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010 クソ投げモンキー

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 森は危険がいっぱいだ。
 そこら中に敵の伏せる場所があるから。
 足下の茂みから樹上まで、警戒するポイントが多い。

「こんな時〈魔物探知〉があれば快適なんだがな」
「まものたんち?」
「アサシンのスキルさ」

 〈魔物探知〉は、周辺の敵を把握出来るスキルだ。
 どの位置に、どの向きで、どんな状態で居るのか、正確に分かる。

「じゃあ、そのスキルを覚えるの!」
「だな。まずは適当な雑魚を狩ってスキルポイントを貯めよう」

 敵の奇襲に警戒しながら森を進んでいく。
 早く出てこい、敵、敵、敵。
 そう願っている時ほど、敵は現れない。

「敵が全然居ないな。あの三馬鹿が倒したのかな?」

 などと言った瞬間――。

「ウキキー!」

 敵が現れた。
 三馬鹿は関係なかったようだ。

「お猿さんなのー!」
「あれは魔物だ、敵だぞ」

 現れたのは“クソ投げモンキー”だ。
 毒を含んだウンコを投げつけてくる畜生なモンスター。

「ウキーキッキ!」

 クソ猿が樹上を軽々と移動しながら、嘲笑って挑発している。

「ネネイが倒すなの!」
「大丈夫か? 相性の悪い敵だぞ」

 意気込むネネイだが、倒せるような気はしなかった。
 というのも、あのクソ猿はすばしっこい動きをするのだ。
 大きくない上に木々を素早く移動するので、攻撃を当てづらい。

「大丈夫なの! おとーさんはネネイが守るなの!」
「お、おう」

 苦笑いがこぼれてしまう。
 いつの間にやら、ネネイは俺を守るヒーロー気取りだ。

 そんなネネイが、スリングを構える。
 小さな鉛の玉を装填して、力の限り後ろに引いた。

「えいっ!」

 ネネイが弾丸を放つ。
 スライム戦の時とは段違いの速さで鉛の玉が飛ぶ。
 威力は申し分ない。
 当たれば小さな風穴を開けられるだろう。
 だが、クリティカルヒットはしなかった。

「ウキッ!?」

 クソ猿が慌てて避けたのだ。
 そのせいで、尻尾をかすめる程度に終わった。

「惜しい」
「次はちゃんと当てるの!」

 ネネイの射撃センスには舌を巻く。
 本当にこの子は、スリングの扱いが上手だ。
 記憶を失う前は、スリングの名人だったのだろう。

「ウキッキィ!」

 クソ猿が反撃してくる。
 ブリッと搾りたてのウンコを投げてきたのだ。
 紫色のとぐろを巻いたウンコが、俺達に向かって飛んでくる。

「任せろ」

 ウンコの対処は俺が引き受ける。
 〈燃えない炎〉の燃える版、つまりはただの〈ファイア〉を放つ。
 俺の放った炎は、クソ猿のウンコを燃やし尽くした。

「トドメなの!」

 すかさずネネイが攻撃する。
 今度は命中して、クソ猿の喉元を貫いた。
 クソ猿は即死して、木の上から落ちてくる。

「わーい! ネネイがやっつけたのー!」
「よくやった。大したものだ」

 実際、ただの幼女とは言えない強さである。
 クソ投げモンキーは、スライムよりも遙かに強力なのだ。
 この森に棲息しているだけのことはあり、適性ランクはE級である。
 それをわりとあっさり倒したのだが、文句なしに褒められる出来だ。
 だが――。

「しかし、ここはダンジョンだ」
「「ウキィイイイイイ!」」

 近くの茂みから2匹のクソ猿が飛びかかってくる。
 最初からずっと伏せていて、隙を窺っていた奴等だ。
 右手にはホカホカのウンコを持っている。

「ふぇぇぇぇ!?」

 クソ猿の奇襲に驚くネネイ。
 スリングや弓といった武器はこの展開に弱い。
 弾丸の装填に手間取るので、瞬時に対応するのが困難なのだ。

「油断は禁物だぞ」

 だから、ここは俺が対処してみせる。
 飛びかかってくるクソ猿がウンコを投げる前に燃やす。
 パチンと指を鳴らした瞬間、2匹の猿がこんがり焼けるのだった。

「わぁぁぁぁ!」

 ネネイの目がキラキラと輝く。
 恐怖で小便をちびるかと思いきや、その逆だった。

「すごいなの! おとーさん、すごいなの!」

 武器を収納して抱きついてくる。

「俺にとっては雑魚だからな」

 クソ猿程度なら、昔の俺でも同じように狩れる。
 ステータスを弄った今の俺なら、尚更に楽勝だ。
 俺からすればスライムと大差ない。

「ネネイも凄かったぞ。想像以上の強さだ」

 左手をネネイの背中に回し、右手で頭を撫でる。

「おとーさんに撫で撫でして欲しくて、ネネイは頑張ったの!」

 嬉しそうに「うへへぇ」と頬を緩ませるネネイ。
 十分に撫で撫でした後、俺は言った。

「今の戦闘で〈魔物探知〉を覚えられるようになったんじゃないか?」

 スキルを覚える為に必要なスキルポイント。
 それは、敵を倒すことで蓄積されていく。
 〈魔物探知〉を覚えるだけなら、先の戦闘で十分なはず。

「調べてみるなの!」
「その間は俺が警戒しておくよ」

 ネネイが目をキュッと瞑り、その場で立ち尽くす。
 今、彼女は「スキル」と念じて、スキルポイントを調べている。
 目を瞑る必要はないのだが、そのことは黙っておこう。

「覚えられるの!」

 案の定、習得可能のようだ。

「なら覚えよう。〈魔物探知〉は必須スキルだからな」
「はいなのー!」

 ネネイが再び目を瞑る。
 数秒後、瞑っていた目が勢いよく開いた。

「覚えたなの! ネネイの〈魔物探知〉はレベル3なの!」
「3まで上げられたのか。思っていたよりポイントが貯まったんだな」

 スキルにはスキルレベルが存在する。
 スキルレベルが高くなればなるほど、スキルの効果も強くなる。
 しかし、スキルレベルを上げるには、そうそう容易くはない。
 レベルが上がる程に、必要なスキルポイントの量が跳ね上がるのだ。

「早速、使ってみたらどうだ?」
「そうするの!」

 ネネイが右手を天に掲げる。
 かと思ったら、ビシッと前を指した。
 その意味不明な動作と共に〈魔物探知〉を発動する。

 彼女の足下から光の波紋が広がっていく。
 波紋は20メートル程進んだところで消えた。
 それが〈魔物探知〉レベル3の有効範囲だ。
 まだまだレベル不足で、範囲が狭い。

「何も居ないの!」
「では進もう。一応、言っておくが、〈魔物探知〉はこまめに使ってね」
「任せてなのー♪」

 クソ猿の退治が終わったところで、移動を再開した。

「おとーさん、待ってなの!」

 少し進んだところで、ネネイが待ったを掛ける。
 何事かと思ったら。

「えいっ!」

 〈魔物探知〉を発動した。
 俺の言葉に従い、きっちりと掛け直している。

「安全を確認したなの!」
「ありがとう」
「えへへぇ♪」

 面倒臭がる素振りは一切見せていない。
 なるほど、強者になる資質は十分に備えているわけだ。

「「「ぎゃあああああああああああ!」」」

 そんな時、森の奥から悲鳴が飛んできた。
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