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決意 7
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気持ちを切り替えなきゃ。
ベガでは美和さんのことは思い出さないようにしないと。
出勤し、スタッフ控室に入ろうとした時だった。
中から口論している声が聞こえる。
この声、平野さんと藤原さんだ。
仲良いと思ってたけど、何かあったのかな。
私が聞いちゃいけない内容だろうか。
ここで待っていても、なんか聞き耳立ててるみたいで嫌だ。
ノックをして入ろうとした時――。
「何よ!そんなにあの九条さんが大切?どうしてそこまで媚びなきゃいけないの。会社のためなのはわかるけど!」
九条という名前が聞こえてしまって、入れない。
この前急遽フロアーを手伝った時、何かミスでもしたかな。
お客さんからのクレームとか?
だったら申し訳ない、謝らないと。
「媚びるとか、そんな極端なこと言ってないだろ。この前、本当に大変だったんだからな。スタッフの病欠が重なったのもあるけど、そもそもスタッフ体制がおかしかった。藤原、その日、俺に相談しないで勝手に他のスタッフとシフト変更しただろ?その調整がどこかで狂って、そもそも日勤が少なかったんだよ。ミスしてたのは藤原だったんだから、急遽手伝ってくれた九条さんにお礼くらい言えって言ってるだけだろ?」
えっ。そうだったんだ。
「嫌なの!本当は一緒に仕事だってしたくないし、あの人が考えたメニューなんて作りたくもない。私は、加賀宮社長の指示だから我慢しているだけ。面倒見てもらってるだけ、逆に感謝してほしいくらいよ」
藤原さん、私に対してそんなこと思ってたんだ。
「はぁ?お前のそういうところ、管理者としてどうかと思うぞ。九条さんに嫉妬してるだけにしか俺には聞こえないけどな」
「はぁぁぁ!?」
どうしよう、二人ともヒートアップしている気がする。
「とにかく俺は、九条さんの評価が上がったから。現場が回らなくて、料理の提供が遅くなってクレーム言われてた時も、しっかり謝ってた。愚痴も言わなかった。ただ<ありがとうございました>だけ言っといてって話なのに、どうしてそんなにキレるのかな?意味わかんねー」
藤原さんにそんなにも嫌われているなんて思ってなくて、ショックだったけど、平野さんの言葉で救われた。
「私は自分を曲げないから。仕事だから、上辺だけは普通に接するけど。あんな余計な人がいない、いつものベガに早く戻ってほしいと思っているから」
「おいっ!」
その後、急に静かになった。
藤原さんがフロアーかキッチンに戻ったみたい。
深呼吸をして控室をノックする。
「失礼します。よろしくお願いします」
私が入室すると、平野さんの肩がビクっと動いた。
「あっ。九条さん。お疲れ様です。今日もよろしくお願いします。この間はありがとうございました」
「いえ。こちらこそ。ありがとうございました」
何事もなかったかのように、平野さんは今日の内容について指示してくれた。
フロアーに入ると、藤原さんがいた。
平常心、平常心……。
「お疲れ様です。よろしくお願いします」
私が挨拶をすると
「お疲れ様です。こちらこそ、よろしくお願いします」
表情明るく、軽く会釈してくれた。
さっきまで私に対してあんなことを言っていた人だとは思えない。
演技だと思うけど、すごいな。
問題なく、ベガでの仕事が終わり、帰宅をする。
「なんか、疲れた」
ポスっと脱力したようにソファに座る。
孝介のことも、美和さんのことも。藤原さんも……。
短い期間だけど、ベガではうまくやっていきたい。
藤原さんに認めてもらえるよう、頑張らないと。少しずつでもいい。私が頑張れば、きっとわかってくれるはず。
こんなことで疲れたなんて言っちゃいけない。
そうだ。
美和さん、今日は途中で帰っちゃったから、食事を作ってないんだ。
孝介にはもう彼女から連絡があったと思うけど、私からも夕ご飯どうするか連絡しておこう。私が作った夕ご飯なんて、孝介は食べないよね。
孝介に連絡するも、返信が来ることはなかった。
二十時過ぎ――。
玄関の扉が開く音がした。
孝介、帰ってきたんだ。
「おかえりなさい」
私が迎えに行くと――。
<バシンッ!>
「痛っ……」
孝介にビジネスバッグを投げつけられた。
「お前、いい加減にしろよ」
一瞬でわかった。予想はしていたから。美和さんが孝介に今日のことを伝えたんだ。
美和さんを傷つけられたら、怒るよね。
「いきなり、どうしたの?」
私は悪くない。
彼が怒っている理由は知っている。平静を保たなきゃ。
ベガでは美和さんのことは思い出さないようにしないと。
出勤し、スタッフ控室に入ろうとした時だった。
中から口論している声が聞こえる。
この声、平野さんと藤原さんだ。
仲良いと思ってたけど、何かあったのかな。
私が聞いちゃいけない内容だろうか。
ここで待っていても、なんか聞き耳立ててるみたいで嫌だ。
ノックをして入ろうとした時――。
「何よ!そんなにあの九条さんが大切?どうしてそこまで媚びなきゃいけないの。会社のためなのはわかるけど!」
九条という名前が聞こえてしまって、入れない。
この前急遽フロアーを手伝った時、何かミスでもしたかな。
お客さんからのクレームとか?
