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まさちち

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3章

勇者 その23

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 いつの間にか集まって来たスラムの人や街の人達に囲まれていたケヴィンさんが、何とか脱出してこちらに向かって来た。

 俺の目の前まで来るとやや険しい顔で話し出す。
「ヒデ君、何で僕が女神様を顕現させたことになっているんだい?」
「え?いや、だって、勇者様達のMPのおかげで成功したんじゃないですか」

ケヴィンさんは俺のとぼけたような答えに真面目に切り返してくる。
「いや、そうだけど。そもそも僕は召喚魔法なんて使えないんだけど」

「まあまあ、こんなどこの誰かもわからないのが、女神様を顕現させたとかになったらきっと何か色々まずいでしょう?」
「うーん、確かに神聖国とかはうるさそうだけど‥‥‥」
あ、やっぱりそういう所はあるんだ。あぶねー。やっぱりケヴィンさんがした事にしといたほうがいいね。うん、決定だ。

「やっぱりここは、勇者様がやりましたという事で一つ宜しくお願いします」

いつも間にかケヴィンさんの後ろに来ていたドイルさんが俺の後押しをしてくれる。
「そうだな、下手したら神聖国から使者が来たりとかして調査が始まるのは間違いないからぞ。ケヴィンがした事にしておけば色々と面倒が減るだろうし。そうしとけ」
「しかし、……しょうがない」
ケヴィンさんはまだ何か言いたそうだったが何とか納得してくれた。そして笑いながら続ける。
「まったく、手柄を横取りされたことは何回もあるけど、押し付けられたのは初めてだよ」

 手柄と言うかその後の色々と面倒くさそうな事を押し付けただけなので、何か申し訳なくて目を逸らせて乾いた笑いで受け流していた。その時逸らした時ブノワさんとカドルさんが話しているのが目に入った。
 
少し気になったのでそちらに気を集中させた。
カドルさんがブノワさんに深々と頭を下げて話し出す。
「ブノワ殿、この度の件どうかワシ一人が起こした事にしてもらえないだろうか?」
その様子を見てブノワさんが不思議そうな顔をして答える。
「はて?何の事ですかな?私はここにカドル殿とスラムの病人を効率よく治療するために話し合いに来ただけですぞ?」

「は?い、いやしかし……」

何か言おうとしているカドルさんの声にかぶせるように俺が話しかける。
「カドルさん。今回の病人達は全員治療が出来たはずですけど、やはりきちんと確認してもらった方が良いと思います」
「え?あ、ヒデさんだったね。さっきは嫌な言い方をして悪かったよ。しかし、確認の方はさっき人をやらせたからそろそろ戻って……お、来たようだ」
カドルさんがそう言って後ろを向くと先ほどカドルさんの横に並んでいたベンさんが走って戻って来た。
「カドルさん、病気で寝込んでいた者はみんな元気になってたよ。全員だ」
「そうか、よかった」

ブノワさんがその会話を嬉しそうに頷いて話し出す。
「うんうん、よかったよかった。どれ、治療の話は無くなってしまったが、丁度カドル殿と話したかったことがあるのじゃよ」

 カドルさんが表情を硬くして神妙に頭を下げブノワさんに向き直る。
「どの様な裁きでも受けます」

 そんな態度とは裏腹にブノワさんは世間話でもするように話し出す。

「なんでも、となりの国の事なのでハッキリとはしないのじゃが、ある街のスラム街が消えてしまったという事があったそうなんじゃよ」
「え?スラム街が消えた?まさか、軍事でも介入して消し去ったのですか?」
「いやいや、そうではなくてな。うちに出入りしている商人から聞いたのじゃが、最初はスラムに工場を建てスラムの人を雇い入れ、そこで金回りの良くなったスラムの人達に家を与えて、その家を建てた資金の返済を給金から少しづつ返済させているそうなんじゃ」
「え?その工場主は無理矢理働かせているんでしょうか?」
カドルさんはさっきの硬い表情などどこに行ったのかの様にその話に興味津々だ。しかし、この話って……

「ワシもそう思ったのじゃが、どうやらそうではないんじゃよ。みんな自分の家を持つ事が出来て嬉しそうに働いているそうなんじゃ。しかも、何でもそこの工場主は周りの道を舗装して、街灯まで設置してスラム街をキレイにしたそうなんじゃ」
「ん?道を綺麗にしたんですか?何でまたそんな事を?」
「その辺りはわからんのじゃが。その道を整備した途端、スラム街は綺麗に保たれ商人達が集まり他の街の道と変わらなくなったそうなんじゃ」
カドルさんが神妙な顔をして考え始める。
ああ、となりの国の街って言ってたし。それって絶対うちの話だよね?同じ様には出来ないけど何とか出来ないかな?
俺はそう考えて思いついたことを口にした。

「あー、その話は俺も聞いた事ありますねー。確か、道を綺麗にしておくと汚したりしようとする人が減るそうなんですよ」

 いきなり俺が話に入ってもそんな事よりスラムが変わるきっかけを探している二人にはどうでも良いらしく、俺の話に耳を傾ける。

「フム、どういう事なんじゃな?ヒデ君もうちょっと詳しくわかるだろうか?」
ブノワさんの質問にカドルさんも頷きながら俺の回答を待っている。
「えっと、こうゴミが散らばっている所だったら自分もゴミを捨てても罪悪感は無いでしょ?でも、綺麗でゴミ一つない道にゴミを捨てようとしたら躊躇してしまうと思うんですよ」

等々、同じ様には出来ないだろうが俺が思いつくことを色々と話す。
俺の話に二人共自分なりの解釈を付けたり話し合っている。その話にスラムの人やブノワさんのお弟子さんも話に加わったりしてなんか本格的な話になって来た。



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