この世界の平均寿命を頑張って伸ばします。

まさちち

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3巻

3-2

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「こんにちは」
「こんにちは、ヒデ君」

 スミーさんが俺の挨拶に応えたのを見て、ブルースさんは何故か驚愕きょうがくの表情を浮かべた。

「はあ? スミーお前、ヒデと話せるのか?」

 ブルースさんにそう問われ、スミーさんは黙ってうなずいている。ブルースさんの言っている意味がわからないんだけど、深く突っ込まないほうが良いのかな。
 ……と思いつつ、俺はスミーさんに声をかける。

「嫌だな、挨拶くらいしますよね。あ、この間はジュースご馳走様でした」
「いやいや、あのときは僕もパンをもらったからね」
「あ、昨日、あんパン買いに行きましたよ。甘すぎず絶妙な味で美味しかったです」
「僕も昨日、買いに行ったよ」

 そうそう、昨日、あんパンを買いに行ったんだよね。スミーさんも行ったんだ。
 俺とスミーさんのやり取りを見てしばらく固まっていたブルースさんが、やっと口を開く。

「……ずいぶん仲良くなってたんだな」
「うん、あれ? そうだね、こないだ会ったときからだね、なんでだろ?」

 そのとき服の袖が引っ張られているのに気が付く。振り返ると、ゲン、トラン、ハルナがジト目で俺を睨んでいた。

「ヒデ兄、いつこの無精ひげのおっちゃんに会ったって?」
「僕たち聞いてないよね、その話?」
「何か言うことがあるはずだよ?」

 あ、やべ。スミーさんとのことを言うと心配かけちゃうかなーと思って、三人には話してないんだった。
 俺はごまかすように三人に言う。

「いや、あの、ねえ、あれ? 話すの忘れちゃったかな~ハ、ハハ」
「お師匠様、暢気のんきすぎますわよ」

 キャリーさんにまで呆れられてしまった……
 ブルースさんがそんな俺たちを見てため息をつき、その場の雰囲気を変えるように告げる。

「ハァ……まあいい。ところでヒデと話があるんだが……」
「あ、はい、じゃあ診療所に行きますか?」
「……いや、ここでいいだろ。個室に入れる雰囲気でもないしな」

 そう言ってブルースさんは周囲に目をやる。
 俺もブルースさんにならって周りを見ると、ママさんや他の冒険者たちがブルースさんたちを警戒して身構えていた。ブルースさんって本当に裏社会の有名人なんだなと思いつつ、俺はギルドのテーブルを指差す。

「じゃあ、そこで話しましょう。スミーさん、ここのグレプっていう果物のジュース、甘くて美味しいよ。飲みます?」
「う~ん、でも仕事中だしな~」

 そう言いつつも、甘い物に目がないスミーさんはチラッとブルースさんを見た。ブルースさんはまたため息をついて言う。

「いいから、ここに座ってオーダーしろ」
「え、いいの? じゃあヒデ君、それお願い」

 スミーさんが席に着くと、ブルースさんは頭を押さえながら着席した。
 俺はブルースさんに陽気に尋ねる。

「ハイハーイ、ブルースさんも頼む?」
「……いや、お茶でいい」
「ママさん、グレプのジュースと紅茶を一つずつね~」
「……はいはい、ヒデちゃんにかかればどんな危険人物だろうとみんなと同じね」

 ママさんがニコニコしながら、注文した飲み物を持ってきてくれた。
 ブルースさんたちが飲み物に手をつけるのを待ってから、俺はさっき気になったことを尋ねる。

「ブルースさん、スミーさんが喋ったときなんで驚いてたの?」
「ああ、スミーは基本的に無口なんだよ。口を開くのは仕事のときと剣を抜いているとき、あとは俺と会話するときだけだ」

