krystallos

みけねこ

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96.邂逅

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 フレイやそれぞれが大丈夫かどうか、顔色が悪いとか色々と言ってきたがそれに適当に相槌を返しつつ視線はイザナギに向かう。目が合った瞬間賢者は穏やかな笑みの中若干眉を下げた。
「まだ快調というわけでないようだね。もう少しゆっくり休んでいたほうが――」
「そんな時間はねぇってアンタならわかるだろ」
 間髪入れずに返した言葉にどこからか息を呑む声が聞こえた。
 ここはとにかくコイツの力で満たされている。それは身体の回復を早めるものでもあるしこれがあるからこの島の連中は安心して暮らせるということなんだろう。だが、それは最初にやってきた時の島の入り口のように、しっかりと外部との関係を遮断しているからだ。
 俺が転移魔術を使ってからそう時間は経っていないはず。ただここでのんびりとしているわけにもいかない。あの場所は、セイクレッド湖は穢された状態のままだ。
「悪いね。小さな穴でもあると恐らくあの者はこの場所を感知してしまう。だから君たちには外との連絡を断たせていたんだ」
 金髪の男と青髪の男がイザナギの側を離れていたのはその穴を一つたりとも見逃さないためのものだったかと、しっかりとイザナギの傍に控えた二人に小さく視線を向ける。
「だから貴女は連絡しなかったんですね。貴女のとこ大丈夫なんですか?」
 イザナギの言葉を聞きエルダの視線がフレイに向かう。すっかりくつろいでいるフレイは軽く肩を上げた。
「大丈夫だよ、アイツらならあたしがいなくてもしっかりと親父を船に連れて帰ってるはずだから」
「そうですか」
 当人はそのつもりはなかっただろうが、僅かに見えたエルダの気遣いにウィルとティエラが軽く見合わせ目を丸めている。フレイはというとこの状況でか敢えてそんなエルダをからかうことはしなかった。素直にその気遣いが嬉しかったんだろう。
「今外の状況がどうなっているか気になっているだろう。けれど、君たちには少し時間をもらいたい」
 それに今の君を島の外に出すのはまだ忍びない、とイザナギは俺に視線を向けつつ口にする。
「なんかあんのか」
「……そうだね」
『彼にそのお願いをしたのは私なんだ』
 ふわりと俺たちの頭上に霧が浮かび、その中でとある人物が映し出された。見覚えのある顔に声、いち早く反応したのはこの中で誰よりも関わりが深いティエラだった。
「ルーファス神父様!」
『やぁ久しぶりだねティエラ。随分と綺麗になっちゃって……アミィも大きくなったなぁ』
「ルーファス神父」
「無駄話するために出てきたのか」
 相変わらず最初に声をかけるのは女かと、ウィルはジト目を向け俺は若干呆れつつ低く声を出す。次にフレイに視線を向けて話しかけようとしていたが、俺とウィルの視線を受けた生臭神父は軽く笑って視線を戻した。
「今回君たちをこの場所に運んだのは私と彼なんだ」
「コイツが……?」
 場所指定しなかった分どうなるかと思ったが、まさかイザナギだけじゃなく神父も手を貸していたとは。そもそもラピス教会にいる神父が俺たちの状況を把握することができたのか、と思ったものの。神父の目が『赤』だったことを映し出された姿を見て思い出した。
『君たちには、教えなきゃならないことがあってね』
 さっきまでいつものおちゃらけた雰囲気が一度目を閉じ、開けた頃には真剣なものへと変わった。
『君たち、イグニート国の王に会っただろ』
 言葉遣いもいつも違う。様子の違う神父にティエラの姿勢が自然と伸びる。
「ああ、セイクレッド湖でな」
『他のみんなは初めて目にしただろうけど、カイムは久しぶりだっただろ? 変わった様子はあった?』
 やっぱり俺が『人間兵器』だと知っていたか。恐らく探知系ならあの赤髪の女よりもこっちの神父のほうが優れているんだろう。一度も本当の姿を見せていないというのに『赤』はそれを可能にする。まぁ、単純に赤髪のほうは『人間兵器』にそこまでの興味がなかっただけかもしれないが。
