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第五十八話 帰省
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「ただいまー!」
アルマが先陣を切って実家の戸を潜り、手招きで俺にも入るように促してくる。
センタリーを発ってから二日、無事にアルフィードに着いた俺たちは、リディアとレオナを含めた四人だけで実家を訪ねてきていた。
リディアは、軽く挨拶をしたら自分の実家の方に顔を見せるそうで、オリビアたちとは夜に宿で合流する予定だ。
「ただいま……」
少し緊張しながらも、恐る恐る数年ぶりに実家の敷居を潜る。
「おかえりなさい。アルマ、誰かお客さん来てるの?」
あまり間を置かずに、キッチンにいた母が家の戸口に顔を見せた。
「ただいま……」
少しぎこちなくそう言った俺に、母が目を見開く。
「ルシェフ……」
俺の姿を見た母、イデア・ブラウンが一滴の涙を溢した。
「何も泣くことないだろ……」
「あんたが連絡も寄越さないからでしょうが‼︎」
母が涙を拭いながらそう叫ぶ。
「悪かったよ。家を出ておいて近況の報告をするなんて、俺も気まずかったんだ。心配してくれてるとも思ってなかったし」
「心配しないわけないでしょう……」
涙声で呟く母の目が、俺の横にいるレオナを捉えた。
「──そちらの方は?」
「一緒に行動している、冒険者仲間のレオナだ」
「はい、冒険者仲間のレオナです」
俺の紹介が気に入らなかったのか、レオナがむすっとしていたが今回ばかりは勘弁してほしかった。
「そう。ルシェフの母親のイデア・ブラウンです。いつも息子がお世話になってます」
「いえ、こちらこそ」
母が手を差し出し、レオナがその手をとる。
「ところで、おふくろ。親父の姿が見えないが?」
「今、ちょっと面倒な事になっててね……少し出払って……」
言いながら、母が俺の姿をまじまじと見つめた。それからすぐに、何か思いついたかのように手を打つ。
「そうだ!なんだったら、貴方も手伝ってくれない?」
「それは構わないけど、何があったんだ?」
「この近くの森に、はぐれフラッフィーベアが出たみたいで、あの人も討伐に駆り出されているのよ……」
母が心配そうに眉尻を下げる。
実際、親父はただの農民だから、そこまで戦闘が得意なわけでもないんだよな……。
はぐれフラッフィーベアというのは、フラッフィーベアの変異種だ。普通のフラッフィーベアは群れで行動しているが、ごく稀に迷子になったりしてはぐれるものが出てくる。
フラッフィーベアは大柄な熊のような姿をしているものの穏和な性格から戦闘が得意なわけではないので、自然の中を一匹で生き抜くのはまず不可能だ。
──が、はぐれたフラッフィーベアは始めの内はビクビクしながら過ごすものの、過度のストレスで攻撃性が高くなり、凶暴化して俺たちの知るはぐれフラッフィーベアと呼ばれるようになる。
そのはぐれフラッフィーベアは、周囲の生態系を乱し、成長すると家畜なども襲うようになるため、早期に討伐が行われる種の魔物だった。
「わかった。すぐに向かおう。アルマ、君たちはアメリアたちに声をかけてきてくれ」
「うん」
アルマが頷き、リディアと共にアルフィードの町へと向かう。
「相変わらず、妹思いね」
俺たちの様子を見ていた母が顔を綻ばせた。どうやら、母には俺が得てしてアルマを森から遠ざけたことがわかっていたようだった。
「別に、人数は多い方がいいだろ?」
勿論、アルマたちが合流する前にはぐれフラッフィーベアを見つけて討伐する予定だったが、念には念を入れておいた方が良いだろうしな。
俺が駄目でも、アメリアの索敵なら森に入った時点でおおよその位置を掴めるだろうし、オリビアも索的範囲は広いからな。後は、俺たちが戦闘に介入するまでもなくニコが最速ではぐれフラッフィーベアを仕留められる。
「じゃあ、行ってくるから」
「はい、いってらっしゃい」
数年前には言えなかった言葉を伝え、レオナと共に森へと向かう。
「イデアさん、いい人みたいだね」
村人がはぐれフラッフィーベアの討伐に駆り出されているからか、人通りの少ない農道を二人で歩く。疎らに畑で仕事をしている住人の姿も見えたが、男性陣が討伐に駆り出されている為か、全て女性だった。
「あぁ。──悪いな、帰省に付き合わせて」
「ううん……ただ、イデアさんには、他の紹介の仕方をして欲しかった、かな」
レオナが、微笑みながらも少し拗ねたようにそう呟く。
「わかった。今度はそうするよ」
レオナにそう約束し、森に着いた辺りで索的を発動させる。今回は、最速で見つけたかったので、三人の俺をバラバラの方向に向かわせ、俺たちも探索を始めた。
途中、遭遇した村人には、俺たちが探索するからと、村に戻ってもらう。はぐれフラッフィーベアの討伐は俺たちだけで十分だし、下手に手を出そうとして怪我をされても後味が悪いからな。
「この村の人間か?はぐれフラッフィーベアは俺たちが討伐しておくから、怪我しないうちに村に帰ってくれ」
また村人を発見して、声をかける。彼の後ろ姿にどこか見覚えを感じたが、数年前は俺もこの村にいたので、そういうこともあるだろう。
「──ルシェフか?」
村人が振り返ると、彼が誰なのかを思い出した俺は、久々の再会に一瞬たじろいだ。
「親父……」
「……」
暫しの間、二人して呆然としたまま無言で見つめ合う。
「……親父、はぐれフラッフィーベアは、俺たちで何とかするから、村に戻っていてくれ」
「お、おう……任せた」
俺の言葉に、親父は少し動揺しながらもそう答える。そう答えたところで、親父がレオナの存在に気づき、途端に昔よく見たニヤケ顔になった。
「ルシェフ~隣の娘はどうしたんだ~?」
俺の隣に来た親父が、俺の肩を肘でつつきながらヒソヒソ声でそう聞いてくる。
昔ならウザいとしか感じていなかったこのやりとりも、今はとても懐かしく思えた。
「俺の彼女だよ。悪いか?」
先の約束もあるので、はっきりとそう伝えることにする。
「……いや、悪くはねぇよ」
俺がはぐらかすことを期待していたのが、俺の言葉を聞いた途端、親父がつまらなそうにそう漏らした。
「レオナです」
「ご丁寧にどうも。ガイア・ブラウン。そいつの父親だ」
簡単に二人が紹介を終えたところで、親父にも家に帰ってもらうことにする。
「そうだ、アルマも帰省してるから、後で会えるぞ」
「そうか、ありがとう!」
別れ際、今さら思い出してそう伝えると、アルマが帰ってきたことを理解した親父の機嫌が急に良くなった気がするが、傷つくだけなのであまり気にしないことにした。
「さて、向かおうか」
「うん」
レオナと二人、森の中を探索する。
どうやら、俺たちの進んだ方向が当たりだったようで、暫く進むとはぐれフラッフィーベアのものと思われる大木の引っ掻き傷などが見受けられた。
この時点で、三方に散った俺の索的範囲を中央寄りに集める。
その内アルマたちが追い付いてくるので、あまりモタモタしている時間はなさそうだ。
「いた」
レオナと探索を二十分ほど続け、はぐれフラッフィーベアの姿を確認することが出来た。
見つけさえできれば、俺一人で討伐は可能なので、近くにいた俺をはぐれフラッフィーベアの元に向かわせる。
【ロニゲスメイシュ】をかけ、はぐれフラッフィーベアの元に向かった俺が、背後からはぐれフラッフィーベアを強襲し、一太刀で仕留める。
討伐証明代わりに、はぐれフラッフィーベアの耳を刈り取り、皮を剥ぎ取るのも面倒なので死体はそのままにしておいた。
「終わったし帰ろうか」
「うん」
はぐれフラッフィーベアを仕留めたところで、レオナと二人で帰路につく。
その時も念のために索敵は使っておき、村民を見つけたら声をかけるようにしていた。
「お兄ちゃん」
「もう終わったよ。家に帰ろうか」
森を出たところで、森に向かってきていたアルマたちと合流する。
「皆も、呼び出して悪かったな」
「終わったなら、良い」
俺の言葉に、ニコがそう返す。このメンバーの中で、一番タダ働きを嫌うのがニコだったため、彼女の反応が一番心配だったが、どうやら杞憂のようだった。
良かったら実家に寄ってかないかと聞いたところ、ここまで来たし折角だからということで全員ついてくることになった。
「ただいまー!」
家に戻ると、勢い良く扉を開けたアルマが、普段そうしないのにも関わらず、ゴランと腕を組み、家の中に入る。
「アルマ!お帰──」
そして、満を持して家の入り口に顔を出した親父の顔が、真っ青になる。
「お父さん、ただいま!か──」
「お父さんは認めないからなーー‼︎」
親父は泣きながら叫ぶと、瞬く間に二階の自室へと駆け戻っていった。
「あんまり親父を苛めるなよ……」
「いやぁ、一回やってみたかったんだよね」
俺の言葉に、アルマが悪びれることなくからからと笑う。
いつも、何かにつけてアルマにからかわれる親父だったが、今回のダメージは大きいだろうな……。
本当、冗談でも言って良いことと悪いことがあるんだと兄として教えるべきだろうか?