 そういえば、ならず者から助けてくれたときも俺にしか話しかけていなかったし、パン屋の人とも話してなかったな。いつもはあんな感じなのか。

「でも、スミーさんから俺の伝言は聞いてたんでしょ? だったら俺がスミーさんと話してたってわかるんじゃないですか?」
「いや、ヒデが黙っているスミーに一方的に伝えてたのかと思ってた」

 いやいや、そんなわけないじゃん。でもまあ、そういう想像をするくらい、スミーさんは普段から喋らないってことか。
 ブルースさんが話題をち切るように、身を乗り出して告げる。

「まあいい、そんなことよりヒデ、スラムの工場を買ったな?」
「うん、スミーさんから聞いたと思いますけど、そこを薬の工場にするつもりです」

 俺がそう答えると、ブルースさんがふところから四つ折りの大きな羊皮紙を取り出した。テーブルに広げられたそれは、街の地図だった。

「ヒデが買った土地がここで、ここら辺が俺の土地だ」

 ブルースさんが地図を指差しながら説明する。スラムの半分くらいがブルースさんの土地らしい。あ、孤児院も含まれてる。

「じゃあ、残り半分の土地は誰のなんですか?」
「こっちは他のならず者勢力と商人ギルドのだ。まあ、そもそも工場は俺の土地じゃないから俺は何も口出ししないが……こんな場所で人が集まるのか?」
「人集めはスラムの中でやるつもりです」

 俺の返答を聞いて、ブルースさんは呆れたような表情を浮かべた。

「はあ? わかってんのか? スラムの男は大体が怪我人の冒険者崩れだ。使えるのは女子供くらいしかいないぞ? それともまさか、女子供を安い賃金で働かせるとか考えてるんじゃないだろうな?」
「考えてないですよ、そんなこと。できれば給料は普通より多く出したいけど、そこはもうけ次第ですかね。まあ、男の人たちも少しは工場で働いてくれるようになると思います」
「何を言ってるんだ?」

 ブルースさんが怪訝けげんそうに尋ねてくる。
 俺はブルースさんに、自分の考えを打ち明ける。

「えっと、スラムで治療しようかと思って」
「は? スラムの人間全員か?」
「まあ、できれば。でも、最初は工場周辺の人たちからかな~。で、悪いところがあったら治療して元気になってもらいます」
「まさかお前、怪我人を治して工場で働かせるつもりじゃないだろうな」

 段々理解してもらえてきたみたいだ。俺はさらに続ける。

「希望者にだけお願いするつもりです。また冒険者に戻る人や他の仕事を探す人もいるでしょうし」
「それで、働く奴には普通より高い給料を出す、と……なるほど、金があればスラムから出られるからな。つまり、スラムから出られる人を増やしたいと」
「いや、スラムの環境ごと変えて、スラム自体を住みやすくしたいんです。ゴミを片付けたり、家を建て直したり」
「家を建て直す? スラムの奴らにそんな金あるわけないだろ」
「たしかにそうなんですが、住宅ローンをやってもいいかもって思ってるんです」
「ローン?」

 ブルースさんが首をひねる。この世界には住宅ローンの仕組みは普及してないのかな。ざっくり説明しよう。

「えっと、簡単に言えば、家を建て直すためのお金を貸すんですよ」
「スラムの奴らに金を貸すのか? だが、返済の保証はないぞ」
「ええ、ですからうちの工場で働いてる人限定にしようと思ってるんです。事前に給料から返済分を引いて渡すっていうふうに」
「給料の前借りみたいなもんか」
「そうですね。家を担保にし、もし返せなくなったら、ちょっとひどいかもしれませんが家を没収します。でも、人って一度生活水準を上げると、そこから落ちないように頑張るんですよ」
「なるほどな~、よく思いつくなそんなこと」

