106 / 112
第5章
濃紺の官服
しおりを挟む翌日。ついにユリウスが、正式に「宰相」として王宮へ向かう朝が訪れた。
身支度を整え、ユリウスはカイエンから与えられた、宰相としての新しい制服に袖を通した。
騎士団総長としてレオナルドが漆黒の制服を着ているように、王宮内での役割を分かりやすくするために支給されるものだ。
かつて次期宰相として王宮にいたときは、あくまで父の補佐という立場だったため、正式な官服ではなかった。
カイエンは、この人事を新しい門出として祝う意味もあるのか、かつてローゼンタール卿が着ていたものとはデザインを一新し、ユリウスのために新しい制服を作り、与えてくれた。
深い夜空のような濃紺の生地をベースに、王の色である高貴な紫のラインが入ったデザイン。
明らかに上質な布で作られているそれは肌触りも良く、着心地が抜群だった。
着替え終わる頃、その様子をじっとベッドに腰掛けて見守っていたレオナルドが、重々しく声をかけてきた。
「……カイエンには、なるべく目立つような色やデザインを使わないように言ったんだがな」
「この制服のことか?」
「ああ。新しく君のために仕立てると言うから、注文をつけたんだが……」
レオナルドは立ち上がり、ユリウスの元へと歩み寄る。
彼はすでに騎士団総長としての正装に身を包んでいる。精悍で凛々しい、見慣れているはずのその姿に、ユリウスは不覚にもドキッとしてしまった。
「……この色は、とても君によく似合う。
濃紺が銀髪の輝きをより引き立てているし、仕立てが良いせいで、君の腰がさらに細く見えてしまう」
レオナルドはユリウスの腰に手を回し、その細さを確認するように撫でた。
「目立たない色を使ったとしても、君自身が発光するように目立ってしまうから、関係ないんだな」
「何を言ってるんだ。……確かに銀髪の人間はあまりいないから、ジロジロ見られることはいつものことだが」
ユリウスが不思議そうにレオナルドにそう言うと、深く、長い溜め息をつかれた。
「はぁ……。宰相として働くのに、目立つなというのは難しいか」
会議の場でも、式典でも、外交の場でも。
これからのユリウスは、王となったカイエンを一番近くで支える、国の中枢となる存在だ。
注目を浴びないはずがない。
「……まぁ、いい。君と俺が結婚したことは、すでに周知の事実だ」
レオナルドは、ユリウスの瞳を見つめ、何かを決意したように強く言った。
「君が『ジークヴァルト』と名乗るだけで、周りが手出しを恐れるような……そんな絶対的な存在に、これから俺がなればいいだけの話だ」
それが最適解だと、レオナルドは一人で結論を出して頷いた。
ユリウスはそれを聞き、これから公的な場で初めて「ジークヴァルト公爵」と名乗ることの意味を噛み締めた。
ローゼンタールではなく、ブラントでもない。
愛する人と同じ、新しい名前。
それがどれだけ待ち遠しかったか。
それを改めて思い、ユリウスは嬉しさに頬を緩ませた。
「……あ、こら。またそんな顔をして」
「ふふ、すまない。嬉しくて」
出発のギリギリまで、延々とレオナルドに「そんな無防備な顔を外でしたらダメだ」とか、「隙を見せるな」と口出しされながら、ユリウスは二人で紋章入りの馬車に乗り、王宮へと向かった。
2
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる