【完結】獅子は鳥籠を砕く

真大(mahiro)

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第4章

本来の輝き

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 ユリウスの回復を見守りながら、レオナルドは少しずつ、時間をかけて会話を重ねていった。

 呼吸器が外れてから数日が経つが、ユリウスの呼吸が乱れたり、苦しくなったりすることは一度もない。
 その安定した経過に、レオナルドは改めて深く安堵していた。

 リハビリの効果もあり、ようやく誰かに背中を支えられなくとも、短時間なら自分で体を起こしていられるようになった。
 食事も、ゼリーだけでなく、スープやお粥など、嚥下のしやすいものならスプーンを持って自分で食べられるようになってきた。

 ある朝、ユリウスの顔色が良く、調子が良さそうな日を選んで、レオナルドは慎重に切り出した。

「……ユーリ。まだ回復の途中の君にこんな話をすると、プレッシャーになるだろうが……大事なことを伝えたいんだ」

 レオナルドが改まった口調で言うと、ユリウスはスプーンを置き、静かに耳を傾ける姿勢を取った。

「一つ目は、今の国の状況だ。カイエンが正式に即位し、王として動き始めている。
だが……行政の要である『宰相』の椅子は、あれからずっと空席のままだ」

 ユリウスは、その言葉の意味を即座に理解したように、小さく息を呑んだ。

「俺も、カイエンも……真の適任者を、ずっと待っているつもりだからだ。誰の代わりも立てていない」

 宰相であった父・ローゼンタール卿は反逆罪で投獄され、失脚した。
 通常であれば、次期宰相として教育を受けてきたユリウスがその座を継ぐはずだが、彼はまだ生死の境を彷徨い、ようやく身を起こせるようになったばかりの回復途上にある身だ。

 それをそばで見守りながらも、国にとって重要な宰相の席に、代理の人間すら立てずに空けているという事実に、ユリウスは驚いた様子で目を見開いた。

 以前のユリウスであれば、きっとこう言っていただろう。

『私の代わりなどいくらでも立てられるだろうから、義理立てで私の回復を待たなくて良い。
いつ回復するかも、そもそも宰相に復帰できる体に戻れるかも分からないのだから、国のために最適な人材を登用してくれ』と。

 冷静に、そして自分を卑下して、他者のために身を引く提案をしたはずだ。

 レオナルドも、ユリウスがそう言う可能性が高いと思って身構えていた。
 だからこそ、回復の兆しが見え、彼の精神が安定するまでこの話題を伏せていたのだ。
 意識のない時から、ずっと君だけを待っているのだと伝えるために。

 だが、ユリウスは少しの間考え込むように伏し目がちになった後、ゆっくりと顔を上げた。
 そして、逃げることなく、真っ直ぐにレオナルドを見つめて言った。

「……分かった」

 凛とした声だった。

「貴方たちが……カイエン様と、レオが、私の回復を信じて待っていてくれるなら……回復次第、私が宰相の席に座ろう」

 その言葉に、レオナルドは息をすることを忘れて見入った。

 ユリウスの美しい碧眼が、揺らぐことなく強い意志の光を湛えている。
 そこにはもう、父に支配され、ルシエルに怯え、自分を殺して生きていた「人形」の姿はなかった。

 レオナルドは、ようやくルシエルやローゼンタール家、そして父親という長年の呪縛から解き放たれた、「本来のユリウス」の輝きを見た気がした。

 ……聡明で、気高く、芯の強い男。

 それは、十数年前。学院に居た頃。
 あの時間、レオナルドが心奪われ続けたその高潔な美しさに、再び心臓を強く握られたような感覚に襲われた。

 ああ、やはりこの人は美しい。外見だけでなく、その魂がどうしようもなく気高いのだ。

「…………ああ。待っている」

 レオナルドは、溢れ出しそうな情熱を抑え、ユリウスの手を包み込むように握った。

「焦らなくていい。リハビリも、公務への復帰も……俺がずっとそばにいる」

 レオナルドもまた、真っ直ぐにその瞳を見つめ返し、生涯をかけて支えることを瞳で誓って応えた。
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