 ブルースさんが何度もうなずく。

「まあ、故郷のシステムを持ってきてるだけですけどね。どうですか? 一緒に工場やりません?」

 スラムのことに詳しいブルースさんが手伝ってくれるなら心強い。そう思って提案してみたのだが、ブルースさんは首を横に振った。

「フフ、お前と一緒にやるのは楽しそうだが、やめておこう」
「何かに落ちないこととかありました?」

 そう尋ねると、またもや首を横に振るブルースさん。

「いや、逆だ。そのシステムなら間違いなくうまくいくだろう。だから俺は手を出さない。俺みたいなのが関わると変な噂が立つからな。その代わりに俺は、他の奴らにも絶対に手出しさせないようにしてやる」

 なるほど、たしかにブルースさんが関わってるってなったら、みんな怖がって工場で働いてくれなくなるかも。ブルースさんはやっぱり裏社会の人みたいだし。

「わかりました。よろしくお願いします」

 俺は深々と頭を下げる。
 話が一段落したところで、ブルースさんは俺の隣にいるゲンたちに目を向けた。俺も横目で見ると、ゲンとトランがジーッと地図を見てあれこれ話している。男の子はコマゴマしてるの好きだよね。地図を見るのって楽しいし。

「ここがギルドでしょ?」
「うん。じゃあ、こう行って、ここが院だね」
「院って……お前たち、孤児院の子供か?」

 ブルースさんが突然ゲンに話しかけた。ゲンはびっくりした様子を見せながらも、素直に答える。

「え、うん、そうだよ」
「そうか、あの暴力女はまだ元気か?」
「え? 誰のこと?」
「院長先生の奥さんで、髪の毛を後ろで束ねている」
「院長先生の奥さん? 院長先生は女の人だよ?」

 ゲンが不思議そうに言うと、横で聞いていたトランが代わって答える。

「えっと、前の院長は今の院長先生の旦那さんで、もう亡くなっちゃったんだよ。前に聞いたような気がする」
「……そうか、亡くなったのか……」

 ブルースさんがぽつりと呟いた。そういえば、二人は孤児院で育ったってスミーさんが言っていたっけ。あれってあの孤児院のことだったんだ。

「僕たちが入る前みたいだから、よくわかんないけどね。今の院長先生も病気だったんだけど、ヒデ兄が治してくれたんだよ」
「そうだったのか……ヒデ、お前には返しきれないほどの借りができちまったな」

 ブルースさんがまっすぐ俺を見つめてきた。何だか気恥ずかしくなって、俺は頭を掻きながら答える。

「俺が治してあげたかったから治しただけですよ」
「フフ、まあいい、俺も勝手に借りを返していくぜ」

 ブルースさんが右手を出してきた。こちらも右手を差し出したら、その手をグイッと引っ張られる。前のめりによろけると、ブルースさんは左手で俺の背中をガシッと掴んで、耳元で囁いた。

「お母さんを助けてくれてありがとう」

 それから二人は席を立った。別れ際、ブルースさんが真剣な顔を俺に向ける。

「ヒデ、お前の敵は俺が必ず潰してやる」
「え? いやいや、いないですよ、敵とか」
「フフ、じゃあな」
「じゃあね、ヒデ君」

 スミーさんはニコニコ笑っている。

「はい。また、甘い物でも食べに行きましょう」
「ハハハ、甘い物か。締まらねえなまったく」

 笑いながら去っていくブルースさんたちを、俺は玄関から見えなくなるまで見送った。
 あの二人は孤児院を守るために裏の世界に入ったのだろうか。ふとそんな考えが浮かんだ。



 3 身内


 ブルースさんたちの来訪から数日、ついにゲンたちが冒険者のランクアップ試験を受ける日がやってきた。三人は現在Fランク。試験に合格したらEランクになる。なんでも森に入ってゴブリンを討伐する試験らしいけど、本当に大丈夫なのかな……

「みんな、忘れ物とか平気か? もう一度確認したほうがいいんじゃない?」

 ギルドから出発する間際、俺は三人に声をかける。

「ヒデ兄それ何回目だよ~?」
「ヒデ兄が行くんじゃないんだから、落ち着いてよ」

 ゲンとハルナがうんざりしたように言う。でも、心配なんだからしょうがないじゃん。俺はなおも三人に確認する。

「あ、あの銀でできたペンダントはちゃんとしてるよな? 俺がランヒールを付呪ふじゅしたやつ。ハルナのは髪飾りだから一目でわかるけど……」
「もう、それもさっき見せたでしょ!」

 ハルナが呆れたように言った。たしかに何回も見せてもらった気がする。
 そんなやり取りをしていると、三人を引率することになっているキャリーさんが割って入る。

「お師匠様、私が試験官を務めますし、危険はないですわ。ザルドさんも付きますし」

 キャリーさんが、隣にいるいかついおっちゃんに目をやる。
 このおっちゃんはザルドさんといって、以前俺が治療した患者さんだ。Cランクの冒険者で、その実力は折り紙つき。たしかに、この二人がいれば何があっても大丈夫かな。

「うん、そうだね。二人とも、任せたよ」

 俺がそう言うと、ザルドさんは胸を張って応える。

「まあ、ヒデの秘蔵ひぞの晴れ舞台だから用心はするさ。でも、試験の内容はゴブリン討伐でノルマは一人一匹だ。標的さえ見つかりゃすぐ終わるぜ」
「う、そうなんですけどね」

 ふと横を見ると、ミラが少ししょんぼりした様子で立っていた。ミラが三人に話しかける。

「ハルちゃん、みんな、頑張ってね。私は行けなくてゴメンね」

 ハルナはミラに向かってにっこりと微笑んで言う。

「もう、昨日も話したでしょ。私たちはミラちゃんに別の道ができて嬉しいんだよ」

 ゲンとトランも続く。

「そうだな。冒険者以外に良い仕事があれば一緒に働けたんだけど、俺たちにはこの道しかなかったし」
「ミラに冒険者は無理だろうな~って思ってたところに、ヒデ兄が現れたんだ。それで、ミラに回復師っていう未来ができて、僕たちも嬉しかったんだよ」

 ミラがぱっと笑顔になる。

「うん、ありがとうみんな。怪我しても生きて戻ってきてね。必ず私が治してあげるから」
「プッ、ワハハハ、今の、ヒデ兄がよく言ってる言葉だ」
「ハハ、そうだ、ヒデ兄がクエストに向かう冒険者にかける言葉」
「フフフ、そっくりだったよ」
「クスクス、いつも聞いてたからうつっちゃった」

 仲良く笑い合う四人。
 ミラが別れの挨拶を済ませたようなので、俺も最後にゲンたちに念を押しておく。

「忘れ物ないか? 怪我しないで帰ってこいよ」
「あれ? いつもの、怪我しても生きて帰ってきてねって言葉じゃないの?」
「それは友達や患者さん用だよ。み、身内はやっぱり怪我してほしくないから」

 自分で言っててちょっと恥ずかしい。
 顔をそむけていたら、ゲンが抱きついてきた。

「大丈夫だよ、油断しないよ、兄ちゃん」

 続いてトランとハルナもくっ付いてくる。

「僕だって絶対しないよ、兄ちゃん」
「私だって、お兄ちゃん」


 お、重い。しかし、ここは踏ん張りどころだと思い、頑張って耐える。
 しばらくすると、三人が離れてくれた。

「おう、待ってるから早く帰ってこいよ」
「「「はい!」」」

 俺が兄貴風を吹かせてカッコ良く決めると、三人は元気な返事をしてくれた。
 なぜかザルドさんが上を向いて鼻をすすっている。

「クッ、年を取ると涙腺るいせんが緩くなって仕方ねえな。よし、お前ら、サッサとゴブリンを倒して早く戻るぜ」
「「「はい」」」

 もう行くみたいだね。キャリーさんとゲンたちが俺とミラに出発を告げる。

「ではお師匠様、いってきますわね」
「「「いってきます」」」
「いってらっしゃい、怪我しないようにな」
「みんな、頑張ってね~」

 こうしてゲンたちは森に向かっていった。見えなくなるまで手を振り続けていると、たまに振り返って手をブンブン振ってくれる。 
 そしてついに、みんなの姿が完全に見えなくなった。目頭めがしらが熱くなるのを感じながら、ミラに声をかける。

