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1章
その後 side ヒカリ
しおりを挟むキャロラインがこの国を出てから少しばかりの年月が過ぎた。以前よりは下火になってきたお家騒動だが完全には消えていない顔を合わせれば、嫌味の言い合いになり、最後には口汚く罵り合うのが日常になっていた。
これだけトップが揉めていても他国の侵略を許さないのは、この国の優れた将軍あっての事、最初の頃は諫めもしたが聞き入れない王族に嫌気がさしサッサと辺境守備の任務に勝手に就き他の国に睨みを効かしている。
この国は議会制なので王の意見でも議会を通し可決されないと実行できない。前王の時はほとんど機能していなかった議会制だが前王妃様が「いつか必要になる時が来る」と言って議会制を導入して議会を月一で開き、当時はほとんどお茶会のようになっていたのが、今は王族の暴走を食い止める唯一の武器となって王国崩壊を食い止めている。
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sideヒカリ
私はこの世界に来る前は日本で高校生をしていた。どうやら、事故に巻き込まれて死んだらしい。そして女神様にお願いして大好きだった乙女ゲームの世界に行かせてもらった。
乙女ゲームの物語の始まりはこうだった。
私は街の端にある一軒家に母と私だけの母子家庭で育った。貧しいながらも楽しく暮らしていたが母が病気で亡くなってしまう。悲しみの淵に沈んでいた時男爵である父が迎えに来てくれて物語が始まる。
しかし、微妙に違う所がポツポツある。まず、国の名前が違う。なに?ノース・ゴッドケン国って?私が知ってるのはノース・ローズ王国のはず。そして、母が亡くなったのに男爵が迎えに来ない、これでは物語が始まらない。しかたないので必要な物と男爵の娘である証拠の手紙を持って男爵の屋敷に乗り込んだ。証拠があるので何とか認めさせ学園に入れてさえくれれば後は何もいらないという条件で養女になった。
やっとの思いで学園に入学してみればまた微妙に違う。ピエール王子にちょっかい出しても婚約者であるキャロラインが意地悪をしてこないのだ。しかたないのでその辺にいた女子生徒に意地悪役に仕立て上げ好感度稼いだ。
あれやこれやなんとかゲームの知識を使って三年間を乗り過ごし最後のイベントである卒業パーティーまでこぎ着けた。
ここでも色々違っていた。キャロラインが悔しがり私を罵り衛兵に引きずられていくはずなのに、私の事を褒めだして、見惚れるほどの淑女の礼をしてから悠然と去っていく、まるでこっちが取り残されてしまったかの様に思えたほどだった。
色々あったが何とか入り込んだ王族では、寝る暇もないほど忙しかった。王族の振る舞い、しぐさ、言葉遣い等々覚える事が山ほどあった。こんな大変な思いをしているのに五人みんなの相手もしないといけないし流石にあの時は大変だった。
ピエール様のお母様である王妃様に最後の授業と言われて話しをした。
「んー、まあ、ギリギリだけど及第点をあげるわ。これで、出来る事は全て終わったかな?」
「ありがとうございます。これからも精進いたしますわ」
「まあ、それは当然ね。貴方に力が無かったのは残念だけど、逆に考えれば何も出来ないのだから安心ね。それに、国民には少しつらい時期になってしまうけど、その後の王国の繁栄は計り知れない物があるみたいだし少しだけ我慢してもらいましょう。息子達の事は自業自得のとこもあるから仕方ないわね」
「何の事ですの?」
「ウフフ、気にしないでこっちの事よ」
この後、王様は第一王子に王座を譲って王妃様とどこかに行かれてしまった。まさか、譲って直ぐに旅に出たと聞いた時は無責任なとも思ったが、何でもこの国の人は何故だか流浪したがる傾向があるらしい。何じゃそれ?まあ、うるさく言う人間が減るのは良い事だ。
義兄夫婦は嫌悪感しかないのだが、王妃なんてやるより今の方が楽に動ける事に気付いた。ピエール様はなんとか王になろうと躍起になっているが議会制が邪魔して何も出来てないのが現状だ。
まあ、せっかくの異世界生活なんだから楽しまないとね、とか思ってたらピエ-ル様の子供を授かった。うん、間違いないっと思う。逆算しても合ってるはず。
生まれてきたら金髪だったのでピエール様の子で間違いないわね。
そんな心配をしてたら産婆さんから、冗談交じりで生まれてすぐなら髪の色が変えられる魔法があるという話しを聞いた。調べて見たら本当にあった。流石に目の色は仕方ないけど髪さえ一緒なら平気でしょう。
