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2章

負けられないもの

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「はい、オークの唐揚げ出来たわよー。はい後、エール四つね」
「お、来た来た。ありがとね。ママさん」
「ハーイ、ゆっくりしていってねー。‥‥‥冒険者達が戻って来るこの時間は忙しいわねー」
「ママさん、俺もエールおかわりな」
「ザルドちゃん、きょうはクエスト行ってないんでしょう?さっきどこか行ってたみたいだけど?」
「ああ、ヒデに付き合ってちょっとな」
「あら?ヒデちゃんとお出かけ?」
「いや、まあそうなんだけどな。さっきケイトが倒れたろ?ヒデがその犯人を捕まえに行くから手を貸してくれって頼まれてな」

「ああ、あれね、ビックリしたけど、ケイトちゃんも直ぐに元気になったし良かったわね。ハッ」
「あ?なあんだよ急に大きな声出して?」
「いえ?何かしら?今すぐ診療所に行かないといけない気がしたんだけど?」
「はあ?なんじゃそりゃ?と言っても今は門番が立っていて中はに入れねーぞ?」
「なにそれ?あら本当だわ二人もいるじゃない?」

「ママさん、こっちにエール三つ大至急ねー」
「クッ、こんな時に‥‥‥もう、ハーイ今持っていくわー。仕事がなければ直ぐにでも行くのに‥‥‥」



 診療所に椅子は二つしかないので俺と若様が座って後ろの右側ににキャリーさん、そして何故か左側にシオンさんが立っている。
「あれ?シオンさんこっちなの?」
「え?いや、だって、ほら、ねー?」

 シドロモドロのシオンさんの顔を見ていたら、若様がため息と共にシオンさんに声をかけた。
「シオン、気持ちはわかるけど話しが進まないから‥‥‥」
「ウッ」

 しょんぼりした顔をしてから俺の顔を見て、そのまま目線を上げるとしょんぼりした顔が急に目を吊り上げて怒った顔に変わった。目線をたどると俺の後ろにいるキャリーさんがいた。キャリーさんの顔が勝ち誇ったような顔をしていて鼻で笑った。その笑い方が気に障ったのか俺の頭越しに二人がゼロ距離ガンつけをしている。このままでは話が進まないので二人に話しかけた。

「ん?まあ、ほらなんか真面目な話みたいですから、皆さんちゃんと若様のお話を聞きましょうね?」
「「ハーイ」」
 キャリーさんとシオンさんのお返事がハモった。仲良しさんかっ?

「ありがとうヒデ君、じゃあ早速本題に入らせてもらうよ。まず、ゲオルゲなんだけどね、目的はわからないんだけど、呪いをかけられるマジックアイテムを街や村で売り歩いているんだ」

 ついさっきゲオルゲと話した事を思い出して若様に話す。
「ん?目的と言えるかどうかわからないですが、本人は呪いを使った人の囚われた死体、あ、したいじゃなくて魂を集めてるっていったのかな?まあそれを集めてご主人様に持って行くって言てましたよ?」

「え?ちょ、ちょっと待ってくれ。彼から聞いたのかい?」
「へ?そうですけど?」

 若様が大口を開けてポカンとしている。イケメンはどんな顔していても変な顔にならないな?などとくだらない事を思っていると若様が声を絞り出して話す。
「ヒデ君は本当にどうなってるんだい?」
「え?何ですかその質問?ねえキャリーさん?」

「いえ?若様の気持ちはよくわかりますわ。私達が身動き取れない状況の中でお師匠様は普通に話してましたからね」
「え?まさかキャリーさんも若様に同感なの?」

 みんなが呆然としてる中シオンさんが嬉しそうに話す。
「流石はヒデ様ですわ。あのゲオルゲは名前と年恰好くらいしか情報がなかったんですのよ」
その後を若様が続ける。

「彼が接触するのは呪いを渡す相手のみなんだよ。そしてその接触した人間は皆、呪いを使って変死体でみつかっているんだ」
「変死体?」
「そう、身体の一部に魚のウロコの様なもの以外の外傷が無いのだけど皆死んでいるんだ」
「うーん、魂を何らかの方法で抜いたせいで死んじゃうのかな?」

「きっとそうだね。他に何かゲオルゲと話した事はないかい?とにかく情報が無くてね。何でもいいから話してくれ」

「後ですか?あ、なんか俺の解呪に興味持ったみたいとか‥‥‥他に解呪した事言ったら呪いを使った奴をご主人様に持って行くって言ってたのと‥‥‥うーん、そんなとこ…ろ…か…な?え?何?今度はシオンさんまで眉間にシワ寄せちゃって」

