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2章
お祭りの準備 閑話 その3
しおりを挟むママさんが子ネコを覗きながら恐ろしい事を呟いた。
「本当にかわいいわねー。きっと私達の子供もこれくらいカワイ‥‥‥」
「いや、ありえないから」
最後まで言わせない様に急いでツッコミを入れる。
「あら?何??私の妄想がヒデちゃんに届いちゃった??」
キョトンとした顔をこちらに向けて来る。
「いや、妄想って、自分の口で言ってたし。ダダ漏れだったよ」
「あら嫌だ。ヒデちゃんと以心伝心になっちゃったのかと思ったわ。ポッ」
背中が急に冷えたようにゾクッとした。
「自分の口でポッとか言うなー。こんな所で道草してないで早く診療所に帰らないと、キャリーさん一人で留守番してくれてるらしいからね」
「そうね、キャロラインちゃんが一人で留守番って聞いた男共が急いで列作っていたわよ」
「あれ?そうなの?少し前はみんな何かキャリーさんだけの時って近寄らなかったような気がするんだけど??」
ママさんが楽しげに笑いながら答える。
「ウフフ、少し前まではそうだったんだけど、最近キャロラインちゃんの雰囲気が変わって優しい感じになってきたから、男共がなんとか仲良くなれないか頑張ってるみたいなのよ」
「え?キャリーさんって最初っから優しい人だったような気がするんだけど??」
「ハァーーーッ、キャロラインちゃんが可哀そうになってきたわ」
ママさんがため息をつ言ってジト目で見ながら何かつぶやいていたがよく聞こえなかった。
「え?何?何って言ったの?」
「何でもないわよ。早く診療所に行ってあげなさいな」
そう言いながら俺の背中を押して酒場から追い出した。
「わわっ、押さなくてももう行くって。子ネコが起きちゃうでしょ」
「フンだ、知らないんだから」
大男がクネクネしながらやっても恐怖しか生まないであろう、プイッとしたポーズをとっているママさんを置いて診療所に向かう。
酒場を出た時点で診療所の待合の椅子が見えるので、ソワソワと待っている冒険者達がいるのが直ぐにわかった。
「わっ!本当だ結構並んでる」
独り言を言いながら。待合室に向かうと何人かが俺に気が付いた。
「げっ、ヒデが帰って来ちゃったぞ」
「クソッ、もう少しで俺の番なのに」
「誰か足止めしとけよ」
コソコソと小さい声で話している。
ざっと見た感じ重症の人はいないようだけど‥‥‥
一応診ておくかな。
【診断】
≪どお?重症の人いるかい?≫
『いえ?どの方も軽症の様ですね。何人かはお元気の様ですが』
≪わかった。ありがとう≫
まあ、そうだろうな。
「はいじゃあ、まとめて治しちゃいますねー」
俺の言葉に急いで席を立ち上がった
「いやいや、ヒデも帰って来たばっかりだし疲れてるだろうからな、俺達は我慢して待ってキャロラインさんの診察を受けるよ」
「ウンウンそうだな、その通りだ。ヒデは酒場でも行って休んでるといい」
「そうだそうだー」
「そうかー、心配してくれてありがとう。じゃあ、ちょっと休ませてもらーーと見せかけて」
《ヒール》広範囲版
酒場の方に行くと見せかけて急いで振り返ってヒールをかける。
「ちょ、ヒデきたねーぞ」
「あ、あー、怪我が治っていくー」
「クソッ、不意打ちとか卑怯だぞ。見損なったぞヒデ」
「次、俺の番だったのにー」
不満を口にする冒険者達。
「うっせーうっせー、いつもなら来ないような怪我のくせに、中には仮病まで使ってる奴もいやがる。はいはい、散った散った」
口々に不満を言う冒険者達に向かって手をひらひらさせながら追い返す。
「クソッ、覚えてやがれ。次は文句の付けようがないくらいの怪我してきてやる」
「バーカバーカ、ヒデのバーカ」
みんなブツブツと言いながら酒場に向かって歩いて行った。
「いや、怪我すんなよ。なんだよ文句の付けられない怪我って」
診療所の中を覗くとキャリーさんが座って次の患者さんを待っている。入り口にいる俺に気付くと笑顔になって立ち上がった。
「お師匠様、お帰りなさいませ。あら?その腕にいるのは?」
あんなにうるさかったのに今だ俺の腕の中で寝ている子ネコに気が付いたキャリーさんが、子ネコをのぞき込む。
「ミラ達が見つけて院に連れてけないから俺が預かったんですよ」
さっき酒場でした説明をもう一度する。
「まあ、そうでしたの」
そう言いながら指で子ネコののど辺りをコチョコチョと撫でる。それが心地いいのかのどを鳴らせてクネクネする。
「ホホ、何って愛らしいんでしょう。黒猫とは気品もあって良いですわね。お師匠様この子の名前はなんていうんですの?」
「いえ、さっきも言ったように拾ったばっかりで名前も決めてないですよ」
「そうなんですの?では、黒姫なんてどうでしょ?私の召喚獣が黒王ですから、この愛くるしい子は姫ですわ」
「そ、それは強そうな名前ですけど。明日ミラ達が来てから決めましょう」
「あら、私としたことが。そうですわね。ミラお姉様の意見もお聞きしないと」
そんな話をしながらとりあえず子ネコを俺のベッドの上にそっと置いて、ずっと動かさなかった左肩を回す。
「ホホ、お疲れですわね。よ、よかったらお肩でも揉みましょうか?」
「え?い、いや平気ですよ。チョットこの子をずっと抱っこしていたから動かせなかっただけですから」
そんな話をしていると子ネコが起きだして周りを見渡しながらミャーミャーと鳴いて何かを探していた。
「あら?起きてしまったようですわね」
そう言って子ネコを撫でようとしたキャリーさんの指をクンクン嗅ぐと、顔を擦り付けてからまた何かを探すようにキョロキョロ見渡し鼻をスンスンとさせる。
目当ての物を見つけたのか俺の方に駆け寄って、椅子に座っているおれの膝に乗ると丸くなって寝始めた。
「お師匠様のお膝になんて羨ましい」
キャリーさんが何かつぶやいていたようだけど良く聞こえなかった。
「ハハ、急にあったかい腕の中からベッドに乗せられて起きちゃったのかな?」
「そ、そうですわね。きっとそうですわ。それじゃあ、今日は上がらせてもらいますわ」
「あ、はい、今日もありがとうございました」
「いえいえ、それではまた明日。失礼します」
キャリーさんは何か慌てて顔を赤らめながら診療所のドアに向かって行った。
「さて、今日の話し合った事を書類にしちゃうか」
そう言いながら膝に子ネコが乗っているので少々不格好な形で机に向かって書き始めた。
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