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2章

お祭り開催 その20

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 女の子二人でヒソヒソと内緒話をしているのを横目で見ながら仮の診療所のドアを閉めようとした時、部屋の奥から凄い勢いで何かが突進してきた。

まあ、何が突進してきたかは解っていた。ルノだ。

目の前でジャンプすると身体をつたってきていつもの定位置に乗っかる。
そして、俺の頭をペチペチと肉球で叩く。まるで置いて行かれそうになったことへの抗議の様に、もしそうなら理不尽だ。

良く寝ていたから後で迎えに来ようと思っていたのに、まあ、別段痛くもなんともないのでほおっておく事にした。

頭に乗せたままみんなのいる場所に戻ると、若様が一番最初に話しかけてきた。
「ヒデ君何だいその子ネコは?飼い始めたのかい?」
「まあ、拾ってきたのはミラ達なんですけどね。俺が預かっているんですよ」
話を聞きながら、ルノの首辺りを撫でているのか、ルノが気持ち良さそうにゴロゴロと鳴いていた。

若様は俺より少し背が高い位なので俺の頭の上に乗っているルノに近づくと自然と顔が近くに来る。まあ、男同士だし別段気にならない。

少し離れた所から声を潜める様に呟いた声が聞こえた。
「その手がありましたわ」

その声の方を向くと目の前にシオンさんがいた。
「マ、マア、カワイイコネコデスワー」

 何となく棒読みな感じのシオンさんがルノではなく俺を凝視しながら近づいてきた。
気迫に押されて固まっていたらシオンさんの顔がスゴイ近くにあって、驚いて後ろに引いた時頭が軽くなった。
理由は直ぐにわかった。目の前のシオンさんの顔にルノが覆いかぶさっていた。

 いつの間にかシオンさんの後ろに来ていたキャリーさんがルノがへばりついたままのシオンさんを後ろに引っ張っていった。

あービックリした。シオンさんみたいに綺麗な人のアップてすごい迫力があるんだねー知らなかったよ。
前の世界じゃ周りにあんな美人さん居なかったしなー。


 また女の子二人で楽しそうに話をしていた。

「何なんですのここの猫。良いとこでしたのにー」
ルノをはがしながらシオンさんが話す。
そのルノをキャリーさんが受け取ってナデナデしている。
「よくやりましたわ。ルノ、後でお魚を買ってあげます」

所々聞こえないけどそんな感じの話をしていた。

若様にヒール通りの説明をしながら歩いて行くと直ぐに広場まで着いた。

まあ、予想通り宴会と言うかもう大宴会が始まっていた。
「うわー、なんか昼より人増えてない?あ、そうか。店じまいした人とかも交じっているんだし当たり前か?」
と言ってみたもののそれ以上にいる気がする。花見名所のシーズン並みの混み方だよー

少しキョロキョロしていたら声をかけられた。
「ヒデさんこっちこっち。ここいら辺に座っててー、今飲み物とかもらってくるから」
既に出来上がっているヒューイさんが赤ら顔で手を振っている。よく見ると隣に婚約者のアリソンさんもいた。

 用意すると言った本人ではなく婚約者のアリソンさんがまめに動いて料理や飲み物とかを持ってきてくれる。

その間にヒューイさんからこれまでの話を聞いていた。まあ、概ね予想通りだった。宴会をしている人たちがはめを外さない様に見守りながら自分達も宴会をする。らしい。ただの合流だそれは。


そんな事よりこんな安酒若様の口に合わないのでは?とか思ったが普通に飲んでいた。
若様いわく、学生時代に街に抜け出してやんちゃをしていたそうだ。

騒々しくも楽しい時間を過ごしていると隣に座っていたシオンさんが少し赤い顔をして話しかけてきた。
「私、少し酔ってしまいましたわ。少しお肩をお借りして良いかしら」
そう言いながら俺の肩に寄りかかって来た。

俺がちょっとドキドキしていたら、逆側からキャリーさんが少し早口で話しかけてきた。
「わ、私も酔いが回ってきましたわ。お師匠様の肩をお借りしますわね」
そう言って俺の返答を待つことなく俺に寄りかかって来た。
え?え?なに?うわー、なんかいい匂いがするー。とかアホな事考えていたら大音量の鐘の音がした。

「カンカンカン、今いる冒険者達は直ぐにギルドに集まってください。繰り返します。今いる‥‥‥」

え?この放送って俺がここに来たばかりの時の緊急放送と同じじゃないか?そうなるとその時と同じぐらいの事が起きているのか?

 そこまで考えた時両肩に乗っていた二人がスッと立ち上がった。
シオンさんが肩を震わせながら何かを呟いていた。
「せっかく頑張ってあそこまで持っていったのにー、もうちょっとで告白までいけたのに‥‥‥ふ、ふふふふふふ」
同じ様に肩を震わせているキャリーさんも呟いている。
「このタイミングで緊急クエですって?何なんですの?もおー……」

二人とも何かつぶやいているのだが放送の声が大きくてよく聞こえない。

シオンさんが前を向いたまま話す。
「ヒデ様私少し席を外しますわ」
それだけ言うと俺の返答を聞く前に路地裏の方に曲がっていった。

少し様子がおかしかったので心配になって見に行こうとした時、キャリーさんが声をかけてきた。
「お師匠様、シオンさんは私が見てきますわ。お師匠様は冒険者ギルドの方に向かってください」

そう言われては仕方がない。でも女の人同士の方が良いのかな?と納得して頷いた。
「わかったよ。シオンさんの事は任せたよ」

そう路地裏に向かうキャリーさんの背中に言ってから改めて周りを見渡す。
当然ながら一般の人達は動揺しているようだった。

先ずはみんなを落ち着かせないと。周りに向かって大きな声を出す。
「皆さんー。先ずは落ち着いて下さい―」

ここで少し間をおく。

「大丈夫ですよー。何があっても冒険者達が守ってくれますからー。なーみんな」
最後のセリフは顔見知りの冒険者達に向ける。

目が合った冒険者が一瞬戸惑った顔をしたが、ニヤッと笑ってから大声を上げる。
「おお、俺達に任せておけ―。何があったって直ぐに解決してやるぜー。行くぞーみんな―」
「「「「「おおーーー」」」」」


そう言うと冒険者達が冒険者ギルドに向かって行く。

俺はだいぶ落ち着いてきた人達に向けて再度大声を出す。
「後、今冒険者ギルドにランクBの冒険者もいるんですよー。ランクBってドラゴンとか倒しちゃうそうですよ。ご家族の方も心配していると思いますので、今の事を家族に話して安心させてあげてくださいねー」
言い終わってから周りを見渡すと、放送を聞いた時よりもだいぶ落ち着いてきたようだ。

「そうだな、母ちゃんと子供達に今の話をしてやれば安心もするだろうしな」
「ドラゴンを倒す冒険者がいるのかい?そいつはスゲーや」
「これは良い事を聞いた。家に帰って子供に話してやんないと」
「そうだ、早く帰らないと」

口々に話をしながら少し笑みも見える。大騒ぎにならないで良かった。
「凄いねヒデ君は、こんな簡単にみんなを落ち着かすなんてなかなか勉強になったよ」
イケメンがニヤッとかしてるとスゲー似合う。
「必死ですよ。この人数がパニックになったら悲惨な事になりますから」


そんな事をはなしながら若様と一緒に冒険者ギルドに向かった。



+++++

ヒデと別れて路地裏に入ると、シオンがヒデの前で話し方のおっとりした感じではなく、普段の凛とした声を出して何もない空間に向かって指示を出す。
「アオ、状況の説明を」

そう言うとシオンの目の前に一人の女性が現れた。
「はい、この街の北東の森より百体ほどのオークの群れが接近中です」
「わかった。アカは若様とヒデ様の護衛についているな?」

アオが跪いたまま返事をする。
「はい、若様とヒデ様は冒険者ギルドに向かわれました」

「そうか、わかった。私はちょっとここを離れるぞ。フフ、フフフ……この時間を邪魔した罪は大罪だ」

 シオンから何か禍々しいオーラが出ている。

「ホホ、ホーホホホ、私も行きますわ。この恨みを晴らさないと爆発してしまいそうですもの」
同じ様な禍々しいオーラを出しているキャロラインが現れた。

シオンが楽しそうにクックッと笑うと、好きにしろというが早いかその姿が掻き消えた。それと同時にキャロラインの姿も消えた。

一人残ったアオは肺に貯めていた息を吐きだした。
「ハァーーーッ、怖かった。隊長クラスがもう一人いるとか反則でしょー。私も若様の護衛に行こ」
アオはそう言って冒険者ギルドに向かって走り出した。

++++++++++


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