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2章
お祭り開催 その15
しおりを挟むケネスさんは俺の言葉に目を細めて椅子に座り直す。
「ほほー、本題だと?さっきのルールの言葉も気になるがその事よりも面白そうな匂いがするな。フフフ」
そう言いながら楽し気に笑う。
声だけ。
目が笑ってないよこの人。何かこえーよ。
気を取り直して俺はテーブルに道具を並べる。
「ゴホン、まず最初の商品を紹介する前にこれを見て下さい」
そう言って大き目のバケツと水の入ったコップをテーブルの上に置く。準備が出来てからポールさんに目で合図を送る。
ポールさんは頷くとポケットから5センチメートル四方の布を出すと俺に渡してくれた。
受け取った布を少し引っ張ったりして確認する。すげー、頼んだ通りだよ。
俺は満足げに笑顔で説明をする。
「この布はさっきのスライム風船と同じ素材で作ったものです。実はこれこんな風に水などを通さないんですよ」
そう言いながらヒューイさんに手伝ってもらって俺が布を広げている所に水を落としてもらう。
その様子を見てケネスさんが感心したように唸る。
「ほー、これはどれくらいもつんだ?」
「もつとは、水と通さない言時間の事ですか?それなら、切れない限りずっとです」
ケネスさんは俺の持っていた布を受け取ると引っ張ったり眺めたりして首をかしげて考える。
一拍入れてから説明を続ける。
「それで、その特質を生かしてこんなものを作ってみました」
ヒューイさんから箱を受け取ってスライム風船からの派生で作った大き目の布を引っ張り出す。
まあ、いわゆる合羽だ。この世界に来てから雨の日って大体みんな外に出ないし、出てもびしょ濡れで歩いてるんだよ。
マントみたいなのはかぶってるけど普通の布だから直ぐにびちょ濡れになっちゃうんだ。
ケネスさんは俺の出した合羽を手に取って触りごごちなんかを確かめている。
「フム、これはさっきの布と同じもので出来ているようだな」
合羽から目を離さず質問をする。
「はい、さっきと同じです」
「これは、雨の時に着るマントの様な形をしているが用途は同じなのか?」
俺が再び頷く。
「はい、比べ易いように従来と同じように作りました」
簡単に言えばてるてる坊主の様な形だ。首の所に紐が付いていてそこで止めるようになっている。
「これがあれば、雨の日の移動も楽になりますし、冒険者達もクエスト中にびしょ濡れになるのを避けられます。身体を冷やすと風邪をひいちゃいますからね。風邪は万病のもとですから」
ケネスさんが最後の一言で大笑いをした。
「ハハハ、やはりヒデ君の一番はそこなんだな。そうか、風邪をひかない様に作ったのか」
ケネスさんの言葉にポールさん、ヒューイさんも嬉しそうに笑う。
その後を引き継ぐようにヒューイさんが続けて話す。
「スライム風船と同じで、この合羽は色々な色で作れますので女性にも着れるような華やかなものも作れます。デザインなんかはうちよりエル商会でやってもらった方が良い物が出来るはずなので、弊社はこの生地を商品としたいのです」
ケネスさんは、ヒューイさんの話に頭の中で計算しているのか目を瞑ったまま腕を組んでいる。
「フム、これはいい。雨の日のパーティー会場でマントを付けるだけでドレスやスーツが濡れないっという触れ込みは大きい」
おう、さすが王都一の商家だけあって先ず貴族相手か。まあ、お金を持っている所から儲けるのが一番だけどね。
「丁度いいマルーツもそろそろ外回りから王都に戻ってくる頃だろう、これは奴が好きそうな仕事だ」
ケネスさんは独り言の様に呟いてから俺を見て二かっと笑う。わざわざマルーツさんの名前を出したのは、俺にマルーツさんの現状を教えてくれたのだろう。
「マルーツさんやグレゴリーさんは元気でやってますか?」
マルーツさんも気になるがやはり、胃潰瘍で倒れたグレゴリーさんがやっぱり気になるので聞いてみた。
その質問を待っていたかのように直ぐに教えてくれた。
「ハハ、二人共元気にやっておるよ。特にグレゴリーは倒れてしまうんじゃないかと思うほど働いておる。本人が言うには前の様に資金繰りに奔走しないだけでも精神的にかなり楽だそうだ。後働いて無いと逆に落ち着かないと言っていたな」
あれだ、グレゴリーさん仕事人間だな、今度は過労で倒れたりしないだろうな?
「無理やりにでも休んでもらってくださいね」
俺は少し心配そうな顔で話す。
「ハハ、わかっとるよ。それだからマルーツのお供として外国の遠征に行かせたんじゃよ。気分も変わるしちょっとした旅行じゃからな。おっと、話がそれてしまったのう。それで?」
最後のそれで?の言葉でまた商人の顔に戻って聞いてくる。
「それでって?え?何の事ですか?」
本気でわからなかったので、間抜けな顔で訊き返してしまった。
ケネスさんは呆れ顔で続ける。
「まったく、お前さんがさっき自分で行っていたじゃないか。最初の商品と」
そう言われて少し考える。
あ、確かに言った。しかし、よく覚えてるなこの人。
咳ばらいをして気分を入れ替える。
「ゴホン、失礼しました。少しお待ちくださいね。準備が出来ているなら今回の目玉商品をお見せ出来ますので」
そう言ってから俺はポールさんに顔を向けて小声で話す。
+++++++++++++++++++++
お読みいただきありがとうございます。
そろそろ書籍が発売されるのですが
なんと、書店とらのあなで購入していただきますと
書き下ろし小冊子の特典が付きますー。
内容はですねー。今回の表紙のクマさんの話です。
表紙の下書きを見せていただいた時にどうしても書きたくて書いたんです。
よろしくお願いいたします。
<(_ _)>
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