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4章
王都へ その8
しおりを挟むあの後、仲良くはしゃいでいるキャリーさんとシオンさん、それとゲン達と別れてアーレさんの案内で王様がいる部屋に来た。
いやいや、これって若い頃の社長と面談した時の事を思い出す。あの時も何を話したのかも分からず終わったからな。しかも社長どころか今度は王様だ。
カチコチニ固まっている俺の隣にいる若様が苦笑交じりに話し出す。
「ヒデ君、そんなに緊張しなくていいから。そうだな、前に治療した患者の病後の経過を診に来たくらいに考えてくれればいいからね」
「は、はい、わかりました。そう考えると少し落ち着いてきました」
そんな様子を見てアーレさんが微笑む。
「わが主は公務の時は威厳を見せていますが、それ以外では気さくに私共にも話しかけて下さるぐらい気さくな方ですので、リラックスしてお会いする方がわが主も喜びますわ」
「はい、わかりました。大分楽になりました。お願いします」
そう言って背筋を伸ばして胸を張る。
アーレさんは俺のそんな姿を見てから目の前のドアをノックする。
「ヒデ様をお連れしました」
そう告げると中から「入りなさい」と低い目の渋い声が聞こえる。
アーレさんがドアを開け横にずれると中が良く見渡せた。
そこには初老の精悍な男性とその隣にいる美しい女性、それに若様に似ている成人の男性、それに白いドレスを着た若い女性だ。最後の女性は見覚えがあった。いつぞや若様が連れてきた聖女様だ。そこにいるみんなは立ち上がって迎えてくれている。
アーレさんに促される様に中に入ると初老の男性が近づいて来た。その顔には見覚えがある。治療した時は衰弱していたが確かによく見るとあの時の患者さんだ。
あ、じゃあこの人が王様なのか?急いで膝を着こうとした時初老の男性が急いで俺の腕をつかみ話し出す。
「いやいや待ってくれヒデ殿、跪く必要はない。跪いて迎えるべきはこちらの方だ。君にはこの命を救ってもらっただけではない、この国が現在も平和でいられるのはヒデ殿のお陰なのだからな」
え?ええ?そんな大それた事してないですよ?
頭が真っ白になって立っていると若様に似た成人男性が俺の手をとって話しかけてくる。
「ヒデ殿。妻を説得してくれた事、本当に感謝している。それだけじゃない。ヒデ殿のお陰で妻が陰謀に巻き込まれなくて済んだのだ。感謝します」
その横にいた聖女様は頭を下げて話し出す。
「わが師よ。お久し振りです。わが師には返しきれない大きな恩があります」
いや、いや、待って待って。
王の隣にいた女性も一歩前に出て話す。
「ヒデ殿、わが夫、そして息子夫婦までも助けていただきお礼申し上げます」
そう言いながら頭を下げる。
そこで部屋の中にいる執事さんやメイドさんがみんな頭を下げてくる。
「ああ、待って待って、待ってください。俺、じゃなくて私はそんな大層な事はしてません。もし良い結果になったのならそれは皆様が頑張ったからです。私のした事など大した事じゃないですから、皆さん頭を上げて下さい」
そこまで一気に話すと目の前の王様がにこやかに話す。
「ははは、息子の言う通り無欲な方の様だ。さあさあ、硬い話はここまでだ。これ以上やるとヒデ殿が城から出ていってしまうかもしれないからね」
そう言って笑う王様は若様に似ていた。まあ、親子だし似てて当たり前か。
横を見るとなんか必死に笑いを堪えている若様がいた。
俺がその事に気が付いてジト目で若様を見ると更に真っ赤な顔になって肩の揺れが激しくなった。
むうー。若様この状況の俺を見て楽しんでるな。
なんか若様に一矢報いたいな。あ、そうだ。
俺は若様の方を見てニヤリと笑うと王様に向かって話し出す。
「これも全て若様が、お供者一人のみでお忍びで私の住んでいる街に来て私を見出してくれたお陰ですよ」
お供一人とかいう所を強調して話した。
父である王は笑っていたが、その後ろの母である奥方様は若様に険しい視線を向けていた。
若様は徐々に俺の後ろに隠れて母親の視線から逃れている。
そして小声でおれに言う。
「ひどいじゃないかヒデ君。母は凄い心配症なんだから後でお叱りを受けちゃうよ」
俺は聞こえないふりをした。
そんな空気を察したのか王が大きな声で言う。
「ハハ、まあいつまでも立ち話もないだろ、腰をおろしてゆっくり話そうじゃないか。ヒデ君には色々話を聞きたい。今回の病魔騒ぎもそうだがその前にスラムを無くした話しなんかも聞きたいのだ」
そう言いながら席に着くように促されて座るとみんなも席に着く。
そして促されるままに話しをしていると病魔騒ぎの話しの時に女神様が降臨した話をすると何やら空気が変わった。
王様がさっきまでのにこやかな表情ではなく、きっと公務の時の顔なのだろうか、若様もお兄さんも顔が引き締まった。
「ふむ、やはり報告通りか。周囲の反応は勇者ケヴィン殿が召喚なさったと解釈しているのだな」
王が若様に向かって話す。それにすぐさま若様が答える。
「はい、その認識で間違いないです。その場の情報操作もしましたので。ただ召喚に詳しいものがその場にいたら漏洩しているかもしれません」
「ふむ、いずれにしても神聖王国が動くかもしれんなその辺りの動向には目を光らせておけ」
「ハッ、かしこまりました」
王はその答えを聞き頷くとまたにこやかな顔にもどり話し出す。
「ヒデ殿楽しい話を色々聞けて有意義な時間だった。また是非どこかで時間を作って話をしよう。申し訳ないがそろそろ時間切れの様だ。ヒデ殿はゆっくりしていってくれ」
そう言うと奥の扉から奥方様と退室していった。
まだ、若様のお兄さんがいるけど、取り合えず一つ肩の荷が下りた気がしたのでホッとした。
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