「お帰りなさい。はぐれフラッフィーベアはどうなったの?」
「討伐したよ。一応、耳を刈り取ってきたけど、見るか?」
「……止めておくわ」
こめかみに片手を当てた母は、難しい顔をしながら首を横に振った。
未だにぐずる親父に、アルマの冗談だからと何とか説得して部屋から引きずり出し、両親に皆の紹介をする。
ゴランに関しては、パーティーを組んだ当初一回地元に帰省していたそうで、その時に顔見知りになっていたようだった。
そのままの流れで全員家で夕食を食べることになった。
アルマとレオナ、後は珍しくオリビアが夕食の手伝いに向かい、俺は機嫌良さげにリキュールのボトルを持って食卓に戻ってきた親父の相手をすることにする。
この間に、リディアは実家の方に顔を見せに行っていた。
アメリアも手土産とばかりに、竜人の里でしか造られていない特別なリキュールのボトルを取り出した。このリキュールは外にも販売されるものの、絶対数が少ないためにかなり希少価値のある酒だ。
その酒を見て、子供のようにはしゃぐ親父を見たニコが自分で良く飲んでいる東洋酒を取り出し、俺も中央の国で造られている蜂蜜酒をバッグから出した。
アルマが先陣を切って実家の戸を潜り、手招きで俺にも入るように促してくる。
センタリーを発ってから二日、無事にアルフィードに着いた俺たちは、リディアとレオナを含めた四人だけで実家を訪ねてきていた。
リディアは、軽く挨拶をしたら自分の実家の方に顔を見せるそうで、オリビアたちとは夜に宿で合流する予定だ。
「ただいま……」
少し緊張しながらも、恐る恐る数年ぶりに実家の敷居を潜る。
「おかえりなさい。アルマ、誰かお客さん来てるの?」
あまり間を置かずに、キッチンにいた母が家の戸口に顔を見せた。
「ただいま……」
少しぎこちなくそう言った俺に、母が目を見開く。
「ルシェフ……」
俺の姿を見た母、イデア・ブラウンが一滴の涙を溢した。
「何も泣くことないだろ……」
「あんたが連絡も寄越さないからでしょうが‼︎」
母が涙を拭いながらそう叫ぶ。
「悪かったよ。家を出ておいて近況の報告をするなんて、俺も気まずかったんだ。心配してくれてるとも思ってなかったし」
「心配しないわけないでしょう……」
涙声で呟く母の目が、俺の横にいるレオナを捉えた。
「──そちらの方は?」
「一緒に行動している、冒険者仲間のレオナだ」
「はい、冒険者仲間のレオナです」
俺の紹介が気に入らなかったのか、レオナがむすっとしていたが今回ばかりは勘弁してほしかった。
「そう。ルシェフの母親のイデア・ブラウンです。いつも息子がお世話になってます」
「いえ、こちらこそ」
母が手を差し出し、レオナがその手をとる。
「ところで、おふくろ。親父の姿が見えないが?」
「今、ちょっと面倒な事になっててね……少し出払って……」
言いながら、母が俺の姿をまじまじと見つめた。それからすぐに、何か思いついたかのように手を打つ。
「そうだ!なんだったら、貴方も手伝ってくれない?」
「それは構わないけど、何があったんだ?」
「この近くの森に、はぐれフラッフィーベアが出たみたいで、あの人も討伐に駆り出されているのよ……」
母が心配そうに眉尻を下げる。
実際、親父はただの農民だから、そこまで戦闘が得意なわけでもないんだよな……。
はぐれフラッフィーベアというのは、フラッフィーベアの変異種だ。普通のフラッフィーベアは群れで行動しているが、ごく稀に迷子になったりしてはぐれるものが出てくる。
フラッフィーベアは大柄な熊のような姿をしているものの穏和な性格から戦闘が得意なわけではないので、自然の中を一匹で生き抜くのはまず不可能だ。
──が、はぐれたフラッフィーベアは始めの内はビクビクしながら過ごすものの、過度のストレスで攻撃性が高くなり、凶暴化して俺たちの知るはぐれフラッフィーベアと呼ばれるようになる。
そのはぐれフラッフィーベアは、周囲の生態系を乱し、成長すると家畜なども襲うようになるため、早期に討伐が行われる種の魔物だった。
「わかった。すぐに向かおう。アルマ、君たちはアメリアたちに声をかけてきてくれ」
「うん」
アルマが頷き、リディアと共にアルフィードの町へと向かう。
「相変わらず、妹思いね」
俺たちの様子を見ていた母が顔を綻ばせた。どうやら、母には俺が得てしてアルマを森から遠ざけたことがわかっていたようだった。
「別に、人数は多い方がいいだろ?」
勿論、アルマたちが合流する前にはぐれフラッフィーベアを見つけて討伐する予定だったが、念には念を入れておいた方が良いだろうしな。
俺が駄目でも、アメリアの索敵なら森に入った時点でおおよその位置を掴めるだろうし、オリビアも索的範囲は広いからな。後は、俺たちが戦闘に介入するまでもなくニコが最速ではぐれフラッフィーベアを仕留められる。
「じゃあ、行ってくるから」
「はい、いってらっしゃい」
数年前には言えなかった言葉を伝え、レオナと共に森へと向かう。
「イデアさん、いい人みたいだね」
村人がはぐれフラッフィーベアの討伐に駆り出されているからか、人通りの少ない農道を二人で歩く。疎らに畑で仕事をしている住人の姿も見えたが、男性陣が討伐に駆り出されている為か、全て女性だった。
「あぁ。──悪いな、帰省に付き合わせて」
「ううん……ただ、イデアさんには、他の紹介の仕方をして欲しかった、かな」
レオナが、微笑みながらも少し拗ねたようにそう呟く。
「わかった。今度はそうするよ」
レオナにそう約束し、森に着いた辺りで索的を発動させる。今回は、最速で見つけたかったので、三人の俺をバラバラの方向に向かわせ、俺たちも探索を始めた。
途中、遭遇した村人には、俺たちが探索するからと、村に戻ってもらう。はぐれフラッフィーベアの討伐は俺たちだけで十分だし、下手に手を出そうとして怪我をされても後味が悪いからな。
「この村の人間か?はぐれフラッフィーベアは俺たちが討伐しておくから、怪我しないうちに村に帰ってくれ」
また村人を発見して、声をかける。彼の後ろ姿にどこか見覚えを感じたが、数年前は俺もこの村にいたので、そういうこともあるだろう。
「──ルシェフか?」
村人が振り返ると、彼が誰なのかを思い出した俺は、久々の再会に一瞬たじろいだ。
「親父……」
「……」
暫しの間、二人して呆然としたまま無言で見つめ合う。
「……親父、はぐれフラッフィーベアは、俺たちで何とかするから、村に戻っていてくれ」
「お、おう……任せた」
俺の言葉に、親父は少し動揺しながらもそう答える。そう答えたところで、親父がレオナの存在に気づき、途端に昔よく見たニヤケ顔になった。
「ルシェフ~隣の娘はどうしたんだ~?」
俺の隣に来た親父が、俺の肩を肘でつつきながらヒソヒソ声でそう聞いてくる。
昔ならウザいとしか感じていなかったこのやりとりも、今はとても懐かしく思えた。
「俺の彼女だよ。悪いか?」
先の約束もあるので、はっきりとそう伝えることにする。
「……いや、悪くはねぇよ」
俺がはぐらかすことを期待していたのが、俺の言葉を聞いた途端、親父がつまらなそうにそう漏らした。
「レオナです」
「ご丁寧にどうも。ガイア・ブラウン。そいつの父親だ」
簡単に二人が紹介を終えたところで、親父にも家に帰ってもらうことにする。
「そうだ、アルマも帰省してるから、後で会えるぞ」
「そうか、ありがとう!」
別れ際、今さら思い出してそう伝えると、アルマが帰ってきたことを理解した親父の機嫌が急に良くなった気がするが、傷つくだけなのであまり気にしないことにした。
「さて、向かおうか」
「うん」
レオナと二人、森の中を探索する。
どうやら、俺たちの進んだ方向が当たりだったようで、暫く進むとはぐれフラッフィーベアのものと思われる大木の引っ掻き傷などが見受けられた。
この時点で、三方に散った俺の索的範囲を中央寄りに集める。
その内アルマたちが追い付いてくるので、あまりモタモタしている時間はなさそうだ。
「いた」
レオナと探索を二十分ほど続け、はぐれフラッフィーベアの姿を確認することが出来た。
見つけさえできれば、俺一人で討伐は可能なので、近くにいた俺をはぐれフラッフィーベアの元に向かわせる。
【ロニゲスメイシュ】をかけ、はぐれフラッフィーベアの元に向かった俺が、背後からはぐれフラッフィーベアを強襲し、一太刀で仕留める。
討伐証明代わりに、はぐれフラッフィーベアの耳を刈り取り、皮を剥ぎ取るのも面倒なので死体はそのままにしておいた。
「終わったし帰ろうか」
「うん」
はぐれフラッフィーベアを仕留めたところで、レオナと二人で帰路につく。
その時も念のために索敵は使っておき、村民を見つけたら声をかけるようにしていた。
「お兄ちゃん」
「もう終わったよ。家に帰ろうか」
森を出たところで、森に向かってきていたアルマたちと合流する。
「皆も、呼び出して悪かったな」
「終わったなら、良い」
俺の言葉に、ニコがそう返す。このメンバーの中で、一番タダ働きを嫌うのがニコだったため、彼女の反応が一番心配だったが、どうやら杞憂のようだった。
良かったら実家に寄ってかないかと聞いたところ、ここまで来たし折角だからということで全員ついてくることになった。
「ただいまー!」
家に戻ると、勢い良く扉を開けたアルマが、普段そうしないのにも関わらず、ゴランと腕を組み、家の中に入る。
「アルマ!お帰──」
そして、満を持して家の入り口に顔を出した親父の顔が、真っ青になる。
「お父さん、ただいま!か──」
「お父さんは認めないからなーー‼︎」
親父は泣きながら叫ぶと、瞬く間に二階の自室へと駆け戻っていった。
「あんまり親父を苛めるなよ……」
「いやぁ、一回やってみたかったんだよね」
俺の言葉に、アルマが悪びれることなくからからと笑う。
いつも、何かにつけてアルマにからかわれる親父だったが、今回のダメージは大きいだろうな……。
本当、冗談でも言って良いことと悪いことがあるんだと兄として教えるべきだろうか?
「お帰りなさい。はぐれフラッフィーベアはどうなったの?」
「討伐したよ。一応、耳を刈り取ってきたけど、見るか?」
「……止めておくわ」
こめかみに片手を当てた母は、難しい顔をしながら首を横に振った。
未だにぐずる親父に、アルマの冗談だからと何とか説得して部屋から引きずり出し、両親に皆の紹介をする。
ゴランに関しては、パーティーを組んだ当初一回地元に帰省していたそうで、その時に顔見知りになっていたようだった。
そのままの流れで全員家で夕食を食べることになった。
アルマとレオナ、後は珍しくオリビアが夕食の手伝いに向かい、俺は機嫌良さげにリキュールのボトルを持って食卓に戻ってきた親父の相手をすることにする。
この間に、リディアは実家の方に顔を見せに行っていた。
アメリアも手土産とばかりに、竜人の里でしか造られていない特別なリキュールのボトルを取り出した。このリキュールは外にも販売されるものの、絶対数が少ないためにかなり希少価値のある酒だ。
その酒を見て、子供のようにはしゃぐ親父を見たニコが自分で良く飲んでいる東洋酒を取り出し、俺も中央の国で造られている蜂蜜酒をバッグから出した。
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