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第五十四話 一時の休息
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「もう一回、もう一回だけお願いします!」
「姉ちゃん、ちょっとしつこいぞ」
かれこれ三時間程が経ち、対局前の挑発からの奇襲戦法で一戦目を危なげなく制し、続く二、三、四戦目も制したワタルが、すがりつくように懇願するオリビアに、少し面倒臭そうな視線を向ける。
何となくこうなることがわかっていたため、オリビアにはそれとなく手加減するように伝えていた。
──が、ワタルの盤外戦術によって、オリビアを躍起にさせられてしまったため、この事態を未然に防ぐことが出来なかった。
オリビアも、ワタルがわざとらしく指し間違えたと聞いたときに、大人気もなく「威嚇左美濃急戦は私の得意戦法なんです、指し間違えたくらいで、手加減なんてしてあげませんからね!」と言っていた手前、引くに引けないのだろう。
そのときに、レオナに勝ったことも自慢していたが、あれは諦めないオリビアが面倒になって、レオナが手を抜いただけだということを彼女は知らない。
「オリビア、ワタルはそれなりに指せるから仕方ない」
「でも……」
ニコもオリビアを宥めにかかるが、オリビアは納得しきれていないようだった。
「ニコも指せたんだな」
「まぁ、東の国出身だからね」
俺の言葉に、ニコが何でもない顔でそう答えた。
「何かあったの?」
背中にレオ、足元にヒナが抱きついたままこちらに来たアメリアが、不思議そうにそう尋ねてくる。
「オリビアが駄々こねてるだけだ。いつものことだよ」
「なら、良いんだけど」
「夕食が出来ましたよ~」
「手伝いに行ってきます」
キッチンからフィンさんの声が聞こえ、ランが彼女の元へと向かう。
「私も行く……」
ヒナがランに続き、さらに彼女を心配したレオもそれに続いた。
「ニコ、これって……」
テーブルに並べられた皿の中に見覚えのあるものがあってニコに聞いてみる。
「うん。さっきのホタルの下足」
「ん?ホタル?イカじゃないのか?」
「うん。そこの川に生息してる、ホタルっていう軟体生物。イカはこの辺りにはいないから」
「そうなのか」
見た目的にイカだと思っていたが、どうやら他の種のようだった。
「サンクレイア」
横になっていたレオナを起こして夕食にする。ヨハンさんからの疑いも晴れたからか、今回、ニコは俺の隣には来なかった。
代わりに、レオとヒナを連れたアメリアがその空席を埋めている。
「食事後に完膚なきまで叩きのめしてあげるので、覚えていて下さいね!」
何とかニコに宥められ、席に着いたオリビアがワタルを指差し、涙目になりながらそう宣言する。
「うーん……」
さっきまで完膚なきまでにボコボコにされていたオリビアからの宣戦布告に、ワタルが微妙な反応をする。
正直、少し面倒臭くなってきているのだろう。
「何かあったの?」
二人の対局中に寝ていたレオナが、俺に説明を求めてくる。
「オリビアが負けて駄々こねてるだけだよ」
「そう、なんだ」
「……お兄ちゃん、ホタル」
先程まで俺の膝の上で大人しくしていたのに、急に膨れ面をしたユウが俺に下足を求めてきたので、彼女の元に皿を寄せてやる。
「ほら」
「ありがと」
「ユウ、お兄ちゃんなんだから、あんまり甘えないのよ」
何とも言えない表情で俺たちの様子を見ていたフィンさんが、ユウの事を嗜める。
──ん?お兄ちゃん?
「なぁ、ニコ。ユウって……」
「うん。普通に男の子だよ」
念のためにニコに確認をとると、案の定ユウが男であったことがわかった。
「えっ、そうだったのか!」
俺同様、このことを知らなかったとみえるワタルが声をあげる。
いや、お前は知っておけよ。
「でも、リボンとかしてるし……」
「それは、本人の趣味」
「そ、そうか」
このことには、あまり触れない方が良いのかもしれないな。別にユウが男でも女でもどっちでも良いわけだし。
◇ ◇ ◇
「おはよう、ルシェフさん」
「あぁ。おはよう、レオナ」
翌朝目を覚ますと、目と鼻の先にあるレオナの顔が目に入り、一瞬ドキリとしてしまう。
「まだ、皆は寝てるみたいだな」
前後から、俺に抱きついて眠るワタルとユウがすやすやと小さく寝息を立てている。
「うん。まだ子供たちが起きるには、少し早いかも」
「そうか」
「──ねぇ、ルシェフさん。ちょっと外の空気を吸いに行かない?」
「あぁ」
眠る二人を起こさないように気をつけながら体を起こす。
全員で雑魚寝したために部屋の至るところで寝ている皆の体を踏まないように気をつけながら、レオナと共に寝室を後にした。
「おはようございます」
「おはよう。二人とも早いのね」
キッチンから音が聞こえることに気づき、覗いてみるとフィンさんの姿があったので、簡単に挨拶をし、少し出かけることを伝えた。
「一日で大分慣れたけど、この辺りは空気が澄んでるよね」
森の澄んだ空気を吸い込みながら、レオナが満足げにそう呟く。
「そうだな」
朝の少し肌寒い風が、今の少し火照った顔には丁度良かった。
「……」
森を歩き始めてすぐ、レオナがそっと袖を摘まんできたことに気づいた。
少し俯き、頬を朱に染めていることから、偶然とかでもないだろう。
こういった時にどうしたら良いのか何となく知ってはいたが、レオナの性格的に、いきなり手を繋いで驚かせてしまわないかと少し心配にもなる。
でも、この辺りは比較的に平坦な道だが、道が舗装されているわけでもないので、繋いでないと少し危ないかもしれないな……。
などと言い訳をしながらレオナの手を取ると、彼女が珍しく腕に抱きついてきた。
レオナと二人、宛もなく川沿いに道を歩く。
この目的のない散歩をしている間は、移動や戦闘時とは違い、ゆったりと時間が流れていた。
「すいません、急にお邪魔してしまって」
夕方になり、ニコの実家で夕食まで済ませた俺たちは、剛との待ち合わせもあるため、ニコの実家を後にしようとしていた。
「いえ、邪魔だなんて……そんな。娘にも会えましたし」
フィンさんがニコに穏やかな視線を向ける。
視線を送られたニコは、少し照れるように視線を逸らした。
「兄ちゃん、またな!」
「あぁ、また」
先程あげた魚を持った方の手をあげて振るワタルにそう返す。
ヨハンさんは、ニコとの別れを惜しんで家に引きこもるハプニングがあったものの、最後は見送ってくれた。
レオとヒナの二人は、アメリアの足に抱きついて泣き始めてしまっている。少々別れ苦しくはあるが、ランが二人をアメリアから引き離してくれたので、そこで別れることにする。
ユウも別れを惜しんではくれたが、最後は笑って見送ってくれた。
「ルシェフ──ブラウソか?」
「いや、人違いだ」
近くの村まで戻り無事に剛と合流し、そこで火廣金を受け取ってその分の代金を支払い、ついでに西の国のアリオンまで送ってもらうことにする。
ベッキースに送られているかもしれない手紙のことを今更思い出したが、それは剛が受け取ってきてくれていた。
どうせ王女からの頼みだろうし、なぜ手紙の存在を知っているのかなんて野暮なことは聞かなかった。
「……」
剛と合流してから、ニコの表情はずっと険しいままだ。恐らくニコもこの姿の見えない誰かの気配に気づいているのだろう。
「シズク、もう隠れる必要はない」
