104 / 112
第4章
幸せな課題
しおりを挟むユリウスが目覚めた時、身体中が軋むような悲鳴をあげていて、指一本動かせないほどの倦怠感と鈍痛に襲われた。
全身が鉛のように重い。
かろうじて動く頭を、軋む首を庇いながらゆっくりと横に向けると、自分は新しい寝室のベッドに寝かされており、その傍らでレオナルドが、この世の終わりのような真っ青な顔をして項垂れていた。
「…………レ、オ…………」
名前を呼ぼうとした。
だが、空気の漏れるような音しか出ない。
怖いくらいに喉が枯れていて、思うように声が出なかったことに、ユリウス自身が驚いた。
枯れているというよりも、昨夜の絶叫と喘ぎで、喉の機能が壊れてしまっているみたいな掠れ声だ。
「……っ、ユーリ……!」
その微かな音に反応し、レオナルドは弾かれたように顔を上げた。
真っ青な顔色のまま、目覚めたユリウスの手を、壊れ物を扱うように震える手でそっと握りしめた。
その瞳は、深い絶望と自己嫌悪で揺れている。
ユリウスは、瞬時に全てを察した。
記憶している範囲でも、昨夜の二人は理性のタガが外れ、獣になったように貪り合う凄惨な交わりだった。
気絶することも許されずに、何時間も激しく求められた。
そしてそれを、ユリウス自身も「壊してくれ」と懇願し、求めたのだ。
その狂乱の中で、理性を失ったレオナルドに思いきり頸を噛まれ、鮮血が噴き出すほどの流血をしたまま、揺さぶられ続けた。
おそらく、レオナルドもあのまま失神に近い形で意識を失い、倒れるようにして行為は終わったのだろう。
だが、そのあと先に目覚めたと思われるレオナルドが、朝の光の中で目にした光景は……ユリウスにも簡単に想像ができた。
二人の身体に残された無数のキスマークや噛み跡。散乱したシーツ。
そして何より、レオナルドの目に映ったのは、ぐったりと完全に意識を落とし、頸から流血し、精液や愛液、血といった様々な液体に塗れて、死体のようにベッドに伏せているユリウスの姿だったはずだ。
呼んでも、揺すっても目覚めないユリウスを見て、レオナルドはどう思っただろうか。
「ユーリが目覚めない」「壊してしまった」と、パニックになったに違いない。
(……壊して欲しいと思い、それを求めたのは私なのだが……)
ユリウス自身も、少し反省した。
こんなにも、屈強なレオナルドを青ざめさせ、憔悴させるくらい酷い状態だったのかと。
「……本当に、すまない……ユーリ……俺は、なんてことを……」
レオナルドが、祈るようにユリウスの手を額に押し当て、懺悔した。
声がうまく出せないので、「大丈夫だから気にするな」と伝えられないのがもどかしい。
だが、ユリウスを獣のように求めてしまった結果、我に返ってそれを心底反省し、世界の終わりみたいに落ち込んでいる姿が、あまりに可哀想で……そして、不謹慎かもしれないが、心底「可愛い」と見えてしかたなかった。
(……はぁ……可愛い……)
本能的に理性を忘れて貪りすぎたのも、こうして私の身を案じて反省しているのも、その全てがレオナルドの深く激しい愛の証だからだ。
(だが……もう少し、私がコントロールしてあげないと、レオの心労は絶えないだろうな)
ユリウスは、自分自身の性癖を省みた。
レオナルドに求められれば、それに喜んで応じてしまうし、もっと乱暴にして欲しくて、自分から誘ってしまうのだから。
ブレーキ役がいない暴走機関車のようなものだ。
ユリウスは枯れた喉で、ヒュー、と音を漏らしながら、ふふ、と微笑んだ。
握られた手を、弱々しく握り返す。
番になったばかりの二人が、この獣となった一夜を経て反省し、これからの幸せで健全な(あるいは激しすぎる)性生活に向けて話し合うべき課題は、まだまだたくさんありそうだった。
7
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる