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005 出発

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 ネネイとの出会いは想定外だったが、計画に変更はない。
 前世の記憶を取り戻した俺は、S級になることを目指して活動する。
 その為に、俺はこの町を離れることにした。

 ――翌日。

「家の状態もいいし、家具も一式が揃っている。
 これならご満足頂ける条件を提示出来るかと」

 町の不動産業者に、家の買取査定をしてもらっていた。
 その間、ネネイはというと。

「おとーさんは高い高いなのー♪」

 俺の頭上に顎を置き、周囲の景色を眺めていた。
 俺が抱えたのではなく、彼女が勝手に登ってきたのだ。
 背中に飛びついてきたと思ったら、虫みたいな動きでカサカサと。

「ゼクスさん!」

 背後から声を掛けられる
 振り返ると、そこにはミーシャの姿があった。
 手には食材の詰まった籠を持っている。
 買い物帰りのようだ。

「あっ! ミーシャおねーちゃん!」
「こんにちは、ネネイちゃん」
「こんにちはなのー!」

 ミーシャが寄ってきた。

「何をしているのですか?」
「この町を発とうと思ってね、家を査定してもらっているんだ」
「え!? ゼクスさん、町を出るんですか!?」
「そうだ。S級昇格やバヘルの塔の攻略を目指そうかと思ってね」
「ほ、本当ですか?」

 驚いた様子のミーシャ。
 俺は満面な笑みで頷いた。

「本当さ。
 前にミーシャも言っていただろう?
 今なら攻略出来るかもしれないって。
 俺もそう思ってね、再始動することにした」

 思い返せば、今に至るのはミーシャのおかげだ。
 昨日の時点で報告して、礼を言っても良かったかもしれない。
 ――と思ったのだが。

「…………」

 なんだかミーシャの様子が変だ。
 表情を険しくして固まっている。

「ミーシャ?」

 名前を呼ぶと、固まっていた彼女が動き出した。

「そんなの無理に決まっているじゃないですか!」

 それは予想外の一言だった。
 祝ってくれると思いきや、声を大にして否定された。

「おいおい、酒場の時とは全然違うじゃないか」
「あれは励ます為に言ったんですよ! 真に受けてどうするんですか!」
「まぁ……色々あってね」

 色々の詳細は話せなかった。
 前世の記憶やらステータスモードと言っても、きっと信じてもらえない。
 逆の立場なら、コイツの頭はどうかしているんじゃないのか、と思う。

「町を出るなんて言わないで下さいよ。寂しいじゃないですか」
「そうは言われても、もう決めてしまったことだし」
「じゃあ、私も一緒に連れて行ってください!」

 ミーシャが籠を地面に落とし、服を掴んでくる。
 籠の中の食材が、地面の上で盛大に散らばった。

「私、本気なんです! ゼクスさんのこと!」
「分かっている。だけど……駄目だ。危険過ぎる」

 S級冒険者を目指す以上、危険はつきものだ。
 戦闘経験のないミーシャを連れていくことは出来ない。

「でも、ネネイちゃんは連れていくんですよね?」
「ネネイは他に誰も居ないからな」
「だったら私もいいじゃないですか!」
「ミーシャにはマスターが居るだろ。ネネイとはワケが違う」
「私だって、一緒がいいのに」

 ミーシャが泣き崩れてしまった。

「そこまで思ってくれて嬉しいけど……ごめんな。
 ちゃんと時折戻ってくるからさ、それで許してくれよ」

 地面に散乱している食材を拾い、籠に戻していく。
 その作業を、ネネイも無言で手伝ってくれた。

「どうしても駄目なんですか?」

 ミーシャが涙を流しながら見てくる。
 それでも、俺の返事は変わらない。

「どうしても駄目だ。
 本当なら、ネネイだって連れていきたくない。
 でも、ミーシャも知っていると思うが、今の国は腐っている。
 孤児院に入れようものなら、違法奴隷にされるのがオチだ。
 だから、俺が守ってやるしかないんだ」

 ステータスを弄って、俺は最強になった。
 しかし、最強だからといって不死身というわけではない。
 攻撃を受ければ怪我を負うし、下手をすれば普通に死ぬ。
 ミーシャを連れていくことはできなかった。

「ネネイちゃんだけずるいです。
 私だって、ゼクスさんに守ってもらいたかった。
 ずっと、ずっとずっと、大好きだったのに!」

 ミーシャは籠を持ち上げると、俺を睨みながら言う。

「せいぜい死なないように頑張って下さいね!
 私を振ったこと、絶対に後悔させてやりますから!
 ゼクスさんなんか、小さな町がお似合いなんだから!」

 言い終えるなり走り去っていく。
 言い方はアレだったが、言葉には優しさがあった。

「ミーシャ、ありがとう。そして、ごめんな」

 ミーシャの背中に向けて呟いた。

 ◇

 家の売却が終わると、即座に町を発った。
 雇った馬車に乗り、大都市の1つへ向かう。

「おとーさん、これからどこへ向かうの?」

 外の景色を眺めていると、ネネイが尋ねてきた。

「ブルネンという街で、とにかく今までより大規模だ」
「そーなんだ! そこに行ったら、なにをするの?」
「冒険者として活動するのさ。基本的には今までと同じさ」
「ぼーけんしゃ?」
「そうか、ネネイは知らないのか。冒険者ってのはな――」

 冒険者について教えた後、今後の活動について説明する。
 ギルドでB級以上のクエストを受けて、テキパキこなしていく。
 そうやってS級昇格を目指すのだ。

「面白そうなの!」

 説明を受けたネネイの第一声がそれだ。

「おっ、冒険者に興味があるのか?」
「あるの! ネネイ、冒険者になりたいの!」
「ハッハッハ、ネネイが冒険者に――あっ、待てよ」

 鼻で笑おうとしたところでハッとする。

「どうしたの? おとーさん」
「いいことを閃いたぞ」
「いいこと? 何なの? 何なの?」

 ネネイがウキウキした表情で見てくる。

「ネネイを冒険者として育てようってことさ」
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