この世界の平均寿命を頑張って伸ばします。

まさちち

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3巻

3-3

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「いやいや、こんな紙装備のままモンスターの攻撃とか受けたら絶対怪我するじゃん。それで二人が戦えなくなったらどうすんの?」
「そのときは俺様が戦う」
「さっき女の子に往復ビンタされたくらい弱いのに?」
「…………」

 残念イケメンが押し黙ってしまった。見た目と性格に加えて、頭まで残念とは恐れ入ったよ。

「え、まさか考えてなかったの? パねえっす全裸先輩! ……あと、これは忠告だけど、ギルドで喧嘩は売らないほうが良いよ。冒険者ってみんなで助け合って情報を共有して生きていくんだから、悪い噂はあっという間に広まる。一匹狼を気取るのはいいけど、自分がもっともっと強くなってからにしなさいね」

 俺がちょっぴり悪乗りしてたたみかけるように言うと、残念イケメンは下を向いてしまった。それから、絞り出すように何事かを口にする。

「……う……さい」
「ん? 何?」
「うるさい、うるさい!」

 うわ、残念イケメンが爆発した。
 顔を真っ赤にして言い立ててくる。

「お前なんかパパに言いつけてこの街にいられなくしてやる!! 僕のパパは侯爵こうしゃく様なんだぞバーカ、バーカ! 死刑にしてやるからな!」

 そして、涙目になってギルドから飛び出していった。残念イケメンの仲間の二人の女の子は慌ててそのあとを追う。

「……言いすぎちゃったかな?」

 頭を掻いていると、ママさんがクスクスと笑う。

「ウフフ、ヒデちゃん、化け物って言われた私のために怒ってくれたのかしら?」
「……そんなわけないです」
「ウフフ、まあいいわ、ありがとう。でも大丈夫? あんな戦闘奴隷を買えるくらいのお金持ちを怒らせて。侯爵とか言ってたけど」
「う、今さら心配になってきた」

 でも、済んだことを悩んでも仕方ないよね。俺は気を取り直して、ママさんにおやつを注文するのだった。


 ◇ ◇ ◇


 あとで聞いた話だが、あのガイという残念イケメンは本当に侯爵の息子だったそうだ。
 父親の名前は、どこかで聞いたことがあるような名の、デブルッチとかいうらしい。デブルッチ家は絶大な権力を持っていたんだけど、つい先日、国への反逆罪で捕まり、没落したんだって。
 そんなこんなでガイ君も行方ゆくえ知れずとなり、復讐ふくしゅうにやってくることはなかったと。
 やっぱり、悪いことをするとばちが当たるんだね~。



 4 ランクアップ


 残念イケメンのガイ君がギルドから走り去ってから数時間経った。それにもかかわらず、ゲンたちは一向に帰ってこない。

「ママさん、そろそろかな?」
「……まだ昼前よ。さすがにそんなに早くには帰ってこないでしょ」
「え~、そんだけしか経ってないの?」

 時間が過ぎるの遅くない? あ~も~、暇潰ひまつぶしにすることもないし。
 俺は誰に言うでもなく呟く。

「ジグソーパズルとかロジックとかがあればな~」
「何そのジグソーとかロジックって?」
「故郷にあったゲーム。パソコンがあれば一番いいんだけどね。でも、そもそも電気がないしな~」

 眉間みけんにしわを寄せるママさん。そしてミラのほうに顔を向ける。

「ミラちゃん、ヒデちゃんの言ってることわかる?」
「えっとね、ヒデ兄師匠、たまによくわからないこと言うの」
「ふ~ん、ミラちゃんも大変ね?」
「クスクス。でも、ヒデ兄師匠を見てると幸せな気分になるよ」
「あ、それはわかるわ。ヒデちゃんは優しいからね~」

 何やらママさんとミラがブツブツ言っているけど、気にしない。

「ロジックは無理でも、ジグソーパズルならこの世界でもなんとか再現できるかな……でも俺が手作りするのは無理だし……ムムム」

 などと独り言を言っていたら、ママさんに声をかけられる。

「ヒデちゃん、後ろ」
「ん? 後ろ?」

 振り向くと、衛兵が立っていた。あ、この人はゲイルさんといって、以前目の治療をしてあげた人だ。

「こんにちは、ゲイルさん。その後、目の状態はどうですか?」
「おう、絶好調だよ。そんなことより嫌な噂を聞いたんだが」

 そう言ってゲイルさんは表情を曇らせた。

「噂? 何それ」
「えーっと、ヒデさんがブルースと手を組んで、この街を牛耳ぎゅうじるつもりだって」
「……ああ、その話か」

 ブルースさんが心配していた通りになってしまったかと思い頭を抱えそうになると、ゲイルさんがさらに怪訝そうな顔をする。

「ん? まさか本当なのか?」
「ああいや、全然違います。今度、俺が商売を始めるんですよ」
「商売? ヤバいやつか?」

 なおも問いただしてくるゲイルさん。あんまり心配かけたくないし、ちゃんと事情を説明しておこう。

「まっとうな商売ですよ。心配なら商人ギルドに確認してもらっても構いません。で、その商売する場所がブルースさんの土地の近くだったから、ブルースさんに挨拶しただけです。ブルースさんは俺の仕事には手を出さないって話になってますから」
「ふむ、そうなのか」

 ゲイルさんがうなずく。これで納得してくれたとは思うんだけど、こんなに早くブルースさんの噂が流れてくるなんて、気になるな。

「ところでその話、誰から聞いたんですか?」
「ん? ドリーっていう事情通のおっさんからだが……」

 勘だけど、そいつ怪しい気がするぞ。

「その人ってもしかして、ブルースさんに不利な情報だけをよく仕入れてきたり、特定の人たちを擁護ようごしたりしてません?」
「言われてみれば……まさか……」

 ゲイルさんはしばらくうつむいてブツブツ言っていたが、やがて顔を上げる。

「ヒデさん、ちょっと用ができたから帰るよ。ヒデさんの噂については了解した。ご協力感謝します」
「いえいえ、まあ、これは俺の独り言なので聞かなくてもいいんですが、その人の身辺を洗ったほうが良いかもですね」
「ハハハ、じゃあまた」

 ゲイルさんが手を振って去っていった。様子を見守っていたママさんが問いかけてくる。

「ちょっとヒデちゃん、そのドリーっていう人が怪しいって考えてるの?」
「まあ、どうでしょうね。違ったとしても、ブルースさんの情報を流してる奴はいるだろうし、衛兵が動くことでビビるだろうからね。少しでも抑止できれば良いかなって思って……」

 と言ってみたら、ママさんがなぜかニヤニヤしている。

「ウフフ、ヒデちゃん、友達の悪口言われて怒ってるんでしょ?」
「別に~」

 そもそもブルースさんが友達っていうのも違う気がするんだけどな。ママさんは相変わらずニヤニヤしていた。

「ヒデちゃんが怒ってるときって必ず誰かのためだもの」
「だから、怒ってないです」


 ◇ ◇ ◇


 日が傾いて空が赤くなってきた。クエストを終えた冒険者もちらほらと戻ってきている。

「ゲンたち、まだかな?」
「時間的にはそろそろ帰ってくる頃ね~」

 ギルドのドアが開くたびに玄関のほうを見て、ゲンたちじゃないのを確認して、がっかりしてため息をつく。そんなことを繰り返していたら、酒場で飲んでいる冒険者たちの話し声が聞こえてきた。

「おい、今日森で大物のモンスターが出たって話、聞いたか?」
「え、知らない。それって退治したのか?」
「そこまではわかんないよ」

 大物のモンスターと聞いて、俺は血の気が引くのを感じた。俺はママさんとミラに尋ねる。

「……二人とも、今の聞いた?」
「心配ないわよ、キャロラインちゃんとザルドが一緒に行ってるんでしょ?」
「キャリーちゃんがいれば、どんなのが出たって平気だよ」

 たしかにキャリーさんがいれば安心かな……

「そ、そうだよね、大丈夫だよね」
「そうよ、どっしり構えてなさい」
「う、うん…………だめだ。やっぱり、ちょっと話を聞いてくる!」

 心配で座ってられなくて、話を聞きに冒険者たちのところへ行き、さっそく尋ねる。

「お疲れ様、森に大物が出たんだって?」
「お、ヒデさんお疲れ。まあ大物が出たとしても、この辺りじゃせいぜいCランクのモンスターだよ。そういえば、チビどもは今日試験か。ゴブリンみたいな雑魚ざこモンスターは隠れちまうから、獲物が見つからなくて四苦八苦してるかもな」
「……そ、そうなのか。それで帰ってくるのが遅いの?」
「いやいや、まだ時間的に普通だよ」

 冒険者たちが笑っているが、そう言われても心配でたまらない。そのまま玄関まで行って外に顔を出すと……おっ、遠くのほうにゲンたちが見えた!
 俺は急いで中に入り、ママさんの前ですっかり冷めたお茶を飲む格好をする。

