Love Potion

煉彩

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真実 3

「着いた」
 そう言われ、着いた先は……。

「あれ?ここって」
 ここの地下駐車場は見覚えがある。
 エレベーターに乗り、加賀宮さんの後ろをついて行くと、恥ずかしくて思い出したくもない場所に着いた。
 
 ここは、Love Potionという不思議なカクテルを飲まされて、初めて彼に身体を預けた場所。
 室内は変わっていなかった。大きなソファにパソコン、デスクが二つあるだけのシンプルなオフィスだ。

「ソファに座って」
 加賀宮さんに促され、ポスっと座る。
 私はここで……。
 この場所で加賀宮さんとあんな卑猥なことしてたんだ。

「思い出したの?美月、顔が赤いけど」

「ちがうっ……!痛っ……」

 顔の筋肉が大きく動き、頬に痛みを感じた。

「大きな声出すなよ」

「あなたが変なこと言うからじゃない」
 
 ここで何をする気?
 不安に感じていた時――。

 部屋をノックする音が聞こえた。

「お待たせしました」
 この声、秘書の亜蘭さんだ。

「どうぞ」
 加賀宮さんが立って出迎える。
 そこには、亜蘭さんと中年の男性が立っていた。
 
 この人は誰?
 おどおどしていると
「すみません。先生、急に。大きなケガではなさそうなんですが。診てもらいたくて」
 加賀宮さんは男性に向かって会釈をした。

「久し振り、加賀宮くん。元気にしてる?良いよ。僕は一応、君の主治医だからね。ちゃんとお金ももらっているし。それ相応の仕事をしないと。で、この子だね?」

「はい」

 なになになに!?先生!?お医者さん?いつ連絡したの?

「ちょっと診せてね」
 男性は私の頬の様子を見て、軽く触診した。

「っ……」

「そうだね。炎症してるけど、骨折とかはしてなさそうだから大丈夫だと思うよ。無理しないように。触らないようにね。一応、痛み止めとか持って来ているから。数日には腫れも引いて、頬の色が変わってくると思う。もし痛みが引かなかったらまた相談して」

「はい。ありがとうございます」
 無言でいるわけにもいかず、お礼を伝えた。
 加賀宮さんの主治医と言っていた人は、薬を渡してくれた。

「痛みがあるんだったら、今飲んでも大丈夫だよ。一応、胃薬も渡しておくから。今度から食後に飲んでね」

「ありがとうございます」

 私の対応が終わると
「じゃあ。加賀宮くん。何かあったらまた言ってね」

「はい。助かりました。ありがとうございます」
 加賀宮さんはペコっと頭を下げた。
 私に接している時と態度が違う。

 初めて会った時の彼みたい。
 誠実で真面目そうな、そんな加賀宮さんの姿だ。

 亜蘭さんは医者先生を送って行くらしい。一緒に部屋を退出してしまった。
 また加賀宮さんと二人きりの空間になる。

「加賀宮さん、ありがとう。あの……。お金、加賀宮さんに渡せば良いの?ていうか、今の診察は保険適用だよね?今度でもいいかな」
 
 お金、どうしよう。
 今、お財布の中は小銭しかない。
 医療費だって孝介に相談しないともらえない。

「そういうところ、しっかりしてんのな。金は要らないよ。俺の自己満だし」

 私の発言に彼はクスっと笑った。

「でも……」

「痛いんなら、早く薬飲めよ」

 彼は部屋の隅にあった小さい冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、渡してくれた。

「ありがとう」

 こんなに優しくして、何か裏があるのかな。何を私に求めているんだろう。

「ちょっと電話してくるから、待ってて」
 
 彼は部屋から出て行った。
 仕事の用事かな。
 ソファに座って彼が戻って来るのを待った。

 しばらくすると加賀宮さんが部屋に戻ってきた。
 今日は変なこともしないで、これで帰してくれるよね。

「じゃあ、行くよ?」

「うん」

 てっきり家に帰れるのかと思っていたが――。

「なに、ここ?」

 彼に連れてこられたのは、とある高層ビルだった。

「ついて来て」

 加賀宮さんの後ろを追って、エレベーターに乗る。
 二十階でエレベーターが止まった。
 エレベーターを降りると、目の前にお店だと思われる雰囲気の自動ドアがあった。
 ドアが開き、数歩歩くと――。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