ニコの様子に気づいた剛が見えない誰かに向けて話しかけた。
それからすぐに、剛の後ろからフードを深く被った小柄なヒトの姿が現れる。フードに隠れ、顔も表情も見ることはできなかった。
「……」
「悪いな、俺の連れだ。迎えに来るのが目的だったから、あえて紹介しなかっただけで、別に怪しい奴じゃない」
押し黙るシズクという少女?に代わって、剛がそう説明した。
「そうか」
取り敢えず、敵ではないらしい。
その後、剛にアリオンまで無事に送り届けてもらい、そこで剛と別れ、今日泊まる宿を確保しに向かった。
「姉ちゃん、ちょっとしつこいぞ」
かれこれ三時間程が経ち、対局前の挑発からの奇襲戦法で一戦目を危なげなく制し、続く二、三、四戦目も制したワタルが、すがりつくように懇願するオリビアに、少し面倒臭そうな視線を向ける。
何となくこうなることがわかっていたため、オリビアにはそれとなく手加減するように伝えていた。
──が、ワタルの盤外戦術によって、オリビアを躍起にさせられてしまったため、この事態を未然に防ぐことが出来なかった。
オリビアも、ワタルがわざとらしく指し間違えたと聞いたときに、大人気もなく「威嚇左美濃急戦は私の得意戦法なんです、指し間違えたくらいで、手加減なんてしてあげませんからね!」と言っていた手前、引くに引けないのだろう。
そのときに、レオナに勝ったことも自慢していたが、あれは諦めないオリビアが面倒になって、レオナが手を抜いただけだということを彼女は知らない。
「オリビア、ワタルはそれなりに指せるから仕方ない」
「でも……」
ニコもオリビアを宥めにかかるが、オリビアは納得しきれていないようだった。
「ニコも指せたんだな」
「まぁ、東の国出身だからね」
俺の言葉に、ニコが何でもない顔でそう答えた。
「何かあったの?」
背中にレオ、足元にヒナが抱きついたままこちらに来たアメリアが、不思議そうにそう尋ねてくる。
「オリビアが駄々こねてるだけだ。いつものことだよ」
「なら、良いんだけど」
「夕食が出来ましたよ~」
「手伝いに行ってきます」
キッチンからフィンさんの声が聞こえ、ランが彼女の元へと向かう。
「私も行く……」
ヒナがランに続き、さらに彼女を心配したレオもそれに続いた。
「ニコ、これって……」
テーブルに並べられた皿の中に見覚えのあるものがあってニコに聞いてみる。
「うん。さっきのホタルの下足」
「ん?ホタル?イカじゃないのか?」
「うん。そこの川に生息してる、ホタルっていう軟体生物。イカはこの辺りにはいないから」
「そうなのか」
見た目的にイカだと思っていたが、どうやら他の種のようだった。
「サンクレイア」
横になっていたレオナを起こして夕食にする。ヨハンさんからの疑いも晴れたからか、今回、ニコは俺の隣には来なかった。
代わりに、レオとヒナを連れたアメリアがその空席を埋めている。
「食事後に完膚なきまで叩きのめしてあげるので、覚えていて下さいね!」
何とかニコに宥められ、席に着いたオリビアがワタルを指差し、涙目になりながらそう宣言する。
「うーん……」
さっきまで完膚なきまでにボコボコにされていたオリビアからの宣戦布告に、ワタルが微妙な反応をする。
正直、少し面倒臭くなってきているのだろう。
「何かあったの?」
二人の対局中に寝ていたレオナが、俺に説明を求めてくる。
「オリビアが負けて駄々こねてるだけだよ」
「そう、なんだ」
「……お兄ちゃん、ホタル」
先程まで俺の膝の上で大人しくしていたのに、急に膨れ面をしたユウが俺に下足を求めてきたので、彼女の元に皿を寄せてやる。
「ほら」
「ありがと」
「ユウ、お兄ちゃんなんだから、あんまり甘えないのよ」
何とも言えない表情で俺たちの様子を見ていたフィンさんが、ユウの事を嗜める。
──ん?お兄ちゃん?
「なぁ、ニコ。ユウって……」
「うん。普通に男の子だよ」
念のためにニコに確認をとると、案の定ユウが男であったことがわかった。
「えっ、そうだったのか!」
俺同様、このことを知らなかったとみえるワタルが声をあげる。
いや、お前は知っておけよ。
「でも、リボンとかしてるし……」
「それは、本人の趣味」
「そ、そうか」
このことには、あまり触れない方が良いのかもしれないな。別にユウが男でも女でもどっちでも良いわけだし。
◇ ◇ ◇
「おはよう、ルシェフさん」
「あぁ。おはよう、レオナ」
翌朝目を覚ますと、目と鼻の先にあるレオナの顔が目に入り、一瞬ドキリとしてしまう。
「まだ、皆は寝てるみたいだな」
前後から、俺に抱きついて眠るワタルとユウがすやすやと小さく寝息を立てている。
「うん。まだ子供たちが起きるには、少し早いかも」
「そうか」
「──ねぇ、ルシェフさん。ちょっと外の空気を吸いに行かない?」
「あぁ」
眠る二人を起こさないように気をつけながら体を起こす。
全員で雑魚寝したために部屋の至るところで寝ている皆の体を踏まないように気をつけながら、レオナと共に寝室を後にした。
「おはようございます」
「おはよう。二人とも早いのね」
キッチンから音が聞こえることに気づき、覗いてみるとフィンさんの姿があったので、簡単に挨拶をし、少し出かけることを伝えた。
「一日で大分慣れたけど、この辺りは空気が澄んでるよね」
森の澄んだ空気を吸い込みながら、レオナが満足げにそう呟く。
「そうだな」
朝の少し肌寒い風が、今の少し火照った顔には丁度良かった。
「……」
森を歩き始めてすぐ、レオナがそっと袖を摘まんできたことに気づいた。
少し俯き、頬を朱に染めていることから、偶然とかでもないだろう。
こういった時にどうしたら良いのか何となく知ってはいたが、レオナの性格的に、いきなり手を繋いで驚かせてしまわないかと少し心配にもなる。
でも、この辺りは比較的に平坦な道だが、道が舗装されているわけでもないので、繋いでないと少し危ないかもしれないな……。
などと言い訳をしながらレオナの手を取ると、彼女が珍しく腕に抱きついてきた。
レオナと二人、宛もなく川沿いに道を歩く。
この目的のない散歩をしている間は、移動や戦闘時とは違い、ゆったりと時間が流れていた。
「すいません、急にお邪魔してしまって」
夕方になり、ニコの実家で夕食まで済ませた俺たちは、剛との待ち合わせもあるため、ニコの実家を後にしようとしていた。
「いえ、邪魔だなんて……そんな。娘にも会えましたし」
フィンさんがニコに穏やかな視線を向ける。
視線を送られたニコは、少し照れるように視線を逸らした。
「兄ちゃん、またな!」
「あぁ、また」
先程あげた魚を持った方の手をあげて振るワタルにそう返す。
ヨハンさんは、ニコとの別れを惜しんで家に引きこもるハプニングがあったものの、最後は見送ってくれた。
レオとヒナの二人は、アメリアの足に抱きついて泣き始めてしまっている。少々別れ苦しくはあるが、ランが二人をアメリアから引き離してくれたので、そこで別れることにする。
ユウも別れを惜しんではくれたが、最後は笑って見送ってくれた。
「ルシェフ──ブラウソか?」
「いや、人違いだ」
近くの村まで戻り無事に剛と合流し、そこで火廣金を受け取ってその分の代金を支払い、ついでに西の国のアリオンまで送ってもらうことにする。
ベッキースに送られているかもしれない手紙のことを今更思い出したが、それは剛が受け取ってきてくれていた。
どうせ王女からの頼みだろうし、なぜ手紙の存在を知っているのかなんて野暮なことは聞かなかった。
「……」
剛と合流してから、ニコの表情はずっと険しいままだ。恐らくニコもこの姿の見えない誰かの気配に気づいているのだろう。
「シズク、もう隠れる必要はない」
ニコの様子に気づいた剛が見えない誰かに向けて話しかけた。
それからすぐに、剛の後ろからフードを深く被った小柄なヒトの姿が現れる。フードに隠れ、顔も表情も見ることはできなかった。
「……」
「悪いな、俺の連れだ。迎えに来るのが目的だったから、あえて紹介しなかっただけで、別に怪しい奴じゃない」
押し黙るシズクという少女?に代わって、剛がそう説明した。
「そうか」
取り敢えず、敵ではないらしい。
その後、剛にアリオンまで無事に送り届けてもらい、そこで剛と別れ、今日泊まる宿を確保しに向かった。
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