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2章
お祭り開催 その12
しおりを挟む後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきたので振り向いたら、やっぱりヒューイさんだった。
「ヒデさん、何この騒ぎ?みんな広場で何かやってるって言って集まって来てるよ?」
周りを見渡しながら俺に尋ねてくる。
「えーっと、寄付してくれた人がいてそのお金でお酒買って、みんなにふるまってます」
簡潔に説明した。うん、間違ってないし大丈夫だ。
ヒューイさんが目を細めてこっちを見ている。
「ヒデさん、なんかそれだけじゃないでしょ?」
「えっ?い、いや、ハハ、ハハ。それだけですよ?」
目をそらしてしどろもどろしていたらヒューイさんが、名前付けの会場の子に話を聞きに向かって行った。
このスキに逃げちゃおっかなーとか思ったけど、後でまたお小言くらうだけだからここで済ませちゃおう。
いざとなったらケネスさんやイアン様もいるしね。
話をうやむやにする事も出来るし。
そんな事を考えていたらヒューイさんが不機嫌な顔をしながらこっちに向かって来た。
「ヒデさん、その手の輩が来たらきっぱり断って問題になるようなら衛兵に来てもらうようにって決めたでしょ。下手にかかわって怪我でもしたらどうするの?怪我くらいなら直ぐ治せるからいいやとか思ってるでしょ?変に恨まれたりされる事もあるんだから気をつけないとダメでしょ?」
ヒューイさんが俺の事を思って言ってくれているのはわかる。わかるがツッコミたい。お母んかと。
「ハハ、ゴメンゴメンいい感じにイアン様が現れたからさ、チョット懲らしめてやろうと思ったらこんな騒ぎになっちゃったんだよ。でも、騒ぎをさらに広げたのはケネスさんなんだよ」
怒られている俺をニヤニヤと見ていた二人が突然名前を呼ばれて耐えきれなくなって大笑いし出した。悪戯が成功した子供の様に嬉しそうな顔で話し出す。
「フフ、僕はヒデさんに用があって探していただけですよ?なあ、爺」
イアン様の後ろで微動たりせず立っていた執事さんがハイとだけ答える。
「ハハハ、お酒だけ配ったら飲めない人が可哀想だろ?せっかくのお祭りなんだからみんなが楽しまんとな。ハハハ、決して便乗したわけじゃないからな」
ケネスさんは最後の方を強調して楽し気に話しをする。
ヒューイさんは諦めたようにため息を一つついてからみんなに話し出す。
「わかりました。ここは少し騒がしいですから工場の方で話をしましょう」
そう言いながらヒールファクトリーのある方向にみんなを誘う。
イアン様とケネスさんを先頭に半歩遅れてヒューイさん、その後を俺が歩く。
後ろから小走りにジェフ君がやって来てケネスさんと少し話すと戻っていった。戻る時俺と目が合って俺の前で簡単だが会釈をして戻っていった。その目は恨んでいる様な目ではなかった。
そんな事を考えながらジェフ君を目で追っていたらケネスさんに声をかけられた。
「後でジェフと少し話してやってくれ。あの時のケジメをつけたいと言っていたからな。あの時の様な事は起こらんから話を聞いてやってほしい」
そう言ってくるケネスさんの顔は豪商の顔ではなく、息子を心配する親の顔だった。まあ、親友の息子だし少なからずそういった感情もあるんだろう。
「俺、今話してきますね。皆さんは先に工場に向かってください」
ヒューイさんに少し遅れるからとだけ伝え、イアン様にも謝っておく。
イアン様はいつものにこやかな顔で答えてくれた。
「大丈夫ですよ。工場の見物もさせてほしかったのでむしろ好都合です」
ありがとうございます。と言って頭を下げてジェフ君のいる広場に戻る。
広場に戻るとジェフ君が率先して声を出してみんなにお酒や果実水を配っていた。
ゆっくりと近づきジェフ君に声をかける。
「ご苦労様です。何かお手伝いしましょうか?」
ジェフ君が俺の声にビックリした顔をして振り向く。
「え?ヒデ様?会頭とご一緒に工場の方に行かれたんじゃなかったんですか?」
今度は俺がビックリ顔をする。
前に会った時のギャップが大きすぎだ。俺が驚いているすきにジェフ君が先に話し出した。
「ヒデ様、いつぞやは本当に申し訳ございませんでした。あの時の僕は余りにも世間知らずでした。許してもらえると‥‥‥」
頭を下げながら話し続けるジェフ君の話に割り込んで話す。
「いやいや、ちょっと待って待って落ち着いて。まず様とかやめてよ」
「え?でもヒデ様は今やうちの大口の取引相手の代表ですから様付けは当たり前ですよ?」
ここで、広場の真ん中で話していてやたら目立っているのに気づいて、ジェフ君の腕を引っ張って名前付けの会場の裏まで来る。
「代表って俺名前だけだからね。実質ヒューイさんとウィルさんが回してるからあの会社。それに、あの時の事はあまり気にしてないよ」
ジェフ君は俺の言葉に心底ホッとしたように深く息を吐く。
「ハッーー、良かった、ありがとうございます。今回この街に来る事を聞いて会頭にお願いして連れてきてもらったんですよ。どうしてもヒデ様に会って直接謝っておきたくて」
その姿は無理をしてない本当のジェフ君のようだった。
「フフ、様付けはよしてよ。歳もそう変わらないし、出会いが最悪だっただけだしこれからは仲良くやっていこうよ」
そう言って右手を差し出す。
ジェフ君はその手をしっかりと握って話す。
「ありがとうございます。ヒデさん」
「フフ、お互いまだ仕事中だから飲めないけど、よければ後で一緒に飲もう」
俺の誘いにニッコリ笑って是非っと答えた。
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