み、私の頬に静かに当てた。
「しばらく冷やして」
 加賀宮さんは、私の隣に座った。

「ありが……と」
 冷たくて気持ちが良い。
 適切な処置をしてくれた彼に戸惑う。

「正直に言え。どこでぶつけた?九条家のお嬢様だろ、どうして医者に行かない?旦那は何か言わなかったのか?」

 返答に困る。どうしよう。なんて言えばいいの。

 無言の私に
「まさか、旦那に殴られたとかじゃないよな?」
 ピクッと身体が反応してしまった。
 
 YESともNoとも言えない。
 ふぅと加賀宮さんは溜め息をついた。

「俺はYESと捉えるけど、良い?」
 
 これ以上、否定する理由もない……よね。
 私はコクっと頷いた。

「どうして殴られたんだ?」
 まるで虐められた理由を聞いてくれる親みたい、彼の雰囲気が変わった。
 初めて会った時と同じような、俺様じゃない誠実な加賀宮さんに戻ったみたい。

「働きたいって言ったの。パートでも良いからって。そしたら立場をわきまえろって怒鳴られて、それで……」

「殴られたのか?」

「うん」

「殴られたのは、初めて?」

「そう……」
 加賀宮さんは
「美月の環境のことは前にBARで聞いて覚えてる。簡単に別れることができないことも」
 彼は私をそっと抱き寄せ
「痛かったよな」
 ただ一言そう言ってくれた。

 私の中で何かが溢れ出し、涙がツーと頬を伝った。

「なんで……。優しくするの?優しくなんてしないでよ」

 涙は止まらなかった。

「おい、泣くなよ。キズが酷くなる」

 私の涙を見て、彼は彼らしくない反応だった。戸惑っている。加賀宮さんでもこんな顔するんだ。

 加賀宮さんは私が泣き止むの待って
「よし、行くぞ」
 そう言って立ち上がった。

「どこに行くの?」

「秘密」

 秘密って、何をする気なんだろ。
 
 彼と一緒にアパートを出て、数分ほど歩くと駐車場があった。
 そこに停めてあった、いかにも高そうな外車の助手席に案内をされる。

「これ、加賀宮さんの車?」

「そうだけど」

 やっぱり不思議な人。
 どうしてこんな高級車に乗れるのに、あんな古いアパートに住んでいるんだろ。何か理由でもあるのかな。
 加賀宮さんの運転する車に乗るのは初めてだ。
 強引な運転をしそうなイメージだったけど、そんなことなかった。意外と安全運転だ。

「加賀宮さんって、運転乱暴そうなイメージだったけど、きちんと運転できるんだね」

「なんだよそれ。酷いイメージだな」
 ハハっと彼は笑った。

 加賀宮さんの前では、に話せる。
 昔から知り合いだったみたいに。
 彼は私のこと、前から知っているみたいだし。
 私が覚えていないだけで、本当にどこかで会ったことがあるのかな。

 そう言えば……。
「ねぇ。下の名前教えてよ?加賀宮……なんて言うの?」

「……。まだ秘密」

 まだ秘密?どうして?
 もし有名人だったら、インターネットとかで本名を検索したら出てくるもんね。いつかは教えてくれるのかな。
 
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