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2章
スラム街
しおりを挟むお昼ご飯をママさんに作ってもらってミラと二人で食べる。
「キャリーちゃんまだクエストから帰ってこないね?」
ミラは小さな眉間を歪ませてつまらなそうに話す。
「そうだね、今回のクエストはすこし遠出になるから時間がかかるって言ってたしね」
「言ってたけどもう七日も経ってるのに」
「いやいや、護衛とかだったら往復で十日や二十日なんかかかるらしいよ」
「むーそうなんだ。ヒデ兄師匠、今日はこの後どうするの?」
「今日は、工場に顔出しに行く。たまには来いってヒューイさんに言われちゃったから。ミラも来る?」
「うん、もちろん行く」
「じゃあ、このまま行こうか。ママさんご馳走様でした。俺達午後から工場に行ってくるね」
「はい、お粗末様。いってらっしゃい。また危険な事に首を突っ込まないようにね」
「知らんがなー、向こうからかってに来るんだから」
「そうなの?私が幸運のチューしてあげようかしら?」
「いらないですー。ほら行くぞミラ」
そう言うとミラを小脇に抱えてギルドを飛び出した。
ギルドから離れてからミラを下ろしながら話す。
「まったく、本気でしようとするからなアレ。捕まったら筋力じゃ絶対敵わないしな、逃げるしかない」
「でも、ママさんと仲いいよねヒデ兄師匠」
「サラッと怖い事言うなよ」
「エッ?仲良しだよ?私とキャリーちゃんみたいに」
「ああ、そういう意味ね。そうだね、友達としてならね」
そんな事を話しながら歩いて行き、スラムに入る為に道を右に曲がると見知らぬ道に出た。
「あれ?ここで合ってるよね?」
「ん?道なら間違いないよ?いつもこの道通ってるんだから」
確かにミラの言う通り道は間違ってない。周りに立っている建物が変わっているのだ。前は空き家で半壊している様な家もあったのだが、今は半壊の家などは全く無くそれどころか店がチラホラあるのだ。パン屋さんに雑貨屋さん、洋服屋さんまであった。
「お店が出来たんだ?」
「そうだよ、お店ならここより街灯を建てた道の方が多いよ」
「え?ここだけじゃなくてここより奥に店があるの?完全にスラムの中じゃん」
「そうだけど、街灯の道は奇麗に石とか敷いてあるからそこだけ違うとこみたいなの。だから外の道まで綺麗にしましょうって院長先生が言ってみんなで掃除をしてたら大工さん達も手伝ってくれてこうなったの」
「院長先生スゲーな!」
「でも、院長先生はヒデ兄師匠にばかり任せてないで、自分たちに出来る事をしましょう。って言ってたよ?」
「え?俺?俺口出すだけで何もしてないんだけどね」
何となく恥ずかしくなって周りを見ながら歩いて行く。確かに街灯の道はここは本当にスラムだったのかと言いたくなるほど綺麗になっていた。
「ここを左に行くと孤児院があるよね?」
「うん、そうだよ街灯が院まで並んでるんだよ」
「親方仕事早いなー。あ、寮の横とかに雑貨屋さんとかパン屋さんや食べ物屋まである。何かお土産買って行こ」
近くのパン屋さんに入ってあんぱんみたいなパンとか甘そうなのを適当に選んで買った。
街灯の道は道幅が広く人通りが多くても歩きやすい。何より通りを歩いてる人達の服装が前の様にボロでなくこざっぱりとしているのに何となく嬉しくなりニコニコして歩いて行った。
工場の前まで着くと門番のエディさんが笑顔で迎えてくれた。
「ヒデさん何か楽しい事でもあったのかい?嬉しそうな顔して」
「こんにちはエディさん。街の様子を見てたら嬉しくなっちゃって」
「はは、そうだな。この周辺だけだが前とは比べようもないほど変わったよ」
「うん、それにみんながイキイキとしてて何か嬉しいです」
「前はみんな夢も希望もないような顔してたしな。まあ実際この場所には夢も希望も無かった。だがヒデさんが夢も希望も与えてくれたんだぜ」
「はぁ?やめて下さいよ。やってくれたのはヒューイさんやウィルさんですよ」
エディさんがニヤリとしてから話す。
「そうなのかい?まあ、ヒデさんがそう言うならそれでいいが、俺は間違いなくヒデさんに救われたからな。夢も希望も与えてくれたのは間違いなくヒデさんだ」
そう言いながら脚をポンポンと叩く。
「もう、ほめても何も出ないよ。あ、これ後で食べて下さい」
そう言ってパンを何個か渡す。
「お、ご馳走様ヒデさん、後で他の連中といただくよ」
門を通って少し進んでからミラが顔を覗き込んで言ってきた。
「ヒデ兄師匠、お顔真っ赤だよ」
照れ隠しにミラを担ぎ上げてそのまま肩車をする。フフ、こうすれば顔は見えないだろう。肩車されたミラは大はしゃぎしたので。数分も持たずに下ろした。だって腰がやばそうだったんだもん。少し前は怖いくらい軽かったのだが‥‥‥口には出さないがそんな事にも嬉しくなった。
遊んでいるうちに事務所までたどりついていた。ドアを開けて中に入る。
「お、珍しい人が来たぞ」
にこやかな顔をしてもはや定番になって来た挨拶をするヒューイさん。事務所の中にはエド君にアルミンさんとローさんに珍しくウィルさんもいた。みんなはヒューイさんの言葉に笑いながら挨拶してくれた。
「こんにちは。はいお土産」
そう言ってさっき買ってきたパンをヒューイさんに渡した。
「お、何々?甘そうな菓子パンだ。アルミンお茶にしよ折角だしみんなでいただこう」
ほぼ荷物置き場となっている自分の席に座ってお茶を飲む。ミラも隣に椅子を持ってきて座ってパンを食べている。
「そう言えば工場の前の道凄い事になってたね」
お茶を飲みながらヒューイさんに話す。
「ん?あ、そうかヒデさん前に来てから結構日にち経ってるからな。まあ大工の親方が色々なとこに声かけてくれて人海戦術じゃないけど凄いスピードで仕上げてくれたんだよ。実際、街灯の設置は急がせたのはこっちだけどね」
「街灯もだけど店が随分出来てるよね?」
その質問にヒューイさんが嬉しそうに答える。
「そうなんだよ。最初は知り合いの雑貨屋さんに店出さないかってこっちから声かけたんだよ。最初はスラムだし渋ってたんだけど無理矢理連れてきて街灯の道を見せたら直ぐに店を出してくれたんだよ」
「じゃあ、声かけたのは最初の一軒だけ?」
「うん、こうなるのは何となくわかってたしね。俺だったらこんな立地条件の良い所知ってたら絶対店出すよ。しかもこれから育っていく町だし景気も良いしね」
「それにしても店が出来上がるの早すぎない?」
「それこそさっき言った親方の人海戦術だよ。景観に悪いからって半壊してる家なんかはドンドン取り壊してくれるしね」
「え?依頼も無いのに?儲けとか大丈夫なのかな?」
ヒューイさんが笑いながら話を続ける。
「ヒデさんが親方に話したあの話通りになっただけだよ」
「あの話って何?」
「アレだよ、割れ窓理論とか言ってたやつ」
「あー、何か話してたような気がするけど。街の発展までに役に立つとは」
「まあ、実際半壊してた家とか建て直してたら店を出したり住む人も増えたりで親方に依頼がドンドン入って来たりで忙しいらしいよ。後ブルースさんのお店今凄い事になってるみたい」
ヒューイさんの言葉を引き継ぐようにローさんが話す。
「そうなんですよ。土地を売らないで家賃を取るって形らしいですけど、それがまた良いらしくて大手の店が試しにあの通りに店出して今の状態になってるんですよ」
「へー、中々上手い事やってるみたいだね。親方もブルースさんも」
アルミンさんも話に加わって来る。
「街灯のおかげもありますけど、前とは比べようもないくらい道が安全になりましたしね。後、雑貨屋さんとかが遅くまでやってくれるのは助かりますし」
ウィルさんがお茶を飲みながら話に加わる。
「まあ、安全だから遅くまで店を開けていられるんだろうね」
なんかいい感じで町が栄えてきて嬉しいなー。ここで何か後押しできないかなー。
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