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4章
王都 その12
しおりを挟む≪さあ、始めようか≫
その一言の後、目の前に半透明のコンソールが浮かびあがり老騎士のデーターが流れる。
その情報に目を通しながら診断スキルに話しかける。
≪腕と目の再生は前にやった時の様な感じかな?≫
前とはシオンさんとお付きの爺やさんの治療をした時とヴァネッサさん時の事だ。
『はい、魔力コントロールは私がしますのでマスターは身体の構造をなるべく詳しく思い浮かべて下さい。後は私がフォローします。先ずは麻酔からいきます』
俺はその言葉に更に集中してヒールを唱える。老騎士に麻酔の手ごたえがした。
よし、麻酔は大丈夫みたいだね。
先ずは腕から始めよう。
「ヒール」
そう唱えるとなんかいつもよりゴッソリ魔力を持っていかれた感じがした。まあ、まだ余裕あるけど感覚的にいつもより多かったような?
そんな余計な事を考えている目の前でいつものヒールの光が収縮して、老騎士の腕の形になると光にひびが出来て光が砕け散ると老騎士の腕があらわれた。
治療を邪魔にならない場所で見ていた若様から静かな感嘆の声が上がった。
「凄い。前の時も驚きだったが。何をするかわかっていても、やはり女神様の奇跡を目の当たりにしているような感じがするよ」
「フフ、褒め過ぎですよ若様。さあ、次は目を治しちゃいましょうか」
俺は同じ様に左目もヒールをかける。
その後スキルに確認を取って老騎士の麻酔を解く。
麻酔を解く老騎士から唸り声が聞こえてきた。
「う、うぅぅむ、うん?」
そう言いながら頭を押さえながら起き上がる。
「ま、眩しい。ここは、いやそうだ」
「気分はどうですか?どこか痛いとか気持ち悪いとかないですか?」
「ヒ、ヒデ殿?あ、いやそうじゃった。見えている、あ、ああ、腕が、腕が戻っている。ああ、女神様に感謝を。い、いやヒデ殿にも感謝を」
老騎士は自分の戻った腕を軽く回したり指先を動かしたりと一通り確かめると両手を組んで教会でよく見る女神様に祈りをささげるポーズでブツブツと祈り出した。
俺はその祈りを邪魔しない様に一歩下がって見ていたら若様が小声で教えてくれた。
「彼は敬虔な女神信仰者でしかも牧師の位も貰っているほどなんだ」
ほうほう、なるほど教会ってなんか悪いイメージしかなかったけどこうやって熱心に祈っている姿はなんか見ている方も暖かな気持ちになる。
一瞬チビの方のチョロイン女神さまが思い浮かんだけど頭を振って先日会った仕事用のチョロイ‥‥‥ゲフンゲフン、女神様を思い浮かべる。俺に向けた悪戯が成功したニヤリとした顔でなくケヴィンさん達と話していたあのすまし顔の方だ。
そんな事を思い出しているとお祈りが終わったのか老騎士が話しかけてきた。
「ヒデ殿また剣を握れる日がこようとは思いもしませんでした。本当に感謝いたします。そして若様私の無理を聞いていただきありがとうございます」
「いえ、治療は私の趣味みたいなもんですから気にしないでください。それに報酬はいただきますからね」
最後の方はおどけた感じで言う。が、老騎士は顔を引き締めて深くお辞儀をすると頭を下げた状態で話し出す。
「はい、私の出来る事、持っている財の許す限りをお支払いします」
「え?いやいや、待ってください。あれ?若様に聞いてないですか?俺の治療費は銀貨一枚ですよ」
「は?え?あ、いや、銀貨?いや白銀貨一枚か?い、いえそんな安いわけが‥‥‥申し訳ないもう一度言って頂けますか?銀貨一枚と聞き間違えてしまいました」
「え?いえ、間違ってないですよ。ぎ・ん・か・い・ち・ま・い・です」
俺は銀一枚の言葉をわざとゆっくり話す。
老騎士はポカンとした顔をして俺を見ていたが俺に確認せずに今度は若様に確認している。
「若様、彼は相場というものを理解してないのでしょうか?」
その問いに若様が笑いながら話す。
「ハハ、そんな事ないのだが治療費に関しては絶対に譲らないんだよ。父の治療費も銀一枚だったしね」
その話を聞いた老騎士がまた短く祈り、俺の前に跪いてお祈りのポーズをとる。
「ああ、ヒデ殿、いや、ヒデ様はきっと女神様がこの世界に遣わした使徒であろう」
「え?ええー、い、いや、やめて下さいよそんな事ナイデスヨ」
そう言われてから、あ、そう言えばスキル直接貰ってるしあながち嘘でもないか?とか思ってしまって語尾が何か怪しくなってしまった。
老騎士はそんな俺の心情も知らずに腕を握りしめて女神様に祈りをささげている。
俺がアワアワとしていると若様が助け舟を出してくれた。
「僕もそう思っているよ。でもそれより今回の治療をどうやって公にするかだよ。元とは言え将軍、その将軍が新人を守り腕を失った話は有名な話だ。その将軍の腕や傷が戻っているとなるとヒデ君の事を探りに来る輩が出てくるかもしれない」
若様のその言葉に老騎士も祈りのポーズを解いて考え始めた。
++++++++++++++++++++++
大変ながらく更新せずにすいませんでした。_(_^_)_
実は五月末に四巻の発売が決定しました。
そんでもって今回が書籍版の最終話になります。
最後という事もあって物凄い加筆をしてます。新しい話や守護獣達が大活躍する話などを詰め込みましたよー。
編集者様が頑張って押し込んでくれました。
あの残念大福や嫌な領主の話も色々加筆してます。
そして、かわすみ様のイラストがまた凄いです。アオちゃんがちょ-カワイイーです。
ヴァネッサさんも書いてもらったのと何と言っても今回の目玉は守護獣達ですよ。
可愛いやらカッコイイやもう大変です。
よろしくお願いします。_(_^_)_
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