 思考を神父の話のほうに戻し、もう一度さっき言っていたことを頭の中で繰り返す。確かに俺がイグニート国の王を見たのは十年ぶりだ。変わった様子、と聞かれると……小さく首を左右に振る。
「いいや、変わってなかった」
 どの国の王よりも歳を取っている、老人のわりには随分とガタイがよくて無駄に活きのいいジジィだ。戦いの時はいつも兵士ばかりを前線に送っていてアイツはただ安全な場所で引っ込んでいるばかりだったが、それも十年間変わってないはずだ。
 だからまさかあの場所に出てくるとは、と思った。あのいけ好かねぇ気持ち悪いアイツも言っていたがまさしく「なぜ」だ。可視化の剣はアイツが持っていたはずだがいつの間にイグニート国の王の手に渡っていたのか。なぜそれを持ってセイクレッド湖に現れたのか。
 俺の言葉に神父の表情が小さく歪む。何かを言おうと開いた口は一度閉じられ、やれしばらくしてから口元は動いた。
『……奴の狙いが君だからだろう、カイム。君は『赤』、他の誰よりも純度の高い質のいい莫大な量の魔力を持っている』
「ですがルーファス神父、貴方も『赤』のはずだ。貴方も今まで狙われたことがあったのでは……?」
 もっともな質問をウィルが口にし、神父も「そうだね」と相槌を打った。
『だからこそ私は隠れていた。あの場所で、ずっとね……それこそ、百五十年以上は』
「は?」
『そして現イグニート国の王もゆうに百五十歳以上だ』
「は⁈ アンタ本当のこと言ってんのかい?」
「人間長く生きて七十年ぐらいですからねぇ。にわかに信じがたい話です」
『昔はみんなもっと長生きだったんだよ。精霊の力がまだ満ちていたからね。精霊の力が徐々に弱まるに従って、人間の寿命も短くなってきた。それほどまでに精霊の力が人間に及ぼす影響は大きいんだ』
「ねぇルーファス」
 純粋な声と目が神父に向かう。ただ単純に疑問に思ったのか、アミィは首を傾げながら神父を見上げていた。
「ルーファスって百五十歳以上ってことは、おじいちゃんだよね? カイムたちよりは年上に見えるけど、でもすっごく若いよ。本当なの?」
 確かにさっきから神父はしれっととんでもないことを口にしている。神父とイグニート国の王は百歳を超えている。もしそれが本当なのだとして、ただでさえ百歳超えだっていうのにイグニート国の王の見た目はジジィ。ただ神父はどう見ても百歳を超えている年齢には見えない。精々三十歳を超えているかどうかだ。
 若く見られて普段なら喜びそうな神父だが、とにかく複雑そうな表情を浮かべている。どうやらこの話題は神父にとってあまり明かしたくない領域。それを言葉にするということは、今から話す言葉にかなりの重要性があると思っていいのかもしれない。
 神父は小さく息を吐き顔を上げた。
『私は、歳を取らない。身体が老いることもない。百五十年前から時の流れが止まっているんだ。死ぬことすら叶わない』
「ルーファス、神父様……まるでそのお言葉は、不老不死、と言っているような……」
『……そうかもしれないな』
 自嘲めいた小さい微笑みに質問をしたティエラが小さく息を呑む。それを気遣うようにフレイが優しげに肩を支えた。
『君たちに教えなきゃいけないことは、約百五十年前のことについてだ。当時何があったのか、どう今の続いているのか、そして……君が、何者なのか』
「……俺?」
『君は、今まで色々と疑問に思ったことが多かったんじゃないのか? なぜあの場所にいたのか、私と同じ『赤』でも何かが違う。それを感じ取ったこともあるんじゃないか?』
 確かに、同じ『赤』でも違いはあるとは思っていた。俺と神父は系統が似ているが、赤髪は若干違う。なんでもまんべんなくこなせるがそんな中でも赤髪はどこか偏っていた。言うならばバランスよく振り分けることができる力だが、より一層特化するために一箇所だけに振り分けてるといった具合に。
 だが神父の言いたいことはそれとはまた別の話なのか、と若干眉間に皺を寄せる。含みのある言い方は面倒だ。さっさと結論だけ話してくれればいいものの、物事には順序があると頭が言っていたことを思い出す。 
『少し長くなってしまうけど聞いてほしい。百五十年前の話しを』
 そうして神父はしっかりとした口調で語り始めた。
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