45 / 66
決意 7
気持ちを切り替えなきゃ。
ベガでは美和さんのことは思い出さないようにしないと。
出勤し、スタッフ控室に入ろうとした時だった。
中から口論している声が聞こえる。
この声、平野さんと藤原さんだ。
仲良いと思ってたけど、何かあったのかな。
私が聞いちゃいけない内容だろうか。
ここで待っていても、なんか聞き耳立ててるみたいで嫌だ。
ノックをして入ろうとした時――。
「何よ!そんなにあの九条さんが大切?どうしてそこまで媚びなきゃいけないの。会社のためなのはわかるけど!」
九条という名前が聞こえてしまって、入れない。
この前急遽フロアーを手伝った時、何かミスでもしたかな。
お客さんからのクレームとか?
だったら申し訳ない、謝らないと。
「媚びるとか、そんな極端なこと言ってないだろ。この前、本当に大変だったんだからな。スタッフの病欠が重なったのもあるけど、そもそもスタッフ体制がおかしかった。藤原、その日、俺に相談しないで勝手に他のスタッフとシフト変更しただろ?その調整がどこかで狂って、そもそも日勤が少なかったんだよ。ミスしてたのは藤原だったんだから、急遽手伝ってくれた九条さんにお礼くらい言えって言ってるだけだろ?」
えっ。そうだったんだ。
「嫌なの!本当は一緒に仕事だってしたくないし、あの人が考えたメニューなんて作りたくもない。私は、加賀宮社長の指示だから我慢しているだけ。面倒見てもらってるだけ、逆に感謝してほしいくらいよ」
藤原さん、私に対してそんなこと思ってたんだ。
「はぁ?お前のそういうところ、管理者としてどうかと思うぞ。九条さんに嫉妬してるだけにしか俺には聞こえないけどな」
「はぁぁぁ!?」
どうしよう、二人ともヒートアップしている気がする。
「とにかく俺は、九条さんの評価が上がったから。現場が回らなくて、料理の提供が遅くなってクレーム言われてた時も、しっかり謝ってた。愚痴も言わなかった。ただ<ありがとうございました>だけ言っといてって話なのに、どうしてそんなにキレるのかな?意味わかんねー」
藤原さんにそんなにも嫌われているなんて思ってなくて、ショックだったけど、平野さんの言葉で救われた。
「私は自分を曲げないから。仕事だから、上辺だけは普通に接するけど。あんな余計な人がいない、いつものベガに早く戻ってほしいと思っているから」
「おいっ!」
その後、急に静かになった。
藤原さんがフロアーかキッチンに戻ったみたい。
深呼吸をして控室をノックする。
「失礼します。よろしくお願いします」
私が入室すると、平野さんの肩がビクっと動いた。
「あっ。九条さん。お疲れ様です。今日もよろしくお願いします。この間はありがとうございました」
「いえ。こちらこそ。ありがとうございました」
何事もなかったかのように、平野さんは今日の内容について指示してくれた。
フロアーに入ると、藤原さんがいた。
平常心、平常心……。
「お疲れ様です。よろしくお願いします」
私が挨拶をすると
「お疲れ様です。こちらこそ、よろしくお願いします」
表情明るく、軽く会釈してくれた。
さっきまで私に対してあんなことを言っていた人だとは思えない。
演技だと思うけど、すごいな。
問題なく、ベガでの仕事が終わり、帰宅をする。
「なんか、疲れた」
ポスっと脱力したようにソファに座る。
孝介のことも、美和さんのことも。藤原さんも……。
短い期間だけど、ベガではうまくやっていきたい。
藤原さんに認めてもらえるよう、頑張らないと。少しずつでもいい。私が頑張れば、きっとわかってくれるはず。
こんなことで疲れたなんて言っちゃいけない。
そうだ。
美和さん、今日は途中で帰っちゃったから、食事を作ってないんだ。
孝介にはもう彼女から連絡があったと思うけど、私からも夕ご飯どうするか連絡しておこう。私が作った夕ご飯なんて、孝介は食べないよね。
孝介に連絡するも、返信が来ることはなかった。
二十時過ぎ――。
玄関の扉が開く音がした。
孝介、帰ってきたんだ。
「おかえりなさい」
私が迎えに行くと――。
<バシンッ!>
「痛っ……」
孝介にビジネスバッグを投げつけられた。
「お前、いい加減にしろよ」
一瞬でわかった。予想はしていたから。美和さんが孝介に今日のことを伝えたんだ。
美和さんを傷つけられたら、怒るよね。
「いきなり、どうしたの?」
私は悪くない。
彼が怒っている理由は知っている。平静を保たなきゃ。
ベガでは美和さんのことは思い出さないようにしないと。
出勤し、スタッフ控室に入ろうとした時だった。
中から口論している声が聞こえる。
この声、平野さんと藤原さんだ。
仲良いと思ってたけど、何かあったのかな。
私が聞いちゃいけない内容だろうか。
ここで待っていても、なんか聞き耳立ててるみたいで嫌だ。
ノックをして入ろうとした時――。
「何よ!そんなにあの九条さんが大切?どうしてそこまで媚びなきゃいけないの。会社のためなのはわかるけど!」
九条という名前が聞こえてしまって、入れない。
この前急遽フロアーを手伝った時、何かミスでもしたかな。
お客さんからのクレームとか?
だったら申し訳ない、謝らないと。
「媚びるとか、そんな極端なこと言ってないだろ。この前、本当に大変だったんだからな。スタッフの病欠が重なったのもあるけど、そもそもスタッフ体制がおかしかった。藤原、その日、俺に相談しないで勝手に他のスタッフとシフト変更しただろ?その調整がどこかで狂って、そもそも日勤が少なかったんだよ。ミスしてたのは藤原だったんだから、急遽手伝ってくれた九条さんにお礼くらい言えって言ってるだけだろ?」
えっ。そうだったんだ。
「嫌なの!本当は一緒に仕事だってしたくないし、あの人が考えたメニューなんて作りたくもない。私は、加賀宮社長の指示だから我慢しているだけ。面倒見てもらってるだけ、逆に感謝してほしいくらいよ」
藤原さん、私に対してそんなこと思ってたんだ。
「はぁ?お前のそういうところ、管理者としてどうかと思うぞ。九条さんに嫉妬してるだけにしか俺には聞こえないけどな」
「はぁぁぁ!?」
どうしよう、二人ともヒートアップしている気がする。
「とにかく俺は、九条さんの評価が上がったから。現場が回らなくて、料理の提供が遅くなってクレーム言われてた時も、しっかり謝ってた。愚痴も言わなかった。ただ<ありがとうございました>だけ言っといてって話なのに、どうしてそんなにキレるのかな?意味わかんねー」
藤原さんにそんなにも嫌われているなんて思ってなくて、ショックだったけど、平野さんの言葉で救われた。
「私は自分を曲げないから。仕事だから、上辺だけは普通に接するけど。あんな余計な人がいない、いつものベガに早く戻ってほしいと思っているから」
「おいっ!」
その後、急に静かになった。
藤原さんがフロアーかキッチンに戻ったみたい。
深呼吸をして控室をノックする。
「失礼します。よろしくお願いします」
私が入室すると、平野さんの肩がビクっと動いた。
「あっ。九条さん。お疲れ様です。今日もよろしくお願いします。この間はありがとうございました」
「いえ。こちらこそ。ありがとうございました」
何事もなかったかのように、平野さんは今日の内容について指示してくれた。
フロアーに入ると、藤原さんがいた。
平常心、平常心……。
「お疲れ様です。よろしくお願いします」
私が挨拶をすると
「お疲れ様です。こちらこそ、よろしくお願いします」
表情明るく、軽く会釈してくれた。
さっきまで私に対してあんなことを言っていた人だとは思えない。
演技だと思うけど、すごいな。
問題なく、ベガでの仕事が終わり、帰宅をする。
「なんか、疲れた」
ポスっと脱力したようにソファに座る。
孝介のことも、美和さんのことも。藤原さんも……。
短い期間だけど、ベガではうまくやっていきたい。
藤原さんに認めてもらえるよう、頑張らないと。少しずつでもいい。私が頑張れば、きっとわかってくれるはず。
こんなことで疲れたなんて言っちゃいけない。
そうだ。
美和さん、今日は途中で帰っちゃったから、食事を作ってないんだ。
孝介にはもう彼女から連絡があったと思うけど、私からも夕ご飯どうするか連絡しておこう。私が作った夕ご飯なんて、孝介は食べないよね。
孝介に連絡するも、返信が来ることはなかった。
二十時過ぎ――。
玄関の扉が開く音がした。
孝介、帰ってきたんだ。
「おかえりなさい」
私が迎えに行くと――。
<バシンッ!>
「痛っ……」
孝介にビジネスバッグを投げつけられた。
「お前、いい加減にしろよ」
一瞬でわかった。予想はしていたから。美和さんが孝介に今日のことを伝えたんだ。
美和さんを傷つけられたら、怒るよね。
「いきなり、どうしたの?」
私は悪くない。
彼が怒っている理由は知っている。平静を保たなきゃ。
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
4番目の許婚候補
富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン