60 / 66
それぞれの行方 6
イタリアンレストランで食事を済ませた後
「どこか行きたいところある?」
車の中で迅くんに訊ねられた。
プラネタリウムにも行ったし、ショッピングも楽しかった。
洋服を選んでもらうことなんて初めてだったし。
「迅くんとならどこでもいい」
任せてしまう発言になっちゃったかな。
「本当?」
「うん」
「じゃあ、美月。今日、うち泊って?」
うちって、あのアパート?
「うん。いいよ」
「俺、やりたいことあるんだ」
なんだろう、迅くんのやりたいことって。
荷物を取りに私の泊っているホテルへ寄ってもらう。
車に戻った私に彼が一言
「ね、お願いがあるんだけど……」
「迅くんからのお願い?」
嫌な予感半分に聞いてみる。
「夕飯、美月の作った飯が食べたい!」
夕ご飯!?なんだ、そんなことか。
「いいよ。スーパーとか寄ってくれる?迅くん何食べたいの?」
「マジ!?嬉しい」
子どもみたいに笑う彼に思わずホッとしてしまう。
スーパーへ寄ってもらい、迅くんからの<和食>という宿題に少しだけ悩みながらも彼のアパートへ帰宅した。
冷蔵庫に買ってきた物を入れ、二人でベッドの上に座る。
「なんかあっと言う間だよな。こんなにプライベートが充実してるって初めてかも」
天井を見上げながら彼が呟いた。
「そんな、大袈裟だよ」
そんな言葉をかけておきながらも、私もこの時間がとても幸せすぎて、孝介から支配されていた時間がずっと前のように感じられた。
「私、夕ご飯の下準備してくるから、迅くんちょっと休んで。疲れているでしょ。運転もしてもらったから」
いろいろ作ってあげたいと思うけど、コンロが一つだし、古いアパートだからキッチンも広くはない。何品か作るだけで結構時間がかかりそうだ。
「ありがとう。んー。そうだな。ちょっと横になる。何かあったら起こして。目が覚めたら美月が居なくなってるってこと、ないよな」
「一人でどこかに出かけたりしないし、大丈夫だよ」
ベッドに横になっている迅くんの髪の毛をサラっと撫でた。
髪質、柔らかいな。
私の様子にフッと笑い、彼は目を閉じた。
睫毛長いな、相変わらず綺麗な顔。
さて、喜んでもらえるようなご飯を作らなきゃ。
「迅くん!そろそろ起きて」
「んっ……。うん。あー。俺、何時間くらい寝てた?」
迅くんが部屋の中の時計を見る。
「っ!マジッ!?十九時すぎてんじゃん。ごめん」
時間を知った瞬間、上半身をバッと勢いよく起こした。
「ぐっすり気持ちよさそうに寝てたから、そのままにしてた。休みなんだもん、たまにはゆっくりしても良いと思うよ」
「美月と一緒に過ごせる時間なのに。なんか損した気分」
口をへの字に曲げ、ムスッとした表情を浮かべる迅くんはなんだか子どもみたいだ。
夕ご飯、喜んでくれるかな。
ちょっとだけ不安を感じながら、小さなテーブルに作った物を並べていく。
「すごいな。マジ感動」
迅くんはすでに<いただきます>を準備しているかのように手を合わせている。
「本当にこんなので良かった?」
「あぁ。理想」
二人で
「いただきます」
そう声を揃える。
彼が一口、お味噌汁を飲んだ。
口に合うかな?
ドキドキしながら彼の顔色を伺う。
一旦、箸を置く彼。
えっ?どっちなんだろう?