「さて、中に入ろう。ママさんのとこに行こうか」
「は~い」

 ギルドに入って酒場に向かう。カウンターに座ると、ママさんがニヤニヤしながら見てきた。

「まったく、ヒデちゃんは心配性なんだから。口うるさい母親みたいだったわよ」

 さっきのやり取りをしっかり見られていたらしい。

「う、自覚はあるんですが、言わずにはいられないというか……今初めて、親の気持ちがわかりましたよ」
「ウフフ、親の気持ちね。自分が同じ立場にならないとわからないものよね」
「はぁ、もう森に入ったかな?」
「ヒデちゃん……さすがにまだじゃない? 五分も経ってないわよ」
「え、まだそんなもんなの? コッソリあとをつけたほうが良かったかな。今なら間に合うかも」
「ヒデちゃんが森に入るほうが危険だわ」
「俺だって、こ~んな大きなつのの生えた魔物を倒したことがあるんだぜ」
「……ホーンラビットみたいな弱い魔物と死闘できる人間のほうが少ないわよ。ほらほら、気持ちが安らぐお茶をれてあげるから、静かに待ってなさい。ミラちゃんも」
「「は~い」」

 大人しく待っていることにして、ママさんの淹れてくれたお茶をマッタリと味わう。
 すると突然、ギルドの玄関から大声が聞こえてきた。

「ここにどんな怪我でも治せるヒーラーがいると聞いたのだが、どいつがそうだ?」

 玄関のほうを見ると、派手な鎧を着込んだ残念な感じのイケメンが、謎のポーズを決めて立っていた。
 その後ろには、ビキニアーマーを装備した剣士の女性と、露出度の高いミニスカートのローブを着た魔法使いらしき女の子がいる。あんな破廉恥はれんちな装備あるんだ、初めて見たぞ。
 お茶を飲みながらママさんに話しかける。

「ママさん、何あの残念な奴。絶対自分のことイケメンだと思ってるタイプだよね?」
「あ~、なかなか言うわねヒデちゃん。でも、たしかにずいぶんと装飾の多い鎧ね。戦闘のときに邪魔じゃないのかしら?」
「もしかして魔法の鎧とか?」
「ううん、どう見てもただの飾りだわ」

 誰も反応してくれないことにイラつきだした残念イケメンは、さらに大声で言う。

「チッ、ここには人間の言葉がわかる奴はいないのか!」

 俺はママさんに言う。

「なんかすごいあおってるよ。ここは荒くれ者の多い冒険者ギルドなのに度胸あるね。腕に自信があるのかな?」
「う~ん、どうかしらね。それより、動きがありそうよ」
「ん? どういうこと?」
「ほら、見ててごらんなさい。今席を立ったあの子、こないだCランクになったばかりの子よ」

 ママさんに言われた通り見てみると、一人の女性が残念イケメンに近付いていった。それから何か言い争いを始めたみたいだけど、ここからだと声は聞こえない。しばらく見ていたら、いきなり残念イケメンが女性に殴りかかった。
 しかし、女性はパンチを軽くいなして残念イケメンの襟首えりくびを掴み、往復ビンタを食らわせた。殴られるより屈辱くつじょくじゃねそれ? あ、残念イケメン、なんか涙目でビキニの子に命令してる。

「あ~、ビキニの子に助けてもらおうとしてるみたいね。ヒデちゃん、あの変な男の子はヒデちゃんに用があるみたいだけど、行ってあげないの?」
「え? なんで俺?」
「だって、なんでも治せるヒーラーって言ってたじゃない」
「でも俺、ヒーラーじゃなくて回復師だし」
「何よそのこだわり。でも、間違いなくヒデちゃんの噂を聞いてここへ来たみたいよ」
「ん~、まあいいか。とりあえず行ってきます」