「あーヒデ君、もしかしてヒデ君がゲオルゲに目を付けられたんじゃ‥‥‥、それならちょっとまずいかもしれないねー。だからヒデ君の周りに護衛と言うか、連絡係を置くのを許可してもらえないかな?」
「え?護衛って四六時中ついてるの?それはチョット‥‥‥」
「ああ?そんな事ないよ?常に近くにいるけど姿は見せないから」

「え?そんな忍者みたいな事出来るんですか?」
「その忍者が何かわからないけど、ちょっと待っていてね。シオン」
「はい、アオ、アカ」
「「はい。ここに」」
 シオンさんが名前を呼ぶと、声と共に今まで誰も居なかった。新顔の子の横に髪の色と髪型が違う同じ顔が現れた。

「え?え?分身の術?あ、でも髪型違うか後色も、じゃあ三つ子?」
「お、凄いなヒデ君正解だよ。このアカ君、アオ君、キイ君は三つ子なんだよ」
ムーーー、ツッコミたーーーい。信号機かよって言いたい。言っても意味通じないだろうけど。

「ヒデ君?何で頭を抱えてるんだい?」
いえ、本当ならここをゴロゴロしたいくらい憤ってます。

「いいえ、何でもないです。若様」
「そうなのかい?じゃあ、話を続けるよ。この子達は特殊なスキルがあって三人ならどんなに離れていてもテレパシーで連絡が出来るんだ」

「あ、こないだ若様がタイミング良く現れたのってもしかしたら?」
「うん、そうなんだ。君の許可も取らないで護衛を置いた事は謝罪するよ」

「え?謝罪なんてそんなのいらないですよ?若様が俺の為にしてくれたのはわかってますから。それに俺が困る事を若様がする訳ないですからね」

「フフ、ありがとう、じゃあその期待を裏切らないようにしないとね」
「ハハ、若様がそんな事するの想像も出来ないですよー」

 目の端に肩を寄せ合って俺に背中を向けているキャリーさんとシオンさんが見えた。やっぱ仲良しさんなのか?

「ちょっと、あれなんですの?ヒデ様なんかいい笑顔してらっしゃいますけどー?」
「貴方のとこの若様がまさかのライバルですの?」
「え?まさか?いえいえ、ありえないですわ?」

「あ、そうですわ、お師匠様は大きなお胸がお好きみたいでしたし」
「チョ、それ本当?」

 お互いの胸を見ながら‥‥‥
((勝った))
「「ハァ?何、勝った。みたいな顔をしてますの?」」

「どう見たって私の勝ちでしょうが?」
「ハァ?貴方こそ目が耄碌してるんじゃないの?」
 あれ?なんか急に喧嘩しだした。さっきまで仲良さそうに内緒話してたのに?

「君たちなんで喧嘩してるの?さっきまで仲良しだったのに?」
そう言い終わる前に二人の声が被った。
「「どちらの胸の方が大きいでしょうか?」」

「‥‥‥え?」
 言っている意味がわからず。いや、理解を拒否しているかのように考えがまとまらなかったので助けを求める様に若様の方を向くと、すでにそっぽを向いていた。信号機ちゃんも同じ様にみんな違う方を向いている。

 仕方なくキャリーさんとシオンさんの方を向くと二人共顔が見えないほど身体を後ろに反らせていた。
‥‥‥ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。同じくらいです。とか答えても収まらないだろうし。それにコレハコタエテハイケナイ‥‥‥

 脳が考える事を止めた時、後ろの壁が突然崩れて砂煙の中からママさんが現れた。
「ヒデちゃん、何故かここに来ないといけないような気がして急いできたわ」」


 何でママさんが壁を壊して登場したんだ?だが、チャンスだ。これは、きっと最後のチャンス、このチャンスを活かさなければ‥‥‥よしこの手だ(この間0.5秒)

「若様、なんか滅茶苦茶になっちゃったんで、今日の所は一旦帰ってもらって後日改めて話しましょう」
 必死に若様にアイコンタクトをする。

「え?あ、そうだね。じゃあ今日は帰るかな」
 壁の壊れる音に気付いてヴァネッサさんとダニエルさんが中に入って来る。壊れた壁の前にいる人物が見た事のある人なのとシオンさんの身体を反らせている格好を交互に見て困惑していた。

 若様が絶妙なコントロールで親衛隊の人だけテレポートさせて帰って行った。

 た、助かった。そう思った途端、へなへなと床に腰をおろした。

 目の前には、困惑気味のママさんと身体を反らしたままのキャリーさんだけが残っていた。
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