だったら申し訳ない、謝らないと。
「媚びるとか、そんな極端なこと言ってないだろ。この前、本当に大変だったんだからな。スタッフの病欠が重なったのもあるけど、そもそもスタッフ体制がおかしかった。藤原、その日、俺に相談しないで勝手に他のスタッフとシフト変更しただろ?その調整がどこかで狂って、そもそも日勤が少なかったんだよ。ミスしてたのは藤原だったんだから、急遽手伝ってくれた九条さんにお礼くらい言えって言ってるだけだろ?」
えっ。そうだったんだ。
「嫌なの!本当は一緒に仕事だってしたくないし、あの人が考えたメニューなんて作りたくもない。私は、加賀宮社長の指示だから我慢しているだけ。面倒見てもらってるだけ、逆に感謝してほしいくらいよ」
藤原さん、私に対してそんなこと思ってたんだ。
「はぁ?お前のそういうところ、管理者としてどうかと思うぞ。九条さんに嫉妬してるだけにしか俺には聞こえないけどな」
「はぁぁぁ!?」
どうしよう、二人ともヒートアップしている気がする。
「とにかく俺は、九条さんの評価が上がったから。現場が回らなくて、料理の提供が遅くなってクレーム言われてた時も、しっかり謝ってた。愚痴も言わなかった。ただ<ありがとうございました>だけ言っといてって話なのに、どうしてそんなにキレるのかな?意味わかんねー」
藤原さんにそんなにも嫌われているなんて思ってなくて、ショックだったけど、平野さんの言葉で救われた。
「私は自分を曲げないから。仕事だから、上辺だけは普通に接するけど。あんな余計な人がいない、いつものベガに早く戻ってほしいと思っているから」
「おいっ!」
その後、急に静かになった。
藤原さんがフロアーかキッチンに戻ったみたい。
深呼吸をして控室をノックする。
「失礼します。よろしくお願いします」
私が入室すると、平野さんの肩がビクっと動いた。
「あっ。九条さん。お疲れ様です。今日もよろしくお願いします。この間はありがとうございました」
「いえ。こちらこそ。ありがとうございました」
何事もなかったかのように、平野さんは今日の内容について指示してくれた。
フロアーに入ると、藤原さんがいた。
平常心、平常心……。
「お疲れ様です。よろしくお願いします」
私が挨拶をすると
「お疲れ様です。こちらこそ、よろしくお願いします」
表情明るく、軽く会釈してくれた。
さっきまで私に対してあんなことを言っていた人だとは思えない。
演技だと思うけど、すごいな。
問題なく、ベガでの仕事が終わり、帰宅をする。
「なんか、疲れた」
ポスっと脱力したようにソファに座る。
孝介のことも、美和さんのことも。藤原さんも……。
短い期間だけど、ベガではうまくやっていきたい。
藤原さんに認めてもらえるよう、頑張らないと。少しずつでもいい。私が頑張れば、きっとわかってくれるはず。
こんなことで疲れたなんて言っちゃいけない。
そうだ。
美和さん、今日は途中で帰っちゃったから、食事を作ってないんだ。
孝介にはもう彼女から連絡があったと思うけど、私からも夕ご飯どうするか連絡しておこう。私が作った夕ご飯なんて、孝介は食べないよね。
孝介に連絡するも、返信が来ることはなかった。
二十時過ぎ――。
玄関の扉が開く音がした。
孝介、帰ってきたんだ。
「おかえりなさい」
私が迎えに行くと――。
<バシンッ!>
「痛っ……」
孝介にビジネスバッグを投げつけられた。
「お前、いい加減にしろよ」
一瞬でわかった。予想はしていたから。美和さんが孝介に今日のことを伝えたんだ。
美和さんを傷つけられたら、怒るよね。
「いきなり、どうしたの?」
私は悪くない。
彼が怒っている理由は知っている。平静を保たなきゃ。
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