 俺は腰を浮かせて、残念イケメンに向かって声をかける。

「ヒーラーじゃないけど回復師をしてる者だったらここにいるよ~」

 顔をらして地面に座り込んでいた残念イケメンは立ち上がり、ギロリと俺に目を向ける。

「はあ? 何屁理屈をこねてるんだ?」

 残念イケメンは、文句を言いながら俺が座っているカウンターまで歩いてきた。往復ビンタを食らわせた女の子は席に戻ったみたい。
 残念イケメンはママさんを見て「ヒッ、化け物」とかほざいた。気持ちはわかるが、それはNGワードだ。ママさんの顔も引きつってるし。
 俺は残念イケメンに話しかける。

「用件を聞く前にちょっといい? なんで女の子たちにそんな装備をさせてるの?」

 ずっと気になっていたんで一応聞いてみた。セクシーなのはいいとしても、戦闘向きじゃなさそうなので。

「答える義理はないが教えてやる。こいつらは俺の奴隷どれいだからだ」

 とんでもないこと言うな、コイツ。もう話すのも嫌になってきたけど、なんとか我慢して会話を続ける。

「えっと、お金で買った、戦闘系の奴隷ってこと?」
「そうだ、脳みその足りないお前にも理解できたか?」

 いちいち暴言を吐いてくるな。この男、見た目だけじゃなくて性格まで残念らしい。
 俺はちょっとムッとして言い返す。

「戦闘させてるなら装備くらいキチンとしてやれよ。初めて見たよ、ビキニアーマーとかミニスカローブとか」
「ふん、貴様には関係ない。余計な口を出すな」
「ハイハイ。まあ、隣のカウンター席、空いてるから座りなよ。立ち話もなんだからさ」
「ああ? なんで男と隣り合って座らないといかんのだ?」
「あっそう。じゃあお前は立ったままでいいよ」

 俺は残念イケメンのために引いてあげた椅子を元に戻した。
 コイツに礼儀とかいらないよね、もう。

「チッ、お前も立てばいいだろうが」
「男と座らないって言いだしたのは、お前のほうだろ? なら俺も勝手にさせてもらう。で、ヒーラーがどうしたって?」

 そう言いながら、俺はワザとらしくふんぞり返った。残念イケメンは俺の態度がムカついたらしく、こめかみに青筋を浮かべている。

「チッ、貴様、俺が誰だか知らんのか?」
「その顔、その身体……え、まさかあの超有名な、自分をイケメンだと思って毎日全裸になって鏡の前で二時間みっちりポーズの練習をしている全裸先輩ですか?」

 俺が小馬鹿にしたようにそう言うと、ブッ、と周りで聞き耳を立てていた連中が噴き出した。残念イケメンの後ろに立っていた仲間の女の子たちも、口元を押さえて肩を震わせている。

「貴様、おちょくっているのか? 二時間もやっていない」

 やってはいるのかよ。もう面倒だから話を進めちゃおう。

「まあいいや誰でも。俺はヒデだ、よろしくしたくないが、よろしくな」
「なんと無礼な男だ。まあいい、俺の名は…………ガイだ」
「それ、偽名だろ?」
「……な、何を言っている。偽名のわけあるはずがないだろ、馬鹿めが」

 変な間があったから適当に言ってみたら、なんかめっちゃ動揺してる。
 いい機会だから、ここでこいつに説教してやろう。

「まあ、名前なんてどうでもいいや。話を戻すけど、仲間を大事にしないとダメだ。戦闘で二人に何かあったら君、死んじゃうよ?」
「え? 何故、俺が死ぬのだ?」

 俺の言葉にキョトンとする残念イケメン。
 だめだ、こいつ何もわかってない。


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