「ヤバい、美味い」
良かった。息を吐いてしまった。
「これから毎日美月の料理が食べられるかと思うと、普通に嬉しい。あっ、言ってなかったけど、ハウスクリーニング終わったから、明日もう引っ越しだから」
もう?また急な話だ。
「明日引っ越しって!聞いてないよ」
「ごめん。忘れてた。でも、イヤなの?」
先ほどまでとは違う彼の鋭い眼光がイヤなんて言わせてはくれない。
「イヤじゃないよ。心の準備ができてなかっただけ。いつまでもホテルってわけにはいかない。ごめん。感謝しなきゃいけないのに」
「毎日、朝、美月が起こしてくれて、夕ご飯も作ってくれて、夜は隣に居てくれるなんて。夢のようだな」
はい?待て待て待て。
夕ご飯は作るって言ったけど、朝と夜のことは聞いていない。
それじゃあ、同棲しているようなものじゃない!?
「ねっ!迅くん、そんなこと言ったっ……」
「あー。美月のご飯、美味いなー」
全然聞く耳を持たない。
はぁ。ここで反抗しても、また言い包められるだけだよね。
迅くんと一緒に居たいって思ってしまった時から、こうなるって理解しておかなきゃいけなかったかも。
夕ご飯を食べ終え、それぞれ早めのシャワーを浴びることになった。
「美月、先にシャワー良いよ」
「ありがとう」
やっぱりこのあとって、迅くんとあんなことをする雰囲気になるのかな。
そんなことを考えながらのシャワーだから、時間がかかってしまった。
「ごめん。遅くなって」
パソコンを開いていた彼に声をかける。
「いや。大丈夫。じゃあ、シャワー浴びてくる。その後、美月としたいことがあるから」
したいこと?
やっぱり……。
でもそんなこと事前に言う?
「わかった」
私が返事をすると彼は珍しくニコッと笑い、浴室へと向かった。
私、もう離婚したんだから、迅くんとシテも良いんだよね?
自分自身に問いかけながら、彼が出てくるのを待った。
しばらくして――。
「ごめん!美月、バスタオル忘れた。持って来て」
そんな彼の言葉が聞こえ、バスタオルを持って浴室へ向かう。
あまり正面を見ないようにしていたが
「ありがとう」
浴室から出ようとして髪の毛をかきあげる彼の姿が綺麗すぎて、思わず見惚れてしまった。
「どこか行きたいところある?」
車の中で迅くんに訊ねられた。
プラネタリウムにも行ったし、ショッピングも楽しかった。
洋服を選んでもらうことなんて初めてだったし。
「迅くんとならどこでもいい」
任せてしまう発言になっちゃったかな。
「本当?」
「うん」
「じゃあ、美月。今日、うち泊って?」
うちって、あのアパート?
「うん。いいよ」
「俺、やりたいことあるんだ」
なんだろう、迅くんのやりたいことって。
荷物を取りに私の泊っているホテルへ寄ってもらう。
車に戻った私に彼が一言
「ね、お願いがあるんだけど……」
「迅くんからのお願い?」
嫌な予感半分に聞いてみる。
「夕飯、美月の作った飯が食べたい!」
夕ご飯!?なんだ、そんなことか。
「いいよ。スーパーとか寄ってくれる?迅くん何食べたいの?」
「マジ!?嬉しい」
子どもみたいに笑う彼に思わずホッとしてしまう。
スーパーへ寄ってもらい、迅くんからの<和食>という宿題に少しだけ悩みながらも彼のアパートへ帰宅した。
冷蔵庫に買ってきた物を入れ、二人でベッドの上に座る。
「なんかあっと言う間だよな。こんなにプライベートが充実してるって初めてかも」
天井を見上げながら彼が呟いた。
「そんな、大袈裟だよ」
そんな言葉をかけておきながらも、私もこの時間がとても幸せすぎて、孝介から支配されていた時間がずっと前のように感じられた。
「私、夕ご飯の下準備してくるから、迅くんちょっと休んで。疲れているでしょ。運転もしてもらったから」
いろいろ作ってあげたいと思うけど、コンロが一つだし、古いアパートだからキッチンも広くはない。何品か作るだけで結構時間がかかりそうだ。