「どうしたの? 突然走って戻ってきて」

 ママさんが眉をひそめて聞いてくるが、俺は澄ました顔で答える。

「ん? 何が? さっきからこうしてドシッと構えてたけど」
「はあ?」

 そのとき、ドアが勢い良く開いて、ゲンたちが入ってきた。

「「「ただいま、今戻ったよ」」」

 診療所に行こうとしているみんなをカウンターから呼び止める。

「おーい、こっちこっち。お帰り、ずいぶん早かったね。まあ、キャリーさんたちがいたから全然心配してなかったけど」
「「「「ぶっ」」」」

 俺の言葉に、ギルドにいた他の冒険者たちが一斉に噴き出した。
 ゲンが不審そうに周りを見る。

「ん? どうしたのみんな?」
「さあ、飲みすぎたんじゃないか? それより怪我はないな? よし、じゃあ受付で手続きを済ませといで。クエストの話はここで聞くからな」
「「「は~い」」」

 元気に走って受付に行く三人。それを見送っていると、ママさんが口を開いた。

「ヒデちゃん、走って戻ってきたのは、このためだったのね」
「フフフ、だってさ、どっしり構えてたほうが子供たちも安心するでしょ」

 そう言って笑うと、ママさんも笑顔になる。

「今日のヒデちゃん、どこかイライラしてるって思ってたけど、チビちゃんたちのことが心配で余裕がなかったからなのね」
「いやいや、何言ってるの。余裕綽々よゆうしゃくしゃくだったでしょう?」
「今日のどの部分を見てそう言えるのよ、今日初めて笑顔を見たわよ」
「え、そうだったかな? そんなことより子供たちにグレプのジュースをお願いね。ミラも飲むだろ?」
「うん、ありがとうヒデ兄師匠」

 ミラが笑顔でうなずいた。

「ハイハイ、今持ってくるわよ。まったくヒデちゃんにこんなに心配してもらえるなんて、チビちゃんたちに嫉妬しっとしちゃうわ」
「ハハハ、俺はいつもあらゆる人を気にかけてるんですから、全ての人間に嫉妬しないといけなくなりますよ?」
「調子出てきたみたいね~ヒデちゃん」

 ジュースの用意をするため、カウンターの奥に引っ込むママさん。それと入れ替わりで子供たちが駆け寄ってきた。

「「「ヒデ兄見て見て!」」」

 三人がギルドカードを我先にと見せてくる。
 どれどれ……

「おお、ちゃんとEランクになってるな~、おめでとう。三人とも頑張ったな」
「「「ありがとう!」」」

 ゲンたちの頭をワシワシ撫でたら、みんなキャーキャー言って喜んだ。ついでにミラもナデナデしてあげると、えへへと言ってはにかむ。
 しばらくじゃれ合っていると、カウンターからママさんがジュースを四つ持って現れる。

「はいはい、グレプのジュースを持ってきたわよ。みんな飲んで」
「「「「ありがとうママさん」」」」

 ジュースを飲んでいる子供たちを眺めていると、再びギルドのドアが開いた。そちらを見ると、キャリーさんとザルドさんが帰ってきていた。
 キャリーさんたちがこちらに近付いて声をかけてくる。

「お師匠様、ただいま戻りましたわ」
「いやいや、お疲れ様でした。ザルドさんも」
「おう。チビどもの戦闘を見てたんだが、こいつらすごいな。きっとまだまだ伸びるぞ」
「え、本当? 頑張ってほしいけど、あんまり強くなりすぎちゃうのは寂しいな」

 俺の言葉を聞いて、ザルドさんが豪快に笑う。

「ワハハ! たしかにそうだが、若い奴なんか放っといても勝手に成長しちまうからな。気にするだけ無駄だよ」

 そんな話をしていると、ゲンが横入りしてくる。

「ヒデ兄、そんなことより聞いてよ! 三人でゴブリンメイジを倒したんだよ!」
「え、スゲ~な! どうやって倒したんだよ」
「まずハルナが弓で……」

 俺が子供たちの話を聞いている横で、ママさん、ザルドさん、キャリーさんが何やら話しているのが聞こえてくる。

「ああやって同じ目線で話せるのが、ヒデちゃんが子供たちに好かれる一因よね~」
「いや、あれはただの素なんじゃないか?」
「ホホホ、それも含めてお師匠様ですわ」

 褒めてるんだか貶してるんだかわかんないけど、色々言われてるみたい。

「ん? 俺のことでなんか言った~?」
「なんでもないわよ。ほら、続きを聞いてあげなさいな」

 それから俺は、ママさんに言われた通り子供たちの話を聞き、日が完全に沈むまで過ごすのだった。



 5 父、帰還


 ゲンたちがランクアップしてから数日が経った。
 ここ最近、子供たちは前にも増してクエストを受けている。なんでも、早く実戦に慣れたいそうだ。俺が心配してしまうのは相変わらずなんだけど、少しは普段通り過ごすことができるようになった。
 工場の件は、建物の修理と清掃や器具の買い付け等々、細かな仕事が山積みで俺一人じゃ手に負えなくなってきた。それで手伝ってくれる人が誰かいないか商人ギルドに問い合わせたところ、ヒューイさんを薦められた。以前、アリソンさんという女性の足を治したことがあったんだけど、ヒューイさんはその婚約者なんだよね。商人ギルドのギルマスからも、彼なら大丈夫と太鼓判たいこばんをもらったこともあり、彼に工場の管理をお願いすることにした。
 聞くところによると、ヒューイさんの夢は、商人として独り立ちすることらしい。工場の管理の仕事を受けてくれたのはそのためにスキルアップしたいというのもあるみたい。でもそれだけじゃなくて婚約者のアリソンさんの足を治してくれた俺に恩返しもしたいそうだ。そんな恩は忘れていいんだけど、とにかく今は猫の手も借りたいほど忙しかったので、ありがたく返してもらうことにした。ヒューイさんは優秀なうえよく働いてくれ、おかげで俺の作業にも余裕が出てきた。
 このままヒューイさんに工場を任せてしまうのもありかな? そのうち話してみよう。


 ◇ ◇ ◇


 今日は工場稼動の準備について話し合うため、ヒューイさんに診療所まで来てもらった。
 空いている椅子に座ってもらうと、ヒューイさんが口を開く。

「ヒデさん、湿布薬は販売までご自分でやるんですか?」
「う~ん、ヒューイさんはどう考えてる?」
「商人ギルドに任せちゃうと、利益が安定する代わりに取り分が少なくなりますよね」
「でも、ギルドの手を借りないと、交渉とか色々大変じゃない?」
「その辺は専門の人を雇えば大丈夫でしょう。とはいえ、薬はどの程度の生産が見込めるのか、原価率はいくらなのか、少なくともその二つがわからないと何も決まりません。話を切り出しておいて申し訳ないんですが……」

 言葉を濁すヒューイさんに、俺はうなずいた。

「うん、そうだね。原価についてはポールさんに聞きに行こうかな。ヒューイさんも挨拶しておいたほうが良いかも」
「そうですね、ご一緒します」

 話がまとまったので、隣にちょこんと座っているミラに声をかける。

「ミラ、ポールさんの店に行くけど、大丈夫?」
「うん、いつでも行けるよ」

 ミラは元気にうなずいてくれた。
 ママさんにポールさんの店に行くことを伝えようと思ったけど、酒場にはいなかった。ウェイトレスのお姉さんによると、今日は午後からの勤務とのこと。ママさんっていっつもいるから、休みなしで働いているのかと思ってた。
 ウェイトレスのお姉さんに伝言をしてから、ギルドをあとにしてポールさんの店に向かう。
 到着して店の中に入ると、モニカさんの他にモブ君がいた。モブ君は隣にあるお店の人で、モニカさんに思いを寄せているために、よくここに通い詰めている。モニカさんには旦那さんがいるから相手にされるわけないのにね。
 俺はモブ君を無視してモニカさんに挨拶する。

「こんにちはモニカさん、ポールさんはいますか?」
「こんにちはヒデさん、いつもの部屋にいますよ」
「チッ、また来たのかよ、しつこい奴だな」

 モブ君が舌打ちしてなんか言ってきたが、スルーしてヒューイさんと一緒に奥へ進む。

「ヒューイさんこっちですよ、行きましょう」
「おい、無視すんな。チラッと目が合ったろ」

 やけに突っかかってくるな。仕方ない、適当に追い払うか。

「おや、今モブ君の声が聞こえたような。いやいやまさか、あの親孝行なモブ君が母親に店番を任せて遊び歩いているはずがない。ねえ、モニカさん」

 話を振ると、モニカさんは悪戯いたずらっぽい顔をして、ニッコリと笑う。

「そうね、ああ見えても仕事熱心だからね」

 モニカさんの言葉に、モブ君が目をうるませた。

「モニカ姉、俺のことをそんなふうに見てくれていたのか……こうしちゃいられねえ、仕事が俺を呼んでるぜ!」

 そして、モブ君は一目散に店に帰っていくのだった。
 ドアが閉まると、モニカさんはため息を吐き出す。

「やっと帰ったわ。まったくモブ君のなまけ癖も困ったものね」

 モブよ、お前ここに来るたびにドンドン評価下がってるぞ。
 モブ君の恋に黙祷もくとうを捧げてから、ポールさんの部屋に向かった。ミラはラウラの部屋に行って遊ぶらしいので、一旦ここでお別れする。
 ドアをノックしてから入室すると、安楽椅子に腰かけて本を読んでいるポールさんが目に入った。ポールさんは俺とヒューイさんが入ってきたことに気が付き、顔を上げる。

「ポールさん、こんにちは」
「おお、ヒデ君よく来たのう。ん? そちらの若者は新しい弟子かの?」
「いえ、彼はヒューイさんと言って、工場の手伝いをしてもらってるんですよ。それで、一緒に挨拶に来ました」
「初めまして、商人ギルドから出向しているヒューイです」
「おお、そうかそうか。ワシはポールじゃ、よろしくな」
「よろしくお願いします。それでさっそくなんですが、薬の製作にはどういったものが必要なのでしょうか?」
「そうじゃのう……」

 そのまま俺を放っておいて話し込む二人。元々ポールさんが話好きなことに加え、ヒューイさんが聞き上手なものだから話題はなかなか尽きない。なんかすっかり置いていかれちゃったよ。
 このまま帰ってもバレないかな、と思っていたら、店の外でモニカさんの大きな声が聞こえた。
 何か事件が起きたのか!?
 ヒューイさんと一緒に急いで外に飛び出ると、店の前にでっかいリュックを背負った男の人が立っているのが見えた。
 初めて見る人だけど、誰だろう? よく見てみると、ポールさんを若くしてひげをなくせば似ているような……ってことはこの人がラウラのお父さんか? たしか名前は、ウィルさんだったはず。
 俺より先に外に出ていたモニカさんが、絞り出すように男性に声をかける。

「あ、あなた、お帰りなさい」
「うん、今帰れたよ」

 やっぱり旦那さんだったか。ていうか、この人今なんて言った? 帰ったじゃなくて、帰れた?
 不思議に思っていたら、店の入口からラウラが飛び出してきて、ウィルさんに抱きつく。

「父ちゃん~! やっと帰ってこられたのかよ、遅いぞ!」
「おお、ラウラまた大きくなったな」

 父ちゃん、あなたとか言いながら三人で抱き合っている。たしか一年ぶりの再会なんだっけ。
 気配を感じて振り返ると、ポールさんも外に出てきていた。

「やっと戻ってきおったか、この方向音痴めが」

 は? 方向音痴?

「ウィルさんって方向音痴なんですか?」

 驚いて尋ねると、ポールさんがうなずいた。

「フム、だから一年かかってやっと帰ってきたんじゃよ。行かなくていいって言うのに素材探しの旅に出おって」
「放浪癖じゃなくて方向音痴なんだ」
「いやいや、放浪癖があって方向音痴なんじゃよ」
「それ最悪じゃないですか!」

 俺はつい突っ込んでしまうが、ポールさんはなごやかに笑う。

「フォフォフォ。それよりヒデ君、先日言ってた薬の品質管理役の件じゃがの、ウィルならちょうど良いじゃろう。調合の腕も確かじゃし、何より責任のある席に置いとけば、フラフラせんで仕事するじゃろうしの」
「それは名案だ。これは早々にスラムの健康診断をやらないとね」
「そうですね、たくさん人が集まればいいですけどね」

 乗り気になって言う俺に、相槌を打つヒューイさん。
 それから、ポールさんがウィルさんに近寄ってゲンコツを落とす。その後ややあって、ポールさんに呼ばれたのでヒューイさんと二人でウィルさんに挨拶をしに行った。

「初めまして。俺は回復師をしているヒデと言います。こちらはヒューイさん。彼とは一緒に工場の経営を計画しています」
「えっと、はい、ヒューイです。よろしく」

 俺がわざと二人で計画しているような紹介をすると、ヒューイさんは驚きながらも否定せずに頭を下げる。フフ、いずれヒューイさんに工場を任せるために、少しずつこっちに引き寄せる作戦だ。

「私はウィルです。留守中に家の者がお世話になったみたいですみません」
「いえいえ、何もしてないですよ。それよりさっきの工場の話なんですが、ポールさんから簡単な事情は聞きました?」
「なんか手伝えと言われただけなんですが……」
「はいはい、じゃあ最初から……」

 俺はウィルさんに、ポールさんと湿布薬を開発したこと、薬を量産するために工場を稼動させようとしていることを説明していく。ウィルさんは口を挟まずに、ゆっくりうなずきながら真面目に聞いてくれた。


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