心配のタガが外れたら、三人も生んでしまった。まあ、多い方が将来安心だしいいでしょう。髪の色もちゃんと金髪にしたし問題ないわ。
それから数年間何もなく過ぎ去った。王家の人気が今や無いに等しいとも知らずに。
周りの将軍達や大臣たちに長男であるピートが優秀であると褒められる。母親としては嬉しいのだが十歳の子供に顔を見るたびにこう言われる。
「母上、父上、もう少し生活を見直し下々の者の模範となって下さい」
流石に、言われ続けると疎ましくなってくる。いい加減うるさくなってきたのでほかの国の学校に入れてしまおうと計画していたら。
「母上、父上、残念です。何とか立ち直っていただきたかったのですが」
こういった後、将軍達と衛兵が入ってくるなり私とピエール様を拘束した。
「ちょっと、貴方の母である私に何をするのです?貴方達も直ぐに私と殿下の拘束を外しなさい王族に対して無礼な」
「母上、もう遅いのですよ。現国王の伯父様も今頃同じ様に拘束されています」
「なんですって、それは朗報ですね」
「こんな時まで、そのような事を言われるのですか?もうこんな母上は見たくない連れてってください」
「はあ?何を言ってるのです?これを外させなさい。母親にこの様な仕打ちをこの親不孝者」
ピートの隣にいた将軍が鼓膜が破れるかと思う程の大声で叱咤した。
「黙れ!ピート様がどれ程王族を思い何とか建て直そうと、頑張ってらしたのも知らない痴れ者が。この様な幼子でさえ国を憂えてるのに貴様らは何をした?自分たちの要求がある時しか顔を出さず王族の責務も果たさずに、このような時ばかり母だの王族だのどの口が申されるのか?今ここでその素っ首を切り落とされたいか」
「ひっ、な、何よ、わ、私が何をしたというのです?何もしてない者をこのようなーー」
「母上、王族は何もしてないでは済まされません、国民の為に働いてこそ王族でいられるのです。さようなら母上、父上、連れていけ」
ピエール様も何か言っていたが衛兵に殴られて気絶していた。
その後、牢屋に入れられた。
「ちょっと何で王族の私が地下牢に入れられるのよ」
牢番がめんどくさそうにやって来て鉄格子を蹴る。
「うるせーな。何が王族だ。あんた巷でなんて言われてるか知ってるか?」
「な、何です?そのような事興味御座いませわ」
「なーにが、御座いませんわだ。気取りやがって薄本夫人様がよ」
「な、何ですのその呼び名は?」
「あんたネタにつきないからね、旦那がいるのに宰相の息子、親衛隊長の息子、大臣の息子、司祭様の息子だろ?まあみんな今は勘当されたり他の国に飛ばされたり、ああ、親衛隊長の息子は新兵と一緒に最前線おくりにされたな。あとは、昔、自分の家を訴えた奴は修道院送りにされたらしいな」
「なんですって?どうも最近会えないと思ったら」
「ハッ、自分で認めやがった。薄本夫人様がよ」
ヒマなのかもう一人やって来て蔑む目で見ながら話し出す。
「しっかし、あんたら王族は本当にどうしようもないな。王様は趣味の剣収集で勝手に国費横領するし、あんたの旦那は片っ端から女口説いて妾にして国費を無駄遣いするしよ、一番許せないのがレア王妃だ。あの女あろう事かピート様のお命を狙いやがって。処刑じゃなくて俺が殺してやりてえよ」
「そんなことしてたのあの女」
「まあ、あんたのも似たようなもんだ。小さい頃からピート様を無視して孤独にしてきたのはどこ母親だ、それだけでも殺す理由になるぜ」
「私が何したと言うのよ。処刑されるような事何もしてないわよ?」
「はあ?姦通罪は処刑の中でも火焙りの重い罪だぜ?」
「なんでよ、ただの浮気でしょ?なんでそんな重いのよ?」
「そんなことも知らないでやってたのかよ。クソッこんな奴が王族やってりゃ国だっておかしくなるぜ」
「う、うそでしょ?だって妾とかみんな作ってるじゃない?何で女はダメなのよ?」
「知るかバカが本当にバカだな。でもな、あんたの事一つだけ感謝してるんだよ」
「感謝してるなら今すぐここを開けて私を逃がしなさいよ」
「ハハ、感謝している事っていうのはピート様を生んでくれた事だよ。ピート様はとてもお優しい方だよ、こんな牢番の俺達にまでお声をかけて下さる」
「あんたの事も随分庇ってたがもう限界だったんだろうな。あんたの事どーでもいいが、ピート様が心を痛めてると思うと辛くなるぜ」
こののち、サント王、レア王妃、ピエール殿下、ヒカリ夫人は処刑される。
その後、ピートが王座に就く。他の兄弟もピート王を助け王家は強固なものに変わっていく。ピート王は善政を行い、建国以来の問題であった北の蛮族との友好を説得のみで行うなど数々の逸話を作っていく。
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