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1章

side ブルース 前編

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自分がいつからここにいるのかは覚えてない。そんな事考える暇もないしな、スラムで生きる為に毎日必死だった。

 そんなある日、妙な噂が流れてきた。ただで子供達に飯を配っている奴らがいるらしい。前にもあった確かに飯は配ってたが、その後馬車に乗せられて戻って来る事はなかった。

 大人達は「人攫いだな、奴隷にでもされて売られたんだろう」と言っていた。ドレイが何かは知らなかったが、今よりひどい事もない気がした。

 今度そいつ等が来たらついて行こうと決めて噂のあった辺りをうろついていたら、炊き出しの支度をしている女二人と男一人の三人がいた。俺は躊躇なくそいつらの前に出て行った。

「あんた達が人攫いなのか?」

 遠くで見ても大きく見えたが近くに来るともっとデカい男が苦笑いを作りながら答えた。
「いやいや、僕らは孤児院を開いたばかりだから、この辺で食べる事の出来ない子や住む場所のない子に来てもらう為に探しているのさ」

「ふーん、なあ、飯食ってもいいのか?」
「ああ、いいよ。君は親がいるのかい?名前は?」
「ふが、ふぐぐんわんぐ」
「ハハハ、ゆっくり食べてからでいいよ」

 デカい男の手が頭の上に来たので殴られると思って構えたら頭をなでられた。初めてしてもらった行為だったが懐かしくて嬉しくなった。

「おっちゃん、俺、親はいない。後名前もないよ」
 一瞬辛そうな顔をしてから無理やり笑顔にして話し出した。

「そうか、じゃあ君の名はブルースにしよう。どうだ?」
「どうだ?って今まで無くても困らなかったぞ?」
「でもあった方がいいだろ?」

「……確かに、よし、今日から俺はブルースだ」
「ハハ、気にいってくれて嬉しいよ。それでブルースは一人で住んでいるのかい?」
「そうだよ、住んでる場所は決まって無いけどね」
「そうか、じゃあ僕らと一緒に暮らさないか?」
「うん、元々そのつもりでここに来たんだ」
「よし、じゃあ、僕の事は院長先生でこっちは僕の奥さんでエミリア先生、こちらはお手伝いしてくれてるホリー先生だ」
「えっと、院長先生とエミリア先生、ホリー先生」
「そうだよ、今日からみんな家族だ。これからブルースみたいな子をたくさん集めてみんなで家族になるんだよ」

 この時は家族が何なのかもわからなかった。ただ暖かいご飯と安全な寝場所が出来たくらいに考えていた。この後四人の俺と同じくらいの子供が一緒に来ることになった。

 荷物を載せた車輪二つに板を乗せただけの質素な物だが院長先生が引っ張ればどんなものでも運べそうだった。それに乗って少しも行かないうちに着いた場所が孤児院があった。

 院についてまず身体をお湯で洗われて新しい洋服が配られたそれを着るとベッドがたくさん並んでいる部屋に連れていかれ一人ずつベッドの場所を決められた。まだ寝るには早い時間だがベッドに横になると、いい匂いなのと暖かさと安心感からか直ぐに寝てしまった。

 生活がガラッと変わったが三日もすれば慣れてくる。後から来た子達にここのルールや仕事の分担などを教えたりとそんな日々が何日かたった時、背の高い少しトロそうな男の子、確か同い年でスミーって名前だったかな?
 スミーより背が少し小さいが年齢は二つ上の三人に囲まれて殴られていた。殴っている奴らの目が自分より弱い者を見つけ憂さを晴らしているスラムの奴らの事を思い出させ腹が立ってきた。

「おい、お前ら三対一とは卑怯じゃないか?スミーに加勢するぜ」
「やば、ブルースだ。あいつ強いんだよ」
「ふん、どうせこいつは丸まってるだけなんだからブルース一人だやっちまえ」
「わかったよ」

「お前らみたいなノロマにつかまるかよ」
 走りこんでくる三人に向かって走り間に滑り込むと足を掴んで転ばせる。もう一人を振り向く前に背中に蹴りを入れて倒す。最後の一人は正面から頭突きでと思った時にあれが起こった。咳だ、俺は咳が出ると何故か止まらなくなる。他の奴は俺がふざけていると思っているがこっちは必死だしばらく静かにしているとおさまるのだが、今はヤバイ咳をして苦しんでる俺に奴らが集まる。

「こいつ、こうなるとしばらく動けないんだぜ。お前ら好きなだけおかえししてやれ」
「クソー、膝小僧すりむいちまったよ」
「ふん、いいざまだ、覚悟しろよ」

 クソー、こんなノロマなやつらに、咳さえ出なければ。少しでもダメージを減らすように丸くなって背をむける。覚悟していたが攻撃がやってこない?顔を上げてみるとスミーが俺の前に立っていた。近くに三人組の二人が倒れていた。もう一人もスミーに殴られてひっくりかえった。

「ブルース君大丈夫?」
「ああ、咳も収まったし大丈夫だ。しかし助けるつもりが助けられるとはなさけない」
「そんなことないよ、戦ってるブルース君を見てたら僕も勇気が出てきたんだもん」

 まあ、このあと暴力母ちゃんことエミリア先生に五人まとめてゲンコツされた。院長先生は笑いながら「大きな怪我がなければ喧嘩もまたよしだ」といってエミリア先生にお小言を言われていた。

 そんな事があってから、スミーとはよくつるむようになった。そして同じ頃に院にガラの悪い連中が来るようになった。その時はわからなかったが、ここいらを一帯をナワ張りにしている奴らの下っ端らしい。金でもせびりに来たのだろうが院長先生は絶対に渡さなかった。院長先生は元冒険者だ、本気を出せば下っ端ごときなんてことないだろうが絶対に手を出さなかった。

 それからさらに何年か経って卒業生達は冒険者になったりで院に恩替えしと言って支援をしていた。俺は咳のせいで冒険者にはならなかった、いやなれなかった。

 この頃俺の目に妙な物が映るようになった。人の周囲に色が見えるようになった。よく見てみるとどうやら感情ごとに色が変わるらしい。平然な顔をしているが驚いていたり喜んでいたり、これはいい、嘘をついていたらすぐにわかる。確かスキルとかいうのだったかな?この力を使って何か出来ないかと考えていた時に院長先生が通りかかった。

 いたずら心でスキルを発動してみた。院長先生は真っ白な喜びの色を纏っていた。
「院長先生、みんな冒険者になって院に援助してるのに何も出来なくてごめんなさい」

「ハハハ、なんだブルースらしくないなーそんなこと気にしなくていいんだぞ。他のみんなも自分の為に頑張ってくれればいいのに気にかけてくれるなんて嬉しいよ」

 そう言っている院長先生はずっと喜びの色から何も混ざらなかった。この先たくさんの人間を見てきたが院長先生の様な喜びの色がいつも纏っている人間には会わなかった。

 あのおかしな男に会うまでは。

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終わらなかったので2話に分けました。
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