「ありがとう。んー。そうだな。ちょっと横になる。何かあったら起こして。目が覚めたら美月が居なくなってるってこと、ないよな」
「一人でどこかに出かけたりしないし、大丈夫だよ」
ベッドに横になっている迅くんの髪の毛をサラっと撫でた。
髪質、柔らかいな。
私の様子にフッと笑い、彼は目を閉じた。
睫毛長いな、相変わらず綺麗な顔。
さて、喜んでもらえるようなご飯を作らなきゃ。
「迅くん!そろそろ起きて」
「んっ……。うん。あー。俺、何時間くらい寝てた?」
迅くんが部屋の中の時計を見る。
「っ!マジッ!?十九時すぎてんじゃん。ごめん」
時間を知った瞬間、上半身をバッと勢いよく起こした。
「ぐっすり気持ちよさそうに寝てたから、そのままにしてた。休みなんだもん、たまにはゆっくりしても良いと思うよ」
「美月と一緒に過ごせる時間なのに。なんか損した気分」
口をへの字に曲げ、ムスッとした表情を浮かべる迅くんはなんだか子どもみたいだ。
夕ご飯、喜んでくれるかな。
ちょっとだけ不安を感じながら、小さなテーブルに作った物を並べていく。
「すごいな。マジ感動」
迅くんはすでに<いただきます>を準備しているかのように手を合わせている。
「本当にこんなので良かった?」
「あぁ。理想」
二人で
「いただきます」
そう声を揃える。
彼が一口、お味噌汁を飲んだ。
口に合うかな?
ドキドキしながら彼の顔色を伺う。
一旦、箸を置く彼。
えっ?どっちなんだろう?
「ヤバい、美味い」
良かった。息を吐いてしまった。
「これから毎日美月の料理が食べられるかと思うと、普通に嬉しい。あっ、言ってなかったけど、ハウスクリーニング終わったから、明日もう引っ越しだから」
もう?また急な話だ。
「明日引っ越しって!聞いてないよ」
「ごめん。忘れてた。でも、イヤなの?」
先ほどまでとは違う彼の鋭い眼光がイヤなんて言わせてはくれない。
「イヤじゃないよ。心の準備ができてなかっただけ。いつまでもホテルってわけにはいかない。ごめん。感謝しなきゃいけないのに」
「毎日、朝、美月が起こしてくれて、夕ご飯も作ってくれて、夜は隣に居てくれるなんて。夢のようだな」
はい?待て待て待て。
夕ご飯は作るって言ったけど、朝と夜のことは聞いていない。
それじゃあ、同棲しているようなものじゃない!?
「ねっ!迅くん、そんなこと言ったっ……」
「あー。美月のご飯、美味いなー」
全然聞く耳を持たない。
はぁ。ここで反抗しても、また言い包められるだけだよね。
迅くんと一緒に居たいって思ってしまった時から、こうなるって理解しておかなきゃいけなかったかも。
夕ご飯を食べ終え、それぞれ早めのシャワーを浴びることになった。
「美月、先にシャワー良いよ」
「ありがとう」
やっぱりこのあとって、迅くんとあんなことをする雰囲気になるのかな。
そんなことを考えながらのシャワーだから、時間がかかってしまった。
「ごめん。遅くなって」
パソコンを開いていた彼に声をかける。
「いや。大丈夫。じゃあ、シャワー浴びてくる。その後、美月としたいことがあるから」
したいこと?
やっぱり……。
でもそんなこと事前に言う?
「わかった」
私が返事をすると彼は珍しくニコッと笑い、浴室へと向かった。
私、もう離婚したんだから、迅くんとシテも良いんだよね?
自分自身に問いかけながら、彼が出てくるのを待った。
しばらくして――。
「ごめん!美月、バスタオル忘れた。持って来て」
そんな彼の言葉が聞こえ、バスタオルを持って浴室へ向かう。
あまり正面を見ないようにしていたが
「ありがとう」
浴室から出ようとして髪の毛をかきあげる彼の姿が綺麗すぎて、思わず見惚れてしまった。
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
4番目の許婚候補
富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン