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第十二話 レイニーデート
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宿のチェックアウトを済ませて朝食を済ませた俺たちは、この町の荷馬車組合に偶然一人だけ残っていた、やけに腰の低い小柄な男に御者を頼んでリティシュへと向かっていた。
「リティシュの花鳥園楽しみですね!」
「あぁ」
まだ見ぬ花鳥園の風景へ期待に胸を膨らませ、楽しげに馬車の外の風景を眺めるオリビアを尻目に、俺は自身のバッグに手を入れて、【四次元空間】からいくつかの鉱物原石とある液体の入った容器を取り出し、鉱物原石を無造作に液体の中に入れる。
鉱物原石が液体の底に沈んだことを確認した俺が、容器越しに魔力を流すと、鉱物からは断続的に気泡がたち、鉱物原石に含まれる不純物が液体に溶け出されていく。
「何してるの?」
俺の作業を不思議そうに見ていたレオナがそう尋ねてきた。
「真金剛石の抽出だ。今人気の鉱石だから、それなりに金になるんだよ」
「そうなんだ」
レオナが興味深そうに俺の作業を眺めるなか、真金剛石の抽出を済ませ、液体を空の容器に移し代えると、先程まで液体の入っていた容器には、アッシュグレーの光を放つ、直径三センチほどの鉱石が三欠片ほど残った。
「綺麗……」
「真金剛石はアクセサリーなんかに加工されることが多いからな」
「へぇ……」
レオナはまるで心を奪われたかのように、真金剛石に視線を奪われていた。
真金剛石などの鉱物原石の抽出を行いながら馬車に揺られること半日、偽の依頼書で無事にリティシュの検問を突破。検問から少し進んだ辺りで少し休憩を挟み、ここから馬車で二時間ほどの距離にある宿に向かう予定だ。
「あそこにしましょう!」
この休憩の間に昼食を済ませることになり、俺たちを先導するオリビアと三人でベーグルを扱う出店へと向かう。
念のために説明しておくと、ベーグルとはドーナツのような形をしたカラフルなパンで、それに横から切り込みを入れ、中に具材を挟んだものだ。
リティシュでは、農業以外にも酪農も盛んなため、リティシュ名産のクリームチーズがたっぷりと入ったベーグルが特に人気だ。
今更だが、メクイーンで海老を食べ損ねたことを思い出した。少し惜しいことをしたかもな。
「私はレインボーベーグルチョコチップ多めにしますけど、皆さんはどうしますか?」
「定番のクリームチーズとハムレタスにするつもりだ」
「私もクリームチーズにしようかな」
会計を済ませてそれぞれがベーグルを受け取った後、馬車へと戻る。ベーグルには、作りたて特有の温かさがあった。
「お客さん、出発しやすが準備は良いですかい?」
「あぁ」
俺の返事を聞いた御者の男がゆっくりと馬車を進め始める。
「それにしても、まさか《沈黙の魔女》の一行に指名していただけるなんて、身に余る光栄でさぁ」
ダウィドの言葉に、思わずベーグルを食べようとしていた口を止める。
「待て。何でオリビアの事を知っている?」
「い…いやだなぁ。そのくらい知ってまっせ。ストルワルツの《沈黙の魔女》って言ったら、この辺りでも有名じゃねぇですかい!」
荷台から彼の様子を伺っていると、少し挙動を怪しく感じた。その上、声も少し高くなっている。
明らかに怪しいが、ここまで演技の下手な人間にそういったことを任せる人間がいるとは思えないので、恐らく杞憂だろう。
そう思い、ハムレタスのベーグルにかぶりついた。
「……」
俺がハムレタスのベーグルを食べ終わり、クリームチーズのベーグルを食している時に、オリビアから視線が送られてきていることに気づく。
オリビアの視線の先に気づいた俺が、自身のベーグルをそっと彼女の視線から外すと、彼女の視線はベーグルの方を追ってきたので、勘違いとかではなさそうだった。
「……いるか?」
「はいっ!」
オリビアの元気な返事に少し苦笑しながら彼女にベーグルを渡そうとすると、彼女はそれを受け取ることなく、直接かぶりついてきた。
「やっぱり、クリームチーズも良かったですね」
「あぁ」
「……」
「レオナ?」
ふとレオナの方を見ると、彼女が不貞腐れた表情をしていることに気がついた。
「どうかしたのか?」
「何でもない」
冷たくそう言い放ったレオナは、そのまま窓の外の方に顔を向けてしまった。
「ブラウンさん、あれ見てください!」
言われてオリビアの指指す方を見ると、一件のカフェが目に入った。店の看板にオススメメニューとして、リティシュ・チーズケーキが出ているので、彼女の目的もそれなんだろうが。
「また今度来ような」
「はいっ!」
さらに馬車に揺られること二時間、予定通りに宿に着いたので、そこでダウィドとも別れる。結局、彼が何者かは分からかなかったが、目的があったなら後日接触してくるだろう、なんてこのときの俺は安直に考えていた。
宿に入り、始めにチェックインをする。このときにオリビアが借りる部屋は一部屋でも良いんじゃないかと言ってきたが、体裁上、それは憚られた。周りの視線もすごいことになってたしな。
チェックイン後はそれぞれの部屋に向かい、俺がある人物に手紙を書いていると、オリビアが俺の部屋に入ってきた。
「手紙ですか?」
「あぁ。そういえば、オリビアにはまだ話してなかったな。《西の国の悪魔》宛の手紙だ。彼女とは西の国で合流するから、定期的に連絡を取るようにしてるんだ」
まぁ、返信が来たのは、最初の一通だけだけどな。それでも、最終的な合流地点は伝えているから、多分大丈夫だろう。
「恐い方ではないですか…?」
《西の国の悪魔》の噂を知っているからか、オリビアが少し緊張気味にそう聞いてきたので、それはないと否定しておく。
少なくても、彼女は人間に対して友好的だしな。
「さて、レオナを迎えに行ってくる」
「はい」
窓から見上げたの空は少し雲がかっており、雨の降る心配があったため、早めに夕食を済ませてしまいたかった為だ。
「レオナ」
「……」
レオナの部屋へと着き、部屋の扉をノックするも、彼女からの返事は帰ってこない。
「……入るぞ」
少し待ってみたが返事がなかったので、そう断って扉を開ける。扉を開けてすぐ、ベッドで気持ちよさそうに寝ているレオナを見つけることができた。
「寝てるのか?」
「……」
寝ているレオナの元へと向かい、彼女を起こそうとしたところで彼女の頬に、泣き晴らした後のような涙の跡がくっきりと残っていることに気づいた。
「……」
少し心配ではあったが、レオナの手元にハンカチだけ置いておき、部屋を後にすることにした。
彼女には、帰りに何か買ってくれば大丈夫だろう。
「一人ですか?」
部屋に戻ると、不思議そうな顔をしたオリビアがそう尋ねてきた。
「あぁ。レオナには、帰りに何か買っていけば大丈夫だろう」
「そうですか……?」
オリビアは府に落ちなさそうな表情をしていたが、特に追求するつもりはないようだったので、そのまま宿を出ることにする。
「レイニーデートみたいですね!」
「そうだな」
俺たちが宿を出る頃には小雨が降り始めていた。
雨のせいか、先より少し人通りの少なくなった表通りを二人で歩く。
いつもよりオリビアのテンションが少し高いように見えるのは、きっとレオナを心配していた俺を気遣ってのことだろう。
本当なら、こういうときに気丈に振る舞えれば良かったが、どうやら俺はそういった振りをすることには向かないようだ。
「ルシェフさんは、何か食べたいものはありますか?」
「いや、特には」
「じゃあ、あそこにしましょう!」
オリビアに手を引かれて一件のレストランに入る。
手近な席に座り、メニューを開いて中を確認すると、視界一杯にチーズ料理の名前が飛び込んできた。
「何て言うか……ほとんどチーズだな」
「リティシュですからね」
数分と経たない間に注文を済ませ、注文してからすぐに赤ワインが届けられた。
「ブラウンさん。そんなしょぼくれた顔してないで、グラス貸してください」
「ありがとう」
「本当に感謝してくださいね。私がワイン注いであげるなんて、数年に一回くらいですよ」
「そうだな」
確かに、良く考えると珍しいことだと気づく。オリビアは整った容姿も相まってかなりモテる部類に入るため、トラブルを避けるためにもあまり自発的にこういったことをしたりはしないからな。
「オリビア」
「ありがとうございます」
グラスにワインが注がれたところで、軽く互いのグラスを当てて乾杯する。
「ところで、ブラウンさんは昼にレオナさんの機嫌が悪くなった理由は自覚していますか?」
「いや、分からず終いだ」
「だと思いました」
オリビアはそう言うと、わかりやすく大きなため息をつく。
「これが役に立つかは分かりませんし、いつもならこんなサービスしないですけど、私もレオナさんが心配なので、今回だけ特別ですよ。ちょっと耳貸してください」
オリビアの言葉を聞いた俺は、レオナの泣いていた理由を何となく察しがつき、すぐに宿に戻りたくなる衝動に駆られたが、立ち上がろうとする俺の腕をオリビアに掴まれて止められた。
「せっかくですし、夕食くらい食べて帰りませんか?ここで帰ったら、今度は私が拗ねますよ?」
「リティシュの花鳥園楽しみですね!」
「あぁ」
まだ見ぬ花鳥園の風景へ期待に胸を膨らませ、楽しげに馬車の外の風景を眺めるオリビアを尻目に、俺は自身のバッグに手を入れて、【四次元空間】からいくつかの鉱物原石とある液体の入った容器を取り出し、鉱物原石を無造作に液体の中に入れる。
鉱物原石が液体の底に沈んだことを確認した俺が、容器越しに魔力を流すと、鉱物からは断続的に気泡がたち、鉱物原石に含まれる不純物が液体に溶け出されていく。
「何してるの?」
俺の作業を不思議そうに見ていたレオナがそう尋ねてきた。
「真金剛石の抽出だ。今人気の鉱石だから、それなりに金になるんだよ」
「そうなんだ」
レオナが興味深そうに俺の作業を眺めるなか、真金剛石の抽出を済ませ、液体を空の容器に移し代えると、先程まで液体の入っていた容器には、アッシュグレーの光を放つ、直径三センチほどの鉱石が三欠片ほど残った。
「綺麗……」
「真金剛石はアクセサリーなんかに加工されることが多いからな」
「へぇ……」
レオナはまるで心を奪われたかのように、真金剛石に視線を奪われていた。
真金剛石などの鉱物原石の抽出を行いながら馬車に揺られること半日、偽の依頼書で無事にリティシュの検問を突破。検問から少し進んだ辺りで少し休憩を挟み、ここから馬車で二時間ほどの距離にある宿に向かう予定だ。
「あそこにしましょう!」
この休憩の間に昼食を済ませることになり、俺たちを先導するオリビアと三人でベーグルを扱う出店へと向かう。
念のために説明しておくと、ベーグルとはドーナツのような形をしたカラフルなパンで、それに横から切り込みを入れ、中に具材を挟んだものだ。
リティシュでは、農業以外にも酪農も盛んなため、リティシュ名産のクリームチーズがたっぷりと入ったベーグルが特に人気だ。
今更だが、メクイーンで海老を食べ損ねたことを思い出した。少し惜しいことをしたかもな。
「私はレインボーベーグルチョコチップ多めにしますけど、皆さんはどうしますか?」
「定番のクリームチーズとハムレタスにするつもりだ」
「私もクリームチーズにしようかな」
会計を済ませてそれぞれがベーグルを受け取った後、馬車へと戻る。ベーグルには、作りたて特有の温かさがあった。
「お客さん、出発しやすが準備は良いですかい?」
「あぁ」
俺の返事を聞いた御者の男がゆっくりと馬車を進め始める。
「それにしても、まさか《沈黙の魔女》の一行に指名していただけるなんて、身に余る光栄でさぁ」
ダウィドの言葉に、思わずベーグルを食べようとしていた口を止める。
「待て。何でオリビアの事を知っている?」
「い…いやだなぁ。そのくらい知ってまっせ。ストルワルツの《沈黙の魔女》って言ったら、この辺りでも有名じゃねぇですかい!」
荷台から彼の様子を伺っていると、少し挙動を怪しく感じた。その上、声も少し高くなっている。
明らかに怪しいが、ここまで演技の下手な人間にそういったことを任せる人間がいるとは思えないので、恐らく杞憂だろう。
そう思い、ハムレタスのベーグルにかぶりついた。
「……」
俺がハムレタスのベーグルを食べ終わり、クリームチーズのベーグルを食している時に、オリビアから視線が送られてきていることに気づく。
オリビアの視線の先に気づいた俺が、自身のベーグルをそっと彼女の視線から外すと、彼女の視線はベーグルの方を追ってきたので、勘違いとかではなさそうだった。
「……いるか?」
「はいっ!」
オリビアの元気な返事に少し苦笑しながら彼女にベーグルを渡そうとすると、彼女はそれを受け取ることなく、直接かぶりついてきた。
「やっぱり、クリームチーズも良かったですね」
「あぁ」
「……」
「レオナ?」
ふとレオナの方を見ると、彼女が不貞腐れた表情をしていることに気がついた。
「どうかしたのか?」
「何でもない」
冷たくそう言い放ったレオナは、そのまま窓の外の方に顔を向けてしまった。
「ブラウンさん、あれ見てください!」
言われてオリビアの指指す方を見ると、一件のカフェが目に入った。店の看板にオススメメニューとして、リティシュ・チーズケーキが出ているので、彼女の目的もそれなんだろうが。
「また今度来ような」
「はいっ!」
さらに馬車に揺られること二時間、予定通りに宿に着いたので、そこでダウィドとも別れる。結局、彼が何者かは分からかなかったが、目的があったなら後日接触してくるだろう、なんてこのときの俺は安直に考えていた。
宿に入り、始めにチェックインをする。このときにオリビアが借りる部屋は一部屋でも良いんじゃないかと言ってきたが、体裁上、それは憚られた。周りの視線もすごいことになってたしな。
チェックイン後はそれぞれの部屋に向かい、俺がある人物に手紙を書いていると、オリビアが俺の部屋に入ってきた。
「手紙ですか?」
「あぁ。そういえば、オリビアにはまだ話してなかったな。《西の国の悪魔》宛の手紙だ。彼女とは西の国で合流するから、定期的に連絡を取るようにしてるんだ」
まぁ、返信が来たのは、最初の一通だけだけどな。それでも、最終的な合流地点は伝えているから、多分大丈夫だろう。
「恐い方ではないですか…?」
《西の国の悪魔》の噂を知っているからか、オリビアが少し緊張気味にそう聞いてきたので、それはないと否定しておく。
少なくても、彼女は人間に対して友好的だしな。
「さて、レオナを迎えに行ってくる」
「はい」
窓から見上げたの空は少し雲がかっており、雨の降る心配があったため、早めに夕食を済ませてしまいたかった為だ。
「レオナ」
「……」
レオナの部屋へと着き、部屋の扉をノックするも、彼女からの返事は帰ってこない。
「……入るぞ」
少し待ってみたが返事がなかったので、そう断って扉を開ける。扉を開けてすぐ、ベッドで気持ちよさそうに寝ているレオナを見つけることができた。
「寝てるのか?」
「……」
寝ているレオナの元へと向かい、彼女を起こそうとしたところで彼女の頬に、泣き晴らした後のような涙の跡がくっきりと残っていることに気づいた。
「……」
少し心配ではあったが、レオナの手元にハンカチだけ置いておき、部屋を後にすることにした。
彼女には、帰りに何か買ってくれば大丈夫だろう。
「一人ですか?」
部屋に戻ると、不思議そうな顔をしたオリビアがそう尋ねてきた。
「あぁ。レオナには、帰りに何か買っていけば大丈夫だろう」
「そうですか……?」
オリビアは府に落ちなさそうな表情をしていたが、特に追求するつもりはないようだったので、そのまま宿を出ることにする。
「レイニーデートみたいですね!」
「そうだな」
俺たちが宿を出る頃には小雨が降り始めていた。
雨のせいか、先より少し人通りの少なくなった表通りを二人で歩く。
いつもよりオリビアのテンションが少し高いように見えるのは、きっとレオナを心配していた俺を気遣ってのことだろう。
本当なら、こういうときに気丈に振る舞えれば良かったが、どうやら俺はそういった振りをすることには向かないようだ。
「ルシェフさんは、何か食べたいものはありますか?」
「いや、特には」
「じゃあ、あそこにしましょう!」
オリビアに手を引かれて一件のレストランに入る。
手近な席に座り、メニューを開いて中を確認すると、視界一杯にチーズ料理の名前が飛び込んできた。
「何て言うか……ほとんどチーズだな」
「リティシュですからね」
数分と経たない間に注文を済ませ、注文してからすぐに赤ワインが届けられた。
「ブラウンさん。そんなしょぼくれた顔してないで、グラス貸してください」
「ありがとう」
「本当に感謝してくださいね。私がワイン注いであげるなんて、数年に一回くらいですよ」
「そうだな」
確かに、良く考えると珍しいことだと気づく。オリビアは整った容姿も相まってかなりモテる部類に入るため、トラブルを避けるためにもあまり自発的にこういったことをしたりはしないからな。
「オリビア」
「ありがとうございます」
グラスにワインが注がれたところで、軽く互いのグラスを当てて乾杯する。
「ところで、ブラウンさんは昼にレオナさんの機嫌が悪くなった理由は自覚していますか?」
「いや、分からず終いだ」
「だと思いました」
オリビアはそう言うと、わかりやすく大きなため息をつく。
「これが役に立つかは分かりませんし、いつもならこんなサービスしないですけど、私もレオナさんが心配なので、今回だけ特別ですよ。ちょっと耳貸してください」
オリビアの言葉を聞いた俺は、レオナの泣いていた理由を何となく察しがつき、すぐに宿に戻りたくなる衝動に駆られたが、立ち上がろうとする俺の腕をオリビアに掴まれて止められた。
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