 スーツを来たウエイターさんらしき人が出迎えてくれた。

「こんばんは」
 加賀宮さんは普通に挨拶をしている。

 店内に入ると、クラシックのBGMが流れていた。彼らの後ろを歩く。

「こちらでよろしいでしょうか?」

「はい」

 店内は個室になっていた。
 何ここ。どういうお店?
 こんなお店、来たことがない。

 個室だけど、目の前はモニターになっている。
 テーブルと二人掛けくらいの大きさのソファ、しかない。
 これって。

 「座って」
 
 彼に言われ、ポスっとソファに座る。
 私の隣に加賀宮さんも座った。

「では、お飲み物をお持ちしますね」

 部屋まで案内してくれたウエイターさんが扉を締めた。

「ねぇ。何ここ?」

「会員制のレストラン。部屋は俺が選んだ。なんか、デートっぽいだろ?」

 構造はカラオケ店みたいだけど、高級感あるオシャレな空間だ。
 隣には加賀宮さんが座っている。
 なぜこの場に自分が居るのか不思議で仕方がない。

「デートって。私、結婚してるんですけど」

 いくら加賀宮さんに逆らえないからって、これって、やってること孝介と同じじゃん。

「浮気とか暴力とか受けといて、結婚してるとか、気にするのか?」

 加賀宮さんの言葉が心にチクっと刺さった。

 「それはそうでしょ。もし夫にバレたら」

 こんなところレストランに孝介がいるわけがないと思いながらも、もしもの可能性を考えてしまう。
 それに孝介は今日は帰らないと言っていたけど、急に帰ってきたら――。
 私が家に居なかったら、私を問い詰めるだろう。

「旦那だって浮気してるんだろ?それに、もしバレたら、俺が責任取るから」

 加賀宮さんが責任を取ってくれる?どうやって?
 加賀宮さんがどういう人かまだわからない。
 でもその一言で少し安心してしまった。

「今日は美味い物食べて、体力つけろよ。一応、食材も柔らかいものを頼んでおいたから」

 私の頬が痛いから?
 そこまで配慮してくれたと言うの?

「どうしてそこまでしてくれるの?」

 一瞬、加賀宮さんは言葉を詰まらせた。

「……。そんなに痩せてると、抱き心地が悪い」

「はぁ?」

 そんな理由じゃないことくらい、私だってわかる。
 けれど、彼の言葉にハハっと久し振りに笑ってしまった。

「加賀宮さんって本当に不思議な人。誠実で真面目そうなのに、私の前では子どもみたい」

 子どもだなんて言って、彼のプライドとか傷つけちゃうかな。

「そうだよ」

「えっ?」

「美月の前だけ、本当の俺」

 隣に居る加賀宮さんと視線が合った。
 思っているより距離が近いな。思えば、カップルシートに座っているみたい。
 彼の真っすぐな瞳と整った顔立ちに心拍数が上がり、顔が紅潮する。

 加賀宮さんとは、もっとすごいことしてるのに。
 どうしてドキドキしちゃうんだろう。このお店の雰囲気?

「あと、亜蘭の前でも素だな」

 秘書の亜蘭さん、付き合いも長いのかな。
 そんなことを話していると、飲み物と前菜が運ばれてきた。

「ちゃんと食べろよ」
 加賀宮さんに言われ、パクっと口に運ぶ。

「んっ。美味しい!」
 痛み止めが効いているからか、頬の痛みも気にならなかった。

「ほらっ?肉食べて元気になれ」
 加賀宮さんが既に食べやすくなっているお肉を、さらに小さめの一口大へとナイフで切ってくれた。
 フォークで目の前にお肉を出され、自然とパクっと食べてしまう。

「んんー。美味しい」
 柔らかい。
 昔、孝介にも高級レストランとかに連れていってもらったことがあるけど、どんなお店の物よりも美味しく感じる。

「お前、今まで俺と一緒にいた中で、一番良い顔してるな」
 私の食べる姿を見て加賀宮さんは苦笑していた。
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