【完結】獅子は鳥籠を砕く

真大(mahiro)

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第4章

幸せな課題

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 ユリウスが目覚めた時、身体中が軋むような悲鳴をあげていて、指一本動かせないほどの倦怠感と鈍痛に襲われた。

 全身が鉛のように重い。
 かろうじて動く頭を、軋む首を庇いながらゆっくりと横に向けると、自分は新しい寝室のベッドに寝かされており、その傍らでレオナルドが、この世の終わりのような真っ青な顔をして項垂れていた。

「…………レ、オ…………」

 名前を呼ぼうとした。
 だが、空気の漏れるような音しか出ない。
 怖いくらいに喉が枯れていて、思うように声が出なかったことに、ユリウス自身が驚いた。

 枯れているというよりも、昨夜の絶叫と喘ぎで、喉の機能が壊れてしまっているみたいな掠れ声だ。

「……っ、ユーリ……!」

 その微かな音に反応し、レオナルドは弾かれたように顔を上げた。
 真っ青な顔色のまま、目覚めたユリウスの手を、壊れ物を扱うように震える手でそっと握りしめた。
 その瞳は、深い絶望と自己嫌悪で揺れている。

 ユリウスは、瞬時に全てを察した。
 記憶している範囲でも、昨夜の二人は理性のタガが外れ、獣になったように貪り合う凄惨な交わりだった。

 気絶することも許されずに、何時間も激しく求められた。
 そしてそれを、ユリウス自身も「壊してくれ」と懇願し、求めたのだ。
 その狂乱の中で、理性を失ったレオナルドに思いきり頸を噛まれ、鮮血が噴き出すほどの流血をしたまま、揺さぶられ続けた。

 おそらく、レオナルドもあのまま失神に近い形で意識を失い、倒れるようにして行為は終わったのだろう。
 だが、そのあと先に目覚めたと思われるレオナルドが、朝の光の中で目にした光景は……ユリウスにも簡単に想像ができた。

 二人の身体に残された無数のキスマークや噛み跡。散乱したシーツ。
 そして何より、レオナルドの目に映ったのは、ぐったりと完全に意識を落とし、頸から流血し、精液や愛液、血といった様々な液体に塗れて、死体のようにベッドに伏せているユリウスの姿だったはずだ。

 呼んでも、揺すっても目覚めないユリウスを見て、レオナルドはどう思っただろうか。
 「ユーリが目覚めない」「壊してしまった」と、パニックになったに違いない。

(……壊して欲しいと思い、それを求めたのは私なのだが……)

 ユリウス自身も、少し反省した。
 こんなにも、屈強なレオナルドを青ざめさせ、憔悴させるくらい酷い状態だったのかと。

「……本当に、すまない……ユーリ……俺は、なんてことを……」

 レオナルドが、祈るようにユリウスの手を額に押し当て、懺悔した。
 声がうまく出せないので、「大丈夫だから気にするな」と伝えられないのがもどかしい。

 だが、ユリウスを獣のように求めてしまった結果、我に返ってそれを心底反省し、世界の終わりみたいに落ち込んでいる姿が、あまりに可哀想で……そして、不謹慎かもしれないが、心底「可愛い」と見えてしかたなかった。

(……はぁ……可愛い……)

 本能的に理性を忘れて貪りすぎたのも、こうして私の身を案じて反省しているのも、その全てがレオナルドの深く激しい愛の証だからだ。

(だが……もう少し、私がコントロールしてあげないと、レオの心労は絶えないだろうな)

 ユリウスは、自分自身の性癖を省みた。
 レオナルドに求められれば、それに喜んで応じてしまうし、もっと乱暴にして欲しくて、自分から誘ってしまうのだから。
 ブレーキ役がいない暴走機関車のようなものだ。

 ユリウスは枯れた喉で、ヒュー、と音を漏らしながら、ふふ、と微笑んだ。
 握られた手を、弱々しく握り返す。

 番になったばかりの二人が、この獣となった一夜を経て反省し、これからの幸せで健全な(あるいは激しすぎる)性生活に向けて話し合うべき課題は、まだまだたくさんありそうだった。
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